第2話 おじさんは人と出会った!緊張するなぁ
本日中に全部で5話投稿するつもりです。
第1話に書き忘れたので書いておきます。
ああ、そういえば修行ばかりをしていて俺の名前を言うのを忘れていた。
俺の名前はアドル・メリタリ。
どこにでもある農民の家の長男として生まれた。
文字通り人生の半分以上を剣と魔法にささげた者だ。
そんな俺は現在山を下っている。あれから数日がたちかなり下まで来る事ができた。
山を一本道でまっすぐ上がってきたのでその道をただ引き返せばいいだけだ。
幸いにも上るときに草などを切りながら登ったので草がまだ生えておらず息よりも楽に下山できる。
ぴくっ。
俺の耳が近づいてくる獣の足音を捉える。
この感じは……四足歩行で2メートルぐらいの大きさだな。
言い忘れていたが、俺の五感は極限の状態に身を置くことで研ぎ澄まされていた。
そのおかげで、魔導書も眼鏡なしで難なく読める。
前の世界では近眼で眼鏡を買い、年を取ると老眼で顔を近づけたりもした。
だが、この世界では目は全然悪くない。
おっと、魔物が来ているんだった。
集中ーーー
雑念が消え、相手と俺だけの空間になり他は真っ白になる。
5メートル、3メートル……相手はどんどん近寄ってくるのがわかる。
ズバッ
一閃。俺は人たちで相手を切り伏せる。
この程度であれば、魔法を使う必要もないだろう。
俺はちらりとそいつの方を見る。
そこにはなにもない空間から血があふれ出している。
おそらく、透明化の魔法を使っていたのだろう。
気配さえ感知してしまえばどうということはない。
俺はまた山を足早に下りていく。
すると、数時間ほど降りて人が登っていることに気が付く。
何年ぶりだろう、人の顔を見るのは。俺は話しかける。
「ぉぅも」
おっと、長らく話していなかったせいでうまくしゃべれずどもった。
一応、この世界では一つの言語で統一されているので、前世のように国によって言語が違いコミュニケーションが取れないということはない。
相手は俺を見て驚いたような表情をする。
まぁ、言語が同じでもさっきみたいに変な言葉を発してしまったらやばい奴だと思われてしまうか。
「え、上から?」
相手は何やらぼそぼそとつぶやいた。
男は筋肉質な体で剣を2本腰に携えている。
金髪の髪に翡翠のような透き通る目。
目は三白眼で鋭く回りを信用していないような印象を受けた。
そして、鞄をいくつか背負っている。それにしても……
些かバランスが悪いな。
上半身の方が下半身よりも筋肉が多すぎる。
だから、少し足に負担がかかっているな。
筋肉自体は申し分ない。
俺の肉体が全盛期の頃よりも筋肉量で言ったら多いだろう。
彼はおそらく20ぐらいだろうから彼も今が筋肉の全盛期ではないだろうか。
だが、この筋肉はあくまで剣士のための筋肉だ。
いわゆるボディビルダーのような筋肉や農家の人の筋肉とは別物だ。
なので見た目はそこまで筋肉質なイメージはわかない。
精々体格が少ししっかりしているな、ぐらいに思うだろう。
だが、これがボディビルダーのような見せる筋肉ならば、歩くことも大変なレベルである。
足取り、呼吸、体幹、重心、筋肉、傷跡。
彼を構成しているすべてが彼の強さを語っている。
おそらく剣術だけで言うのであれば俺よりも強い。
はは、20年以上剣術を極めはずなのに初対面の10個以上下であろう子の方が強いなんて……
やはり現実は甘くないな。
はっ。いかんいかん。
つい、長年の癖で相手の体をじっくりと見るようになってしまった。
初対面の、ましてや俺のようなおっさんからじっと体をまさぐられるような視線を送られたら気持ち悪いな。俺はそそくさとその場を後にしようとすると、声を掛けられ呼び止められる。
「待ってください、あなたのお名前はひょっとしてアドル・メリタリというのではないでしょうか?」
「はい?そうですが……」
今度はちゃんと言葉を話す事ができた。
それにしても、こんな人と会ったことがあっただろうか?
記憶をたどってみるが、こんな人は覚えていない。
あまり人の顔を見たことがなかったので覚えていないだけかもしれないが……
これだけ研ぎ澄まされたレベルなら記憶に残っているはずだ。
はて?
