第15話 おじさんは戦う。こいつ強いよぉ
う~ん、どうしたものか。
遠目にもわかるぐらいやばそうなのがいたから、反射的に出てきたが何か解決策があるわけではない。
俺は相手から目をそらさず、凍っている試験監督の人に火をかけ氷を融かす。
相手も俺を相手に警戒しているのか、俺から目を離さずマキシワームを喰っている。
それにしても……ドラゴンか。これはまた世界的な大物がはるばる来てくださったようだ。
こいつはドラゴンや龍、竜、など地方によって名称が違う。
俺の生まれたところではドラゴンと言われていた。
姿は前世での一般的なドラゴンのイメージと近しい。
同じドラゴンの中にも格というものがある。
格が高ければ高いほど実力も高く色で区別されている。
上から順に、黒、白、青、赤、黄色である。
つまり、目の前にいるこいつは青色なので真ん中ぐらいの強さだ。
だが、だからと言って勝てると勘違いしてはいけない。
そもそも、ドラゴンというだけでこの世界トップクラスの力を持っているのだ。
ひとまず、ここは逃げるが勝ちだ。
「師匠!」
俺がそう思ったところで後ろからそんな声が聞こえる。
おお、どうやらジェルたちがようやく俺に追いついたようだ。
こいつから目を離すわけにいかなないが、マモールさんも近いところにいるだろう。
「ぶ、ブルードラゴン!」
後ろからマモールさんの叫ぶ声が聞こえる。
その声には、緊張したものが含まれている。
「師匠、どうなさるおつもりですか?」
俺が後ろを向かないままジェルは話しかけてくる。
ここは逃げたいところだが、目の前のこいつが素直に逃がしてくれるとも思えない。
おそらく、誰かが戦って時間を稼いでいる間に援軍を呼んでもらうのが一番いいだろう。
「誰かが戦って、こいつの足止めをしなければならない、と思う」
そう、誰かがその危険な役割をしなければならない。
では、誰がその役割を果たすのか?
それはこの中で一番強い人間に決まっている。
ではこの中で一番強い人はだれか?
俺だ。
自慢ではないが俺はジェルに勝利している。
それに、マモールよりも強いだろう。
強者が犠牲にならなければならない、という理論はない。
だが、2人のどちらかが戦ったらその戦った人間は死ぬ確率が高いだろう。
ジェルには騎士団も紹介してもらっていろいろと世話になった。
マモールも少しの間だけとはいえ、死なずに済むのであればそれに越したことはない。
俺はフーと息を吐き、決意する。
「俺がこいつと戦う。
その間に2人はこの気絶しているひとたちを担いで王都まで言ってくれ。
そして、助けを呼んで戻ってきてくれ。
それまで何とか持ちこたえるから」
俺は彼らにそう告げる。
彼らは少し戸惑った気配を見せるが、すぐに了承する。
「わかりやしたぜ」
「了解です。ご武運を」
そう言って解凍し終わった試験監督の人をマモールが、ジェルが腰が抜けて立てないクロを担いでその場を離れる。
すると、目の前のドラゴンはクロの方を向き追いかけようとする。
俺のことなど眼中にないようだ。
「おい、こら、待て」
俺はドラゴンに向けて素早く火を放つ。
ジュっと音がして若干相手のうろこが焼ける。
だが、相手はたたんでいた羽を広げて素早く上空に上がり、ほかの火の攻撃を回避する。
「ドラゴンはそりゃ飛べるよね」
相手は俺に傷をつけられたことがよほど腹が立ったらしい。
こちらに狙いを定める。
これは助かる。
さすがに、誰かをかばいながらの戦いは慣れていないので1対1はありがたい。
それでも相手はドラゴン。
かなりきつい戦いであることに変わりはないが。
問題があるとすれば相手は上空から攻撃できるがこちらは空を飛べないのでやられっぱなしになるかもしれないという点だろう。
まぁ、その点は火を飛ばせば何とかなるはずだ。
だが、勝ちではなくて時間稼ぎさえできればよいので問題ない。
俺がそんなことを思っていると、ドラゴンの口が開かれ、こちらに氷のブレスが飛んでくる。
「っぶね」
俺はすんでのところで回避する。
火魔法でレジストしてもよかったが、魔力をできるだけ無駄遣いしたくない。
魔力がなくなり単純な肉体の勝負になればこちらにまず勝ち目はないからな。
相手も俺がよけることは想定済みだったようだ。
俺が逃げた方向に相手の長い爪のある足が飛んでくる。
ガキィン。
持っていた剣で受ける。
このまま押し合いになるのはまずい、と思いするっと受け流す。
相手はそのまま足がよろけて体勢を崩したように見える。
だが、俺は攻めずに距離を取る。
それが俺を誘う好きであることは見え見えであるからだ。
「チッ」
ドラゴンのくせにこいつ今、舌打ちしやがった!
