奴隷とヨーグルトのケーキ
コンビニに「敷居」はないけれど、多分一人では入れなかった。
中には当然店員がいて、数人の客がいた。
ただそれだけで、俺は店に入れなかったのだ。
一人だったら。
今の俺にはシロがいる。
シロと手をつないで店に入った。
「しゃっせー(いらっしゃいませ)」
店員の言葉にも怯まない。
このコンビニにはイートインもあって女子高生が3人で駄弁ってる。
彼女らはしばらくこの店に滞在するだろう。
後はサラリーマン風の男と作業員風の2人組。
彼らは買い物が終わると、すぐに出ていくだろう。
女子高生の笑い声がすごく気になる。
きゃあきゃあ言っている。
ひそひそ話している。
『くすくすくす』
『ひそひそひそ』
彼女たちの声が俺を追い詰める。
やっぱりダメだ。
ダメだった。
俺が外に出たのが間違いだった。
あの頃と何も変わらない。
段々気が遠くなっていって・・・
「かみさま!かみさまっ!」
「はっ・・・」
気付けばシロがすぐ前で心配そうに俺の服の前を引っ張っていた。
両手で胸倉をつかむ勢いで。
ただ、身長が足りなくて鳩尾の部分を引っ張っていた。
コンビニから数歩入ったところでフリーズしていたらしい。
俺は汗が大量に出ていた。
頭の頭皮からも汗が出ているのが分かる。
「かみさま、大丈夫?」
シロが心配そうに聞いてきた。
念のために持ってきたタオルで汗を拭く。
「ああ、大丈夫、大丈夫だ。スイーツを見に行こう」
奥のスイーツ陳列ショーケースに移動する。
またシロに助けられた。
でも大丈夫だ。
まだ大丈夫。
シロだけを見ていればいいだけだ。
「あ!あった!ありました!かみさま!」
俺は慌ててかごを持ってくる。
目的のスイーツは3個だけだった。
とりあえず、全部買っておくか。
「他にも気になるやつがあったら買ってもいいぞ」
「ほ・ん・と・で・す・かー」
シロが、花が咲いたように表情が明るくなった。
そして、真剣に吟味していた。
「プリンかなぁ・・・冷凍ブルーベリー・・・枝豆・・・」
天秤にかける選択肢がおかしい気もするが、シロが楽しそうだからいいか。
『ねえねえ、あの子超かわいくない!?』
『あ、気付いた?色、しっろ!あと、アッシュって言うか、銀髪かなぁ?』
『すっごいかわいいよね。あと、制服かわいい、あれどこの?』
聞こえる女子高生の声は俺に向けられたものじゃなかった。
もしかしたら、シロのことを言っているのかもしれない。
そうだ。
俺のことなんて誰も見ていない。
少しずつ冷静さを取り戻していった。
『白のニーソってコスプレ?』
『ああ、だから髪も?何かのキャラ?』
『彼氏さんは全身真っ黒。あれもキャラかな?』
『何かの撮影とかじゃないよね!?』
きょろきょろと周囲のカメラを探す3人の女子高生がいた。
何となく漏れ聞こえる話は俺にも飛び火しているみたいだけど、不思議ともう大丈夫だった。
シロがいるから。
シロの方を見ると満面の笑顔だ。
俺も笑みがこぼれる。
ふいにシロの頭を撫でる。
(なでなでなでなでなでなで)
「にゃぁ・・・」
シロが『何で?』という顔をしているが、撫でたかったから仕方がない。
首を傾げただけでかわいいのだから、シロはすごい。
「探しているのあってよかったな」
「はい!連れてきてくれてありがと、かみさま。大好き♪」
面と向かって言われるとめちゃくちゃ照れるな。
でも、言葉で言われると嬉しいな。
俺も気を付けないと。
目当ての物は買ったし、帰ることにした。
支払の途中、レジからはイートインコーナーが見えた。
女子高生たちは鞄をテーブルの上に置いていて、鞄には何かのキャラらしいピンクと黒のクマのぬいぐるみが付けられていた。
珍しいカラーリングだから何となく目が行った。
ただ、彼女たちはこちらを見てはいない。
俺たちのことは気にしていないのだ。
自意識が過剰すぎた。
俺たちはコンビニの自動ドアを出て、彼女たちのいるイートインコーナーの前を横切って家路についた。
『何かいいよね、あんなカップル。憧れるよね~』
『彼女の顔が安心しきってる感じが萌えた~』
『分かりみがすごい!』
『顔ちっちゃいし、細いし、かわいいとか、マジ最強じゃない!?』
『嫁にしたい』
『お持ち帰りたい』
『彼氏優しそうだった~、しかも超イケメン。でも、髪は切ったほうが好みかも』
『分かる!顔、超隠れてたもんね』
『途中、彼女頭撫でられてたよね。あれ萌えた』
『『『どっかにイケメンの彼氏いないかなぁ』』』
ため息とともに、そんな会話がガラスの向こうでは行われていたのだが、ガラスを隔てた外を歩いていたシロとかみさまには聞こえていなかった。
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