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第24話 おじさんは会いに行く。失礼のないようにしなくては!

 この世界には5大帝というものが存在する。

 富、名声、力、財力、権力などで世界に大きな影響を及ぼす5人を指す。

 彼らは一国の王よりも高い影響力を誇っている。

 この5人の中に優劣の順位はない。

 ただ、彼らは間違いなくこの世界を牛耳る覇者である。

 俺が子供のころから、いやはるか昔から存在している称号のようなものだ。


 当然ながら、この中に俺は入っていない。

 当たり前だ。

 俺に世界を動かす力などないのだから。


 この称号を得るものは時代とともに変わっていく。

 それはそうだ。

 彼らだっていつかは死ぬのだから。

 そうしたら、代わりのものが5大帝になるのだ。


 そのうちの一人が『女帝』バルベイラ。

 現代の5大帝のうちの一人だ。

 20代後半から30代前半ほどの女性だそうで5大帝になったのは4年前。

 彼女のことはジェルから聞いており、少しだが知っている。

 これは噂だが、彼女は絶世の美女だそうだ。

「そうだ」という風になるのはジェルも俺も本人を見たことがないからである。


 彼女はいわゆる裏社会を主に取り仕切っているそうだ。

 薬、ギャンブル、密輸、武器の売買などの非合法のビジネスを取り仕切る女王。

 大量の武器や情報を扱っているので、彼女には迂闊に国々も手を出せない。

 もし下手に手を出して相手の機嫌を損ねれば戦争になった時に自国だけ、彼女の力を借りれない可能性があるからだ。

 裏社会のドンをしている。

 そんな大物が俺達に用があるだと?


 俺はその事実に驚きを隠せない。

 顔に汗を垂らす。

 いや、彼らの言っていることが嘘の可能性もある。

 俺達のことをビビらせているだけかもしれない。


「それが本当だという証拠は?」


「こちらをご覧になっていただければ信頼してもらえるかと」


 そう言って彼は箱を開けて中に入っているものを見せてきた。

 それは指輪であった。

 本来指輪の宝石をはめる部分には影のように黒く模様が描かれていた。

 真ん中に女性の横顔があり左右にバラが一輪ずつある。

 間違いない、『女帝』の紋章だ。


 もしかしたら、これを複製した可能性もある。

 だが、それは限りなくゼロに近い。

 何せ、勝手に5大帝の許しを得ずに紋章を使うということは彼女に喧嘩を売るということ。

 それが何を意味するのかこの世界の住人の大半は知っているだろう。


「わかりました。

 会いに行きましょう」


 もちろん、断ることはできる。

 だが、もしも断れば彼女の顔に泥を塗ったとして目をつけられるかもしれない。

 世界的な組織を敵に回す、なんて事態は絶対避けたい。

 そう思い、俺は会うことを了承したのだ。


「それでは、こちらの馬車にお乗りください」


 男はパチンと音を立てて指を鳴らす。

 すると、どこからともなく馬車が現れた。

 当然『女帝』の紋様が馬車にはついている。

 先ほど見た紋章の周りにバラが飛び散っているようなデザインだ。

 窓は黒く、中から外の確認ができないようになっているのがわかった。


「大丈夫?」


 心配そうにクロが見上げてきた。

 ジェルも不安そうな顔をしている。

 彼女たちも話を聞いていて不安になったのだろう。


「大丈夫!」


 さすがに殺されるなんてことはないだろう。

 俺は『女帝』と初対面のはずだ。

 それに、最近何か怒らせるようなことをした覚えはない。

 それに、俺とジェルは騎士団に所属している。

 それに、クロは冒険者になっているし俺達もパーティーを組んでいる。

 そういえば、パーティーと言えば今は任務の途中だ。

 俺達がもしも殺されて帰ってこないとなったら、ギルドも何らかの対応をとるはずだ。

 自分に言い聞かせるように立て続けに述べる。

 フーと軽く深呼吸をする。


「さ、行こう」


 そう言って俺たちは馬車に乗った。



 どれぐらいの時間がたったのか。

 中から外が見えないせいで随分と長い時間を過ごしたように感じる。

 ちらりと時計を見る。

 だが馬車に乗っている時間はせいぜい2時間かそこらだ。

 特に話すこともなかったので、車内は静まり返っている。

 この馬車もずっと揺れているわけではなく何回か止まったりした。


「つきましたよ」


 後、何日かかるのかと思っていたが意外にもあっさりとついた。

 ドアが開けられ俺たちはおずおずと外に出る。

 しかし、馬車で二時間程度ということはコヨーク王国内に本拠地があるということか?

