握り拳の作り方をおさらいしておきましょう
王城北にある大聖堂。
いつもなら王家に許可を得た貴族達の結婚式を執り行ったり、教会が祈りを捧げる場所で、本日は魔塔の長自らがイベントを盛り上げて行くらしい。
魔塔と言えばこの国の誰もが知るトラブルメーカーであるクレカドス・ヴィラが取り纏める魔法使い達が日夜研鑽を積み問題を起こし様々な天変地異を起こさせる国の膿。
いつもなら「面倒だからパス」と手を振ると言うのに、王国祭と言う理由のみで「面白そうだから出る」と書類にサインを寄越した本人。
王家と貴族達は恐れ慄いたが、大切なイベントを前に流石に無茶はしないだろうと騎士団を監視に置いて開催を決めた。
そんな魔塔の長で問題児の彼は、目の前にころりと現れた彼女を見て「……あっれぇ〜?」と沈黙を破るのだった。
目の前に広がったのはデスクに山積みの書類でも、並べられてある栄養ドリンクの瓶でも、死んだ目の同僚達でも無かった。
金、銀、赤、茶、ドレスみたいなのも含めたら一体何色だろうか。
髪の色も瞳の色もバラッバラの人間達が驚いた様に私に視線を向けていた。
いや、視線の大半は私の隣でびっくり顔で頭をかいてる人物に向いている。
「……いったぁ」
「え、どっか打った?ごめんごめん、取り敢えず起き上がれるかな〜」
間延びした言葉に思わず「何が」と問い掛けたくなる衝動に駆られたけれど、今は現状把握が1番だろうと落ち着いて息を整える。
その間にもアナウンスで「ただいま問題発生の為、イベントは中止致します」「会場の外に軽食をご用意しましたので皆様奮ってご参加下さい」等と聞こえる。
「ここじゃなんだから話せる場所まで行くか、君……」
「待てクレカドス、証拠隠滅は許さない」
「げぇっ、ザイエル様ァ?
今それどころじゃないから後にしてよ」
「この女を殺して証拠隠滅するつもりだろう、そうはさせないぞ」
「えっ」
私殺される?と焦って顔を上げると「バカ!無駄に怖がらせんなよな!?」と慌てた様に向き直る。
「乗せられんなよ君!違うから、状況の説明とか要るだろ?こんな雑多な場所で話しするとか落ち着かないだろうと思って……」
「ならば応接室に通したらどうだ?許可を得ている部屋がいくつかある」
「……あー……じゃあ、そこにするか。
アンタも来るだろ?」
「もちろんだ」
「じゃあ先に行って接待の用意して来てよ、俺この子の怪我治してから行く」
「……本当だろうな」
「ああ、この名に誓ってな」
「……」
最後に私を横目に見て通り過ぎる彼は、なんだか気難しい人っぽい感じがした。
目の前の軽そうな男の子と反りが合わないのかなと想像していると「んじゃこんな所さっさと離脱してぇー」と私の手を取ると瞬時に視界が切り替わる。
「はぇ」
すとんとその場に座り込む私に「あ、またミスった」と苦笑して軽く詫びる。
「アンタ魔力値高いから酔うんだな〜、わりわり!
次からは移動する時はちゃんと纏ってからにするわ」
「……聞きたい事は山程有るけど、今はとにかく休ませて」
「え?吐く?」
「あとごびょー」
「待て待て待て!!待ってくれ!!あと少し、あと少しでつくから!!」
さっきの酔うって言葉で酔ったのを自覚した私は、胃の中が逆流しているかのようにゲーゲー吐いた。
ツルツルぴかぴかの綺麗な洗面に向かって吐くのは嫌だったけどそんなの言ってられないくらいに次々と強制的に押し出される。
もう無理、もうやだと心の中でいくら拒否しても出るものは出る。
私は体力を使い果たした様で、吐き終わったら気絶していた。
水分不足、体力不足、多分今までの仕事の代償だよなと何となく理解した。
今なんか知らんけどここで出来る事はやっとこ。
まずは体力作りだと夢の合間にそんな事を思うのだった。