第17話 おじさんは出発する。行きますかぁ
食堂で頼んだ日替わり定食を口にほおばりながら話をする。
「それで、クロはどうなったんだい?」
「問題ないそうです。
特に攻撃を受けていないようで傷はありません。
精神に何か多大な傷を負った、というわけでもないようです」
「そうか。ところで、そのクロは今、どこに?」
「彼女なら私の部屋で寝ています。
怪我はないですが疲れがたまっていたのか、いまだぐっすりです」
「そうかい」
俺はほっと一息つく。
ちゃんと間に合っていたのだ。
ドラゴンとの間に割って入って正解だったな。
俺がそんなことを思っていると彼女が話してくる。
「私からの提案なのですが、次に行くところはセントラル大陸にしませんか?」
ふむ。
セントラル大陸か。
まぁ、無難な判断だな。
「いいと思うよ」
「ではセントラル大陸に行くということで。
明日は、朝早くに出発しますか?」
「いや、クロはまだぐっすり寝ているんだろう?
疲れをちゃんと癒すためにも昼前で構わないよ」
「わかりました。
では、明日は昼前で」
そういってからお互い食事を再開する。
この世界には4つの大陸がある。
1つ目はカロザス国。
大陸じゃなくて国じゃん、と思われるかもしれないが正確には昔複数あった国がどんどん統一されてカロザス国という巨大な一つの国になったそうだ。
2つ目はマジカル王国。
これも先ほどのカロザス国と似たような経歴を持つ。
カロザス国と大きく違うことと言えば民主的ではなくて貴族制度がまだ根強く残っている、というところだろうか。
そして、かなり血の気の多い国のようだ。
3つ目はセントラル大陸。
ここには6つほどの国が集まっており、様々な人種がいる。
確か、人間、獣族、天翼族、リザードマン、巨人族など。
他にも多種多様な種族がいると聞いた。
それ故に争いごとも起こりやすく、戦争はたいていこの大陸が原因で起こるそうだ。
4つ目はアース大陸。
ここはあまりよくわかっていない。
閉鎖的環境らしく、あまり情報がない。
噂では、怪しげな武器を作ったりしているとかなんとか。
これで以上4大陸だ。
もちろん、今紹介したのは大陸だけでこれ以外にも国はある。
ただ、世界に影響を及ぼすのはいま言った4大陸である。
これは疑いようがない。
もしも小国に逃げ込んだ場合だと、危険だ。
相手はあのマジカル王国。
小国では圧力をかけられて俺たちを売るかもしれない。
その為にも、戦力のある大陸にひとまず逃げるのがいいだろう。
まぁ、暗殺者一人にそこまでするとは思えないが……
念には念を、だ。
日替わり定食を食べ終わると、俺は食器を戻す。
ジェルはまだ食べていたので先に部屋に戻らせてもらう。
そして、そのまま銭湯に入りに行く。
戦闘で疲れをある程度ほぐして自分の部屋に戻る。
そして日課のトレーニングを軽くこなした後、床に就く。
そして、そのまま眠らせてもらう。
翌日になり、目を覚ます。
顔を軽く水で洗ったら、そのあとはランニングだ。
俺は騎士団の寮の周りを走るべく外に出る。
すると、同じような考えをした人がすでにいた。
そう、騎士団長だ。
彼も気が付いたようでこちらに声をかけてくれる。
「もしかして、今から走り込みですか?」
「ああ。君もそうかい?」
「はい。よかったら一緒にどうです?」
「いいね」
そう言って俺は彼と一緒に走る。
この年になると、少し運動を怠るだけで身体能力が急激に減少する。
こうやって、運動を習慣化させることが重要なのだ。
「そういえば、昨日は災難でしたね」
走っていると、こちらに声をかけてくる。
昨日のドラゴンに襲われたことを言っているのだろう。
まるで避けようのない災害に見舞われたような口ぶりだ。
「まあね。
それにしても王都の近くであのレベルがポンポンと出るのかい?」
「まさか。
ドラゴンなんてそうそう出ませんよ。
私が騎士団に入ってから王都で出るのは今回が初めてです」
まぁ、さすがにそうか。
あのレベルがポンポン出るとなると王都を移転した方がいいかもしれないからな。
たとえ、勝ったとしても周りに甚大な被害が出るに違いない。
「ちなみにその理由はわかっているのかい?」
「いいえ。
そもそも周りはドラゴンが出たということすら信じてくれていません。
もし撃退したのなら、何かしらの戦闘の跡があるはずですが、それが全くないというのが一番の原因ですね」
あのブルードラゴンの攻撃は氷系統。
時間がたっていれば水になって消える。
ましてや、俺の火の攻撃によって付近の温度はただでさえ上昇していた。
戦闘の跡と言えば俺があいつに魔術を放ったがあいつだけが燃え、付近の物は燃えなかった。
ふーむ、これは戦闘がなかったと言われても不思議ではないか。
「ですが、私はあなたが倒したのだと分かっていますよ!
相手に攻撃させるまでもなく、速攻で倒したんでしょう?
