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第5話 おじさんはいろいろ聞く。騎士団かぁ

「き、騎士団?」


「はい、そうです。

 私の方から助言すれば少し入団試験を受けるだけで入れると思います。それに……」


 自分をここまで剣技で圧倒する人間はそういない。

 彼が本当にアルド・メリタリである可能性もある。

 騎士団に行けば、それがわかるだろう。

 何より一人の剣士として彼の実力がどれほどのものか知りたい。

 彼女はそう思ったがそこはあえて口には出さなかった。


「それに、なんだい?」


「給料ももらえるんですよ。

 失礼ですがあなたのその恰好から察するに余り金銭的余裕はほとんどないのでは?」


「うっ」


 それはその通りだ。

 手持ちのお金もまだ残っている。

 だが、この後もしばらくお金がない状態で暮らしていくとなれば心細い金額である。

 そんな俺にとってその話は願ってもないことなのだが……


「その騎士団って国を守るためにずっとその場所にいないとダメなんじゃないのか?」


 そう、俺の記憶が正しければ騎士団といえば国を守るために王都から出てはいけないというのが通例だ。ちなみに、さきっほどから何度も王都と言っているがカロザス国に王はいない。

 昔は王がいたそうだが、途中で王家は途絶えてしまい今は民主的な国だ。

 王都と言っているのはその昔の名残である。


「?いいえ、その役割は守護団が担ってくれていますから」


「へ?」


 またまた、おじさんの知らない単語が出てきちゃった。

 守護団?なんじゃそりゃ。

 俺が首をかしげていると彼女がまた説明してくれる。


「守護団というのは文字通り国だけを守る勢力ですね。

 騎士団は国を守ったりもしますが、離れた地域へも行ったりもします。

 理由さえあれば比較的休みを取ることもできます。

 実際私も王都から離れてここにまで来ていますからね」


「なるほど。さっきから何度もわざわざ説明させてしまって申し訳ない。

 なにぶん、田舎者なもので……」


「いえいえ、わからないことはわからない、で分かる人に聞けばいいんです。

 困ったときはお互い様ですから」


 な、なんていい子だ。こんなおじさんに対してもそんな優しい言葉をかけてくれるなんて……本当に俺を切りかかりに来てたやつと同一人物か?


「ああ、そういえば君の名前を聞いていなかったね。君の名前はなんて言うんだい?」


「そういえば、まだ言ってませんでしたね。ジェル・ブラウンって言います」


「ジェル・ブラウン……じゃあ、今度からはブラウンさんってよばさせてもらおうかな」


「いえ、結構です。

 私よりもあなたの方が年は上ですし、剣技においてもあなたの方が勝っていますから、気軽にジェルと呼んでください」


「そうかい?じゃあ、ジェル。

 これからもいろいろと教えてもらうことになると思うけどこれからよろしく」


「ええ、こちらこそよろしくお願いします」


 俺が彼女に握手を求めて手を差し出すと彼女もしっかりと手を返して俺の手を握ってくれる。


「とりあえず、騎士団の一員になるためにも騎士団がある王都に行きましょう」


「ああ、そうだね」



 その後、彼女と俺は持っていた荷物を持ってその山脈から離れる。

 この山脈には20年以上いたわけだが、いざ離れるとなってもそこまで悲しくはない。

 ここに生息しているモンスターに何度も殺されかけたからだろうか?


 ともあれ、俺は馬車に数日のんびりと揺られながら、王都へと向かう。

 この間にこの世界に関する一般常識をいろいろと教えてもらった。

 そして、王都に到着した。

 彼女は俺の身なりを見て一言。


「やはり、かなりひどいですね。

 身なりを整える必要があります」


「はぃ」


「ではついてきてください。おすすめの店に案内しますから」


 そう言って彼女はつかつかと進んでいく。おじさんはそのあとをとぼとぼと歩いてついて行く。


 若い子の言葉はおじさんにとってはかなりこたえるものがある。

 とはいえ、今の俺の姿もひどいものだという自覚はある。


 何せ、何十年を使っている服なのだ。

 一応、川や湖の水で洗って火魔法できちんと乾かしたりしてはいた。

 だがよれよれで、ところどころ穴が開いている。

 こんなみすぼらしい格好をしているものは王都にはおらず先ほどから視線を集めている状態だ。


「つきました。ここです」


 そう言って彼女はオススメだというお店を紹介してくれる。

 そのお店は木で作られており、どことなく温かいイメージがわく。

 そう、まるで実家に帰ってきたかのような安心感が。

 店の中に入ると木の香りが鼻の中に入ってくる。


「適当に私が探してみますよ」


 そう言って彼女は近くにあった服で俺似合いそうなものを見繕ってくれる。

 俺もその服をちらっと見たが……高い。


 俺が今持っているお金で買えないことはない。

 だがすぐさまこの店を出て別の安い店を探してしまうぐらいには、値が張る。

 騎士団はお金が貰えると彼女は言っていたが、このお店に来られるということはかなりの高給取りなのでは?


