私が死ぬ迄
大きく伸びをして、今日も終わらない仕事にため息を吐き出した。
周りもずっとパソコンに向かい合って、長い時間同じ姿勢でにらめっこ。
変わらない日々の同じ様な時間。
景色も全然変わらないし人の入れ替わりだけが激しく、効率も上がらない事早5年かあ。
最後に家でゆっくりしたのはいつだっけ。
大型連休は常にイレギュラーとクレーム処理に追われてて、土日は社員・役員の休みを確保する為に平日以上に働いて、擦り切れる所まで行った。
確か織田さんは来月いっぱいで辞めるんだっけ、杉原さんは今月迄か……みんな、よく頑張ってくれてたなあ。
「……神田」
「うぇ」
デスクに置かれたキットカットに振り返ると、同期の鹿島が死んだ魚の目で私を見下ろしていたので「生きてる?」と声を掛けて苦笑する。
「さっき部長と話してたんだが、あと5人来月いっぱいで辞めるそうだ」
「は?じゃあ私とアンタと部長とあと中途採用で来た新人2人しか居ないじゃん」
「そう言うこと、私も就職先探すエージェントとさっき電話でやり取りしたとこ」
「……はー、潮時なんだろうなあ」
「むしろよく持った方じゃないの、私達が入った前と後の人員なんて部長くらいのもんでしょう。
あとは全員辞めた」
真っ黒ブラック企業に就職しては三・四日で辞めて行く未来ある若者達を私達は何十人見て来たんだろう。
鹿島の言う様に私もさっさと再就職先を探す段階に踏み出さなくては行けないのか。
「あー、目がチカチカする」
「無理しないでよ、お前に倒れられると流石にヤバい」
「あはは、ちょっと仮眠取って来るわ」
デスクから携帯だけを取って歩き出す。
しかしフロアを出るつもりが右足に力が入らなくなってカクンッと折れた。
え?と声も出ずにただ座り込む。
おかしい、声が出ない、目が見えない、白く濁る。
多分鹿島が慌てた様に私の肩を揺らすけど、ごめん鹿島、全然声が聞こえないよ。
衝撃も色も失った私は、スーッと意識を失う瞬間を自覚した。
こんな事なら退職金がっぽり頂いてから死ねば良かったのに。
私が働いた分の労力をちゃんと還元してくれと強く呪いながら、私は意識を手放した。