みんなに逃げるように言ったのは巻き込ませないため。
あ、それとも目立ちたくないから、でしょうか。
いや~自分もその場にいてみてみたかったですね」
彼は興奮しながら語っている。
眼をきらきらさせて子供がヒーローを語るときのように。
いや、過大評価しすぎだ。
内心突っ込みを入れずにはいられない。
全然、一撃では倒せていない。
むしろ、苦戦しまくったぐらいだ。
それに……
あいつを倒したあの力はできれば使いたくなかった。
運良く戻ってこれたが、あのまま暴走していた可能性もあった。
あの状態にならないように立ち回るべきだった、というのに。
今回の戦いでは反省するところも多いな。
「いや、君は俺を過大評価しているよ。
本当の俺っていうのはもっと矮小な人間だ」
「いえいえ、私に勝ったんだからもっと自信を持ってください。
ところで、今日出発されるんですよね?」
「ああ、そのつもりだよ」
「ちなみにどこに行かれるおつもりなんですか?」
一瞬彼に言うべきかどうか迷った。
あまり言わない方がいいのでは、と思ったからだ。
とはいえ、彼には世話になった。
それにむやみにいうタイプではないだろう。
「次はセントラル大陸に行こうと思っている」
「セントラル大陸ですか……
どこの国に行くかは決めているんですか?」
「特に決めていないんだ。
でも、人が多いところにひとまず行こうと思っている。
さすがに、不慣れな土地で不慣れな種族と一緒にいると緊張するからね」
「そうですか。お気を付けて」
「ありがとう」
その会話が終わると同時にちょうど走り終わった。
俺はそこで寮に戻る。
そして、食堂に行き朝食を食べる。
それが終わったら身支度して自室でしばらくトレーニングだ。
剣を素振りして間合いをより正確に把握していく。
コンコンと扉をたたく音がする。
「はいはい」
そう言って出る。
すると、そこにはジェルとクロがいた。
クロの服は真っ黒な服ではなくおしゃれな少女らしい花柄のワンピースを着ていた。
やや服がぶかぶかであるが愛らしい。
ジェルも大きさと色が違うワンピースを着ている。
「この服は?」
「私が今朝買ってきました。
やや、大きかったですがなかなか似合っているでしょう?」
「ああ、とってもかわいいよ」
「あ、ありがとう」
俺がそういうとクロは下を見てうつむいてしまった。
恥ずかしいのだろう。
かわいらしいなぁ。
「それじゃ、行こうか」
そう言って声をかけ、3人で寮の門の方へと足を運ぶ。
寮のところには門番の兵たちがいる。
だが、それだけではなくて他にも騎士団の人たちがいる。
どうやら、ジェルを見送りに来てくれたようだ。
やはり、彼女はみんなから慕われているな。
「みんな、どうしてここに?」
「どうしても何もお見送りですよ。お・み・お・く・り」「腕を上げて戻ってくるといいぞ」
「いってらっしゃい」「風邪とかには気をつけてな」「頑張れよ!」
「ありがとう、みんな」
みんなからの言葉を聞いてふっと口元に笑みを浮かべる。
俺も酒を勧められた人や話した人と言葉を交わす。
「それじゃ、またな」
そんな死亡フラグみたいなセリフを言って俺達はお別れをする。
彼らは俺たちの姿が見えなくなるまで手を振っていてくれた。
「それでは、セントラル大陸に行きますか」
「そうですね。やはり、船は必須でしょうか」
彼らから見えなくなったところで話し始める。大陸は海で囲われている。
なので大陸から大陸へと移動する主な手段はやはり船だ。
大規模な転移魔術で移動することも可能だそうだが、生憎そんなものに心当たりはない。
やはり、無難に船で行くべきだろう。
「となると、港に行くべきでしょうね」
「そうだね。
それじゃ、行こうか」
地元の露天商で買った地図をもとに港まで向かう。
ここでは馬車に乗せてもらってもいいが金のことがあるので、できるだけ節約するべきだろう。
確かに金はある程度あるが、慣れない土地だとどんなことでお金を使うかわからない。
節約できるところはするべきだろう。
幸いなことに、3日ほどで港に到着した。
徒歩での移動だったのでもう少しかかると思っていたのだが、思ったよりも早かった。
王都からまぁまぁ近かったのだ。
とりあえず、その日は港の町の所から少し離れた宿屋に止まることになった。
「はい、はい。
彼はセントラル大陸に向かうとのことです、はい」
部屋の中で一人の男性が喋っている。
その男性は少し汗をかいており、緊張している様子だ。
筋肉質な体が汗の為かうっすらと見えそうになっている。
そう、騎士団長である。
一見すると独り言をつぶやいているよう見えるだろう。
だが、彼は白い金属の薄い四角いプレートのようなものを耳に当てている。
そして、そのプレートから女の声が聞こえる。
声からして30代ぐらいだろうか。
「そうですか……セントラル大陸に。
どこの国なのかは言ってなかったんですか?」
「はい。しいて言うなら、人族のいるところに行きたいとおっしゃっていました」
「そうですか。大陸がわかっただけでも良しとしましょうか。
ところで、最近、何か不審なことはありませんでしたか?」
「そうですね……やはり、ブルードラゴンの発生でしょうか」
「それはどのあたりで?」
「王都近郊です。
その場にいた彼がそれを難なく倒したそうです。
具体的な証拠が何もないので、上は適当なでっち上げだと思っているようです」
「さすが。単騎でドラゴンを倒すなんて
私にできないことを難なくこなしてしまうなんて……
ああ、感激だわ」
騎士団長は報告をするが、彼女は後半の方はあまり聞いていないようだった。
歓喜に打ちひしがれているような艶のある声を出す。
だが、そのことについて騎士団長が苦言を呈することはない。
彼もまた似たような気持ちだったからだ。
顔にはニマニマとした笑みが張り付けられている。
「はぁ、少し取り乱したわね。
それじゃ、これでいいわよ」
「はい、それでは」
そう言って会話を終える。
そして、笑みを浮かべたまま騎士団長は事務仕事に励むのだった。




