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第9話 おじさんは侵入者と出会う。怖いねぇ

「ふっ、ふっ、ふっ」


 風呂から出た俺は自室でトレーニングをしている。

 トレーニングといっても大層なものではない。

 俺は単に自分の剣で素振りをしているだけだ。


 だが、意外にもこれがいい運動になるのだ。

 なかなかに重いし、こうやって剣と触れ合う回数を増やすことで、剣の間合いなども正確に把握できるようになる。もらった剣はまだ、日が経っておらずそこまで慣れていないしな。


 コンコンコン


 ドアをノックする音が聞こえる。一体誰が来たのだろうか?


「どうぞ」


 そういうと、ガチャリと音を立てて部屋の中に入ってくる。

 俺はその人物を見て声をかける。


「ああ、騎士団長さん。どうかしたんですか?」


「こちらをあなたにお渡ししようと思いまして」


 そう言って彼は、俺にズシッとした袋を渡してくる。


「これは?」


 俺が中身を確認すると、中に入っていたのは大量の1万ヌーロ金貨だった。

 一枚一枚が1万ヌーロもするのである。

 それが袋いっぱいにぎちぎちに詰め込まれている。

 俺がその中身に驚いていると彼がこの金貨が何であるのかを説明してくれる。


「こちらは、貴方の給料一年分になります。

 おそらく、お急ぎで必要でしょうから、前払いとして用意させました」


「お、おお。こんなにたくさんもらってもいいのかい」


「もちろんです。騎士団の年間の給料の半額分です。

 さすがに、全額分は用意することはできませんでした」


「あ、ありがとう」


 これだけの金があったら、10年は普通に過ごすことができるだろう。

 これを一年でもらうとは、騎士団は金持ちが多いな。

 まぁ、有事の際は命をかけるだろうしこれぐらが普通なのかもしれないが。


「それでは、私はこれで」


 そう言って騎士団長はその場を去る。

 それと入れ違えになるように部屋にジェルが入ってくる。


「あれ、騎士団長が来ていたみたいですけど、何かあったんですか?」


「いやぁ、騎士団員としての給料一年分の半額を一括でもらったんだよ。

 これで、旅の足しにする事ができる」


「ああ、そういうことですか。

 それで、いつ出発するんですか?」


「できるだけ早く、具体的には明日の朝早くに出発するつもりだ」


「わかりました。それでは、明日に備えて私はもう寝ますが、いいですか?」


「ああ、かまわないよ。おやすみ」


「おやすみ」


 そう言って彼女は自分の部屋に戻っていく。

 俺はしばらく、素振りをしてから部屋の明かりを消して自分のベットに入り、眠りにつく。




 夜遅く、誰も起きていないような静かな時間。

 ごそごそ、ガチャ。そんな音が俺の部屋の扉のあたりからする。

 もちろん、俺はベットの上で寝転がっているので俺が立てている音ではない。

 カチャ、スゥー。


 どうやら、部屋に侵入してきたようだ

 そんな刃物を取り出す音がする。

 そして、俺に対しての殺意が、向けられるのがわかる。

 そしてその刃物は俺の喉元に向かって勢いよく振り下ろされる。

 だが、真っ赤な血しぶきが辺りに飛び散ることはない。


「っつ」


 その刃物を直前で俺が右手の親指と人差し指を使って止めたからだ。

 相手はその様子に驚いたのか、一気に飛び抜き、俺と距離を取る。

 暗闇で姿がよく見えないが、気配の輪郭から考えて体格は小さい。

 女か、子供のどちらかと考えて問題ないだろう。


 スッと俺は自然に素早く彼女のそばに近寄る。

 俺のその行動に彼女は驚き、対応するのが少し遅れる。

 俺が彼女に攻撃するための時間としてはその一瞬で十分だ。


 大体の位置のあたりをつけてみぞおちに一発重いのをくらわせる。

