表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
-1℃の手のひらで。  作者: れーご
1/1

出会い

主な登場人物

柊木水希ひいらぎみずき:物語の主人公。いじめをきっかけに自殺をし、2年前にタイムスリップしてしまう。

松原赤乃まつばらあかの:水希と同じく、自殺をしてタイムスリップをしてしまった男の子。

安井花香やすいはなか:水希と赤乃の親友。

田中恒星たなかこうせい:クラスのムードメーカー。だけれど、恒星にはある秘密があるらしい。

山本宇多やまもとうた:リーダーシップのある、成績優秀者。友達が一人しかいないのが悩み。いつも友達の鈴木くんと行動している。

佐藤千夜さとうちよ:性格の悪い、ぶりっ子。千夜にもなにか秘密があるらしい。

鈴木公すずきこう:イケメンで、人気がある。いつも宇多と行動している。密かに赤乃と友達になりたいと思っている。無愛想だけれど、人見知りなだけのモテメン。


私は屋上から、飛び降りた。


でも、目を開けるとそこは2年前だった。


水希みずき?水希!」

「はな…か?どうしたの?」

「どうしたの?って、急に水希が倒れるから!」

「倒れる?…ってなんで私生きてるの?確かに屋上から飛び降りたはずなのに!なんで!!」

「屋上?なんのこと?」

「なんで、死んでないの?また、またいじめられる…また…あれ…今日って十二日だっけ…。」

私は黒板に書いている五月十二日という文字を見て違和感を感じた。今日は十二月なはずなのに。スマホのカレンダーを開くと、「二〇二一年五月十二日…?」2年前に戻っていた。

