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第1話 プロローグ

 俺は前世は地球にある日本という国で育った。

 決して裕福というわけでも貧しいというわけでもなかった。

 だが、毎日毎日ずっと働いて心身ともに疲れていた。

 そんなある日泥酔したまま帰宅した俺は玄関で寝転がってそのまま寝た。


 そして俺は次に目を覚ました時には異世界に赤ん坊で生まれた。

 いわゆる転生というやつだな。

 最初こそ戸惑っていたもののこの世界の母と父は非常にやさしく愛情はたっぷりと注いでもらったおかげですくすくと育った。

 やはり、異世界といえば剣と魔法のファンタジーが真っ先に思い浮かぶ。

 例外なく、この世界もそうだった。


 この世界では3人に1人ぐらいの確率で魔臓という特殊な臓器を持つ人間がいる。

 この魔臓という特殊な内蔵で作り出した魔力を脳で扱うことで魔法を使用できる。

 この魔臓を持っているかいないかは完全に運だそうだ。


 先ほど「扱う」といったが、そんな簡単なものではない。

 作り出した魔力を決まった術式に流し込み、計算する。

 その計算速度を演算能力ともいう。

 少しわかりにくいが例えると、魔力は数字。

 術式は数式、演算能力は計算速度、魔法はその計算の結果といった感じだ。

 大規模になればなるほど、数式は複雑になる、といった具合だ。


 この世界では魔法は想像力というあいまいなものではない。

 かなり理論的に構築されているようだった。

 なので呪文を言う必要もないそうだ。

 複雑な魔法になるとどの魔法を発動しているのかを確認するためにその魔法の名称を叫ぶこともあるそうだが。

 呪文を唱えるというのは男のロマンであるというのに……残念だ。


 俺は魔導書を片っ端から読み漁った。

 魔導書というのは魔法について書かれている参考書のようなものである。

 そして、どの魔法の術式が発動するかいろいろ確かめた。


 魔法の種類によって得意不得意があるそうだ。

 中でも注目したいのは固有魔法と呼ばれるものだろう。

 これはその人が一番得意とする魔法の別称だそうだ。

 固有魔法は他の魔法に比べて習熟度が速い。

 勿論、固有魔法だけではなくて他の魔法を行使することもできる。

 なので、魔法だけで戦うとなったら固有魔法を軸としてほかの魔法も使って戦うのが一般的なようだ。


 いろいろと読み漁った結果、俺には火魔法が固有魔法、つまり一番得意であることが分かった。

 俺はそれから火魔法の練習をした。

 具体的には魔導書に書かれている火魔法の術を何度も発動させて発動速度を上げた。

 だが、俺より発射速度や精度が上の子が村にいた。


 ならば、剣術はと思い、剣の腕も磨くことにした。

 朝から昼まで剣の素振りや体を動かして昼から魔法の練習をする。

 体力を向上させるために走ったりもした。

 多少腕は上がったが、どうしても俺より上の子たちがその村でいた。


 俺だって、向上心がないわけじゃない。

 せっかくこの世界に来たならば、この世界で何か極める事ができる、1位になれることができる分野はないかと探した。だが、ダメだった。


 剣術も槍術も格闘術も棒術も魔法も村の中で俺よりも上の子がいた。

 前世でしていた仕事はあまりに環境が違いすぎるので何の役にも立たない。

 この少し辺境な村で一番になれることができないならば、王都に行けば腐るほど俺より上の人間はいるだろう。


 このままじゃだめだ。

 このままでは前世と同じなにも残せないおっさんになってしまう。

 若いころの俺はそう思った。

 そして16の時に旅に出ると言っていくばくかのお金を親に持たされて家を出た。(この世界では15から成人扱いをされる)


 俺はまず王都に向かった。

 王都のような様々な人や物資が集まるところならば、何か自分が1位になる事ができる分野を探す事ができるかもしれない、そんな希望に満ちて出た。


 結果は……絶望しただけだった。俺が知っているレベルとはけた違いの次元だった。村で一番だと言われていた人間も王都に出れば雑用扱いされている。そんなところに俺が行ったところで仕方がない。


 特に衝撃的だったのが闘技場で行われていたバトルロワイアルだ。

 俺は王都のレベルがどれほどのもんかと思い見てみたが一回戦で敗北してしまう人間でも俺の村では一番のレベルだった。


 決勝での戦いなど人間の域を超えている。

 目で見ることしかできず、おそらくあの動きをできる人間などいないだろう。

 魔法の規模も闘技場全体を覆うほどだった。


 俺はそのあと考えた。

 今までの自分は逃げの思考に走っていた。

 1位になるための努力をせず努力せず1位になろうとしていた。


 世の中はそんなに甘いわけがない。

 それは今も前の世界も変わらない。

 ならばどうするか?