「これなんかどうでしょうか?」


 そう言ってジェルは赤や黄色、オレンジを基調としたどちらかと言えば派手な服を持ちながら俺に声をかけてくる。

 何というか……センスが悪い云々というよりも若い子が選ぶ感じの服装だな。

 昔の俺もあんな服を選んでその日は自慢するように堂々と歩いていたものだ。

 だが、おじさんの俺にそんな派手の色は重い。


「いやぁ、俺にはそんな派手な色は合わないよ」


 そう言って俺は近くにあった茶色やベージュの色の服の方に手を伸ばしてそれを取る。

 茶色くてぴちっとしたジャケット。

 ところどころに黒い刺繡が入っており、お洒落な感じを醸し出している。

 本当はもっと動きやすいダボっとした服がよいのだが……

 さすがに今から騎士団に行くというのにそんな服装ではだめだろう。


「これぐらいの色合いの方がいいんだけど、ダメかな?」


「……いいですよ」


 今、変な間があったよね?よね?

 なんだか不満そうな顔をしてらっしゃるし。

 でも、おじさんにはこれぐらいの落ち着いた色の方がいいんだよ。

 俺は似たような服を2つほど取り持っていく。俺は会計のところに服を持っていく。


「はい、合計で20000ヌーロになります」


 うっ、やっぱり高い。

 だが、ここで買ってきちんとした服を手に入れれば、ここの服を気軽に変えられるぐらいのお金持ちになれる。それを考えれば安い先行投資だ。俺はなけなしのお金を払い、着替えてその場を後にする。


「ここから、10分も歩けば騎士団のある所に到着します。入団試験はすぐに受けるということでよろしいですか?」


「ああ」


 ここに来るまでの間に色々と話を聞いた限り、入団試験といっても何か特別なことをするわけではないそうだ。

 せいぜい、団員と1戦やったり、最低限のマナーをわかっているか、などらしい。

 俺たちがしばらく歩いていると、前を歩いていた彼女は止まり、くるっと俺の方を向く。


「ここが騎士団の本拠地になります」


 でかい。真っ先にその言葉が来るだろう。

 騎士団には数万人の人が所属しているそうだから、このサイズも当然と言えば当然なのだが、圧倒されるほどの大きさだ。


 城壁は赤茶色のレンガが積まれて作られている。

 高さは優に俺の身長の10倍はあるだろう。

 上を見上げると高台のようなものがありそこに人がいるのが確認できる。

 そして、門の前には両端に2人ずつの4人の守衛が立っている。

 その守衛は俺の前を歩いているジェルを見かけると声を掛ける。


「お疲れ様っす。後ろの人は入団希望の人ですか?」


「お疲れ。ええ、そうよ。私が彼を推薦するの」


 そう言って、彼女は歩いていた足を止め、軽く談笑に付き合っている。

 彼らの対応を見ている限り彼女は人望もあるようだ。


「へぇ~三銃士の一人が推薦するってことはよっぽど、実力があるんですね」


「ええ、そうよ。少なくともあなた達よりも強いわ」


 勘弁して。

 そんなハードルを上げないでほしいんだけどなぁ。

 そう思いつつも、推薦してくれたのは彼女なのでそんなことは言えない。


「えー、新人が来たなら俺たちが鍛えてやろうって思ってたのに……」


「あなた達も修練に励むことね」


「わかってるって」


 そう言って彼女は会話を終わらせ足取りを進めていく。

 俺はその後ろからついて行きながら、見慣れない単語が聞こえたので、ジェルに聞いておく。


「さっき、あの人たちの会話で言っていた三銃士っていうのは?」


「ああ、あれは勝手に騎士団のメンバーが騎士団長、副団長に続けて強い私含めた3人のメンバーのことを勝手に呼んでいるだけですよ」


 どうやら、彼女は騎士団の中で3番目に強いようだ。

 まぁ、あれだけの剣技を持っていて弱い方がおかしいか。

 建物の中に入り階段をのぼり、最上階の5階に到着する。

 そして、1つ扉の前に立ち止まり、ドアを軽くコンコンとノックする。

 その扉には”騎士団長室”と書かれている。


 今から騎士団長とご対面すると思ったら、俺の姿勢も必然的にピシッとするものだ。

 俺は少し緊張するものの精神を落ち着ける。


「失礼します」


 ジェルはそう言って入室する。中には椅子にどっかりと座った若い男がいる。

 若いと言っても20代後半ぐらいだ。

 体格は非常によく筋肉で胸の部分が膨らんでいる。

 まんべんなく全身に筋肉が濃縮されている。


 そこにいるだけで圧倒的な存在感を周りに放っている。

 なんというか、体からエネルギーが常にあふれているようだ。

 同じ室内にいるとその圧を肌で感じ取れる。

 その人は俺とジェルを見て、ジェルに尋ねる。


「ジェル、一応聞いておくぞ。そこにいる人が誰だかわかっているのか?」


「ええ。ここの騎士団の入団テストを受けに来たお方です」


 それを聞いた後にその人は俺の方をちらりと見て、一言。


「合格」



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