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第14話 クロ

 私の名前はクロ。

 前までマジカル国の特殊部隊に所属していたという少し特殊な経歴を持っている。


 そして、少し前に神の名を名乗る一人のおっさんを殺そうとした。

 別に彼個人に対して大した殺意などない。

 彼の前で殺意があるように見せたのも、相手の慢心や油断を誘い、どうにか逃げるため。

 私はただ上からの指示に従うだけの道具に過ぎないのだから。


 だが、その殺そうとしたおっさんは今まで出会った人達と確かに違ったのだ。

 彼にはすごいところがいくつもある。


 まず、彼のすごいところはその卓越した剣術だ。

 剣術だけでもこの国で5本の指に入る実力者だろう。

 実際、剣の本数が同じ状態で騎士団長に勝っているそうだ。

 その実力は疑いようもない。


 二つ目にすごいところは魔法だ。

 昼と夜を変えるほどの魔法使いなどこの世界にいるだろうか。

 私が知らないだけでいるのかもしれないが、それでもこの世界の超上澄みだろう。

 それぐらい、よく世界を知らない私でも分かる。


 その演算能力もすごい。

 おそらく一生取れることはないと思っていた隷属魔法を解除してしまった。

 魔法大国マジカル王国でも解除できるのはほんの一握り。

 どちらもこの世界最高峰の水準だ。


 だが、そんなものは彼を構成している要素のごくごく一部にすぎない。

 彼の本当にすごいのはその器の広さだ。

 殺そうとした相手に手を差し伸べて助けてくれた。

 ジェルという人は私のことを警戒している。

 それが当然の反応だ。

 私が同じ立場でも同じことように警戒するだろう。

 だが、彼はそれをしなかった。


 ……好きだ。

 私は彼が、アルド・メリタリが好きだ。

 ちょろいと思われるかもしれないが、彼のことが好きになってしまったのだ。

 恋とは理屈では説明できないというが、まさにその通りだった。


 一目惚れ……ではないかな。

 加害者と被害者なのだから、最初の関係性は最悪だ。

 でもすぐに彼の人間性にひかれた。

 私の周りにあんな人はいなかった。

 私の周りにも同じように力を持っている人はいた。


 だが、あるものは私のように道具となった。

 あるものは傲慢になった。

 あるものは禁忌を犯した。

 あるものは君臨した。

 誰も彼のようにはならなかった。


 あんな風に謙虚で礼儀正しく優しく、力のあるものなど私は見たことがなかった。

 ジェルという人があの人にあこがれるのもわかる。

 私はそんな彼のことが大好きなのだ。


 私とあの人との関係性を言うとしたらこんなものだろうか。

 とりあえず、あの人に距離が一番近いジェルさんからの信頼を勝ち取らないと。

 そして、あの人からの信頼も勝ち取らないと。


 そう思い、目の前にいる敵に対して短剣を構える。

 敵の見た目はでかい幼虫だ。

 全身が白いぶよぶよとした脂肪のような体だ。

 そこから8対の黒い足が生えている。

 全長はおおよそ3メートルほど。


「マキシワーム!」


 私は相手の名前をつぶやく。

 こいつはぶやぶよとしたやわらかい脂肪に覆われており、普段は地中で眠っている。

 だが、地上を生き物が走る振動を地中で感じ取ると、餌めがけて飛び出してくるのだ。

 やわらかい脂肪に覆われているだけなので、刃物のであれば普通に切れるだろう。

 私は相手のもとに素早く近づき、ピッと短剣で切る。


 これほどでかい相手であれば通常長い刃物で切るのが普通だ。

 だが私の体格を考えるとリーチのある長物を扱うのは困難だ。

 それ故に、この短剣を用いている。

 とはいえ、普通の短剣ではこの大型の相手をするのは大変だ。

 だが、わたしの短剣には毒が塗ってある。


 ちらっと幼虫の方を見るとビクンビクンとけいれんを起こしている。

 しっかりと毒が聞いている証拠だ。


「さて」


 マキシワームの厄介なところはその大きさではない。

 こいつらは『1匹いれば100匹いると思え』という言い回しがあるほど、繫殖力があり実際大量に群れで行動しているのだ。


 ズドンズドン。

 地面から何体も出てくる。

 そして、私の方を見て襲い掛かってくる。ここからが正念場だ。


 私は当然刃物で切り付けていく。

 だが、向こうもずっと突っ込んでくるほど馬鹿ではない。

 やられている仲間たちを見て私の刃物が危険だと気が付いたのだろう。

 私から距離を取り、短剣の間合いから外れる。

 そして、私の真下の地面から出てきて攻撃をする。


 短剣の弱点はやはり、間合いが短いことだ。

 相手はいまその弱点を的確についてきている。

 ここらへんで私も魔術を使わないと危険かも。


「影魔法、陰の中に潜みし者ハイディンシャドウ


 その瞬間、私はトプンと相手の影の中に入る。

 そうこれが私の固有魔法だ。


 影魔法。

 この世界のすべての物体が作り出した影の中を自由に移動することができる。

 当然ながら地面の中も影なので暗い地面の中も移動可能だ。


 影の中は少しひんやりとしていて気持ちがいい。

 感覚としては水中の中にいるのと同じだ。

 それゆえに呼吸を止めてる状態なので、あまり長い間影の中に潜ったままでいることはできない。

 なので、手早く行動をする。


 私は地中にいるマキシワームに気が付かれないようにそっと近寄り、ぷすりとさす。

