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愛している



 数日後、まだ立ち上がれないクリスティアを、馬車に乗せて伯爵邸にむかった。公爵邸で休んでいた彼女を動かしてもいいと、医者の許可が出たからだ。

 綿を大量につめたふかふかのクッションを背に入れて、ゆっくりと馬車で進む。

 この数日の間、クリスティアと2人、たくさんのことを話した。彼女は時々言葉をつまらせた。愛を囁くことがどうしてもできないのだと、無表情で告げてくれた。

 表情も上手く作れないのだという。

 言えないことを嘆く彼女に、言えることは一つしかない。

 

「あのとき、君が言ってくれた言葉が全てだとわかっているから」

「…………お母様が亡くなる時、笑ってくれたんです」


 クリスティアは夢を見るような顔で言った。


「言葉を告げてくれたのです。それが全てだと信じてきました。きっと、死の間際になら、言葉にできるのかもしれませんね」


 そうだろうか。そうだとしたら、君の笑顔も言葉も貰えなくても構わない。


「そうだ」

「はい」

「なにか、合図を作ろう」

「合図、ですか?」


 クリスティアが不思議そうに首を傾げる。

 そうだ。首を傾げたり、肩をすくめたり、体の動きで言葉を伝えることができるはずだ。

 向き合って、できるものがいい。愛していると伝えられること。


「それなら、2人でできることにしませんか。例えば」


 そう言って、クリスティアが人差し指を差し出した。引かれるように、俺もまた人差し指を出す。

 2人の指が、そっと重なって、指切りをするように繋がった。

 その時、ふとクリスティアの顔を見つめたら、頬が少しだけ赤くなっていた。


 ああ、そうか。

 君の顔には、そういう合図も見えるんだ。

 俺は強く人差し指を握った。


「愛している」


 微笑みが帰ってくることはない。ただ、強く握り返された。


「……はい」





 



 


 あれから、2人が揃って出かけることも多くなりました。

 私たちの婚約は継続しています。いずれは結婚式を挙げる予定もすでに立てていて、今は、そうです。とても幸せです。


 お父様は相変わらずセレスティアのことを特別視しています。

 ただ、アルフォンス様と上手くいかないことに気づいたセレスティアが社交界で遊び回っていることがあり、それが周囲の貴族からはよく思われていないこともあって、セレスティアを溺愛するわけにも行かなくなっているようです。

 セレスティアは公爵家から公式で婚約を断られたことや、社交界への出席をお父様から窘められたこともあって、今は不機嫌になっているようです。

 

「先日、フォーフェン伯爵の御子息から連絡があったんだ」

「それはどのような?」

「それがどうも、セレスティアから言い寄られているとのことで。彼女、今少し社交界で噂になっているだろう?」


 残念ながらアルフォンス様にもその噂がいっておりましたか。


「そう、ですね」

「彼には婚約者がいて、その方をセレスティアが罵ったらしく……」

「それは……」


 またやってしまったのですね。セレスティアは。


「あの子は、明るい良い子、なのだと思うのですが、その奔放なところがありまして」


 なんとか弁明してみると、アルフォンス様が穏やかに微笑まれました。

 このような表情を見るのも最近は見慣れてきて嬉しいです。


「君たちは、本当に似ているようで似ていないというか。ああ、悪い意味じゃない。クリスティアが優しいことが伝わってくるって話だ」


 そんなことはないと思いますが……。


 考え込んでいると、アルフォンス様がまた微笑みを向けてくださいました。


 ああ、あなたを好きだと伝えたい。そう思ったその時、そっと人差し指を差し出してくださいました。

 ああ、うれしい。嬉しいのです。

 表情にはでなくても伝わってくれることが、うれしいのです。


 私もそっと指を重ねました。


 愛しています。アルフォンス様。


「俺も、愛しているよ。クリスティア」



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