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第25話 おじさんは決断する。

「は?」


 彼女の言葉に思わずそんな間抜けな声が出てしまった。

 まてまて、落ち着くのだ。

 何か深い理由があるはずだ。

 俺は彼女に問いかける。


「ちなみに、理由を聞いてもよろしいですか?」


「理由も何も彼女たちがあなたの足手まといになるからです」


「足手まとい、とは?」


「まず、1人目ジェル。

 彼女はカロザス国の騎士団で剣技に限ればそれなりの実力を誇っています。

 ですが、所詮剣技だけ。

 それ以外のからめ手を使われては対応できないでしょう」


「彼女の治癒魔法は?

 あれは相当役に立つと思いますが……」


「あなたは今まで一度でもあれを使ってもらいましたか?」


 俺は彼女の治癒魔法にかかったことは一度もない。

 今までそこまで致命的なケガを負ったことがないからな。


「ないでしょう?

 確かに彼女の治癒魔法は優れていますがそもそもケガしなければいいだけの話。

 あなたなら致命傷を避けるように動くことぐらいできるでしょう」


 まぁ、そうだな。

 ある程度自分の限界ラインは見えているつもりだ。

 だからこそ、ここまで致命的なケガをせずに済んでいるわけだしな。

 俺が反論できず下を向いていると、彼女が話を続ける。


「次に、クロと呼ばれている少女。

 あの子は単純に爆弾です。

 抱えていてもデメリットしかない」


「もう少し具体的に話してください。

 じゃないと、俺にはわかりません」


「あなたは超高難易度の隷属魔法を解きました。

 マジカル王国の人たちは誰が解いたのかを血眼になって探しています。

 彼らはまだあなたがどこにいるのかを知りません。

 ですが、あなたがクロを連れたまま歩いていると貴方の場所がバレて疑われます」


 つまり、クロを連れたままだとマジカル王国に目を付けられる。

 だから、彼女と別れろ、といっているわけか。

 なるほど、確かに俺のデメリットになっている。

 だが、断る。


 なんて、セリフは言えない。

 彼女の機嫌を損ねるかもしれないから、というのもあるが確かに彼女の言う通りな気もするのだ。

 彼女の言っていることが本当かどうかはわからない。

 マジカル王国の連中が俺に目をつけているのかどうかなんて、確かめるすべがない。

 だが、もしも彼女の言っていることが本当であるのならば、別れるべきだ。


 勿論、彼女にも何らかの打算的な考えが合って俺達に別れてほしいんだろう。

 俺のことだけを考えていくれているというわけではないはずだ。

 様々な思惑が絡んでいるに違いない。

 だが、それでも俺やジェル、クロにとっても益のある話だと思うのだ。


 もしも、マジカル王国の連中がきた時に俺では彼女たちを守り切れない。

 もっと、大きな組織で保護してもらうのがいいだろう。

 例えば、カロザス国の騎士団とか、でだ。


 彼女たちと旅をできなくなるのは少し残念ではある。

 だが、彼女たちの安全を考えたら一緒に旅できなくても受け入れられる。

 しかし、クロと一緒に行くと約束したしな……

 そんなことを思い、悩む。

 いや、俺が好きかって言っても仕方がない。

 本人たちの意見も聞かねばならないだろう。


 というかそれが一番大事なはずだ。

 安全性よりも、各国の思惑よりも本人の意思たちの方が尊重されるべきだ。


「彼女たちの意見も聞きたいんですが、彼女たちと話しても構いませんか?」


「ふむ、構いませんよ」


「ありがとうございます」


 そう言って俺は退出させてもらう。

 外には先ほどと同じ位置に彼女たちが立っているのが見えた。

 フーと今日何度目になるかわからない深呼吸をして彼女たちのもとに向かう。


 それにしてもどうしたものかな。

 俺だってできることなら彼女たちと一緒に居たい。

 その気持ちに嘘偽りはない。

 だが、現実が自分の気持ちと同じように進まないことは多々ある。

 それがどうしようもないときは受け入れるしかない。


 そんなことを考えつつ俺は彼女たちのもとに向かう。


「俺と……」


 そこまで言いかけたところで俺の声は遮られる。


「私のこと嫌い?」


 俺の声を遮った主はクロだ。

 彼女が俺の元に駆け寄り、上目遣いで聞いてくるのだ。

 しかも、涙目になりながら。

 そんなことを聞かれてYESと言える奴はいないだろう。


「まさか。

 俺はクロもジェルも大好きだよ」


「そっか。

 よかったぁ」


 彼女はほっとしたように笑う。

 なぜこんなことを急に聞いてきたのだろう?

