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第34話 おじさんは話しかけられる。誰だろう?

 俺はジェルをサウナからお姫様抱っこで出して寝転がせる。

 下手に態勢を変えたりしたら危険かもしれないと思ったからだ。

 また、服を着替えさすのも俺はどうかと思い同じ女性であるクロが着替えさした。

 そして、俺とクロも着替えておく。


 どうやら、のぼせてしまったようだ。

 クロの方が先にダウンすると思ってジェルの方にあまり注意を払っていなかった。

 ジェルは年齢的にはかなり大人だし自分の体調ぐらいは把握できるだろうから、適当に上がるだろうと思っていたのだが、見通しが甘かったか。


 いや、違うな。俺のせいだ。

 ジェルはサウナ自体が初めてだったのだ。

 どれぐらいがよいのか、なんて加減がわかるはずがない。

 ならば、俺に指示を仰ぐしかないが、そのおれが『もう少し中に居ようか』などと言ったから、多少無理をしてでも中に居ようと思うだろう。

 完全に俺の判断ミスだ。


「ジェル、大丈夫?」


 クロが不安そうに俺の方に聞いてくる。


「ああ、大丈夫だ。

 気を失っているだけで命に別除はないと思うよ」


 俺はクロにそう答える。

 医者でもないので詳しい容体などはわからないが軽い脱水症状を起こしている以外に変なところはない。大丈夫、何か致命的なミスをしたわけではない。


「ジェルはしばらく安静にさせておいた方がいいだろう。

 俺はしばらく彼女の近くにいるつもりだけど、クロはどうする?」


「私も一緒に居る」


「そうか」


 そう言って俺達はジェルを寝かせその近くに座った。

 話さないままいるのも気まずいと思い彼女に話しかける。


「クロはさ、今日は楽しかった?」


「ん。記念になるものも買えたし、武器も変えた。

 サウナは熱かったけど、サウナから出て普通の気温のところに来ると、落ち着く」


「そうか。楽しんでくれたようなら何よりだよ。

 俺もかなり楽しかったよ」


「まぁ、ジェルが倒れるっていうハプニングがあったけど」


「うぐっ、それは申し訳ないと思ってるよ。

 起きたら彼女にも謝ろうと思ってる」


「なんで謝るの?」


「そりゃあ、彼女から目を離していたからね。

 もう少し、気にかけていたら倒れることもなかっただろうし」


「ふ~ん、そういうものなんだ」


「そうだよ。大人になったら責任が伴うんだ」


「ジェルも大人だけどね」


「それは……」


 言葉に詰まったところでジェルが動いた。

 そして、目を覚ます。

 彼女はそのまま起き上がる。


「あれ、なんで私寝転がっているんだっけ?」


「まずは水でも飲んだら?」


 俺は彼女に水筒を差し出す。

 彼女はそれを受け取り一気に飲み干す。

 そんなに一気に飲んで大丈夫なのか?

 と、思うところはあるが彼女が飲みたいのならばそれを止める必要もない。


「どう、少しは落ち着いた?」


「ええ、ありがとうございます。

 まさか、自分がここまで熱さに弱いとは思っていませんでしたよ」


「もう少し、休んでおいた方がいいと思うから少し待ってて」


「どちらに行かれるんですか?」


「近くで飲み物を何か買ってこようと思う。

 クロ、しばらくジェルのそばにいてあげて」


「ん、わかった」


 俺はそういって金をもって銭湯から出て行く。

 近くの露天商に行こうとしたところ、トントンと肩をたたかれる。

 誰だろう?

