奴隷とヨーグルト
最近、シロがテレビをよく見るようになった。
だから、色々なことを聞かれる。
先日聞かれたのは「聖書」だ。
*
「かみさま、『聖書』ってなに?」
「どうした、藪から棒に」
「この間、ニュースで言ってたの。古い聖書が見つかったって」
「あー、『死海文書』がどうのってやつか・・・アニメでも『死海文書』って出たから話題になったのかもな」
「それで、『聖書』ってなんですか?」
「聖書は・・・英語で言えば「ザ・ブック」、つまり、『これぞ本』ってところか」
「ほん・・・」
本と聞いて急激に興味を失った顔をしたシロ。
俺は構わず続けた。
「昔のお話が書いてあるんだけど、神様のことが書かれているっていわれているな」
「かみさまのこと!」
シロが前のめりに興味を持った。
その目に輝く光の量ですぐにわかるよ。
「あ、念のために言っておくと、本物の神様な、俺じゃないから」
「違う神様か・・・」
本当に表情がころころ変わって面白い。
「神様がやってきた奇跡について書かれていたり、人々の役に立つことが書かれていたりするんだ」
「例えば?例えば?」
「うーん、俺も読んだことないから知らないけど、『皇帝の物は皇帝に!神の物は神に返せ!』みたいな?」
「・・・どういう意味ですか?」
「皇帝からあずかったものは、皇帝に返せってことかな」
「・・・シロには、かみさまがいるから聖書いらないです」
シロは床に座ってテレビの方を向いてしまった。
完全に興味を失ったな。
俺、将来子供の興味を引き出せないダメな父親になるかも・・・。
多分、俺の説明が悪かったな。
今度、暇なときに聖書でも読んでみるか。
キリスト教じゃないけど。
「あ!ヨーグルト!」
テレビのCMでヨーグルトが出た。
シロは最近ヨーグルトがお好みのようだ。
「かみさま!お昼ご飯ヨーグルトでもいい?」
「昼ご飯にヨーグルトはさすがに寂しいだろ。食後のデザートくらいにしておけよ」
「食後のデザート?」
「ご飯の後の甘いものってこと」
「ご飯の後!甘いもの!はいっ、食後のデザートにヨーグルトにする!」
この返事の『はいっ』がめちゃくちゃ気持ちいいんだよなぁ。
シロは、うちに来てからしばらく本当に何も興味がなかった。
1日中、床を見ていた日々もあったし、ベッドと棚の隙間に嵌るように体育座りをしていた。
そう言えば、最近はあまり嵌っていないな。
テレビを見るようになったからか。
昼のドラマとかも見ているようだ。
面白いのだろうか。
ヨーグルトもだけど『積極的な興味』が出て来たってことは、よく分からないけれど、良いことのように思える。
ご飯を出せば、なんでも喜んで食べるシロだけど、シチューとか、今回のヨーグルトとかは特に好きみたいだ。
何か、子供の成長を喜ぶお父さんみたいな気持ちになってきたな。
お父さんになったことないけど・・・
*
昼ご飯は、焼きそばにしたのだが、その後ヨーグルトを出してやった。
ヨーグルトのことを忘れていて、合わなさそうなメニューにしてしまったが、シロは喜んで食べていた。
焼きそばにしてしまったお詫びに、ミカンと桃の缶詰を少し入れてやった。
「かみさま、今日のヨーグルトすごくおいしい!」
「そりゃあ、よかったな。桃缶入れたからな」
「ももかん」
「どちらも入れるだけだから、シロもすぐできるから。缶詰は開けたらすぐに食べきりたいから、夕ご飯の後も自分で作って食べていいぞ」
「か・み・さ・ま、シロのかみさまでありがとうございます!」
目の中に星が輝いている様に見えるのは、錯覚だろうか・・・
ヨーグルトを出しただけで手を合わされてしまった。
本物の神様に悪いからやめていただきたい。
「夕ご飯の後のヨーグルトは、神様の分もシロが作ってあげるね」
「おお、ありがとよ。あと、缶詰の汁は入れない方がいいから。甘すぎるし、ヨーグルトが『しゃばしゃば』になるし」
「はいっ」
だから、その『はいっ』がすごくいいんだよ。
実に気持ちがいい。
この日の夜は、2人でフルーツいっぱいで、『しゃばしゃば』のヨーグルトを食べた。
甘すぎるが、楽しくて、2人とも笑いがとまらなかった。
このシロの「はいっ」はvtuberの「兎田 ぺこら」さんのイメージです(|ワ|)/
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