 だが、外に出てその考えはすでに否定される。


「なっ……」


 周りに広がる光景が先ほどまで見ていた光景とは似ても似つかないものだったからだ。

 先ほどまでは田舎の田園風景。

 だが、今周りにあるのは森林だ。

 しかもどの木も樹齢1000年相当の大木ばかり。

 見上げるが上は木々の葉で生い茂っていて空を見ることはかなわない。

 ただ、光は差し込んでいる乗れ周りを見る分には何ら問題ない。


「ご心配なく。

 ここが特定されるということはあり得ません。

 絶対に、ね」


 彼はそういった。

 何らかの特殊な手段を使ってここまで来たのだろう。

 それゆえ、ここは見つからないと確信しているようだ。


「それで俺はあの小屋に行けばいいんですか?」


 少し先に目をやると森林の中に小屋がぽつんと立っている。

 そこの周りには木々がない。

 否、切り株のようなものがある。

 どうやら、周りの木を切ってそれを用いてあの小屋を建てたと見た。

 どこからどう見ても普通の丸太小屋だ。

 普通のドアがあり、窓がある小屋だ。


「ええ。ただし、おひとりで向かってください。

 連れの方々は連れて行くことはできません」


「分かりました」


 そう言って俺はその小屋へ歩く。

 正直、かなり緊張している。

 一応剣のことについては何も言われなかったので帯刀したままだ。

 俺一人で来い、というのも何か理由があるのだろう。


 なにせ、相手はこの世界を牛耳る一人だ。

 媚びを売ってもいい。

 ごますりをしてもい。

 かっこ悪くてもいい。

 情けなくてもいい。

 とにかく、相手の機嫌を損ねず生き残ろう。

 俺はドアを開けて中に入らせてもらう。


 中は外見と同様普通の小屋だった。

 入った瞬間に気のにおいが鼻の奥をすり抜ける。

 ちょうど心地よいと感じる気温と湿度だった。

 小屋の真ん中には机があり、その机を挟んで2つのソファーがある。


 中にいた人の数は全員で3人。

 片方のソファーに座っている女性。

 そして、その両サイドに立っている女性と男性。


 おそらく、座っている女性がバルベイラだろう。

 彼女は妖艶な女性だった。

 魔性の女というやつだ。

 目元に泣きボクロがあり、非常に顔立ちが整っている。

 真っ赤な情熱の赤い目に若干紫がかった黒い髪で肌はきめ細かい。


 そして、胸元を強調するかのような着物のようなゆったりとした服装。

 紫の服に真っ赤な薔薇のような花の刺繍が施されている。


「こっちに来てくださいな」


 彼女は俺の方に手招きをする。

 彼女の一挙手一投足がいちいち妖艶なのだ。

 だが、今の俺はそんな妖艶な姿には惑わされない。

 緊張していてそれどころではないからだ。

 俺は彼女の指示通りに動く。


「まぁ、座ってくださいな」


 そう言われて俺は彼女の向かい合わせのソファに座る。

 今のところは順調だ。

 特に相手を怒らせているような感じはしない。


「ご丁寧にありがとうございます」


「そこまでかしこまらなくてもいいんですけどね。

 もっとフレンドリーでいいんですよ」


「そうですか」


 どっちだ?

 本当にかしこまらなくてもいいのか?

 それともかしこまったままの方がいいのか?

 いや、丁寧に対応していて損することはあるまい。

 このままの状態で行こう。


「私、『女帝』バルベイラです。

 これからも、よしなに」


「これはどうもご丁寧に。

 私の名前は……」


 俺は一瞬迷った。

 本名を名乗るべきか、それとも偽名の『リョウセイ』を名乗るべきか。

 本名を名乗って下手に警戒されたくはない。

 大丈夫、カロザス国にいたときは『リョウセイ』しか使っていない。

 分からないはずだ。ここは偽名でいこう。


「リョウセイです。

 よろしくお願いします」


「ああ、今はそう名乗っていらっしゃるんですね。

 まぁ、あなたの本当の名前を言ったら混乱することは間違いないですものね」


 まるで俺の本名を知っているような口調。

 俺に鎌をかけているのか?

 本当の名前を言わせるために?

 確かにこの世界ではリョウセイという名前は異質だ。

 そこで不信感を持ち、これが偽名だと思い本名を聞き出そうとしているのか?


「まるで私の名前がほかにある、みたいな言い方ですね?」


「はい。あなたの本名はリョウセイではありませんから」


「ちなみにそれはどのようなものだとお考えなんでしょうか?」


「考えるまでもありません。

 あなたの名前は鮮明に私の脳に刻み付けられていますから。

 あなたのお名前は、アルド・メリタリです」


 俺が山脈を降りてから本名を名乗ったのは一度だけ。

 ジェルと出会った時だけだ。

 ジェルが彼女に俺の本名を漏らした確率は限りなく低い。

 にも、関わらず彼女は俺の本名を知っている。

 つまり、そこから導き出される結論は……


「ひょっとして、あなたはキャロル山脈に来たことがおありですか?」


「ええ、ええ」


 彼女は俺の質問に嬉しそうに答える。

 なるほど、そこで俺の姿を見ていたから知っていたというわけか。

 それにしてもまさか五大帝が俺の元に来ていたとはな。

 いや、4年前に五大帝になったのだからもっと前に俺のところに尋ねていたら当時そうでなかった可能性もあるか。


 それにしても、こういっては何だが、彼女はあれだな。

 あまり運動が得意ではないな。

 体全体についている筋肉の付き方を見てもそこまで戦闘力は高くなさそうだ。

 まぁ、魔法がどれほどのレベルで扱えるのかはわからないから何とも言えないが。


 むしろ、やばいのは両サイドにいる二人。

 こいつらはただもんじゃない。

 重心やわずかな動きのそれが強者のそれだ。

 俺が少し動くたびに彼らも併せて少し足の向きを変える。

 常に最適な姿勢を維持している。

 やはり、戦うのは避けたいところだな。

 そう思いつつ話を続ける。


「そうでしたか、キャロル山脈に来たことがおありで。

 ところで、話を戻しますが本日のご用件は何でしょうか?」


「本日の用件ですか……あなたに言いたいことがあります」


「なんでしょうか?」


 俺は戦々恐々としつつ尋ねる。


「一緒に居る女性たちと別れなさい」


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