「え…?過去に戻ってる?」

「過去?なに?」

「そっか、まだいじめられてない時期だ。そっか。そっか、じゃあ今死ねば。」

私は走って屋上に向かった。

「ちょ!水希!!!」

私は屋上に登って、屋上の淵に立った。

すると、後ろから「水希!」と叫ぶ男の声が聞こえた。

聞いたことのない声。私は後ろを振り向いた拍子に屋上から落ちた。すると、その男の人が私の手を掴んできた。

その手は冷たかった。

「死ぬな!這い上がってこい!」

見たことのない顔だ。なぜ私の名前がわかるのだろう。

「なぜ私を助けるの?」

「大切だからだよバカ!」

私はこの男の人の手を離そうとした。

「離して!死にたいの!!」

でも力が強くて離せなかった。

「離さない!」

そして男の人は私のことを引っ張り上げた。

「あなた誰ですか!助けないでください!死ねば、死ねば辛いことなんて何もなくなる。死にたいんです!助けないでください!」

「急にどうしたんだ水希、俺だよ、松原赤乃まつばらあかのだよ。」

「誰ですか?とりあえず放っておいてください!!」

「無理だ!」

「しつこいです!」

男の人は私のことを後ろから抱きしめた。

私はそれを離そうとした。

「なんですか!」

「離さないから。絶対。…水希、どうしたのか話してくれ。ここでいいから。」


私は2年前に戻ったこと、いじめられていたこと、松原赤乃だけを見たことがなかったことを全て話した。

「俺と、同じだ。」

「え?」

「俺、高一の時屋上から飛び降りた。そしたら中二に戻ってたんだ。2年遡った。」

「…え?」

「どうやら君とは中学の頃からの友人らしい。俺も、君だけ見たことがなかったんだ。しかも君の手、俺と同じように冷たい。」

「…本当だ。」

「2年経って、俺はきっともうすぐ消える。きっと十二月の流星群の日。」

覚えている。高一の冬、学校の帰り道に見た流星群。

一人、ブランコに揺られながら見た流星群を。

あの時、何願ったっけ。

「流星群…。」

「そして、僕は橋を渡って消える。」

「橋?」

「2年おきに現れる橋。あの世へ続く橋。二度しか現れない。」

「そう、なんだ。…なんか初めましてなのに寂しい。」

松原赤乃は私の頭をポンとし、「ありがとう。」と笑った。

「あ、あと俺のことは赤乃って呼んで。今までもそうだったから。」

「わかった、赤乃。…それにしても、赤乃は私より手が冷たいね。」

「-1℃。死間近になると冷たさが増すんだ。」

「-1℃…凍りそうなくらい冷たいね。」

「でも実際、自分ではそんな冷たいと思わないけどね。じゃあ、花香はなかが心配してるからもうそろそろ帰ろうか。」

「うん。」

赤乃は私の手を掴んで、屋上から出た。

赤乃の手のひらは冷たくて、氷を触っているみたいだった。

でも、なんだか暖かさも感じた。


「水希!」

花香がずっと私のことを探してくれていたらしく、廊下で探し回ってくれていた。

「どこ行ってたの!赤乃くんありがとう。心配してたんだよ!?体調は?大丈夫なの?」

「うん、大丈夫。」

「よかった…。」

花香は私のことを強く抱きしめた。

「もう心配させないで。水希がもう死んじゃうのかと思って怖かったんだから」

「ありがとう。ごめんね。」

「大丈夫。とりあえず教室戻ろう。ね?」

「うん。」

放課後、私は赤乃と帰っていた。

「赤乃、なんか色々とありがとう。そしてごめん。…あと聞きたいんだけどさ、私はいじめられて飛び降りたけど赤乃はなんで自殺なんかしたの?言いたくなかったら言わなくても大丈夫だけど、少し気になって。」

「…俺は生きる意味がわからなくなったから死んだ。楽しみなこともなかったし、楽しいと思えることもなかった。大切な人すらいなくて、生きる意味がわからなくなった。」

「…そうだったんだ…。消えるまでに大切な人、見つかるといいね。楽しいことなら私たちが全然作ってあげるけど。」

「ありがとう。逆に聞くけど、水希はなんでいじめられたんだろう。性格いいし。」

「…一年生の文化祭の日に、演劇をやることになったの。そしたら佐藤さんが道具を壊しちゃったんだ。それで、誰がやったの?ってクラスのみんなに言われて私は正直に佐藤さんです。って伝えたら佐藤さんが泣き出して「柊木さんが壊したんだ。」って私に罪を被せてきて。それから柊木水希は嘘つきで悪い奴だって噂が広まってね。そこからいじめが始まったの。あの時、学級委員長の山本さんも副委員長の鈴木くんも現場を見てたのに庇ってくれなくて。」

「そんな…。酷すぎる。」

今でも思う。私が学級委員長だったらこんないじめなんてなかったのかなと。

「酷いけど…さ。その時どうすることもできなかった私も悪いんだ。机に落書きとか、当たり前にあったけど誰かに助けを求めることすらできなかった。弱すぎたんだよ。いつも端っこにいたし。」

「…明日って委員決めだよね。」

「…うん。そうだけど…?」

「変わるチャンスだ。明日の委員決めで学級委員長に立候補しよう!」

「えっ…?!」

確かに委員長になればいじめられる未来は来なくなるかもしれない。委員長になれたら…って考えたことはあるけど、なんならなりたいとか普通に思ってたし。でも今までクラスの端っこにいた人が、今までというか今も陰キャラの奴がみんなの目の前に立つ学級委員長なんてできるわけ…ない…!

「む、無理無理無理無理無理!!!!え?このわ、私が、が、学級委員長なんてできるわけない!」

「そんなのわからないよ?可愛いし。みんなメロメロになっちゃうかも。」

「か、可愛い!?メ、メロメロ!?さ、さっきから何言って…」

「はい、決まり!!」赤乃は食い気味にそう言った。

「決まりって、まだ私何も言ってないけど?!」

「まあ頑張れよ!」赤乃はそうにやけながら私の頭をポンポンとし、走って逃げ始めた。

「ちょ、ちょっと!赤乃!まだ話は終わってないって!!」私は走って赤乃を追いかけた。

「もう決定したから!絶対だぞ!じゃあな!」

「ちょっと赤乃!!!!」私がそう叫んだときには赤乃はもう家の中に入ってしまっていた。

ちょっとは気になる。少しは委員長になってみたい。前は勇気を出せなくて委員長にはなれなかったけど。

「…頑張って…みようかな。」


翌日。

朝、私は赤乃に「委員長、立候補してみる」と話した。

そして迎えた委員決め。

「じゃあ学級委員長を決めたいと思います。立候補してくれる人、前へ。」先生がそう言うと、山本さんが前に出てきた。私も前に行きたいのに、足が震えて立ち上がれなかった。

「山本だけか?じゃあ学級委員長は山本…」先生が山本で決まりと言いかけた時、後ろで赤乃が「先生」と言って立ち上がった。

「なんだ松原。お前も立候補したいのか。」

「いや、俺じゃなくて水希です。でも、腹痛くて立ち上がれなくて喋れないみたいで。なので、水希も立候補します。」

「赤乃…。」

私の足が震えているのに気がついてくれた…?

