第3話 おじさんは下山する。たくさんの人がいる……
俺は山を下る。今日中ぐらいには山のふもと付近に着いておきたい。
なので、俺は足早に降りる。
あれから人とほとんど会わなかった。
だが、少し前ぐらいからチラホラ人と会うようになってきた。
どの顔も当然ながら俺が知らぬものばかりである。
そして、皆山の上から降りてきている俺をちらっと見てくる。
おそらく、上へと上るものは多いがおりているのは俺ぐらいだからだろう。
俺の姿をチラッと見て大抵は元の目線に戻す。
しかし、時折俺を見て「チッ」と舌打ちをしたり、「くそが」という暴言をはく者もいる。
みんな初対面のはずなのにこうも一方的に悪意を向けられるのはなぜなのだろうか……俺はそう思いながらも下山を続ける。
気がつけば、もう夕方になっており人がかなり増えておりかなり下の方まで来たことが分かる。
「そろそろ、休憩にするか……」
俺はどこかいい場所はないかと思って、周りを見渡すと木造の家があった。
それは俺が忘れるはずもない、グルたちが建設したであろう家だった。
あろう、というあいまいな言い方をしたのはその建物自体は俺に見覚えはなかった。
だが、その作り方などには非常に見覚えがあったのだ。
何より薄汚れているがあの木の上に建てられている赤い旗を俺が忘れるはずもない。
間違いなくグルが作ったものだ。
俺はついうれしくなってにスキップをして小屋に向かう。
傍から見たら、単なるやばいおっさんである。
そして、おれはその建物の入り口の方にぐるりと回る。
すぐに入ろうとすると、その建物の前に立っていた二人の守衛さんに止められる。
どちらも非常にガタイがよく背も俺より高い。
そして、片方の人が俺の腕をガシッととつかむ。
「え~すいませんがここに入るのは勘弁してもらいます」
なぜ普通の小屋に入ることを断られたんだ?
俺は疑問に思い聞いてみる。
「あのぅ、すいません。なんでこの小屋に入ってはいけないんでしょうか?」
「なんでって、簡単ですよ。ここは我が国の指定国家財産なんですから」
「こ、国家財産?」
そんなもの俺は聞いたことがない。
だが、名前からして大層なものであることはわかる。
俺が首をかしげているとふっと衛兵の二人は顔を見て俺を笑い「田舎もんだな」とぼそりとつぶやく。
ちょい、ちょいそこのお二人さん聞こえていますよ。
実際、田舎もんだから別にいいけどさ。
その二人は結局俺にそれがどういうものであるかを話してくれる。
きっと根はいい人たちなんだろうな。
「指定国家財産というのは後々その分野において多大なる影響を残したとされている人物に関係のある物に送られるものだ」
「は、はぁ」
ということはこれを作ったグルが多大なる影響を残したということか。
20年間見ない間に彼も立派になったようだ。
だが、ダルは俺と出会った当時30歳。今
も生きているのであれば50歳を超えていることになるが……
生きているのだろうか?
彼とも語りたいことがある。
俺は守衛の二人に彼が生きているのかを聞いてみることにする。
そんな有名人物が死んだとなれば大々的に報じられるだろうから、生きているかどうかぐらいはわかるだろう。
「すいません、この小屋を作った人ってまだご存命かわかりますか?」
「この小屋を作った人……どうだったかな。特にそんなニュースはなかったからまだ生きていると思います」
「そうですか……ありがとうございます」
彼の作った小屋で寝れないことは残念だが、彼が生きていることが分かっただけでも良しとしよう。ぼちぼち日も暮れてくる。
このままだと野宿確定だが……その心配はなさそうだ。
この小屋を超えた瞬間、たくさんの宿が目に入ってくる。
様々な看板を掲げて元気に声をかけて一人でも多く客を入れようとしている。
俺はその中でもごくごく普通の宿を選ぶ。
「はい、一名様ご来店でーす」
そう言って俺は宿の中に通される。
すると、中にはでっぷりと肥えているおばちゃんがおりそのおばちゃんが俺に声をかけてくる。
「え~お一人様一晩で5000ヌーロになります」
ヌーロというのがこの国のお金の単位だ。
日本円で言うと1円=1ヌーロになる。
良かった。お金の単位などは変わっていないようだ。
俺は20年前に家族にもらったなけなしのお金で払う。
山籠りしていた時は一人で自給自足をしていた。
なので、お金を全く使わなかったし新たに得ることもなかった。
なので、20年ぐらい前に家から出た時に渡されたお金がまだ残っていたのだ。
チャリン、チャリン。
おばちゃんは俺が出したお金を数え始めちゃんとあるのかどうかを確認する。
「はい、毎度」