「ぅう……」
俺が答えた瞬間、彼は鋭い目が崩れ涙をぼろッと出す。
膝から崩れ落ちて何やら泣き始めてしまった。
手で自分の目を覆って泣いている。俺は戸惑いながら話しかける。
「ど、どうした?大丈夫か?」
「ほっ、ぐ、ほぐぅぅ……ほっ、ぉお、うぐぅ……」
なんだか、俺が声をかけてますます泣いているような気がする。
これでは俺がこの人をいじめてしまったみたいではないか。
俺がそう思っていると、その人が嗚咽を殺しながらしゃべりだす。
「お、おれは、あなたをめ、目指して、たっ、だひたすらに努力し、っしました。イ、いないかっもって思ったけど、いた。いたんですぅ」
聞き取りづらいが、要は努力をしていたが、このままでいいのか不安になっていたということか。
わかるわかる。
おれも努力をしているときに、ふと冷静になるときがあった。
そして自分は何でこんなことをしているのだろう?と疑問になり不安になった。
こういう時に言うのは励ましの言葉ではない。
俺は彼の肩に手を置いて語りかける。
相手はうつむいていた顔を上げて俺の方をみる。
「そうか。今までつらかったよな。よく頑張った。お前はえらい奴だ」
「はぃぃ!」
そう、こういう時にかけるべき言葉は励ましではない。
今まで頑張ってきた自分自身に対するねぎらいの言葉なのだ。
俺も自分自身をほめていたりした。って、これではナルシストか。
「そういえば、君の名前は?」
「ジョン・ビーコスとお申します」
「覚えておこう。それじゃあ、どこかで会う機会があれば、どこかで……」
そう言って去ろうとすると、「あ、あの」と言って呼び止められる。
これ以上何か話すことがあるだろうか?と思い振り返る。
「そ、それ、なんで」
そう言って俺の剣を指さす。驚くのも無理はない。
それはさやの中に入った状態でさやにはたくさんの血と動物の毛などがついている。
「いやぁ、恥ずかしながら剣が何年も修行しているうちにおれてしまったんだよ。
最近はさやに入れたまま物を切るようにしているよ」
衝動的にこの山に来たこともあり髭剃りを持ってきていなかった。
だから、髭や体の毛をこの剣で剃っていたことは俺だけの秘密だ。
まぁ、王都で買った少し高めの剣だからな。
そりゃ、何十年も使っていれば折れるに決まっている。
それでもいつの間にか愛着がわいていて捨てるのは忍びなかったのだ。
「あ、あの良ければ俺の剣と交換してくださいませんか?」
「え?」
俺は彼が使っている剣をちらりと見る。
彼の剣は使い込まれてはいるが、俺の何十年も使ってきた剣よりもはるかにきれいだ。
これでは彼だけが損をすることになるが……
「いやいや、君だって剣がないと困るだろう。
それに、随分と俺のよりもきれいそうだし、受け取れないよ」
「大丈夫です。見ての通り剣は2本あるので1本残っていればいいですよ」
「こらっ!!」
俺はその言葉を聞き思わず彼に向かって怒声を上げる。
彼はその突然俺が出した大声にびくっと体を震わす。
「君も剣士の端くれなんだろう?それなら、そんな剣を軽んじるような発言は慎んだ方がいい」
「……は、い。すいませんでした」
彼はしょぼくれたようにして謝る。
それを見て俺はやってしまった……と思う。何やってんだ、俺。
初対面の人に対して声を荒げて怒るなんて。
しかも、こっちを好いてくれているというのに。
つい、自分の人生を捧げたといってもいい剣術を軽んじる発言をされたことでいらだってしまった。
やはり、時間をかけたものにはそれなりに愛着がわくものだな。
だが、このままでは初対面なのに怒鳴った単なる老害だ。
「いや、こっちこそごめん。もっと、別の怒り方とかもあっただろに」
「いえいえ。たんに俺はあなたに俺の剣をもらってほしいだけですから」
「ただ、君に何もしていないのに一方的にもらうっていうのはちょっと……」
「それなら俺に何かアドバイスをください。
その対価として、俺の剣をもらってくれたら一方的じゃないのでいいですよね?」
「えっ、まぁいいけど……」
俺は少し押され気味でそういう。
そして、先程彼の体を見たときに思ったことを言う。
「体の足への負担がちょっと大きいかな。
上半身の筋肉と下半身の筋肉が見合ってないと思う」
「わかりました。これで、俺の剣をもらってくれますよね?」
顔を近づけて言葉を強く協調して言う。……これはこっちが折れることになりそうだ。
どうせもらうなら、ありがたくもらうことにしよう。
俺は自分の剣を差し出して彼の剣を受け取る。
「ああ。ありがとう」
「そんなこと言わなくてもいいですよ。これはお互い満足したうえで成立した取引なんですから」
「そうかい?でも、最低限の礼儀は持っておかないとね」
「そうですか……あなたが満足ならそれでいいですよ。それでは、これにて」
そう言って彼は別れを告げ、彼は山を登っていき、俺は山を下っていく。
いや、最初に会うやつ女じゃねぇのかよ!?
そんな突込みが聞こえてくるような気がします。
申し訳ございません、女性ヒロインは次話登場いたしますのでしばしお待ちを。