「わかった。じゃあ柊木と山本で多数決を取る。」

無理だ。無理だ無理だ。山本さんはみんなからも人気だし、リーダーシップもある。おまけに成績優秀者だ。

あー、ダメだ。急に自信がなくなってきた。

そして本当にお腹が痛くなってきた…。

無理だ。勝てっこない。

「じゃあみんな顔を伏せて。」

無理だ…。

「学級委員長を山本に任せたいという人は挙手。」

どうしよう。今から却下することってできるのかな…。怖くなってきた…。

「じゃあ次。」

やめようかな…。


いや、今ここで降りたらまた同じことが起こるだけ。なれなくても、立候補しただけ偉いんだから。


今までの私だったら却下していたけど、こんなに自分に勇気が持てたのは初めてだ。きっと、赤乃のおかげだ。はじめましてなのに。

「柊木に任せたいという人は挙手。…顔上げていいぞ。」

なんか、心臓がバクバクする…。

「今回学級委員長になったのは…」

…おなかが痛い…。

「柊木。頼んだぞ。」

「えっ…?わ、私が…?」

「あぁ。腹大丈夫か?大丈夫なら前に来て意気込みを。」

「あ、え、は、はい。」

「山本ありがとな。もう席戻っていいぞ。」

「はい。柊木さんよろしくお願いします。」

「あ…はい!」

…意気込みってなんて言えばいいんだろう。

私は前に出て、大きく息を吸い込んで深呼吸をした

「ふぅ…。…改めまして、3年A組の学級委員長を務めさせていただきます柊木水希と申します。このクラスをしっかりまとめながら、責任を持ち、みんなが笑顔になれるクラスを私とクラスのみんなで作り上げたいと思います。改めてよろしくおねがいします。」

