プロローグ
突出した能力を持つ人に称号をつけるとして、何と呼ばれるかは結果次第。
カリスマ性を持つ王が国を豊かにすれば賢王と称えられ、
民を虐げれば暴君と恐れられるように。
武力に秀でた軍人が勝てば英雄ともてはやされ、
負ければ戦犯と蔑まれるように。
不思議な力を持つ女が慕われれば聖女と愛でられ、
嫌われれば魔女と憎まれるように。
だから、肩書きや見た目に惑わされてはだめよ。
結果に囚われては見えないものがこの世にはあるの。
正義も悪意も,誰もが持っている。
人の芯を見定めなさい。
隠された真実を見失わないように。
一国の姫としてあるべき姿を身に着けるのと同時に
――ひとりの人間として、心を磨くのよ。――
そう彼女に教えられた時、私はまだ幼かったけれど。とても大切な事を教えてもらっていると、それだけは分かったから、真剣に肯いたのだと思う。そんな私に「少し難しかったかしら?」と微笑んだ彼女は、そっと頭を撫でてくれた。
それは春の花が咲き誇る王城の中庭で、のんびりとお茶を楽しんだひと時の事。
温かな日差しと、鳥の歌うような囀りと、優しい花の香りに満ちた――どうしようもなく幸せな時間だった。