第27話 おじさんは作戦を考える。きっと、大丈夫!
俺達は村長の家についた。
そこは他の家よりも2回りほど大きかったが、構造自体は何ら変わらない。
そこには村長と思しき人のほかにも数人の男、戦士たちがいた。
「これはこれは。
夜分遅くに申し訳ございません。
ですが、ことは急を要するので来てもらいました。
私、この村の村長のベイリルと申します」
そう言って彼は俺に自己紹介をした。
体は小柄で目元にはしわがたくさんある。
白いひげを生やしており、頭は坊主。
いつも通りの優しそうな笑みを浮かべている。
この村に一週間ほどいたが村長を見かけたことはあっても名前は知らなかった。
彼はそこまで狼狽している様子はない。
さすが村の長といったところか。
この人なら冷静に状況も把握してそうだ。
そう思い彼に具体的なことを聞く。
「それでオークの群れが来ているとのことでしたが、どれぐらいの数でこの村に到達するまでにはどれぐらいの時間がかかるんでしょうか?」
「大体、オークの進行速度から考えて3時間程。
数はおおよそ1000体ほど。
こちらの戦力はあなた方と村の戦士が数人」
そう言ってこの場にいる数人の男性の方を見る。
確かに他の男性陣と比べると筋力もあり肩幅もしっかりしている。
有事の際には今まで彼らだけで対処してきたのだろう。
全身のいたるところに傷があり、ある程度の実力者という印象を受けた。
だが、足りない。
戦力としては足りなすぎる。
俺達3人で向こうに攻めに行き、村の人たちで守ってもらおうと思ったがこれでは足りなさそうだ。
というか、オークの数が多すぎる。
オークの群れはせいぜいが20体。
多くとも50体程度が普通だ。
にもかかわらず、1000体。
これはなかなか大変そうだな。
俺は彼の方を向き尋ねる。
「ちなみに、君達今までの戦闘経験は?」
「昔、町の近くに出た凶悪なドラゴンらしきものを倒しました」
「え?ドラゴンを?」
この人たちそんなに強かったのか。
ドラゴンに勝てるならオークは楽勝だな。
何なら彼らに退治を任せればいいんじゃないだろうか。
そう思いかけたところでジェルが口を開く。
「もしかして、その生物はあなた達と同じくらいの大きさで、翼はなく四足歩行で地面を這うようにして移動して体が緑色の鱗でおおわれていたのではありませんか?」
「ああ、そうだ。あれはなかなかの強敵だった。
やはり、あなた方も知っているのか」
そこまで言ったところで俺にはわかった。
おそらく、それはバジリスクだ。
ドラゴンに緑色はいないし、羽のないドラゴンなどイエロードラゴンくらいだ。
それにドラゴンであればもっと大きいはずだ。
幼体ということも考えられるがここまで条件がそろえばそれはもうバジリスクだ。
バジリスクとドラゴンを見間違うか?
と思うが田舎ではこんなものだ。
田舎では生のドラゴンを見る機会などそうそうない。
となると本などで知ることになる。
だが、本だって時折説明を間違えたりすることがある。
仮に説明があってたとしても、絵などがなければ想像で補うしかない。
なので、間違えることはさして珍しいことではないのだ。
バジリスク、か。
あまり強くはない。
オーク5体程度といったぐらいだ。
それで、苦戦するということは彼らが対応できるのはせいぜいオーク3体分。
それ以上打ち漏らしがあると誰かが死ぬということだ。
きつい。
質もそうだがやはり数が違いすぎる。
今から王都に行き兵を呼ぶか?
いや、ここまで来るのには数日かかったんだ。
どれだけ飛ばしたとしても往復で1日はかかる。
そうなったら、この村の全滅は避けられない。
援軍は期待できないか。
「わかりました。
それでは皆さんは村を守ることに専念してください。
ひとまず、オークの近くまで行ってみようと思います。
誰か案内してくれますか」
「お、俺が案内する」
アルス君が声を張り上げて言った。
顔には不安と緊張の色が浮かんでいる。
だが、同時に決意の表情も見て取れた。
「アルス……」
他の村人たちが彼の行動を見て彼の名前を呼ぶ。
どうやら、彼らも驚いているようだ。
普段自分たちがバカにしている彼が、率先していったことに。
最悪、群れに近づきすぎたら死ぬかもしれないのに。
「時間がない。
アルス君、案内してくれるかい?」
「はい!
