第36話 おじさんはついて行く。ここかぁ
俺達は翌日予定した時間で予定した場所に向かう。
その場所には昨日と同じ彼らがいた。
昨日と同じく第二王女は座っており残りの二人が立っている。
相変わらずぼろいフードをかぶっている。
「それでどうなさるのかは決まりましたか?」
「ああ、決まった。俺達は今回の件引き受けようと思う」
「ありがとうございます」
そう言って彼女は俺達に深々と頭を下げる。
俺はそれに困惑する。
「よしてください。
一国の王女様が俺に頭を下げるなんて」
「いいえ、あなたには感謝してもしきれませんので。
それでは、いきましょうか」
そう言ってから彼女は席を立ち移動を始める。
俺達もそのあとについて行く。
路地の方へ行くと馬車が待機していた。
馬車か。
俺はこの世界ではほとんど乗ったことはない。
バルベイラへ会いに行った時ぐらいだな。
この馬車はバルベイラの物と比べたらやや見劣りする。
だが、それでも馬車を用意できる時点で金持ちだ。
馬車に乗れるのは6人。
俺達の数とちょうど一緒だ。
外側から見えないようにするためか窓のカーテンを閉めて馬車は出発する。
「そういえば、疑問だったんですけどなんでそのローブを被っているんですか?
結局、素顔を見る事ができませんでしたが……」
「理由は簡単ですよ。
私は獣族ですからね。
人族の割合が多いこの国だと目立ってしまうんです」
そう言って彼女はローブを取る。
そこからは絶世の美女が出てきた。
ジェルとクロも美形だが、彼女もまたそれに負けず劣らずの美形だ。
下手したら、彼女達よりも美しいかもしれない。
プラチナブロンドの髪。
可愛らしく頭から生えている猫耳。
利発そうな整った顔。
口元からかわいらしく映えている八重歯。
獣族と言われるのも頷ける。
俺が彼女の顔に見とれていると視線を感じた。
クロが俺を鋭い視線で睨んでいる。
これ以上王女様を見ているのはよろしくなさそうだな。
俺は彼女から視線をそらし従者にも目をやる。
控えていた従者たちもローブを取り素顔が明らかになる。
1人は金髪の髪でエメラルドグリーンのような目。
顔は整っているが、王女様と比べるとやや見劣りしてしまう。
いや、世間一般的には美女の類だろうけども。
隣にいるとどうしても比べてしまう。
あまり筋肉はついておらず、護衛というよりは情報を集める係なのだろう。
もう1人は茶色の髪をしておりなんと言うかチャラそうな印象を受けた。
これは男が彼だけでハーレムのような状態だ。
それを言ってしまえば、俺もなのだけれど。
顔立ちは整っており、いわゆる二枚目だ。
筋肉は全体的に満遍なくそこそこついている。
護衛にしては筋肉量が少ない気もするが、武力がすべてではないということだろう。
彼は俺の方にやや訝しげな視線を向けてくる。
信用されていないのだろうな。
「まだ、私の名前を言っていませんでしたね。
私の名前はアゼリューゼ・ノイトス。
外では偽名のアリューシアでお呼びください。
アイマル国の第二王女でございます」
彼女は従者たちの方をちらりと見る。
彼らも名乗る。
まずは、チャラ男の方からだ。
「私、アゼリューゼ様の護衛を任されているオックスと申します。
以後、お見知りおきを」
次いで、女性の方も紹介がなされる。
「私、アゼリューゼ様の護衛を任されているメイルとお申します。
以後、お見知りおきを」
彼女達のあいさつを終え、今度は俺達が挨拶をする番だ。
王女様に挨拶をするのだ、ここはきっちりとしておかねばなるまい。
俺も大人だからな。
異国とはいえ王族に対してのあいさつがほかの人に比べて重要であることぐらいわかる。
「私、カロザス国の騎士団所属リョウセイと申します。
以後、皆さまと同行させていただきます。
王族の前で不敬とは思いますが場が場ですので簡略化した挨拶でお許しください」
右手を左の胸元に添え、王女殿下の方に頭を下げる。
次いで、ジェルとクロも俺に次いで挨拶をする。
ジェルは中々様になっていた。
やはり、騎士団に長年所属していると目上の人と接する機会が多々あったのだろう。
対するクロはややぎこちなかった。
まぁ、こういう場面などあまりないのだからクロの方が普通だ。
俺だって自分ではうまく挨拶できたつもりでもやはり王族の人やこういう場面に接することが多い人から見るとぎこちなかったに違いない。
おじさん、こういう場面あんまりあってこなかったからね。
「全員のあいさつが終わりましたね。
今後、外では私のことはできるだけ呼び捨てでお願いします。
身分が高い人間だとバレると、いろいろ面倒なので」
「分かりました」
「それと外でなくとも敬語はあまり使わないでいただけると助かります。
皆様とは分け隔てなく接していきたいと考えておりますので」
これはお世辞、とは言わないがあくまで社交辞令だろう。
さすがに、王族相手に「マジすか学園」なんてため口を聞いていいわけがない。
最低限のマナーは守らなくてはいけない。
俺がそんなことを考えているうちにも王女は喋る。
「それでは、今後のことについて話していきましょうか。
まずは、あなた方の役割ですね」
成り行きで来たが俺に何ができるだろうか?
