第32話 おじさんはショッピングする。
痛い。
頭がガンガンする。
俺は起床して耳鳴りのする頭を抱えて布団に包まる。
二日酔いか……
ふと見るとジェルはなんて事の無いようにトレーニングをしている。
「うそん」
ジェルは俺よりも酒を飲んでいたはず。
その証拠にさくやべろんべろんになって俺に担がれていた。
にも、関わらずこんな朝早くからトレーニング。
元気すぎるだろ。
「?師匠、今何か言いましたか?」
「いや、ジェルは頭が痛くないのかな、と思って……」
「ああ、酒の影響でということですか?
そのことなら私の魔法を使えばその痛みを取り除けますよ」
「そうかい、それなら俺も頼みたいんだけどいいかな?」
「いいですよ」
そう言ってからジェルは俺の頭に手を乗せる。
そして、ぽわっと薄い光が放たれ俺の頭を覆う。
同時に俺の頭痛も急速に消えていく。
おお、これはいい。
「これでどうでしょうか?」
「ありがとう」
すっかり体長は回復した。
俺は朝ご飯を作るために魔道具を取り出して作る準備をする。
すると、クロもジェルも近づいてきた。
「手伝いますよ」「ん」
そういえば、今度からご飯を作るのを手伝うと言ってくれていたんだった。
そんなことを思い出しつつ指示を出し3人で朝ご飯を作る。
まぁ、そこまで良い出来とは言えなかった。
そりゃ、あまり料理の経験がない彼女たちとの連携はうまくいかない。
だが、気にする必要はない。
彼女たちも何回も料理を作る回数を重ねるうちに俺よりも腕前を上げているだろう。
それぐらい、若者の成長というのは早いものだ。
俺達は出来上がった朝ご飯を食べる。
「それで、今日はどうしますか?
何か依頼を受けますか?」
「いや、今日は受けないでおこう。
オークの依頼が長くて俺達もかなりしんどかったはずだ。
しばらくは依頼を入れずに休みに当てるべきだろう」
「そうですね。
依頼を受けずともお金も入ってきますしね」
彼女も同意する。
そう、俺達は依頼を受けずともお金が入ってくるのだ。
どういうことかというと、低ランク冒険者は依頼を受けその都度報酬をもらう。
そのほかには、ギルドから報酬は貰えない。
だが、高ランク冒険者は依頼とは別に定期的にお金が入ってくるのだ。
そして、依頼を受け達成すればその分のお金も入ってくる。
高ランク冒険者だけズルいと思うだろうか。
だが、この仕組みは実はかなり理にかなっているのだ。
というのも、高ランクの依頼は数自体がそこまで多くない。
場合によっては一つもない、ということもある。
当たり前だ。
危険度の高い依頼は少なく、危険度の低い依頼は多い。
もしも、報酬の時だけお金が入ってくる仕組みならば依頼が一つもない時に高ランク冒険者は無一文で生活していかなければならない。
こういう事態を防ぐため高ランク冒険者には月ごとに一定のお金が振り込まれる、というわけだ。
具体的にはランクが5以上になると毎月お金が振り込まれる。
「それでは今日は日用品でも買いに行きますか?」
「そうだね。賛成だ」「ん」
そう言って俺達は必要な荷物をもって町中に行く。
そういえば、ゆっくりとバルンを観光する機会はなかったな。
歩いていると風に乗った磯の香りが鼻を刺激する。
回りにはいろんなものを売っている露天商がある。
たまに、人とぶつかったりしながら歩いて行く。
「私、新しい武器が欲しい」
クロがぼそりとつぶやく。
それを聞きつけたのはジェルだ。
「今の短剣ではダメなんですか?」
「超近距離戦闘になるから限られてくる。
中距離用の武器が欲しい」
「ふむ、そうですね。師匠、武器屋に行くことになりましたがいいですか?」
「あ、ああ。いいよ」
年頃の女子が二人。
にも関わらず最初に行く場所が武器屋か。
偏見かもしれなけどこういう時って服屋とかアクセサリーショップに行くものでは?
