表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/37

第29話 おじさんは一息つく。なんかジェルの気配変わった?

 ジェルはまず魔力を大量に消費したことにより、疲弊している魔臓に治癒魔法をかけて魔力を取り戻す。

 通常、自分の体を治すときは損傷している部分の血の流れを感じ取りなおす。

 心臓や腎臓といった大抵の部位には血液が流れているからだ。

 だが、血液が流れていない例外となる臓器がある。

 それが魔臓である。


 魔臓には血液が流れていない。

 流れているのは魔臓で作りだした魔力だけ。

 それゆえに、魔力の流れのみを鮮明に感じ取らなければならないので魔臓を治すということは不可能とされてきた。

 事実過去何人もの人が試したがそれらすべて失敗に終わった。

 だが、ジェルは魔臓の治癒を可能にした。


 それはひとえに極限状態において発揮される集中力のおかげである。

 魔臓で魔力を大量に作り、疲弊したら治癒をかけなおして再度魔力を作る。

 疲弊→治癒→疲弊→治癒……

 この永久機関が誕生したことにより彼女は実質無限の魔力を手にするに至る。


 彼女は死の危機に立たされたが、強く生を渇望した。

 それがきっかけとなり、彼女の魔法もまた真の意味で開花することになる。

 ジェル自身気がついていないが、彼女の本当の魔法は治癒魔法ではない。

 彼女の本当の魔法は『状態変化』である。

 発動条件は触れること。


 自分の体を治したりすることはあくまでもこの能力の副産物。

 この能力は相手に触れ、状態を悪化させることもできる。


 そして、奇しくもオークは彼女の体に触れている。

 つまり、能力の発動条件を満たしているということである。

 彼女は本能的にオークの状態を悪くさせる。


「グァっ!」


 急に吐き気がしたことに驚いたオークは彼女から手を離す。

 そして、そのまま距離を取る。

 今まで、弱者だと思っていた相手が急に反撃してきたからだ。


「えっ、あのまま触れていても良かったのに」


 ジェルはオークにそんな言葉をかける。


「逃げないでくださいよ」


 その瞬間、彼女の姿が消える。

 その速度は今までの彼女の最高速度を遥かに上回るものであった。

 そう、自分自身には状態が良くなるように魔法をかけたのだ。

 その結果、潜在能力が全開になり、今までにない速度で動けたというわけである。


 当然、オークは反応出来ず、いとも簡単に背後を取られる。

 オークの背中に彼女は手を置く。

 そして、状態悪化(デバフ)をかける。


 状態悪化を大量にかけると相手を死という状態にまで下げることができる。

 だが、そのためには大量の魔力が必要になるため事実上不可能である。


 しかし、彼女は自分の魔臓を先程から治癒し続けることによって、無尽蔵の魔力を手にしている。

 その膨大な魔力をつぎ込む事によって相手は死んだ。

 それはもうあっけなく膝から崩れて死亡した。


「終わりましたか、それでは」


 私は喉を直してから、さらに喉の状態をよくする。

 そして、その後よく聞こえるように大声で叫ぶ。


「あぁぁぁぁぁぁ」


 自分でもびっくりするほどの大声だった。

 その声は戦場全体に響き渡った。

 オーク達は何事かとこちらを見る。

 そして、近くにあるボスの死体に気がついたようだ。


「ホゲェェェ」


 群れのボス、一番の強者の死。

 それにより、群れはたちまち統率を失った。

 あちらへ行ったりこちらへ行ったり、右往左往したり。

 発狂して奇声を上げるものやとにかく逃げようと必死なものもいた。

 中には興奮状態に陥り近くにいたやつを殺している個体もいた。


 私の方へ近づいてくるものはいない。

 やはり、危険視されているのだろう。

 それから幾分か時間がたった時には先ほどまでオークが大量にいたのが嘘のように静かだった。

 回りにあるのは大量のオークの死骸。

 オーク同士で自滅したものも相当数いたようだ。

 そして、立っているのは3人の人間のみ。


「やぁ、大丈夫かい」


 そんな私に師匠が声をかけてくる。

 顔には多少の疲労の色が見えるが、それを隠してこちらを気遣ってくれているのが垣間見える。

 隣にはクロもたっており疲労困憊といった様子だ。

 思えば、ボス以外のオークを師匠たちは引き受けていてくれていたのだ。

 彼らがいくら強いといえども無理をさせてしまったな。


「ええ、問題ありません。

 師匠の方こそ大丈夫ですか?