 そう思って俺は振り返る。

 そこには同じような格好をした人が3人立っていた。


 茶色で埃のかぶったフードで顔は見えない。

 話しかけてきたと思われる人はクロと同じぐらいの低身長で、体格が丸みを帯びていることを考えると女性だろう。

 不気味にも感じるが殺意は感じない。


「あの、どちら様でしょうか?」


「ここでは話しにくいですので付いてきてくださいな。

 アルドさん」


 最後の言葉は周りに聞こえないであろう小さな言葉。

 だが、俺はそれをはっきりと聞く。

 そう言って彼女達は歩き出す。

 俺は警戒しつつも、彼女について行く。

 町中で争うのは得策じゃない、と判断したからだ。

 大体2,3分ほど歩いて喫茶店らしきところに到着した。


 居酒屋とは違う。

 なんと言うか全体的におしゃれがあって品がある。

 客層もある程度お金があある裕福な人たちだろう。

 服装を見ればそれぐらいのことは俺でもわかる。

 なので、俺達は浮く。


 俺はこんな洒落た服を今着ているわけではない。

 また、彼女も薄汚いローブを着ている。

 なので、この2人が入ってくると何とも違和感がある。

 彼女は慣れた手つきで着席して、注文をすます。

 残りの二人は少し離れたところで立って回りを警戒しているようだった。


「あなたは注文なさらないので?」


「そこまで長くいるつもりもありませんので。

 それで、用件は?」


「せっかちですこと。

 頼んでいただいても構いませんのに……」


 そこですっと声色が変わり真剣なものになる。


「用件は一つです。

 単刀直入に言いましょう。

 私めにお力を貸してもらえないでしょうか?」


 そう言って彼女は深々と頭を下げてきた。

 待て待て。

 単刀直入に言いすぎてまったく事情が理解できない。

 その間の過程を色々話してくれないと。


「ちょっと待ってくれ。

 一から説明してくれないか?」


「ああ、それはそうですよね。

 実は……」


 そう言って彼女は話し始めた。

 話の大まかな部分を要約するとこうなる。

 なんでも彼女はコヨーク王国の隣にある獣族が中心となっているアイマル国の第二王女様だそうだ。

 証拠として王家のみに伝わる宝も見せてくれた。

 アイマル国の紋章が入っていたので間違いないだろう。


 まさか王族から話しかけられる機会が来るとは。

 しかも町中の喫茶店で、だ。

 こんな経験をしたのは俺ぐらいなものだろう。


 話を戻すと現在の王が病にふけってあまり老い先長くない。

 なので、次世代の王を決めようという話になった。

 ここで話に持ち上がったのが二人。

 それが第一王子と第二王女様。


 で、当然ながら派閥というものが存在している。

 現在の最大派閥は第一王子。

 ついで、第二王女派閥だ。

 このまま行けば第一王子が勝てることは必然。


 そんな状況だったそうだが、第一王子は念には念を押してきた。

 というのも、彼女のところに暗殺者を送り込んできたそうなのだ。

 幸い、命は助かったもののこのままでは自分たちの命が危ないと思った彼女たちは幾人かの護衛を引き連れて、国外に逃亡した、というわけである。


 そして、このままの状況を打開するために国外で協力者を集うことになった、というわけである。

 で、俺のところに尋ねてきた、と。


 色々と突っ込みどころの多い話だ。

 軽く考えただけでもいくつかの疑問点が浮かんでくる。

 まず、なんで俺を尋ねようと思ったのか?

 なんで俺の名前を知っていたのか?

 なんで俺の場所を知ることができたのか?


 俺は彼女に聞いた。

 すると、最後の質問以外はきちんと答えてくれた。


「なんで俺を尋ねようと思ったのか?」


「私はあなたがいるという山に行きました。

 そこで、あなたの卓越した実力を見て頼れると思ったから来た次第です」


 とのことだ。

 これで俺の名前が知っていることにも説明がつく。

 王女様がわざわざ過酷なキャロル山脈に来る必要があるか?

 という疑問も出てくるが彼女が従属であるのならそれにも納得がいく。


 というのも獣族は力を重要視している傾向にある、と聞く。

 そう考えれば、力を求めて来た、というのもあながちおかしい事ではない。

 実際、俺のところに来た割合としては人族の次に獣族が多かった。


 彼女は最後の「どうして俺の場所がわかったのか?」という質問には答えてくれなかった。

 適当にはぐらかされてしまった。

 この質問はとても重要だ。

 何せ、彼女たちが俺の場所を割り出せるのだから、マジカル王国も同じ手段を使って俺の場所を割り出すことができる可能性が高いからだ。

 だが、彼女は「この方法であなたたちが危険に冒されることはない」と断言した。

 根拠もないだろうになぜか確信しているような発言だった。


「それで事情を話しましたが協力してくださりますか?」


 彼女は俺に問いかける。

 正直なところ、NOと言いたい。

 だってそうだろう?

 要は他国の政権同士の争いに巻き込まれてください、ということだ。

 しかも最大派閥ではなく、クーデターを起こすのを手伝ってください、と言われているのと何ら変わりない。


 俺達が第二王女派閥に入れば、俺達に向けて暗殺者が放たれる可能性もある。

 俺だってずっと気を張って警戒しているわけではない。

 ジェルやクロを危険にさらす可能性だってあるのだ。


「それで見返りは?」


 流石に無償でやってください、とかならすぐに断る。

 報酬の内容次第では受けることも考えよう。


「私目に協力していただければ、一億ヌーロを差し上げます。

 加えて、有事の際は国をあげてお手伝いさせていただく所存です。

 必要とあらば契約書を用意させます」


 断るか。

 正直、一億ヌーロという部分にはあまり魅力を感じない。

 確かに莫大な金であることは認めるが、それがなくとも高ランク冒険者のパーティーとして毎月金が入ってくるため普通に暮らすことはできる、

 有事の際のお手伝い、というが俺のような一個人が一国の支援を望むような危機に襲われる危険性も低いだろう。


 もちろん、マジカル王国のこともあるので味方を増やせる、という点ではいいかもしれない。

 だが、俺が彼女に協力して俺とクロとジェル、全員が生き残る保証はどこにもない。

 今の時点で第二王女派閥が最大派閥というのであれば、ある程度安全が保証されるので引き受けたかもしれないが、今の時点では最大派閥ではない。

 総合的に見てリスクとリターンが見合わない。

 断ろう。


「もしも、引き受けてくださるのであればあなたの位置をどのように特定したのかをお教えしますよ」


 俺の位置をどのように特定したのかを教える、か。

 いい交渉材料を出してきたな。

 これを教えてもらえば、マジカル王国が同じ手段で俺達の場所を知ろうとしたときに妨害できるかもしれない。

 出来ることなら、いや絶対知っておきたい情報だ。

 だが、リスクもなかなかに高いしな。

 ふ~む。


「……一日返答を待ってもらえないでしょうか。

 連れの人たちにも意見を聞きたいので」


「ええ、構いませんよ。

 それでは、明日この場所に同じ時間でお会いしましょう」


「ありがとうございます。

 それでは」


 そう言ってから俺は退出させてもらった。

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