 そんなこと、考えればすぐに分かることだ。

 大方、彼女たちの不安をあおるようなことをバルベイラの部下たちが吹き込んだのだろう。

 そして、不安になった彼女たちと俺の仲を崩すつもりだったのだろう。

 だが、生憎と俺と彼女たちの中にはかなり堅い絆がすでにできているのだ。


「クロ、君は俺のことが好きかい?」


「うん、大好き」


「俺と一緒に旅を続けてくれるかい?」


「勿論」


「たとえ、それでどんな危険な目にあってもかい?」


「あなたとならいい。

 貴方で無理なら、ほかのだれでも無理だった」


「ありがとう」


 俺は彼女を軽く抱擁する。

 彼女は俺のことを必要としてくれている。

 ならば、それにこたえぬわけにはいかないだろう。

 俺はジェルのところまで向かう。


「ジェル、君も俺と一緒に旅をしてくれるかい?」


「ええ。そのつもりで来たのです」


 彼女は俺が次にいう言葉も大体わかったようだ。

 俺が二度目の質問を言う前に彼女の口が開く。


「それ以上の言葉は必要ありませんよ。

 例え、世界を敵に回してもあなたとなら構いません。

 逆のあなたを敵に回して世界の味方になる、なんていうのは苦痛でしかありませんが」


「ありがとう」


 気が付けば俺はぽろぽろと涙を流していた。

 自分がいかにこの2人に大事にされているかがわかったからだ。

 情けないしかっこ悪いだろう。

 アラフォーのおっさんが人前で涙を流すなんて。

 だが、それでも泣かずにはいられない。

 始めて人の優しさ、いや、愛情とでもいうべきものに真の意味で触れた気がする。


「2人とも、行ってくる」


 俺は涙をぬぐいながら二人にそういう。

 俺は決断した。

 バルベイラから彼女たちと一緒に居るデメリットを聞いた。

 彼女たちの意思を聞いた。

 俺の仲で決断はできた。

 ドアを開けて再度部屋の中に入る。


「それで、結論は出ましたか?」


「はい。おかげさまで出ました。

 俺は……」


「彼女たちと一緒にこのまま旅を続けます」


 俺は言った。

 決めたのだ。

 彼女たちと旅をすると。


 彼女たちは言った。

 俺と旅をつづける途中で死んだとしてもかまわない、と。

 彼女たちの気持ちを優先するのであれば、これが最善のはずだ。


 バルベイラにとっては不利益なのかもしれないが言わせてもらう。

 下手に別れるなどとうそをつくよりかはいいはずだ。

 彼女は少しの沈黙の後に言葉を発した。


「……そうですか。

 まぁ、そうでしょうね。

 貴方なら、そういうと思っていましたよ」


 彼女はそういって天井を見上げる。

 何かあるのかと思い見上げるがいたって普通の天井だ。

 彼女は天井から俺に視線を向ける。


「何か力になれることがあればこれと一緒に手紙を書いて近くのギルドに送ってください。

 出来るだけの力は貸しますから」


 そう言って彼女は俺に指輪をくれた。

 あの『女帝』の模様が描かれている指輪だ。

 俺はそれをありがたく、受け取らせてもらうことにする。


「ああ、ありがとうございます」


 そう言って俺は席を立ち小屋から出て行く。

 そして、小屋の外にいる彼女たちと合流する。


「それでは、馬車にお乗りください。

 あなた方が元居た場所まで送り届けます」


 来るときにもいた男が、そう言って馬車のドアを開ける。

 ありがたい、ここから自力で帰れ、と言われても帰れなかったからな。

 そう思いつつ、馬車に乗り込む。

 どっと疲れたな。

 まぁ、無理もないか。

 俺はそう思いつつ、馬車に揺られる。



 ~小屋の中~


「あのまま行かせて良かったんですか?」


 バルベイラの両脇にいた女がバルベイラに問いかける。

 金色の切れ長の瞳。真っ赤な髪の毛。

