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プロローグ

私には前世の記憶があった。記憶といっても親がどんな人だったかとか、どんな人生を歩んできたかとかだいたいはあいまいなものだったけども。

ただ、前世とは別の世界に転生してきたことははっきり分かっている。だって前世に魔法なんてなかったからね。初めは前世の記憶があることに困惑していたりしていたが、しばらくすると慣れていって、皆と変わらない日常を送っていた。


私はその記憶を持て余しながら、数年を生きた。記憶があるといっても、何かできるわけでもない。あいまいな知識しかなかったから、知識チートみたいなのはできなかったし、周りから大人びているねと言われるだけだ。


ただ、一つだけ気になっていることがある。それをいうにはまずこの世界の仕組みについて説明しなければならない。親同士の会話を聞いて知ったのだけども、この世界の人々は12才になった日の次に来る満月の日に魔法が使えるようになるらしい。だから、みんな魔法は月から力を得たものだと考えている。確かに、見上げて月を見てみると、前世より大きく雄大なものに見てるのだ。ただ、魔法が貰える条件というものがあり、これが曲者なのだ。


「それらしい人生を歩んだものに魔法は与えられる」


「その人生にふさわしい魔法が与えられる」


と言われている。

だから、みんな魔法をもらえるような人生を歩もうと一生懸命だ。その有り様は側から見ていても、騒々しくて見ていられないほどだった。

私が住んでいる村も、きらびやかな人生を歩もうと必死な者と、初めから諦めている者で分かれている。

私はまだ8才の子供だから、のらりくらりと気楽なものだが、来年から学校に入るとなるとそうは言ってられなくなるだろう。この苛烈な競争に混じることになる。

ただ、ここで一つ疑問が生まれる。

それは前世の記憶を持つ私はどんな魔法を授かるかということだ。一体どんな魔法を授かるだろう。もしかしたら、何の魔法も授からないかもしれない。ただ、それでも私は期待に胸を膨らませながら、ただただ12才の最初の満月を待っていた。ぼやっとしながら見上げると、今日も空に見える月は綺麗だった。




ここでひとつ、おとぎ話をさせてほしい。

私が大好きな本の昔話だ。

昔々、あるところに4人の賢者がいました。1人は赤の勇者と呼ばれ、どんな強い敵がいても臆さず立ち向かい、必ず勝利を勝ち取りました。もう1人は青き魔術師と呼ばれ、困っている人がいれば必ず駆けつけ、不思議な魔法で助けてくれたと言われています。他にも黒き戦士と呼ばれた人は、目の前にどれだけの敵がいたといても、ばったばったと敵を薙ぎ倒したと言われています。最後に白き導者と呼ばれた者がおり、困っていた人々をまとめ上げ、進むべき道を示したと言われています。

彼らは魔王と呼ばれた者に立ち向かいました。

魔王とは誰なのか誰も分かっていません。何もないはずの草原に忽然と彼は現れ、同じくして現れた魔物達をまとめ上げました。現れた場所でさらに昔、大きな戦争が起きていたという話から、昔起こった戦争の怨念が集まって生まれたとも言われています。

それは壮絶な戦いでした。白き導者が人々を戦火の中どう生きるか導き、黒き戦士がどんな魔物も素早く倒して前線を進めていき、青き魔術師が魔王が使う不思議な魔法を封じ込め、赤き勇者が魔王と戦い、結果勝利したと言われています。 

千年前に起こったことから、今では千年戦争と呼ばれています。ただ、その戦争で白き導者は亡くなり、黒き戦士も重傷を負いましたが、青き魔術師が不思議な呪文を変えて治したと言われています。

魔王に勝つことで戦争は終わりましたが、魔王と共に現れた魔物は消えることはありませんでした。そのため、青き魔術師は大きな魔法を使い、月にまじないを掛けたのです。それは、ふさわしい者に力を分け与えるものでした。そうして皆がこうして魔法が使える世の中が生まれたのです。




話としてはこんなものだ。この世界じゃどんな人でも子供の頃に言い聞かされて知っている。私はこの話がのっている本が好きだった。なぜなら押し花だったり色んな装飾が載っていてきれいだから。見ていて飽きないのだ。子供の頃から色んなところにある本をよく読んでいたからこの本が特別綺麗なことは知っている。それだけ大事な話なのだろう。この世界の根本の仕組みに関わる話だからね。

そんな本をまた読み返していると、外から声がした。


「いつまで小屋にこもってるんだよ」


ドンドンと扉を叩きながら、


「そろそろ出発の時間だぞ」


と同い年のジンが言っている。もうそんな時間だっけ。


「分かった、今行くよ」


私は返事をして、本を大事に本棚へとしまった。ここは、この村の備品が置かれている離れの小屋だ。わざわざ私を呼ぶためにジンはこの小屋まで来てくれたのだろう。


「呼んでくれてありがとう。じゃあ、行こっか」 


私は小屋を出てジンに会うとそう言った。

今日はついに学校まで出発する日。私も9才になり、村を出て学校のある都会まで卒業するまで移動することになる。村を出る前に最後に一度、あの本を読んでみたくてわざわざ小屋に来ていたのだ。有名な本だから都会にもあるかもしれないけど、一応。


「このままだと遅れるところだったぞ」


「ごめんって」


ジンに小言を言われながら、鞄を持って馬車のある場所へと移動していく。


これから私の冒険譚が始まるのだ。

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