そう言うと俺を開いている部屋に案内してくれた。
中はベットが一つあり、床にカーペットが敷いてあり非常に簡素だ。
そして部屋の上に電球のようなものがついている。おそらくは、魔道具だろう。
魔道具。
それは魔法を使わずとも、魔道具を使うことによって疑似的に魔法を使った時と同じような効果が得られる道具である。
最初は魔法が使えない人向けだった。
だが、最近では魔法を使える人も用いるようになっている。
理由は簡単、便利だからだ。
例えば、水魔法しか使えないので、光系統の魔道具を使ったりするなど。
食事はついていないそうだが、今日は人肌の感じる場所で休みたかっただけなので、特に問題はない。
俺はすぐさまベットにボフンと飛び乗る。
布団は少し硬いが地面に比べたら全然柔らかいものである。
俺はゴロンと横になる。天井を見て、ぼそっとつぶやく。
「あ~しんどかったな」
つい今朝方まで山の中で自給自足の原始的な生活を送っていたのに、今ではこんな魔道具などを使った文明的な暮らしをしている。昨日までが噓のようだ。
今日はもう、疲れた。
明日に備えてゆっくり寝ることにしよう。
俺の意識はたちどころに失われ、深い眠りにつく。
翌日になると、今までの癖でかなり早い朝方に目を覚ます。
体が鈍るのも嫌だし、最低限の日課のメニューぐらいはこなしておくか。
俺は水筒に水を入れてそれを持ち扉をガチャリと開け、宿の外に出る。
そして、今いる宿から山の少し上の方まで走ることにする。
「よいしょっと」
そう言って俺は地面をけり、走り出す。
といっても青春の若人がきらびやかな汗を流しながら走っているだけわけではない。
一人のおっさんが走っているだけだ。
「むなしいもんだ」
俺が走っていると前で誰かが走っているのが見える。
後姿は金髪でポニーテールをしており、それが揺れている。
うなじが時折こちらに顔をのぞかせる。
かなり細い体なので、おそらく女性だろう
腰に剣をぶら下げていることから剣士であることが分かる。
かなり遅かったのでどんどん近づく。
このままだとこの子を後ろから狙っている不審者に間違われるかもしれない。
これは抜かせてもらおう。
俺はそのまますいッとその子の横を過ぎ去る。
彼女の方は特に視ない。
そのまま過ぎ去って走っていると、後ろからはぁはぁという声がする。
先ほどの子は抜いたので他の人が来たのだろうか?
それならば気まずいので早く抜いてほしい。
俺はそのまま一定のペースで走っていると、後ろの気配もずっと同じペースでついてきている。
流石におかしいと思い、後ろをちらっと見る。
すると先ほどの女の子が顔を真っ赤にしながら俺を追いかけてきていた。
今にもぶっ倒れそうなぐらいだったので、俺は心配になり、足を止め彼女に声をかける。
「君、大丈夫?」
俺が足を止めると彼女も足を止め下を向きぜーぜー息を切らしている。
俺は持っていた水筒を彼女に差し出す。
「顔が真っ赤だし、水分補給はこまめに取った方がいいよ」
「あ、ありがとうございます」
そう言って彼女は唇を俺の水筒に当てごくごくとのどを鳴らしながら飲み始める。
これが20年前の俺だったら、か、間接キス!?と言って顔を真っ赤にしたのだろう。
だが今の俺は違う。わが子を見まもる保護者の気分だ。
それにしても、見れば見るほど美しい顔立ちの子だ。
先ほども言った通り金色の髪を持っており、目は青く鼻はすっと高くなって気品のある顔立ちをしている。まるできれいな人形のようだ。
「これ、ありがとうございました!」
そう言って俺が渡した水筒を元気よく返してくる。
いやー、若いね。おんなじことをされても俺だったらこんな元気よく言わないよ。
俺はその水筒を受け取る。
「ああ、いいよ。これからも水分補給には気を付けてね」
おじさんの余計なおせっかいかもしれないが俺はその子にそういっておく。
彼女はまた元気に返事をする。
「はい!ところでかなり高名な剣士のお方だとお見受けします。
失礼ですが、お名前をうかがってもよろしいでしょうか?」
「俺の名前はアルド・メリタリっていうんだけど、さえないおじ……」
そこまで俺が言いかけたところで彼女が携えていた剣がひゅんとこちらに飛んでくる。
俺は戸惑いながらも後ろにそれることで回避する。
「な、何をするんだい?」
そう言って彼女の方を見ると、彼女が先ほどまでとはうって変わって俺の方に殺意を向けてきているのがわかる。よくわからないが、彼女の地雷を踏んでしまったようだ。
予告通り、ヒロインとなる女性を登場させました。
さすがに、男だけで話を進めていくと華がないといいますか、ねぇ?
これからもよろしくお願いします。