 もしも怪我があるなら治癒しますよ」


「ああ、大丈夫だよ。

 ただ、乱戦になった時にクロが右手を噛まれてしまってね。

 幸い、嚙み切られはしなかったんだがざっくりと相手の歯が食い込んでね。

 応急処置として軽く焼いたんだが、完全に治ってはいないんだ。

 できれば、治してもらえないかな?」


「お安い御用です」


 クロは私に手を差し出してきた。

 見ると彼女の小さな手に不釣り合いな大きな歯形がくっきりと出来ている。

 焼いた影響か煤のように黒くなっており血液は出ていない。

 私はその部分に手を当てて治す。

 すると、見る見るうちに元の肌色に戻り治っていく。


「ありがとうございます」


 私に対して彼女は頭を下げる。

 師匠はオークたちの死体を少しごそごそと漁っていたが何かを見つけたところで自分のバッグの中にしまったようだ。


「それじゃ、帰ろうか」


 その様子を見て師匠が温かく声をかける。

 私達はその問いに頷き、帰路につく。

 帰りの時も周囲には警戒しつつ馬を走らせる。

 ひとまず何事もなく村にたどり着く事ができました。


「おお、冒険者の方々戻ってこられたのですね。

 それで、オークの群れはどうなりましたか?」


 村長が村の前まで出迎えてくれていた。

 その顔は多少の期待が入っていることがわかる。


「無事に撃退することができましたよ。

 あの油と矢、非常に助かりました」


「おお、そうですか。

 それはありがたい」


 村長はそう言って顔をほころばせた。

 彼もこの村の代表として大変なのだろう。

 しわの多さからも苦労の多さがよくわかる。


「今宵は宴ですな。

 私の家でやろうと思うのですがあなた方も参加しませんか?」


「いや、俺達は遠慮しておこう。

 結構戦ったから少し休みを取りたいしね」


「そんな!

