奴隷の楽園の終わりの始まり
コンビニから帰り、早速ヨーグルトのケーキを食べようと袋から出した。
残りは冷蔵庫に入れた。
コーヒーを淹れてやると、シロはコンビニでのことや途中の散歩のことを興奮気味にしゃべっていた。
よほど楽しかったらしい。
珍しく興奮気味だ。
頑張った甲斐があった。
コンビニにスイーツを買いに行っただけだけど。
そして、問題のヨーグルトのケーキについて聞いてみた。
「シロ、ヨーグルトのケーキどう?」
無言で満面の笑顔だ。
(パー)と空から光が差し込むようだ。
まさに天使。
口にケーキが付いているところがシロらしい。
「よかったな。販売終了までもうちょっとだけあるから、また買いに行こう」
「・・・かみさま大丈夫ですか?」
シロがフォークをくわえたまま聞く。
「何で?」
「今日もコンビニでぼーっとしてたし・・・無理してるのかもって・・・」
「俺は女の子が苦手なんだよ・・・高校の時にちょっと色々あって・・・」
シロが心配そうにのぞき込む。
この上目遣いは殺人的だ。
多分、何されても許す自信がある。
「今日はシロがいてくれて本当によかった。俺ひとりじゃ、コンビニに行くなんて絶対無理だった」
「シロよかった?シロえらい?」
テーブル越しに頭を近づけてくる。
頭を撫でろということか。
(なでなで)
「えへへぇ」
何だよ。
メロメロじゃないか。
俺もメロメロなんだよ。
「かみさまのことは、シロが守ります!またコンビニ行きましょう!」
(ドン)とシロが自分の胸をたたく。
頼もしい限りだ。
*
コンビニに行けたのは、普通に考えたら小さいけれど、俺にとっては大きな一歩だった。
『ニール・オールデン・アームストロング』だった。
その他、変わったこと言えば、大家さんが来たことだろうか。
(トントン)「こんにちは」
(ガチャ)「あ、大家さん、こんにちは」
「あの・・・」
「あ、よかったら上がってください。例のコンビニスイーツ買ってきたんで」
「あの・・・、お邪魔します」
シロは制服が気に入ってるので、今日はそのままのかっこで過ごすみたいだ。
コーヒーの準備をして例のケーキと共に大家さんに出したが、大家さんの表情は硬いようだった。
いつもお菓子を差し入れしてくれていたが、今日は手ぶらだった。
それだけ気にかけなくていい関係になったのだと少し気が楽だった。
「何かあったんですか?」
「その・・・最近、知り合いのご夫婦がテレビに出られて・・・」
「はい」
「その録画をさっき見て・・・」
「はい」
「あ、なんでもないの」
何だか様子がおかしいことだけは分かった。
何があったのだろう。
「あの・・・神様・・・お仕事は・・・?」
大家さんもシロに感化されて俺のことを『神様』と呼ぶ。
どこかのタイミングで変えていただこう。
「あれ?言ってませんでしたっけ?俺、大学生です。通信制の」
「だからずっと家に・・・」
「まあ・・・」
引きこもりだと気づいたのかな?
まあ、聞きにくいことだしな。
それでも、今日はコンビニに行けた。
数か月ぶりの快挙だ。
「あの・・・お二人の馴れ初めって・・・」
おっと、ここに来て答えにくい質問が来た。
「まあ、ちょっとした出会いだったんですけど、それからここで一緒に暮らしているって言うか・・・」
まさかベランダで拾いましたとは言いにくい。
「そう・・・ですか」
「シロちゃん・・・元気?」
「ん?シロは元気だよ?」
「そう・・・よかった」
大家さんはこの日コーヒーだけ飲んで、ヨーグルトのケーキには手を付けなかった。
持って帰るように言ったが、遠慮されてしまった。
この後、ヨーグルトのケーキはシロがおいしくいただきました。
大家さんはちょっと暗い印象だったが、何かあったのかなというところだ。
悩み事だろうか。
また後日には元気に話してくれるかもしれない。
いつも通りだったが、『変わったこと』とは、初日以外で初めて『お裾分け』のおかずを持ってきてくれなかったことだろうか。
今までは『お菓子』と『お裾分け』がセットだったから。
そんなに毎日作りすぎないだろうし、当たり前と言えば当たり前か。
この時は、そんなに重要なこととは考えていなかった。
1日4回更新になりました。
朝6時、昼12時、夕方は18時、夜は21時です。
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