第37話 おじさんは泊まる。
俺達は部屋の中に入る。
部屋の中には他に二人の人がすでにいた。
彼らも王女殿下の従者だそうだ。
そこは一人で使用するには大きな部屋だった。
おそらくこの宿で一番大きい部屋ではないだろうか。
リビングにダイニング、キッチン。
他にも風呂場などの部屋がある。いわゆる4LDKだ。
2、3人で使用しても何ら問題ないだろう。
ただ、俺達8人が入るとなるとどうしても手狭に感じる。
なので、他にも部屋を借りて3組に分かれることにした。
「どうやって分かれようか?」
俺はそんなことをぽつりとつぶやく。
ここはかなり重要なポイントだろう。
下手したら部屋で俺一人孤立するかもしれないのだ。
何でも先ほど部屋にいた二人は戦闘要員ではないそうだ。
となると、先ほどの二人だけと王女殿下を一緒の部屋にするのはまずい。
もしも、暗殺者が来た時に対応できないからだ。
つまり、王女殿下と一緒に俺達3人の中の誰かは必ず一緒の部屋でないといけないだろう。
他の部屋にいると対応がどうしても遅れるからな。
「それなら、私はリョウセイさんと一緒に居たいです」
そう言って王女殿下は俺の右腕に抱き着いてきた。
おお、こんな美女に求められるなんてうれしい限りだねぇ。
王女殿下が来た直後にクロが俺の左腕に抱き着いてきた。
「……私も一緒」
となると、俺とクロ、王女殿下の組み合わせだろうか?
いや、これでは王女殿下の気心の知れる相手が1人もいない。
そうなったら、彼女は気まずいだろう。
加えて、ここのまま行けば男は部屋に俺一人だけということだ。
そうなると、俺一人だけということで気まずいのだが……
「それでは、私、クロ、アルドさん。
以上三名でよろしいですね?」
その決定にだれも反対しない。
ならば、仕方ないか。
そもそも、3人である以上男か女かどちらかは必ず一人になってしまうのだ。
それならば、女性が王女殿下だけで気まずい思いをさせるよりも今の方が幾分かましだろう。
他の部屋の組み合わせも決まった。
ジェル、オックス、メイルで一部屋。
先ほど部屋にいた二名で一部屋。
以上のように分かれることが決まった。
ふと視線を感じたので目線を視線の感じる方向に向ける。
視線を向けていたのはオックス君だ。
何か言いたいことがあるんだろうか?
俺が視線を向けると彼は視線を逸らしてしまった。
「それでは、必要とあらばお呼びください」
従者たちはそういって新たにとった個々の隣の部屋へと行く。
残ったのは俺とクロと王女殿下だけというわけだ。
王女殿下は相変わらず俺の右腕にくっついている。
そして、クロも負けじと俺の左腕にくっついている。
正直、窮屈なので離れてもらいたい。
「おや、少しくっつきすぎましたかね」
そう言って王女殿下は俺の腕から離れる。
対するクロは依然くっついたままだ。
王女殿下は思い出したように言う。
「そうそう、あなたに伝えたことがあるんでした」
「ん?何だい?」
「獣王祭に出たらあなたの実力の高さが周知されるでしょう。
そうなったら、他の陣営があなたを取り込もうとすると思います。
いくらかお金を積まれるかもしれませんが決してなびいてはいけませんよ」
「ああ、分かった」
「それと、真正面から挑んでも勝てないト思って貴方を暗殺しようとする輩も出てくるでしょう。
どうか、その危険も回避してください」
「ああ。
ところで、毎年どれぐらいの実力者が出ているんだい?
知っている中で教えてほしいんだけど……」
「……そう、ですね。
大体カロザス国の騎士団ぐらいのレベルが平均ですね。
優勝者となると剣聖の候補生も過去にいたと聞いています。
何でも実績が欲しいとの理由で」
「剣聖、か」
『剣聖』
文字通り剣技を極限まで鍛えた者のことを指す。
4年に一度行われる『剣聖決定大会』
剣と己の肉体のみで戦う大会。
ここに出場して優勝したものに授与される称号。
剣士として最高の誉れである。
それゆえ、『剣聖決定大会』には世界中から腕に自信のある人々がその大会に参加する。
そして、剣聖の多くがその時代の5大帝の一角を担っていた。
当代の剣聖も例にもれず五大帝である。
つまり、『剣聖』というのは化け物だ。
「俺でも勝てると思うかい?」
なんだか自信がなくなった。
俺は思わず彼女に尋ねる。
すると、彼女は即答する。
「勝てますとも」
「その自信は一体どこから来ているんだ?」
心の中でつぶやいたつもりが口に出していた。
その疑問にも彼女は答える。
「勘です」
勘ねぇ。
武術において素人であろう彼女の勘か。
あまりあてにならないだろう。
そんな思いを見透かしたかのように彼女はいう。
「言っておきますけれども、私そこそこ強いのですよ。
獣族達の王になるには最低限の実力ぐらいはないといけないので。
相手と自分との力量差ぐらいは測れますのよ」
そういえば、そうだった。
キャロル山脈にわざわざ来る程度には彼女も鍛えていたのだ。
彼女は続けて言う。
「ですので、貴方が相当な実力者であることもお見通しです。
立ち姿、重心の運び方……強者のそれでした。
なので、確信をもって断言できます。
貴方は優勝できます」
「はは、ありがと」
う~ん、彼女は思っていたより武について知っているようだ。
だが、それでも絶対という言葉はない。
どんなからめ手が使われるかわからない。
勝負なんて終わるまでどうなるのかはわからない。
彼女の今の言葉に慢心することなく、慎重に行こう。
「ところで、このベットは些か3人で寝るには狭いですわね」
王女殿下はベッドに腰掛けながらそうつぶやく。
俺は今の発言の中に聞き捨てならないものがあったので聞き返す。
「えっと、すみません。
今、3人で寝るっておっしゃいましたか?」
「他人行儀ですわね。
敬語を使わなくてもよいと言っていますのに」
彼女は不服そうにそういった。
ふむ、どうやら彼女は敬語でいることを割と嫌っているようだ。
ならば、俺もお言葉に甘えて敬語なしでしゃべらせてもらおう。
少々、息苦しく感じていたところだったしな。
「すみません。
それでは、敬語は無しで話させてもらいます」
「ええ、そうしてくださいな」
「今、三人で寝るって言った?」
「はい、言いましたわね。
それが何か?」
うん、なんで?
