二話 道中
ガタゴトと音を立てながら、馬車は進んでいく。馬車の中では、ユリは相変わらず髪をいじっている。ジンとコウはやっと始まった学園への馬車の旅にワクワクしている様子だった。私だって念願の学園に行くのだから、とてもドキドキしながら今馬車に乗っている。他には、用心棒として学園が雇ってくれていた冒険者が一人、馬車に乗っている。村から学校に向かう道の途中は未開の土地だ。魔物に襲われた時のために、学校が手配してくれている。剣を肩から下げていて、魔物の素材で作られた防具に身を包んだその姿は様になっていた。かっこいいなー。
馬車は学園へ進んでいき、私たち子供が普段出ることのない森の中へと入っていった。
「なあなあ、この森はボブゴブリンが出るって村長がいってたぞ」
「ホントかよ、一回本物の魔物、見てみたいなー」
「だよな!」
男二人が物騒なことを言っている。魔物が危ないからこの森には入るなと言われて、おかげで見る機会もなかったというのに。
「魔物に会いたいなんて物騒なこと言わないの」
私はそう二人をたしなめた。いつもの役回りだ。 珍しいことに、それにコウは反論してきた。
「そうはいってもよー。学校に入ったら魔物の一匹や二匹倒せなきゃ、魔法は手に入らないぜ。ここいらで一眼見ておくのも大事だと思うけどなぁ」
どうしても、森に入ったことがないコウは魔物に興味津々らしい。
「一眼見てどうするのよ。襲われたらどうしようもないわ」
「それは、まあ」
そこでコウはなんて返事をしていいか分からなかったようで、少し口ごもった。
「そこは、まあ冒険者もいるし、、、」
そう言いながら、頼りげない視線をコウは近くで座っている冒険者に向ける。ここまで言っといて結局他人頼りかい。思わずツッコミを心の中で入れてしまった。話のタネにされた冒険者はこちらを向くと、
「ボブゴブリン程度、俺が倒す。安心して子供は馬車で寝てるんだな」
そうコウに向かって言った。だが、その言葉が男二人の心に火をつけたらしい。
「すげー」
「冒険者やってるってことは魔法、使えるですか?」
ボブゴブリンを倒せるという冒険者の言葉に興味津々だ。冒険者は自身の言葉が災いして、質問攻めに合っていた。
「魔法は使える。どんな魔法かは後のお楽しみだ」
「すげー。どんな時に魔法が使えるようになりましたか?」
「この仕事をずっと続けていたらだ。初めは見習いから始めたが、今ではこの通り一人前でやらせて貰ってる」
冒険者も聞かれることは満更でもないようで、スラスラと質問に対して答えてくれた。
「すげー」
村長以外で会う初めての魔法使いに感嘆したのか、さっきから男組が「すげー」しか言っていない。確かにこの世界において魔法を使えることはとても凄いことなのだが。
「なんでこの仕事を続けようと思ったんですか?」
「まあ、やりがいだな。魔法を得るために人の役に立つ職に付きたいと思って働いていたら、この職についていた。それだけだ」
冒険者はそう言って話を切り上げた。ジンとコウも聞きたいことが聞けたのか、質問は終わり馬車に静寂が訪れた。
私はというと、冒険者の防具を見ていた。私は綺麗なものを見るのが好きだ。その冒険者が身につけている防具は、今まで見たことがない魔物の素材でできており、その光沢は今まで見たことがないものだった。私はその防具の光具合に魅了されてずっと見ていた。すると、突然馬の足並みが揃わなくなり、馬車がぐらりと揺れ、私は馬車の外に放り出されそうになった。
なんだなんだと起き上がって様子を見ようとすると、「ガシャン」と次は大きな音がした。
周りを見渡すと、冒険者の姿が見えない。さっきの「ガシャン」という音は、冒険者が馬車から飛び出した音だったらしい。続いて外から「バシュ」と何かを切り裂く音が聞こえる。それと同時に顔に熱風が襲いかかってきた。今のはおそらく魔法を使った影響だろう。その騒動が終わるまで、私を含めた子供達は馬車の中でじっとしていた。しばらくすると、冒険者が返り血を浴びながら、馬車へと顔を出してきた。
「全員無事だな?」
「はい」
私がそう返事をする。
「よし、ぎょ者さん。魔物のしたいは置いていくから、そのまま進んでいってくれ」
ぎょ者は手を挙げて返事をすると、馬車は何事もなかったかのように進み始めた。
「す」
す?
「す、すげーーー!!さっき熱くなったのは火の魔法ですか?魔物をこんな一瞬で倒すなんて」
ついさっき魔物が倒されたということで、ジンとコウは興奮の真っ最中だった。
「まあな。俺の魔法にかかればこんなものだよ」
冒険者も得意げに返事をする。顔を見てみると、さっきよりも何か得意げだった。冒険者は自身の顔を見ている私の存在に気付くと、少し頬を掻きながら恥ずかしそうにしていた。
「実はな。さっき魔法を使って気づいたんだけどよく。魔法の威力が上がっていたんだ」
なんと、それはすごい。
「魔法の威力が上がることなんてあるんですか?」
ジンはその話に素早く食いついた。
「まあな、俺もこんなことは初めてなんだが。真昼間でもお月様は働いてるのを見てくれているんだな」
冒険者は月のない空を見上げながらしみじみとした表情で言った。
「つまるところ、今の俺は気分がいい。なんだ、お菓子でも食べるか」
そう言いながら、冒険者は懐からクッキーのようなものを取り出す。
「それって都会で売っているお菓子ですか?」
それに無類のお菓子好きのユリが食いついた。
「ああ、帰りの家で彼女と食べるつもりだったが、君たちにあげるよ。あとでまた買いに行く」
そう言って冒険者は一人一つずつ今まで食べたことのないお菓子を分けてくれた。食べてみるがとても美味しい。
魔物に襲われたわけだけど、結果的にお菓子をもらって食べていると、襲われたことなんて忘れてしまいそうだった。
「おいしい」
ユリはそう口に出しながら貰ったお菓子を食べている。よっぽど美味しかったのだろう。無口なユリが自分の感想を言うところなんて久しぶりに見た。
魔物に襲われるハプニングはあったけど、その後は何事もなく、馬車は進んでいく。コウとジンは学園がどんな場所か想像で語り合っているけど、それ以外は何も起こらず静かなものだった。そうして、しばらく馬車に揺れていると道先に大きな門が見えてくる。あれは、学園のある街の入り口の門だ。日が暮れないうちに学園へとたどり着くことができたのだった。
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