拍手が行き交うなか赤乃を見ると、親指を立て、「やったな!」と口パクで言ってきた。私は頷き、微笑み返した。


「まさか水希が立候補するなんて。赤乃が「いや、俺じゃなくて水希です。」って言ったときはまじびびった!」

昼休み、私は花香と赤乃とお昼ごはんを食べていた。

「へへへ…。実は最初は赤乃に半強制的に「委員長になれ」って言われてたんだけど、だんだん興味が湧いてきて。最後に背中押してもらった。」

「そ。俺が押した!」

「それ自分で言うもんじゃないでしょ。まあ、水希が一歩踏み出せたのも赤乃のおかげなんだね。よかったね!水希!」

「うん!」



「じゃあ、文化祭の出し物を決めます!」

6時間目は一ヶ月後に行われる文化祭の出し物を決める事になった。

あ、補足だが、副委員長は赤乃、書紀は花香と山本さんになった。

「皆さんやりたい物があったりしたら挙手してください。」

「あ、はいはーい!メイドカフェ!って言っても私達女子だけっていうのも不公平だし、男子も!」

「なるほど…。女装カフェとメイドカフェ…。めちゃくちゃありです!」

「ちょっと委員長賛成しないでよー笑。」

「頑張ってください田中くん。笑」

うん、順調だ。ちゃんと笑えてる。ちゃんとノれてる。

「あ!演劇は?」

一部の男子がそういった時、嫌な記憶が蘇った。

「どうした?いいんちょー?」

ダメだ。顔が曇ってしまった。

「…あ、すみません。いいですね!思わず想像してしまいましたよ…!」

よし、うまく誤魔化せた。

「…」

「赤乃?どうしたの?」

赤乃は私のことを睨むように見ていた。

「いや、何でもない。」

「…そう。…他にありますか?」

「はい!お化け屋敷は?」

「お化け屋敷ですか…いいですね!お化け役はやっぱり田中くんでしょうか…?」

「え、俺?!ま、まあ、かっこいいからビビられないかも…?」

クラスに笑いが飛び交った。よし。いいバトンタッチができた。クラスの輪に入れるのはこんなに楽しいんだ。

「…良かった。」

「赤乃?…なんか言った?」

「いや。」

「なにニヤニヤしてるの?笑。ほら、副委員長。多数決始めるから数えるの手伝って。」

「了解。」

「みんな、ここまで出たけどもういい?…じゃあ多数決始めるのでみんな顔伏せてください。」


結果は

「…演劇になりました!」

顔、曇らないようにしなきゃ。いじめられる未来を変えられるかもしれないじゃん。佐藤さんだって、性格変わってるかも…それはないか。でも大丈夫。笑顔で。常に笑顔で。

「じゃあ、なにを発表するか……あ、チャイムが鳴ってしまったので、明日決めましょう。」


放課後。

「花香、今日も部活?」

「そう、だから今日も帰れない。ごめんね…。」

「いやいや。頑張って!」

「ありがとう!じゃあね!」

「うんじゃあね!」


赤乃を待っている間、私は本を読んでいた。

すると、山本さんが靴箱に来て少し気まずくなった。

「柊木さん、お疲れ様。」

「あ、ありがとうございます。山本さんもお疲れさまです。」

「ありがとう。あなた、委員長になって正解だったと思う。愛想もいいし、みんなの意見をちゃんと取り入れてて、あなたならしっかりクラスをまとめられると思う。よろしくね。」

「…はい!」

「じゃあ。」

山本さんが傘を差して玄関から出た時私は「山本さん!!!」と叫んだ。

山本さんは振り向き、こちらを見た。

「…また、明日…!!!!」

山本さんは少し驚いた顔をしたあと

「また明日!!」と笑顔で返してくれた。

山本さんの笑顔を見たのは初めてだった。

私はなんだか嬉しくなって、ニヤケが止まらなかった。

私に笑顔でまた明日って言ってくれた!

玄関に座り込んでニヤニヤしていると

「なに、ニヤけてるの…?」

と後ろに立っていた赤乃が少し引いていた

「あ。」

「なんか嬉しいことでもあった?」

「うん!」

「そうなんだ。てか雨降ってるの。俺傘持ってきてないんだけど。最悪」

「あ、私持ってるよ」

「え?」

あっ…これ遠回しに相合い傘しよって言ってるよね!?

「ま、まあ私一人で…」

「傘、入れて」

赤乃はぐいっと顔を近づけてそう言ってきた。

顔…近…。

なに赤くなってるの私!?

「い、入れてあげてもいいけど。」

「ふっ。何照れてんだよバーカ」

赤乃は鼻で笑ったあと、軽いデコピンをしてきた。

「痛…!いや痛くないけど。ていうか照れてないし鼻で笑わないでよ…!!」

「まあまあ。行くぞ。」

私は傘立てに立ててあった自分の傘を取って慌てて赤乃を追いかけた。

「ちょっとまってよ!」

「待つよ。傘ないと帰れないし。」

「入れてもらう側なのになんか生意気ー。」

「はいはい、入れてください水希様。」

「よろしい。」


少し雑談をしながら歩いていると「あのさ」と赤乃が深刻そうな顔をしてきた。

「ん?」

「無理、しないでね。演劇。」

「…ああ、あのこと!あのことなら全然平気だよ!」

作り笑顔をしてそう答えると「平気なわけない。」と赤乃は少し悲しそうな顔で答えた。

「ほんとに…平気だよ…!大丈夫。」

笑顔が、消えていく。顔が引きつってる。私はその下手くそな笑顔を見られたくなくて俯いた。

「大丈夫じゃない!」

「本当に大丈夫なんだってば!!!私は全然、全然辛く…!!」辛くないと言おうとした時、赤乃は私のことを抱きしめた。「もうこれ以上、嘘つかないでくれ。」私は傘を手放して、赤乃を抱きしめ返した。

そして、たくさん泣いた。

「俺、水希を守りたいんだよ。水希が大切で、生きる意味だから。」

「え…?」

「と、友達だから、辛い思いはしてほしくない!」

不思議だ。まだ、会ってから一日しか経ってないのに。このハグが…初めてな気がしなかった。

「もう泣かせたくない。」

赤乃は私を抱きしめている手を離して、傘を拾った。

そして雨に混じった涙を拭いてくれた。

「赤乃…。ありがとう。」

「水希はさっきみたいにはずットニヤニヤしていてくれ。」

「うん。笑。」

「ちなみになんでさっきニヤニヤしてたの?」

「えっとね…」

私達は雨の中を晴れた笑顔で歩きはじめた。

傘を差すのをやめて。手を繋いで歩きはじめた。

赤乃の手はとても冷たかったけど暖かさも感じた。

私は赤乃が消えるまで、赤乃の大切な人でい続けようと決心した。

-1℃の手のひらで。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