 そして、地上にいるマキシワームが作っている影から地上に出る。

 地上のマキシワームにもチクリと短剣を刺す。


 向こうは驚いた様子だが、すぐにけいれんを起こす。

 作戦通りだ。

 私はそのまま何体も仕留めていく。


 相手はみな一様に困惑したようにきょろきょろしている。

 それはそうだろう。

 地上にいる相手から見れば小人が瞬間移動したようにそこかしこに現れるのだから。

 それだけではない。

 その小人は触れればけいれんを起こしやがて死に至らせるほどの毒が塗ってある剣を持っているのだから。


 敵もこの状況をなんとかできるほどの頭は持っていなかったようで、この状況に対応できていない。所詮、虫の脳みそは脳みそだということだ。


 私が魔法を使ってから一気に片がついてしまった。

 こんなものだろう。

 ひとしきり終わったところで私はフーと息をはく。

 先ほど、地中に潜って確認したが、もう敵はほかにいないようだ。

 そして、現れたマキシワームはすべて死んだのを確認した。


「いや、すごいね」


 試験監督の人が私に声をかけてくる。

 彼は冒険者ランクが4だそうだ。

 何か不祥事があっても彼が助けてくれるだろう。


「ありがとうございます。ところで私ってこの試験に受かりそうですか?」


「全然いけるんじゃないかな。

 マキシワームを10体以上同時に相手にしても問題ないってなると、十分な実力だよ。

 この一回でキミの合格は決まっただろうね」


「本当ですか!?」


「ああ、本当だよ」


 合格できるだろうとは思っていたが、一回で合格できるとは思っていなかったので、うれしい誤算だ。

 私は思わず小さくだが、ガッツをする。

 そして、試験監督が私に声をかけてくる。


「それでどうする?まだ試験を続けるかい?これでもう合格は決まったようなもんだが……」


「いいえ、もう戻ります。試験の合否はもうわかりましたし」


「そうか、じゃあ戻るか」


 このまま試験を続行したところで貰う冒険者のランクがあがるわけではない。

 なら、早めに帰る方がいいと判断したからだ。

 私たちはそのままマキシワームに背を向けて王都の方に戻っていく。


 ピクッ。

 マキシワームが後ろでわずかに動く。

 そして、私の方に向かって襲い掛かってくる。

 一匹仕留めそこなったか。


 私はすぐさま相手の方に振り向き、対応しようとするがその必要はなかった。

 なぜなら、そいつは食われていたからである。

 マキシワームの数倍ほどの大きさ。

 そいつがマキシワームを捕食している。


 全身は青いうろこでおおわれている。

 頭には二本の角をはやしている。

 金色の瞳をしており、細長く黒い瞳孔が目にある。

 獰猛そうな牙でマキシワームをぶちぶちと食べている。

 背中から羽が生えており、今はきちんと折りたたまれている。

 二本の黄色い足で地面に立っている。

 足には長い爪が生えており、あれでがっちり掴まれたらひとたまりもない。

 例えるなら、大きくて角が生え全身が青いトカゲだろうか。


「青龍か!」


 一緒にいた試験監督の先生がそう叫び、私と青龍の間に割って入る。

 こいつはせいりゅう?というのか、聞いたこともない。

 だが、これだけはわかる。

 強い。

 今この状況で襲われたら一方的に蹂躙されるだろう。


「絶対に動かないで。下手に刺激しなければ大丈夫だから」


 試験監督の先生はちらりと私の方を見てそういう。

 彼の手もガタガタと震えている。

 彼も怖いがそれを我慢しているのだと分かる。


 幸いなことに相手はこちらを見ずにマキシワームを食べることに集中している。

 まるでこっちのことは眼中にないようだ。


「ゆっくり、ゆっくり下がろう」


 そう言われて私たちはゆっくりと後ろに下がる。

 大丈夫。

 そう思って深呼吸をしながら後ろに下がる。


 すると、ぴちゃッという音がする。

 下を見ると、どうやら先ほどの戦闘で飛び散ったマキシワームの血を踏みつけたようだ。

 なんだ、ただの血か。

 そう思って私は顔を上げて青龍の方を見る。


「ひっ!」


 思わずそんな声を上げる。

 なぜなら、こちらの方を見ていたからだ。

 マキシワームはまだ残っているのに食べるのをやめてこちらを見ている。

 目がらんらんと光っている。

 まるで、ターゲットをロックオンしようとしているかのようだ。


 次の瞬間、青龍がこちらに向けて口を吐け何かを思いきり吐く。

 その瞬間、私と青龍の間にいた試験監督の人が氷の中に閉じ込められる。

 私は彼が盾になったおかげでどうにか凍らないですんだ。


「あ、あはは」


 そんな乾いた笑いが私の口から出る。

 ああ、だめだこれ。死ぬんだ。

 そんな間に青龍のブレスが来る。

 周りの気温が下がり、自分の死が近いのを感じる。

 私は目をつぶる。

 こんなことなら、あの人に自分の思いを伝えておけばよかったなぁ。


 ジュゥゥゥ。

 そんな音がした。

 そして、先程まで寒かったはずが一気にあったかくなる。


「大丈夫かい?」


 そんな優しい声が聞こえてくる。

 目を開けるとそこには頼もしい背中があった。

 いつも大きいと思ったが、今はより一層大きく見える。


「ずるいなぁ。そんなの惚れちゃうよ」


 私はぼそりと彼に聞こえない小声でつぶやく。


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