奴隷の異変
年末も俺たちは通常運転だった。
親が引っ越していったので、帰る里もないし、シロは帰る家はここだ。
大学の授業も冬休みでないし、バイトはそこそこ。
割と時間を持て余していた。
少し進化したことには、シロと一緒ならば俺もコンビニとその近くのスーパーくらいならいけるようになったことだろうか。
シロ用にあまり目立たない服も買った。
ただ、髪の色などで道を歩いているとシロは目立つ。
繁華街ならば銀髪でもいいのだろうが、住宅街だと割と目にとまるらしい。
後は、単純にかわいいことだろう。
スレンダーで何を着ても似合う。
色も白くて目にとまりやすいのかもしれない。
何だか俺が誇らしい気持ちになるのは何故だろう。
年末年始用に食材を買って、持って帰った。
ネットスーパー以外で食材を買ったのは約1年ぶりだろうか。
シロも荷物を持つのを手伝ってくれた。
買い物袋を持って2人で歩くのは、それだけで幸せな気分になった。
家の中でも益々仲が良い。
テレビを見ていても、手をつないでいたりもする。
シロの手は、もちもちしていてすごく触り心地がいい。
このもちもち具合の手に何か名前を付けたい。
ずっと触っていたくなるほどの甘い手なので『甘手』と勝手に名付けたが、調べたら別の意味があった。
もしかしたら、俺は『手フェチ』なのかもしれない。
シロは確実に『においフェチ』だろう。
何かあるごとに抱き着いてきて、(すー、はー、すー、はー)と俺のにおいを嗅いでいく。
最初は恥ずかしかったけれど、好きみたいだから別に止めない。
なまじ時間があるので、好きに嗅がせていたら、その内『はぁはぁ』言い始めるので、大体その後はイチャイチャタイムになってしまう。
余るある時間は人間をダメにする。
俺もシロも年末年始には確実にダメ人間になって行っていた。
シロと一緒に堕ちるのならば、それもいいかとも思っていた。
年の瀬は、シロと一緒に年越しそばを食べて、除夜の鐘を聞いてから寝た。
さすがに羽毛布団でも寒いだろうと毛布を出したけれど、2人で寝るには熱いくらいだった。
ベッドに入る時は、いつもシロが『好き好きホールド』で抱き着いてくる。
毎日一緒にいるのにこんなに好意を向けてくれるのは本当に嬉しかった。
寝る前のちゅーと、起きてからのちゅーは必ずしていたし、寝る前は毎日のようにイチャイチャしていた。
お互いの気持ちいいところを探りあって、色々とお互いの『開発』が進んでいた。
シロは膝の裏が弱いみたいで、舐めていると大洪水になっていた。
シロもただされるがままではなく、色々と献身的に尽くしてくれていた。
自分がされて気持ちよかったことと同じことを返そうとするので、随分と色々なところを舐められた。
日々お互いを『高めあって』いた。
ただ、『一線』だけは超えなかった。
別に法律がどうとかいうつもりはない。
一生面倒を見ていくつもりだから、無責任というわけでもない。
ただ、自分の中のこだわりなのか、どんなに興奮しても踏みとどまっていた。
後で考えたら、日々幸せだった。
そんな甘々なダメ人間生活の日々の中、1月中旬にちょっとした事件が起きた。
シロがトイレに行った時だった。
「きゃーっ!」
トイレの中からシロの悲鳴だった。
「どうした!?シロ!大丈夫か!?」
トイレの前まで行ったけれど、ドアに鍵がかかっている。
(トントン)「シロ・・・?」
「・・・」
「大丈夫か?」
「かみさま・・・」
やっとドアの向こう側でシロがしゃべった。
「大丈夫か?」
「シロは、もう・・・死にます。今までありがとうございました」
「どうした!?なにがあった!?」
こんな冗談を言うような子じゃない。
何かとんでもないことが起きたに違いない。
「シロ!?どうした!開けてくれ!」
(じゃー、ごぼごぼ、じゃー、ごぼごぼ)
「シロ!?大丈夫か!?」
何が起きたのか全く分からない。
ただ、何かとんでもないことが起きたことだけは分かる。
そう言えば、トイレのドアは事故防止のため、外からでもロックが解除できるようになっているんだった。
コインを持ってきて、トイレのドアを開けようとした時だった。
(ガチャ)
シロがトイレから出てきた。
「シロ!どうした!?大丈夫か?」
近寄ると、シロが、がばっと抱き着いて泣き始めた。
とりあえず、頭を撫でて泣き止むまで待った。
椅子に座らせると、シロの部屋着のズボンに血が付いていた。
シロが慌てて手で隠す。
「血が・・・出たのか?」
シロが目に涙をいっぱい溜めながらしゃべり始めた。
「シロ・・・もうすぐ死んじゃう・・・かみさまと一緒に暮らせない・・・」
「何かの病気だったら病院に行けば大丈夫だから・・・」
病院?