 非常に整った顔立ち。

 そして、ボン・きゅ・ボンと出るところがしっかり出ている体型。

 バルベイラとはまた違った美しさだ。


 バルベイラは妖艶な美しさ。

 対してこの女性は絵画や彫刻のような美しさ。

 そんな彼女がバルベイラに問いかけている。


「むー」


 ボフン。

 バルベイラは彼女の立派なたわわに顔をうずくめる。

 だが、それをうずくめられた側が嫌がることはない。


「でもさ、仕方ないじゃん。

 本人が彼女たちを連れて行きたいっていうんだしさ。

 私だって本人の意思を尊重したいしさ」


 先ほどまでの妖艶さはどこへやら。

 バルベイラの口ぶりには幼さがにじみ出ていた。

 まるで親に怒られて言い訳をしている幼い子供のようである。


「そうですね。大変ですものね」


 そう言って彼女はバルベイラの頭をなでてあげる。

 すると彼女は嬉しそうに口角を上げる。


「でも、本当なんだよ。

 彼に与えた情報は全部本当なのに。

 彼の為を思ってのことなのに」


「うんうん。で、本当は?」


「……一緒に居る女の子たちに取られる気がした。

 というか、あんな風に可愛い女の子を侍らせてほしくない。

 やっぱり、若い方が好みなのかなぁ」


 自分の体を見つつ不安げにつぶやく。

 彼女と比べるとジェルとクロの年齢はあまりに若い。

 そのため、自分に自信が持てなかったのだ。


「そんなことないと思うよ。

 マジカル王国の手先が探ろうとしたのを妨害したりして滅茶苦茶役に立ってるって。

 彼もその事実を聞いたらあなたのことを認めてくれるよ」


「そうかなぁ」


 それに対して、女性が声をかけて安心させている。


「ほい、できたぞ」


 もう片方の立っていた少年が飲み物を注いで渡す。

 それをバルベイラが受け取る。


「ありがと」


 そう言ってから彼女は口に入れる。

 そして、それを手渡した少年もまた同じものを口に含む。


 彼もまた美形であった。

 白い髪に黒い目。

 おそらく、町中で人が大量にいても非常に目立つだろう。

 一見中性的だが、どことなく男性の気配が漂っている。


 3人のこれほどの美形たちがこんな狭い空間にいるなんて状況はなかなか生まれないだろう。

 世界で最も平均の顔面偏差値が高い場所かもしれない。

 3人は先ほどのことについて軽く話し始める。

 まずは男性が話題を振る。


「あの人が、尊敬する人?」


「そう。彼はものすっごいんだから」


「まぁ、確かに強そうではあった。

 俺達のわずかな動きにも気が付いていたしね。

 だけど、逆に言えばそれだけだ。

 あれなら、剣聖の方がよっぽどやばかったよ」


「確かに、剣聖はすごいかもしれない。

 だけど、彼の場合は剣だけじゃないんだな、これが」


 バルベイラは得意げに言う。

 彼がどれほど特筆すべき存在であるかを。


「確か他の武術も修めているんでしたっけ。

 魔法もすごい高度なレベルにあるって言ってたよね」


 女性の方がバルベイラから前に聞いたことを言う。


「そう。彼はね、それらを使いこなす技術が非常に高いの。

 実際、それらを駆使してブルードラゴンを単騎討伐したぐらいなんだから」


「それって眉唾物の可能性もあるんじゃ?

 その場にいたのは彼のファンですし誇張している可能性も……

 事実、それがカロザス国の上層部は信じていないんでしょう?」


「ええ、そうよ。

 だけど、それが事実だということを私は知っている。

 あの、山脈で見たからね。

 この世界の頂点というものを」


 そう言ってから彼女のあの人がいかにすごいか自慢に二人はしばらく付き合わされるのであった。


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