まぁ、言わないでおくけど。
「でも、この表通りにはなさそうだね」
「そうですね。やはり、路地に入った方がありそうです」
俺達は一回路地に入る。
そして、人に聞きながら武器屋のところに到着した。
そこには無骨な看板が出ており、鉄のにおいが漂っている。
いかにもな武器屋だ。
「じゃあ、ここでいいかい?」
「ええ」「ん」
こんなところでいいのか……
もっと別のかわいらしい武器屋さんでも俺はいいんだぞ。
そんなことを思いながら俺達は中に入る。
中に入ると種類や形が様々な武器があった。
双剣、レイピア、サーベル、ダガー、ロングソードなどの刀。
そのほかにも弓や槍、盾、鉾なども置かれている。
思わず武器の多さに圧倒されてしまうほどだ。
そして、カウンターには店主と思われる人物が座っている。
その人物はおじさんで禿げており、怖い顔をしている。
にらみつけているようにも見えるがあれが普通の顔なのだろう。
「一体何の御用で?」
低い声で話しかけてくる。
なんだか敵の強キャラ感が半端じゃない。
それに対してジェルが答える。
「この子にあった武器を探しているんです。
出来れば間合いが長めのものがいいんですけどありますか?」
「……」
おじさんは無言ですっと立ってからクロのそばによる。
そして、そばでクロの体をまじまじと見る。
そんなおじさんにジェルが話しかける。
「あの、何をしているんでしょうか?」
「……」
これにも答えずおじさんは無言で奥の部屋に行ってしまった。
かと思ったのだが、すぐに戻ってきた。
武器を両手に持ちながら。
「これで、どうだ?」
そう言ってその武器を差し出してくる。
それは槍だ。
先端部分に銀色の光沢を放つ鋭い金属がつけられており、それ以外の部分は8つの部品が結合してできており、取り外しをすることによって長さを調整できるようだ。
今は部品をすべて取り付けており長さは2メートルにも及ぶ。
これでは小柄なクロに扱うことは難しいだろう。
だが、いくつかの部品を取り外すことで自分の好きな長さに合わせることができるというわけである。
「中々いい」
クロのお眼鏡にもかなったようだ。
普通なら取り外した部品をどうするのかが悩ましいところだがクロには影魔法がある。
この取り外した部品も影の中に収納して好きな時に取り出せるだろう。
「それではこれにしますか?」
「ほかにも良いのがないか見てから決める」
そう言ってクロは店内をきょろきょろと見始める。
ジェルもまた、武器を手に取り見定めている。
店主はというとカウンターの席に再び着席して睨みつけている。
それにしても、あの店主すごいな。
俺は素直に感心する。
おそらく、クロの近くに寄ったのもクロの体の長さを測るため。
それを目測で素早くやってのけ、一番扱いやすそうな武器をチョイス。
間合いがある程度ほしい、という依頼者の要望にも応える。
間違いなく、一流の職人さんだ。顔は怖いが。
俺は武器を新しく購入するつもりはない。
もう刀はすでにあるからな。
刀をもう一本買って二刀流で、とはいかないだろう。
何せこちとら何十年も刀一本でやってきたんだ。
今更、もう一本刀を持つなんて体が覚えられない。
だが、こういうところに来ると俺の男心がくすぐられる。
そして、買いもしないのについつい武器を手に取ってしまう。
現に今も手に取って見ている。
お、こっちは魔法付与の剣か。
これは剣などの武器に魔法の効果を付随させたものである。
魔道具と剣を足したようなものだ。
ボタンを一つ押すだけで小さな火が出たりして乱戦時にはなかなか便利なのだとか。
特に魔法を使えない人は重宝するそうだ。
これは魔法を行使するのとはまた別の特殊な技術が要求される。
そのため、俺も魔法付与の剣を作ることはできない。
これを作れるということは店主ますます有能だな。
ふとクロの方を見るとカウンターのところでお会計をしだしている。
どうやら、どの武器にするか決めたようだ。
俺は慌ててカウンターの方へ行く。
「どれにするのか、決めたのかい?」
「ん。最初のおすすめされた槍にする」
「そうかい。払っておくよ」
どれぐらいの値段かと思い聞こうと思ったが店主が値札を見せてくる。
おお、気の利く人だ。
どれどれ一体いくらだろう……か。
た、高い。
全然払えるが武器にしては高い。
桁が一つ間違っているんじゃないだろうか。
俺は彼の方をちらっと見る。
ブスっとした顔で俺の方を見たままだ。
この値段以外では譲るつもりがない、そんな意志を感じる。
「わ、わかった。払うよ」
俺は袋から一万ヌーロ金貨を一気に取り出す。
そして、一枚一枚数えてちゃんとあるのを確認してからカウンターの上に置く。
「これでいいかい?」
店主は無言でこくりと頷く。
まさか、こんな大金をポンと払うだなんて山にいたころは想像もしていなかったな。
そんなことを思いながらその店を後にする。
「この後は、どこに行こうか?
やっぱり、アクセサリーショップとか化粧品店とか服屋とか?」
俺は彼女たちに聞いてみる。
だが、彼女たちの反応はあまりよくない。
何とも微妙な顔をしている。
「すみません、私最近流行りの化粧とかアクセサリーって分からないんです。
戦闘するってなると汗かいて化粧が落ちたり、動き回ってアクセサリー取れたりするので
なのでそういうところに連れて行ってもらってもどうすればいいのかわかんなくて」
「ん。同じく」
あ~そうだった。
ジェルは騎士だから動き回るしな。
クロに至っては1年前までずっと地下で暮らしていたんだった。
そりゃ、2人ともあまり関心がないわけだ。
まぁ、2人ともそういうものがなくても十分すぎるほど美しいしな。
「じゃあ、記念にと思って買ってみたらどうかな。
日用品として使うんじゃなくて思い出の品として」
「思い出の品……」
「いいですね。じゃあ、行きましょうか」
彼女たちの賛同も得て近くのアクセサリーショップに立ち寄る。
これからは、毎日更新が厳しくなると思います。
週1〜3回の更新になると思いますがよろしくお願いします。