そんな疑問が当然ながら俺の中で出る。
暗殺者が来るかもしれないから同じ部屋に居るだけだ。
わざわざ、同じベットで寝る必要はないだろう。
「えっと、同じベットで寝る必要はないのでは?」
「えっ」
そんな有り得ないことを言われたみたいな顔されても。
暗殺者が部屋に入った時点で俺も同じ部屋に居るのだから対処できるだろう。
俺は地べたで寝ればいいと思うのだが……
何か間違っているだろうか?
「でも、いざというときのことを考えると私との距離が近い方がいいのでは?」
「いや、それはその通りだけども」
「それに一人でそのように眠るというのは寒いでしょう」
「いや、いつものことだしそこまで思わないよ」
ジェルやクロ、王女殿下などの美女たちと一緒に眠っていたら、俺の理性が持つ自信がない。
かなりガードが軽いしな。
俺にだって人並みに性欲ぐらいはあるのだ。
「ですが人との関わりを絶って生きていく、そんな生き方は寂しいと思いませんか?
人肌の温かさというのも悪くありませんよ」
俺はここで自分が何で山から出たのかをふと思い出した。
そうだ、俺は人と触れ合いたくて山から出たんだ。
だというのに、人と触れることを拒否してどうする。
「そういえば、そうだったな」
俺は小声でぼそりとつぶやく。
「?何かおっしゃいましたか?」
「なんでも。それじゃ今晩は3人で一緒に寝ようか」
「はい!」
王女殿下は元気よく返事をした。
やはり、こういうところはまだ子供だな。
そんなことを思ってみているとクロの腕を握る力が強くなった気がした。
コンコンと扉が二回たたかれる音がする。
誰だろうと思って開けてみるとジェルだった。
「どうしたんだい、ジェル?」
「いえ、ただその、気まずいと言いますか……」
ああ、そういえば彼女の部屋にはジェルの気心の知れる相手がいないんだったっけ。
それは一緒の部屋に居ても特に話すこともないだろうし気まずいだろうな。
「別に部屋に居てもいいよ。
4人でいるってなったら少し手狭に感じるかもしれないけど」
「いえ、大丈夫です。
少し動ける程度のスペースがあればいいので」
そう言ってジェルは剣を鞘に納めたまま素振りを始める。
それを見てクロも触発されたのか新しい武器である槍の持ち方などを考えているようだ。
その様子を見て、王女殿下が俺に聞く。
「彼女たちは訓練をしておりますが、暗殺者が夜来た時に力尽きて動けません、なんてことありませんよね?」
「大丈夫ですよ。
流石に、特訓のやりすぎはしないと思いますし、もしそうなっても俺が動きますから」
「そうですか、それなら大丈夫ですわね」
彼女はそう言って落ち着きを見せた。
王女殿下はああいう特訓はしないのだろうか?
獣族なのだから力を高めるためにいろいろと試行錯誤したりしそうなものだが……
彼女はクロたジェルの方をじっと見つめているばかりだ。
「私は王になるまで必要以上に動き回ったりしませんよ」
俺が彼女の方をじっと見ていると彼女がそう言った。
おっと、心の中の声が漏れていたかな?
「どこで体力を必要とするかわかりませんから。
運動して動き回った直後に長距離移動する、といったケースも想定できますからね」
ふ~ん、そうなのか。
と言っても耳はピクピクンと動いているし、尻尾も動いて今すぐにでも体を動かしたそうだ。
流石は獣族。
彼らは年をとっても体を動かしたがりそうだ。
俺は王女殿下を見ながらそんなことを思う。
しばらくして、食事の用意ができたらしく食堂の方へ向かう。