シロには、戸籍があるのか?
健康保険証はないに決まっているが・・・
血が・・・?
はっと思い立った。
「シロ!ごめん!不安だろうけど、ちょっとだけ待ってろ!」
「え?かみさま、どこか行っちゃうの!?」
「すぐ戻る!1分で戻るから!」
シロの額にキスをして、頭を撫でてから家を飛び出した。
行先は、101号室の大家さんの家。
「大家さん!すいません!俺です!シロが!シロが大変なんです!」
(ガチャ)「どうしました!?」
大家さんが出てきた。
そう言えば、最近大家さんに会っていなかった。
「その・・・女性特有の・・・」
掻い摘んで説明すると、大家さんは一旦部屋に戻って何かを準備すると戻ってきた。
「シロちゃんは部屋ですか!?」
「はい!こっちです!」
*
今、室内で大家さんがシロに説明をしてくれている。
完全に失念していた。
男にはないイベント『生理』だ。
あの反応から初めてだったのではないだろうか。
初潮がいくつくらいで始まるのかは知らないし、調べたこともないが遅い方じゃないだろうか。
栄養失調だったから遅くなっていたとか・・・
(ガチャ)「もう大丈夫ですよ」
30分くらいしてから、部屋から大家さんが顔を出した。
*
シロはベッド仰向けで寝ていた。
部屋着はお腹の部分がめくられていて、下腹にタオルが置かれていた。
温めているのだろう。
「寒かったでしょ?何も外で待たなくても・・・」
大家さんが心配してくれた。
「別に行くところなんてないし、シロが心配だったから・・・」
シロが寝たままで顔だけこちらに向けた。
「かみさま・・・」
顔は不安そうだ。
「大丈夫か?」
傍に行って、ベッドの脇で頭をなでてやる。
「はい・・・何日かでよくなるみたいです」
シロが目をつぶった。
まだ痛いのかもしれない。
「その・・・ありがとうございました。助かりました。」
色々してくれた大家さんにお礼を言った。
「いえ・・・。その・・・神様、私・・・分からなくなりました」
「はあ・・・」
「少しお話を伺ってもいいでしょうか?」
「はい」
大家さんにテーブルの椅子に座ってもらい、コーヒーを出した。
「その・・・不躾を承知でお聞きします。あなたたちの関係って・・・」
そう言えば、以前も聞かれた質問だった。
「最初は、仲のいいご兄妹かと思っていたけれど、その後、恋人同士に見えて・・・」
以前は誤魔化したが、ちゃんと答えるのが誠実な対応だろう・・・
「シロとの出会いは、ベランダです。以前の隣の住人が残して行ったみたいです。最初は人助けのつもりだったかもしれません。でも、今は・・・」
シロの方を見る。
ベッドに寝ているシロもこっちを見た。
「恋人同士のつもりです。俺、彼女がいないと・・・」
「シロもかみさまがいないと・・・」
大家さんが少し肩の力を抜いたように見えた。
「好き合っているのね・・・それが本当だとしたら、私・・・とんでもない誤解していたわ・・・」
「どういうことですか?」
「こっちに来てからの知り合いになったのだけれど、仲のいいご夫婦がいて・・・何かできないかと・・・」
大家さんの言うことはまるで要領を得ないことだった。
どういうことなのか分からなかった。
「ちょっと待っていて」
そう言い残すと、大家さんは家を出た。
30分くらいして戻ってきたときに渡されたのは、1枚のDVDだった。
「これを見てほしいの」
それだけ言うと大家さんは自分の家に帰って行った。
1日4回更新になりました。
朝6時、昼12時、夕方は18時、夜は21時です。
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