 俺のこぶしの形が服の上からでも分かるぐらいくっきりと残る。


「ごへっ、ごふっ、ごはっ」


 彼女は俺のこぶしが入ったところを両手で押さえながら、その場にうずくまる。

 そして、こちらの方に顔を向ける。


 さっと俺は右によける。俺が先ほどまでいたところにはナイフが刺さっている。

 暗闇の中で光って具体的な位置がわからないように黒く塗られている。


「やれやれ」


 まだ、俺を殺すということをあきらめていないようだ。

 仕方がない、情報を聞くためにもサクッと気絶させるか。

 俺は無防備な首に手をすっと添える。


 そして少し強めに上から押すと「ぐふっ」という声がして、その場でピーンと伸びた状態になる。

 どうやら、気絶してくれたようだ。

 これは一回やってみたかったのだ。

 前世でみたスパイ映画でこんな風に気絶させるのをやっていたからな。


 気絶している間に、部屋の電気をつける。

 そして、気絶した人の方を見ると、そちらにいたのは若い女の子だった。


 顔立ちは整っており、ショートの黒い髪で、全身真っ黒のタイツでおおわれている。

 顔は整ってはいるがまだ幼さが残っている。

 10歳ぐらいだろうか。少なくともジェルよりも若いだろう。

 腰にはいくつかのバッグがあり、その中には様々な武器が入っている。


 ひとまず、穏便に話を聞くためにも彼女の武器をすべて没収して、無力化しないとな。

 俺は彼女が身に着けていた武器を袋ごと募集させてもらう。


「……服の下も一応確認させてもらうか」


 決して、決してやましい気持ちがあるわけではない。

 ただ、服の下に武器を隠し持っていないのかを確認するだけだ。

 そもそも彼女の年齢を推察するに彼女は俺にとって親にとっての子供みたいなものだ。

 この世界では孫の可能性も……ってさすがにそれはないか。


 言い訳はここらへんで終わりにして、服を脱がすとしよう。

 俺は彼女の服を丁寧にするりするりと音を立てながら脱がしていく。


「っ、これは……」


 服の下から見えたのは、きれいな肌の腹に俺のこぶしの跡……だけではない。

 他にも様々な形で大小様々な青色のあざなどがついている。

 脇腹のところには切り傷なども複数確認でき、日常的に暴行を受けていることがわかる。

 これだけで彼女の生い立ちなどが大体わかる。


 ふー。

 俺は深呼吸をする。

 突然のことで少し俺も動揺していたからだ。

 俺は無言で彼女に服を戻し、ジェルの部屋に行き、寝ていたジェルを起こしてロープの場所を聞く。


「むにゅ、にゃ、なんで、この真夜中に聞くんですか?」


 彼女は眠そうにそして不満がありそうな顔をしながら俺に聞く。

 彼女にだけなら話してもいだろう。そう思い、俺は彼女に事の事情を話す。


「な、そうだったんですか。すぐに持ってきます」


 俺が事情を話している間に、彼女の頭もどんどんクリアになっていったのか、俺の話が終わるころには彼女は目を見開きながらそう言った。


「持ってきました」


 俺は先に自室に戻り、彼女が目を覚まして脱走しないように見張っていると、ジェルがロープを俺の部屋に持ってくる。


「ああ、ありがとう」


 そう言って俺はロープで彼女の体を縛る。前世の知識なので、結び方はあやふやだがきちんと結ぶ事ができた。これで簡単に動くことはできないだろう。


「多分これで簡単に身動き取れなくなったと思う。それじゃ、起こすとしようか」


 そう言って俺は彼女の頬を連続でたたく。


「はーい、起きてください」


 たたきながら、声をかけてみるが全く起きる気配がない。


「はぁ、起きるのにしばらく時間がかかりそうだなぁ」


 そう言って俺はくるっと彼女の方に背を向ける。

 すると、ジェルが彼女の腹に、持っていた剣を鞘に納めた状態でいい音を立てて勢いよくつく。


「ごふっ、げほっ、ゲホゲホ」


「気絶したふりでごまかせると思いましたか?