相手は顔から地面に転びそうになる直前に、止まる。
そのまま筋肉を使って足一本できれいにバランスを取りながら、元通りの姿勢になる。
「フー」
気が付けば俺の体は汗でびっしょりだ。
この一瞬のやり取りで、だ。
やれやれ、さすがはドラゴンとでもいうべきか。
もう少し楽に叩けると思ったのだが、やはりそう簡単にはいかないものだ。
ドラゴンが口を開ける。
また、ブレスかと思い回避のモーションに入るが嫌な予感がした。
何とも説明しにくいが、とにかく嫌な予感がした。
念のために思いっきりその場を離れる。
……正解だったようだ。
俺が先ほどまでいたところに氷のドリルのようなものが刺さっている。
いや、俺のいたところだけではなく付近にも刺さっており、今俺がいるところのすぐ横にも刺さっている。
ブレスよりも範囲が広い。
しっかり逃げねばハチの巣にされていた。
「こっわ」
呟きながら俺はぞわっと身震いする。
これは決して武者震いではないだろう。
「大丈夫だ、いくら相手が強くても持ちこたえる事ができればそれでいいんだから」
自分にそう言い聞かせる。
相手が今のところ使えるのは、この氷のドリルと相手を氷結させるブレス。
この2種類だ。他にも様々な技があるだろう。
それらの技に臨機応変に対応していく必要がある。
「ハァーー」
相手がそんな息を吐く。
溜息のようにも聞こえるそれはパキパキという音を立てて氷で何やら作っている。
それは俺と同じくらいの大きさの人型の氷の人形であった。
それは性別が男か女かもわからない程度の人形だ。
即席の自分の駒、ということだろう。
それを複数作り出すと、俺の元にその人形が向かってくる。
いずれも、手に剣のようなものを持っている。
俺は近づいてきた氷の人形を素早く切る。
一体一体のレベルはそこまで高くなく多少の数であっても問題ない。
切られて人型ではなくなった氷はぼろぼろと壊れる。
どうやら、形を失ったらドラゴンの制御範囲を外れるようだ。
そこに相手からの氷のブレスが来る。
おそらく、この人形に意識を奪われた隙に決めるつもりだったんだろうが想定内。
これも難なくよける。
真っ白な息を吐き、少し乱れていた呼吸を素早く整える。
それにしても…‥マズイな。
かなり動ける場所が制限されてきた。
氷の人形は確かに壊したが、制御されていない氷自体はそのままその場に残る。
そのせいで、俺の周りは氷だらけで少し立ち回りに制限がかかる。
これはこの場を離れて氷のないところに移動する必要がありそうだ。
俺はその場を離れようとするが、そこに氷の人形が襲ってくる。
くそ、まずいな。
こいつらを切るとすぐにそのあたりに氷が蓄積する。
そのせいで氷を避けるためにどうしても制限のかかった動きになる。
少しの氷でも足を滑らせれば命取りになりかねないので、足元への注意も必要。
対して相手は俺一人に集中すればいい。
これら全てを狙ってやってるんだとしたら、大したものだ。
こっちの集中力はどんどんそがれていく。
「まだなのか」
かなり長い時間がたったと思いたいがおそらくそこまでたっていないだろう。
最初の氷のブレスがまだ融けきっていない。
そこまで長い間時間がたっていないのだと分かる。
くそ、これはなかなか骨の折れる。
相手がまたブレスのモーションに入り、放つ。
俺はそこで回避しようとするが……動けない。
怖いわけでも、あえて受けてやろうというわけでもない。
物理的に動けないのだ。
「なんでっ!?」
自分の足元を見てその答えがわかった。
俺の足が氷の中にある。
どうやら、制御を失ったと思った氷はまだ制御下にあったようだ。
この氷は操れないんだと俺に思わせて氷のあるところに行かせ、足元を抑える。
そして、逃げられないところにブレスを叩き込む、というわけだ。
必死に火で融かそうと試みるがなかなか融けない。
高火力で燃やせば融けるかもしれないが、俺の足も丸焦げになって戦闘の継続は不可能だろう。
そんなことをしている間にブレスは放たれ、一気に俺の目前までくる。
そして、青白い氷のブレスは俺に直撃した。
おじさん一体どうなる?!