俺個人の力などたかが知れている。
精々、護衛をするぐらいしかできることはない。
地位の高い人とのコネがあるわけでも、大量の軍を抱えているわけでもない。
いや、バルベイラとのコネがあるにはあるが……
彼女に借りを作れば後々何を頼まれるかわかったもんじゃない。
出来るだけ、彼女に借りは作りたくないのだ。
となれば、やはりできることは限られてくるな。
「あなた方3人には護衛と獣王祭への参加です」
「獣王祭?」
俺の頭の中にはてなマークが浮かぶ。
クロやジェルも同様に何のことだろうと疑問顔だ。
アゼリューゼ様はいたって冷静な顔で話を続ける。
「順を追って説明します。
まずは、護衛。
恥ずかしながら、最近送られてくる暗殺者たちのレベルが上がっておりまして、今の護衛二人だけでは対処するのもギリギリなのです。
ですので、あなた方にも加わってもらいたいのです」
なるほど。
失礼かもしれないが確かに護衛の人たちはあまり戦闘が得意なようには見えない。
多少の戦闘をすることはできるが、ガチの戦いになると無理ということだろう。
そこで、俺達に頼みたいということか。
「そして、獣王祭ですがご説明いたします。
私達アイマル国での王を決める方法は他国と違って少々独特でして」
「独特?」
「はい。私たち獣族は力を重視する傾向にあります。
ですので、王を決めるときにもその力が重要になってくるのです」
なるほど、そこで開かれるのが獣王祭ということか。
だが、王を決めるときに力を重要視するということは王自身の力を測るということだろう。
ならば、その戦いには王女自身が出るべきではないだろうか?
「この戦いの優勝者が次世代の王になるわけではありません。
優勝者が指名したものが次の王になるのです。
獣王祭で優勝するほどの実力者を従える事ができるほど力の持っている人物として次の王になる、というわけです」
ははぁ、大体の話が見えてきた。
要はその戦いに参加して優勝してください、ということだな。
そして、私を王に指名してください、ということだ。
「獣王祭に参加するのは猛者ぞろいです。
正直な話、護衛の二人では勝ち抜くことはできない、と考えています。
ですので、あなた方に参加してもらいたいのです」
やはり、そうか。
それにしても、獣王祭、ね。
どれぐらいの実力者が参加するんだろうか。
ま、それを今考えてもわからないな。
「ええ、分かりました。
それで質問なのですが、獣王祭のルールを教えてもらってもいいでしょうか?」
「ルールはシンプル。
トーナメント形式で相手と戦っていきます。
一対一の何でもありです。
闘技場から出る、降参と言う、審判がこれ以上続行不可能と判断する、相手を殺してしまったらその時点で敗者となります」
「なるほど」
中々にきつそうなルールだ。
良かったと思えるのは、相手を殺したら敗者になる、というルールだろうか。
これのおかげで少なくとも死ぬということはないはずだ。
また、相手を殺す必要もないというわけだ。
「話していたら、そろそろつくようです」
アゼリューゼ様がカーテンから外を覗きそうつぶやく。
それをオックス君が危険ですよと言ってカーテンをすぐに閉める。
暗殺を警戒しているのだろう。
不用意に顔をのぞかせるべきではないというわけだ。
彼らもそろそろ出るということが分かったからなのかローブを再び羽織る。
コンコンと馬車のドアが二回ノックされる。
その音を聞いてからオックスが扉を開けて出る。
次いで、俺達も馬車から降りる。
そこは王都バルンからやや離れている場所で
そこには普通の寮があった。
俺達が泊まっているところよりもやや大きい。
だが、借りにも一国の王女様が泊まるというにはあまりにも不釣り合いな寮があった。
「アリューシアちゃんじゃないか。
もう戻ってきたのかい?」
宿屋のおばちゃんと思しき人物がアゼリューゼ様に声をかける。
普通なら不敬だが、彼女はいま身分を偽ってる身。
その、問いかけに対してもいたって普通に返す。
「はい、アリスさん。
少し王都の方で買い物をしただけですから」
そう言って彼女は笑いながら寮の中に入る。
彼女の護衛と一緒に俺達もついて行く。