 その分野で1位になるために圧倒的な努力をするしかない。


 分野というのも小さいものではだめだ。

 どうせなら、大きいものがいい。

 そう、この世界の代名詞ともいえる剣と魔法などの武術で1位になりたい。


 今までの努力の仕方では何も変わらない。

 今の俺が変わるためには圧倒的な努力ができる邪魔なものを極限まで排除した場所に身を移すしかないと。


 そこで俺は王都で耳に挟んだキャロル山脈のことを思い出した。

 その山脈には様々な大量の資源が眠っているらしい。

 それを求めて何人もの人が挑んだそうだ。

 だが、そのすべてが戻ってくることはなかった。


 なぜなら、その山の中は魔素が非常に高くその影響で生息している獣はすべて魔物になっているそうだ。そしてその魔物たちが攻撃して、人々はこの山脈から帰ってこなかった、と。


 魔物とは通常の獣が空気中の魔素を取り込みすぎた突然変異体。

 それらはすべて獣であるにもかかわらず魔法を使える。

 なので、その山脈は人の手がほとんど入っていないそうだ。ここが重要だ。

 余計なものがない場所でならおれも集中して取り組めるはずだ。

 そう思い、俺はその山脈へと向かった。


 その前に王都で1本の剣と1冊の火の魔導書を買った。

 剣は切れ味がよく、魔導書は分かりやすいものを選んだ。

 どちらもいい値段をしたが、よい買い物をしたと思っている。

 その山脈は気候が非常に良い。

 人間である俺はもちろん、魔物にとっても過ごしやすいそうだ。

 その影響でその山脈独自の生態系ができているそうだ。


 先ほどキャロル山脈はほとんど人の手が入っていないといったが、それは正確ではない。

 山のふもとには多少人の手は入っている。

 なので、俺はまずは山のふもとで最低限人がおり、物資がある状態で特訓を始めた。


 最初の一年は朝はランニング。

 そのあと昼まで魔物と戦い、昼ご飯を人と一緒に食べる。

 午後になると少し山に入り魔物との戦闘。

 夕方の5時ごろになると、俺は基礎特訓を行う。

 夜ご飯を食べた後は一冊の魔導書で魔法の勉強だ。


 特にグルという人物と俺は親しくなった。

 年は30代半ばで金色の髪で顎髭のある男だ。

 母と新しくできた二人目の子を養うためにここに来たんだとか。

 なんだか自分の前世と年が近いこともあって親近感がわいた。


 彼からは様々なことを学んだ。

 最低限のサバイバル技術や家事、剣の指導なども彼からしてもらった。

 唯一、彼は魔法が使えなかったので俺が目の前で使って見せると褒められた。


「すごいな。俺は使う事ができないが、それはお前の個性だ。それは大事にしろよ」


「ああ、そうだな」


 彼からは自分の愛娘の話を散々聞かされた。

 たまに、嫁さんから手紙が来るのだが、それを見るたびに

「うちの子がたったぞ」「うちの子が笑ったぞ」

 などと親ばかを発揮するのだ。


 そして、自分達が進んだところの少し手前で木造の家を建てたりもした。

 森の中に建ててその中で過ごしたりした。

 これもグルが主にやってくれたもので、てっぺんに赤い旗を立てたりもした。

 その家の中は外で寝るより寝心地は良かった。


 2年目ごろになるとだいぶ勝手がわかってきた。

 なので一緒にいた人よりも少し深く山の中に入っていくことにした。

 といっても、せいぜい20メートルほどだ。

 何かあったらすぐに駆け付けられるように。

 この頃はまだたまにダルとも会ったりしていた。


 徐々に一緒にいた人から1日ごとに離れる距離を伸ばしていった。

 1人でもこの山の中で生きれる実力を身につけたいと考えたからだ。

 そして、そこからはただがむしゃらに剣をふり、火を出すことに集中した。

 このころになると人と会うことはほとんどなくなっていた。

 幸い家にいた時から持っていた時計のおかげで時間だけはしっかりと分かっていた。