 今宵の宴の主役はあなた方なのに……

 ですが、そういうことでしたらお引止めはしません。

 ゆっくりと休んでください」


「ああ、そうさせてもらおう。

 念のため、警戒は怠らないでね」


「勿論でございますとも」


 そんなやり取りの後、私達は宿の方へと戻る。

 宿につき、私達は自分の部屋に入る。

 私は部屋に入ってから真っ先にベットに飛び込む。

 疲れた私の体を受け止めて癒してくれる。


「それじゃ、私は少し寝かせてもらいます」


「ああ、わかったよ。

 疲れただろうし、ゆっくり休みなさい」


「はい」


 そのまま私は目をつぶりすぐさま意識はシャットダウンした。


 ~おっさん視点~


 どうやらジェルはもう眠りについたようだ。

 やはり、宴を断って正解だったな。

 彼女は見た目はあまり傷がないように見えたが、疲れているのが手に取るように分かった。

 なので、できるだけ早く戻ってきて寝かせてあげたかったのだ。


 あと、彼女の気配が変わっていた、と思う。

 俺が彼女と数日しか過ごしていなければわからなかっただろう。

 だがある程度俺は彼女と過ごして気配を覚えている。

 その気配と先ほどの気配は若干ながら異なっていた、はずだ。

 あの戦いで彼女も何かしらの成長をしたのだろう。

 若者の成長速度はすさまじいね。


「私も寝ていい?」


「ああ、ゆっくり休みなさい」


 そう言ってからクロもジェルの隣に寝転がる。

 そして、目をつぶり寝始める。


 今回はかなり危なかった。

 クロは怪我をしていたし、ジェルも一歩間違えたら死んでいただろう。

 俺もできるだけのことをしたつもりだが、やはりまだ実力が足りないな。

 まぁ、過ぎたことをいつまでも悩んでいても仕方がない。

 切り替えていこう。


 そういえば……

 そう思ってから俺は先ほどオークから取ったものを持ちアルス君のところに向かう。

 村の端っこのところに彼はいた。

 そこには直方体の石がいくつか並べられている。

 そして、その石には人名と思われるものが彫られている。


 墓地だ。

 こういう田舎では一人につき一つの墓ではない。

 死んだら一つの大きな墓にみんな焼かれた骨だけ入れられて石のところに名前を彫るのだ。

 そして、その墓にこれ以上名前を彫れない,骨を埋められない、となったら新しい墓を作りまた同じようにしていくというわけだ。

 俺の生まれたところでもそうだった。


 たくさん土地があるんだから、1人につき1つの墓を作れ?

 それができたら苦労はしない。

 確かに田舎には土地がたくさんある。

 だが、同時に危険も多く存在するのだ。

 野生動物や魔物などが来て墓を荒らすかもしれない。


 その為には見張りをつける必要がある。

 もしも、1人につき一つの墓を作っていたら膨大な面積が必要になり、見張りもそれ相応の数が必要になる。

 だが、それだけの人出を失うわけにはいかない。

 それゆえ、一か所の墓にまとめるということだ。

 勿論、金のある人や人手に余裕がある人なら個人で作ってもいい。

 だが、田舎に住んでいる人の多くはそこまで余裕があるわけではないのだ。


 アルス君は俺の方に背中を向けて、正面を石の方に向けていた。

 その、後ろ姿はどこか寂しそうなものであった。

 俺が彼に声をかけると彼は振り返る。


「やぁ、アルス君。

 君の言っていた落とし物ってこれかな?」


 そう言って俺は彼に奇妙な形をした木の棒を差し出す。

 それは長さが1メートルほどでさす又のように先が3つに分かれている。

 そして、持ち手の部分にカロスと書かれておりナイフで掘られたような跡があるのだ。


「ああ、そうです。

 これです」


 そう言って彼はそれを受け取った。

 そのまま、去ろうとしたがどうにも彼の後ろ姿が寂しそうにしているように感じた。

 お節介かもしれないが、一応事情を聞いておこう。


「あのさ、その木の棒の持ち主について聞いてみてもいいかい?」


 一瞬沈黙が流れる。

 失敗したかな?

 と思っていると彼がぽつりぽつりと話し出した。


「俺は、さ。臆病なんだよ。周りの奴らにも馬鹿にされて昔っからいっつも一人だったんだ。でも、そんな俺に話しかけてくれるやつがいたんだよ。そいつは、俺と同じで臆病だったんだよ。あいつも1人だったから多分俺と一緒に居たら馬鹿にされないっていう打算の部分もあったんだろうな」


 ここで彼は言葉を区切る。

 俺はふと墓地の方に目をやる。

 すると、『カロス』と書かれてあるのが目に入った。

 アルス君は話を続ける。


「2人になったからかな。まだ馬鹿にはされていたけど、それでも前よりも楽しかったんだ」

「で、俺もあいつも戦士になってたまに2人で村の見張りとかもするようになったんだ。今日も隣町まで行くお使いを俺と一緒に馬に乗ってしてた。そしたら、オークの群れが迫っているのが見えたんだ。俺たちは一生懸命馬を飛ばして逃げようとしたんだ。それでも、逃げられなくて……」

「そ、それで、あいつは、俺を、俺を逃がすために群れに突っ込んで、いって、持ってたこの木の棒を振り、振り回してさ、俺は後ろを振り返らず一目散に、にげ、逃げ帰った、んだ」


 終わりの方では所々嗚咽を殺しながらしゃべっているのがわかった。

 全てを話し終えたところで、彼は墓地の前で泣き始めていた。

 俺は彼にかける言葉が見つからず、ただそばで黙って立っていた。

 彼が泣き止むまでずっと、ずっと。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