それじゃ、自分は皆さんが乗るための馬を用意してきます」
そう言って彼は元気よく返事をした。
そして、そのまま外に行った。
俺は残っている村人にも念押しで声をかける。
「では、村の戦士の方々は守りを。
特に女子供は狙われたら危ないので守ってください」
「わかっております。それではご武運を」
「はい。あ、あとできれば油と弓があればほしいのですが、ありますか?」
「!ございます。
少々お待ちください」
俺のその言葉で村長は大体察してくれたようだ。
物わかりの良い人で助かる。
村長はドタバタと奥の部屋の方に行く。
そして、また戻ってきて俺に渡す。
茶色いツボと弓、そして矢を渡して来てくれた。
茶色いツボにはふたがしてあり、空けてみると中の液体が揺れる。
矢は全部で13本。これだけあれば十分だろう。
「狩猟用の弓と植物の油ですがいいでしょうか?」
「十分です。
これだけあれば、何とかりそうですよ」
そう言って俺は村長に一礼をして、村長の家から出る。
「乗ってください!」
気が付けば村長の家の前に3頭の馬がいた。
どれも筋骨隆々のたくさん走れる馬というわけではない。
普通の馬だ。だが、距離もそこまでないことを考えると十分だ。
俺達はそれに飛び乗る。
騎士団で乗る機会が度々あったであろうジェルはもちろん、俺も乗る事ができる。
何せ、俺の生まれも田舎だったのだ。
田舎での移動手段と言ったら馬に乗るか徒歩あるいは馬車だ。
長距離の移動となれば当然ながら馬を使うことになる。
そういう背景もあり田舎の子たちはたいてい馬に乗ることができる。
だが、クロは違う。
馬に乗るという経験がないのだ。
大抵は徒歩や馬車に乗っての移動。
馬に乗れるはずもない。
「クロ、俺の後ろに乗って」
そういうとクロは俺の後ろに飛び乗る。
「俺の体にしっかりとつかまっておいてね。
振り落とされたら大変だから」
「ん」
そういうと彼女は俺の腰のあたりに手をまわす。
そして俺の腹の前でがっちりと両手を組み合わせる。
自分の体を俺の背中に押し付ける。
彼女の小さなたわわが俺の背中に押し付けられる。
いかんな、俺は人よりも5感が鋭い。
つまり、触覚も鋭い。
なので、彼女の胸のたわわも鋭敏に感じ取るのだ。
まぁ、ひとまず邪念は頭から除外しておこう。
「俺についてきてください」
そう言ってアルス君が馬に乗ったまま先に行ってしまった。
そのあとをジェル、俺の順番で追いかける。
暗闇の中だったが馬同士の距離をそこまで離さなかったので見失うということはない。
丘らしきところを二つほど超えたところに奴らはいた。
丘の上から俺達は見下ろす。
「これはまた、すごいねぇ」
丘の下ではオークたちが密集してわらわらと動いているのが見える。
今現在もこの丘を越えようとしているようだ。
幸いとでもいうべきか、奴ら夜目が効かないのか俺達に気が付いているそぶりはない。
「それでどうしますか、師匠」
ジェルが俺に尋ねる。
それに対して俺は自分の作戦を述べる。
まぁ、素人が考えた作戦だ。
それが全て上手くいくとは思っていない。
だが、ある程度数を減らせば向こうもびびって引いてくれるだろう。
今は、ここから引いてくれればそれでいい。
というか、そうでないと困る。
「あの」
作戦の説明を終える。
すると、アルス君が俺たちに話してくる。
「もし、よろしければ、形が奇妙なカロスと名前が彫られている木の刀を見かけたら、拾ってくれませんか?戦闘で余裕がなければいいんですが……」
「ああ、分かった。善処するよ」
彼はそういった。
それだけだが、大体察した。
それが彼にとって重要なものであることを。
そういうと彼は踵を返して、村の方に戻る。
オークが何処まで近づいているのかを村人達に教えるためだ。
「それじゃ、作戦通りにいくよ」
「はい!」
「ん」
そう言ってから、俺たちは動き始める。
俺は馬に乗ったまま左翼側に、ジェルはクロを乗っけて右翼側に。
俺はある程度のところで止まる。
オークの進軍方向からはややズレる位置だ。
「この辺りでいいかな」
そう呟きながら、火を出す。
流石にこの暗闇の中で光っていたら目立つようだ。
相手もこちらに気がついた様で進軍方向がこちらに変わる。
これでいい、このまま上手くいってくれ。
パチパチ。
火をつけながら、矢の先の部分に油を塗り、火を移す。矢の先端部分が、暗闇の中でも一際輝く。
ギリギリ。
矢を引いた時になる特有の音が鳴る。
俺は今まで弓を扱ったことは殆どない。
前世は勿論、今世でも田舎で弓を扱うとなれば、狩猟関係であるが、生憎使ったことは殆どない。
俺は矢を飛ばす。
そんな俺が放った所で、思い通りの場所に完璧に飛ぶはずがない。
俺の予想通り、矢は狙った所を大きく外れる。
だが今回は的がでかい。
多少外れても、群れのどこかには必ず当たる。
思った通り、オークの一体に着火する。
密集していることによって、着火した一体を皮切りに周りにいたオークたちも焼けていく。
突然の発火。
その事実に彼等も動揺しているのは見てとれた。
何やら吠えている。
俺は相手が冷静さを取り戻す前に続けて3発ほど放つ。そのいずれもが、群れに命中して全部で4箇所の火災が発生した。
だが、その頃にはオーク達は幾分か冷静さを取り戻し始めていた。燃えている仲間から距離を取り、他に火災が広がらないように立ち回っている。
そして、彼らが狙うのは火災の発火元。
詰まるところ、俺の方に向かって来る。
当然ながら、向かって来る奴らに矢を放った所で当たるはずもない。
このまま接近される……
とはならなかった。
彼等は俺の近くまだ来たものの到達する直前でバタバタと倒れたからだ。
彼らはまた、起こった怪奇現象に再び狼狽する。
その間に再度火の矢を3つほど放つ。
この怪奇現象の正体はクロだ。
俺が火を使って派手に囮をしてオークの注意を引きつけている間にクロが近くまで接近して、彼らの影の中に入り、時折出てきて攻撃してくれているのだ。
突然の出来事に彼らは警戒して俺に近づくのをやめて、一定の距離を保ったままだ。
俺は彼らに注意を払いつつ、群れの方に目をやる。
すると、だいぶ数が減り、見やすくなった群れの中に一際大きなオークを見つけた。
そいつは離れているにも関わらず、俺のところに届くほどの威圧を放っている。
恐らく、あれだろう。
そして、そいつに向かうジェルの姿も捉えることが出来た。
よしよし、今の所は順調だ。
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