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一話 出発

「おい、どこに行ってたんだよ。もうそろそろ出発するぞ」


馬車に着くと他に人達はもう集まっていて、後は私達が合流するだけだった。同年代のコウとユリは既に馬車に乗っていた。


「ごめんなさい。ちょっと行っときたい場所があったの」


私は念の為、遅れたことを謝っておく。


「なんだよそれ」

 

少し待たしてしまったらしく、他の面々は少しご立腹だ。コウは腕を組んで起こったポーズをしている。ユリは髪をいじることに夢中のようだ。


「ごめんって」


これは簡単には許してもらえないかな、と思っていると、


「まあまあ、みんな集まったんだし、もうすぐ出発するよ」


「はーい」


近くにいたまとめ役をしているお姉さんがそう話しかけてくれて、その場を収めてくれた。

去年、学校から帰ってきたばっかりでいつも子供達のまとめ役をしてくれる親切なお姉さんだ。


「忘れ物はないね」


そう言って一人一人ちゃんと忘れ物がないか近づいてお姉さんはチェックしていく。私も一応忘れ物がないか確認することになったが問題なかった。


「よし!」


みんな忘れ物がないかチェックが終わると、次は村長が近づいてきた。


「今年は四人も学園に向かうことになるとはな、村が寂しくなる」


村長はその役職についてから、もう二十年も経つベテランのおじさんで、この村で唯一魔法が使える月に認められた人だ。勿論この村で一番偉い。

 

「今年こそは学園で魔法を授かれるよう努力するんだぞ、それが君たちの為になる」


「はーい」


「勿論だ!」

 

「はい!」


ユリは気兼ねない返事を返すが、ジンとコウは元気な返事を返した。学校に行って魔法を取得するやる気がこの二人にはある。私も負けていられない。


「はい」

 

私もそう返事をしたが、この村ではここ十年は学校に行って魔法を授かった人がいない。村長は村で精力的に何年もその役職を全うしたから、その努力が認められてつい数年前にちょっとした魔法を使えるようになっただけだ。ただ、ちょっとした魔法だとしても、この世界ではとても羨ましがられることになる。だって使える魔法以上にお月様に認められたという功績があるから。この村では村長は一番のモテ男だった。

昔は村から学校に向かい魔法を得てきた人も稀にいたらしいが、それはとても難しいことだろう。なにせそこらの村から出てきた村民と、街から支給を受けて学校に行く人じゃ学校に用意されている活躍の場が違う。それなのに魔法を得られるのは、血の滲むような努力をした者か、とても幸運なものだけだ。だが、魔法を得るという栄光を獲得したものには、騎士団で定職につくか、冒険者としての華々しい人生が待っている。ジンやコウのように男なら目指さないものは少ないだろう。私は前世も今世も女だけど、冒険には興味がある。前世じゃ地味な社会人生活を送ってたみたいだし、今世くらい派手にいきたいものだ。

 

「元気でよろしい、さあ出発の時間だな。家族とのしばしの別れの挨拶は済ませたか?」


あ、朝早くから荷物をまとめたらすぐに小屋に行ってたから、妹と別れの挨拶を済ませてない。妹は寂しンボだから起こってるかも。

よく見ると、周りにある人だかりの中に不貞腐れた顔をした妹のサキの姿があった。


「サキ、別れの挨拶をするの、遅れてごめんね」


一応、謝っておく。さっきから謝ってばっかだ。


「ふぅーん、、、まあ良いですよ。姉さんが忘れっぽいのはいつものことですし」


怒ってないっぽい。よかった、、、いやこれは呆れられているから、良くないのかな?


「姉さんなら、いつもみたいに学校で上手くやるって知ってますから」

 

「ああ、うん。そうだといいけど」

 

前世の記憶があったから、すこし大人びているだけですとは言えない。そういえば


「サキも来年から学校だっけ」


「そうですよ。一年遅れても、姉さんには負けませんから!」


サキは勢いづいてそう言った。別に姉妹で勝ち負けをせっても魔法は授からないと思うけど、、、


「分かった、楽しみにしとくね」

 

一応そう言っておく。


「元気にしておくんだよ。そうはいってもいつもみたいに上手くやるんでしょうけど」


「うん、ママ!」


最後にママとの別れを済ませて、私は馬車へと乗る。ちなみに、パパは私が生まれる前に魔物に襲われて亡くなっていて、母子家庭で育っている。この世界では、魔物がいる分物騒だからそう珍しい話でもない。前世の記憶があるおかげで、そんな家庭でも親に迷惑を掛けずに育ってきたはずだ。お月さん、評価してくれないかなー。


「水はたっぷり積んでいるからな。道中好きな時に水を飲むといいぞ」


「はい、村長さん、ありがとう」


「何、感謝するほどのことでもない。ワシの手にかかればちょちょいのちょいじゃ。ハハハ」


馬車に乗ると、水の入った大きな樽が積んであった。村長さんは魔法を使えると言ったが、手から水を出すことが出来るのだ。昔、よく水汲みに行く生活を長く続けていると使えるようになったらしい。おかげで村のみんなは少し離れた所にある井戸まで水汲みに行かなくてすみ、大助かりだ。今回の馬車の旅でも、その力は役に立ちそうだった。他には用心棒として雇われている冒険者が一人馬車の中にいた。


「よし、みんな乗ったな。じゃあ学校では元気にやるんだぞ」


村長はそう言って、馬車を操縦する人に合図を送る。


「四人の賢者と月の導きを」


それは、別れの挨拶などでする決まり文句だった。


「じゃあ出発するぞ」


馬車を運転する人がそう言って、馬に前に進むよう鞭を打った。

馬車がパカパカと音を立てて前に進み出す。


「バイバーイ」

 

馬車の後ろから顔を出して、集まっていた村のみんなに別れの挨拶をジン、コウ、ユリのみんなでする。 

どんどんと村から離れていって、小さくなって見えなくなるまでそれは続いた。

そして、学園と進む旅が始まったのだ。




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