 起きているかどうかぐらいすぐにわかるんですよ」


「なんで分かった?」


「まぁ、こういう尋問経験はいままでありますから。その時の名残ですよ」


「なんで、私を騎士団に突き出さない?」


「あなたからいろいろと聞き出したいことがあるからですよ。騎士団につきだしたら死刑は確定ですからね。答えてください、あなたはどこの所属ですか?」


「……」


 黙っている。

 そりゃそうだ、スパイが情報を流出させてはならないのだから。

 スパイならここで死を選ぶのが普通だろう。(前世の映画とかの知識だが……)なのに、死を選んでいないということは彼女は完全なスパイではないのだろう。精神面はまだまだ子供なのだ。


「君のことを知りたいんだよ。もしかしたら、力になれるかもしれないからね」


「……本当に?」


 彼女はまだ警戒しながら、されども何かを期待するような声で俺に問いかけてくる。

 ここは安心させる言葉をかける必要があるな。


「ああ。おじさんはね、最強なんだ。

 おじさんが本気になったら、大抵のことはできるんだ」


 勿論嘘だ。

 俺に出来ないことなんて山ほどある。

 多少武力は他の人より優れているかもしれないが、武力で問題を全て解決出来るほど世界は甘くない。


「……噓。本当になんでも出来るなら、もっと偉いはず」


「本当だよ。といっても君は信じないだろうけど。

 でも、少なくとも君より長く生きて君より強い。

 つまり、君よりできることも多いとは思わないかい?」


「そ、それは……」


 彼女は返答に詰まる。

 このまま、一気に信用させる。


「まぁ、実際にやってみせた方が早いか。

 ジェル、彼女の目を塞いで」


「わかりました」


 俺は用意するために部屋の窓付近に立ち、集中する。

 ジェルは両手を彼女の目の部分に近づけ彼女の視界を覆いつくす。彼女の表情はどんどん歪んでいく。


「え、ちょ、何をするつもりなの?

 ねぇ、返事してよ、お願い。許して、分かりましたから、言うこと聞くからっ」


 最後には目を覆われて泣きじゃくりながら彼女は姿が見えない俺たちに対して言っている。


「お、お願いします……」


 先ほど見た腹の傷、そしてこの目を覆われることへの異常な怯えよう……ここから考えたくもないことをどうしても考えてしまう。


「くそ」


 俺は誰にも聞こえないような小さい声でぼそりとつぶやく。

 俺の方も準備が終わったので、ジェルに言う。


「ジェル、もう手を目から離してもいいよ」


 そういうと、ジェルは彼女の目から手を離す。彼女は涙で視界がよく見えないがゆっくりと目を開けて周りを見渡す。


 室内に特に変わった様子は見られない。

 何かを生み出したというわけでもない。

 荷物の位置も変わらず置かれており、窓からは日光が差し込まれている。


「!」


 そこで彼女は気が付き、窓の外に目を向ける。

 窓の外には燦然と輝いている太陽が空に浮かびあがっている。

 そう、深夜・・のはずなのに、太陽が出ているのだ。それを見てジェルも驚く。

 まぁ、これにはタネがあるのだが。


「こ、これは……」


「言っただろう。おじさんは大抵のことはできるって。

 だから、こんな事も出来るんだよ。これで少しは信じてくれたかな?」


「え、え……」


 突然のことに戸惑っている。

 ふむ、今度はもう少し共感するように優しく声をかけるか。

 私は彼女の手を握る。冷たいな。


「いいかい。

 君が今までどんな目にあってきたのか、大体想像できる。

 そのうえで断言する。

 俺たちは君が今まで触れ合ってきた人間とは違う。初対面の相手に言われて困惑するかもしれないけどね」


 彼女は真剣に俺の話に耳を傾けている。

 その目にはこの人になら……という希望が先ほどよりも色濃く浮かんでいる。

 どうやら、少しは信じてもらえたようだ。


「君の今までの生きてきた経緯を教えてはもらえないかな。

 俺達のことを利用するつもりでいいから」


「実は……」


 そう言って彼女は自身の生い立ちを語り始めたのであった。

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