 月日が流れ、あれから5年ほどたった頃。

 ふと後ろを見てみると、グルや一緒にいた人々の姿は見えなくなっていた。

 思えば最近は全くあっていなかった。


 だが、これも圧倒的な力を手に入れるための代償だ。

 そう思い俺は前を向きまた進み続ける。

 すると、そのあたりぐらいからだろうか。

 俺の元に人がやってくるようになったのは。


 この山脈の中に黙々と修行をしている変人のうわさを聞きつけて俺を師としてあがめる人々がやってきたそうだ。


 といっても俺は誰かにかまっている余裕などなかった。

 なので、特にしゃべらず来た人たちには俺と同じトレーニングをこなしてもらった。

 必要とあらば多少の剣の指南や魔法について教える程度だ。

 中には脱落したものや「終えた」と言って去る者などもいた。


 もちろん、中にはそんな俺のことが気に食わなくて俺を叩き潰そうと来た者もいたが、地の利を生かして俺はすばやく撃破していた。


 俺が特に教えずとも彼らの中の一人、名前はコロール・テトラ?(修行中だったのであまり覚えていない)とかいう名前の18ぐらいの女の子が実質的な師匠として皆に剣の扱い方や魔法の使い方などを教えていた。


 そこからはただひたすらに自分の実力を伸ばし続けた。

 正直、こんな環境で気が狂わなかった俺は既に気がくるっていたのかもしれない。


 そして最初にこの山に来てから20年以上が経過した。

 ここ数年はまた、俺の周りに人がいなくなっていた。

 どうやら、皆俺よりも標高が下のところでトレーニングしているようだ。

 山はまだまだ続いており、全然終わりでない。

 倒せない敵もたくさんいる。


 だがそんな修行をしていたある日俺はふと思った。

 俺もこの世界で考えてもう37歳。

 前世の時と同様、いいおっさんだ。

 そろそろこの山籠もりを終わってもよいではないかと。


 今までもそういう思いは何回かわいてきた。

 だが、そのたびにそんな邪念は不要だと思いかき消してきた。

 だが、今回はそれが邪念だとは到底思えなくなっていた。


 若いころは意欲的だった戦いだが、最近は闘いばかりで少し疲れた。

 このまま修行をしていたら、俺は過去の自分の思いにとらわれているだけで、今やりたいことをおろそかにしているのではないか?と。


 それに人も恋しくなってきた。

 魔物は魔法を使えても意思疎通が通じない。

 なので俺は誰ともほとんどしゃべることなくここ数年は過ごして殺伐とした日々を過ごしている。

 喋る相手が欲しい。人としゃべりたい。


 親のことも心配だ。

 思い返せば彼らにはたくさん愛情を注いでもらった。

 あの時はこの世界に来たばかりで、剣や魔法といった前世ではありえなかったことに夢中になっていて彼らの俺に対する愛情に全く気が付いていなかった。

 あれから家には特に手紙なども送っていない。

 なので親は俺がまだ王都にいると思っているだろう。

 親ももう50歳を超えている。


 この世界ではそこまで社会保障などが手厚いわけではない。

 なので、50歳を超えたら死ぬ可能性などもグンと高くなってくる。

 世間的には50歳を超えたらおじいちゃん扱いをされるようになる。

 せめて死ぬ前に立派になった息子の姿ぐらい見せてあげたい。


 俺はその日悩んだ。

 このまま山籠もりで修業を終えるか外の世界に出ていろんな人と交流するか。


「よし、降りよう」


 そう言って俺は決心して持つべき荷物を持ちある日の朝早く山を下りていく。


初回ということもあり文字数は多めです。

次話からは3000~4000文字を目途に投稿するつもりです。

読みにくい部分があるかもしれませんがそこはご愛嬌ということで……

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