戦艦フィーア出航
フェルゼルシア王国は、地形的にはデンマークをモデルにしてます!
「オルリック艦長!クルト少尉、ラース少尉只今帰還致しました」
「待っていたよ君達。陸軍がクーデターを起こしたという情報が入ってくるし、副長以下の殆どの士官は町で酔いつぶれていたところを憲兵隊に捕まったっていう話もあるし面倒なことになったよな全く」
「マジですか艦長!ということは艦長の次に階級が高いのは…」
「今のところ君達少尉という訳だ。はっはっは」
「いやいや艦長。副長や航海長、砲術長の人員配置はどうするんですか?」
「砲術長なら既にそこにいるぞ。アンナ君だ」
「クルト先輩!ご無事で何よりです」
「アンナか!お前こそ無事でよかった」
「俺もいるぞ~」
「ラース先輩も相変わらずナンパしていたみたいで何よりです」
「何故にバレてる!」
ラースは勢いよく俺の方を見る。
「俺はバラしてないぞ…」
「お前たち、今はそんなことやってる場合じゃないだろ…」
オルリック艦長はため息交じりに言うと、艦橋窓際まで行き、外を見ながら思案顔になる。
「う~む、今出ていくと要塞砲の集中砲火を浴びる可能性が…いや、出撃しなければこのドックにも陸軍部隊が雪崩れ込んでくるだろう…どうしたものか」
「艦長?」
「よし…一先ず代行としてクルト少尉を副長、ラース少尉を航海長に任命する」
「艦長~俺が副長じゃないんですか?」
不満げに言うラース。
「ラース先輩よりクルトさんが副長の方が安心出来ます」
とのアンナの言葉に肩をすくめ、ラースは航海長の配置に就いた。
俺は艦長席の横に立つ。
「クルト少尉、今までの知識や経験を全て使って私を補佐して欲しい。よろしく頼む」
「艦長、副長代行として全力を尽くします。よろしくお願いします」
「うむ。では早速伝声管でこれからの行動を艦内に周知させるか。苦手なんだよなぁこういうの」
オルリック艦長は一度深呼吸をする。そして、
「諸君、この実験艦フィーアの艦長であるオルリックだ。気づいている者もいると思うが、先程確認されたアングレット市街方面の爆発は陸軍のクーデターである可能性が極めて高い。
現在、陸軍は近衛と交戦しているようだが、この軍港に来るのも時間の問題だろう。この艦は王国の機密兵器であり、決して陸軍の手に渡ってはならない。これより本艦は出港準備を終えているヘイムダルとディアナと共に出航し洋上への脱出を目指す。
準備ができ次第直ちに出航する。出航用意!」
俺は副長の初仕事として各配置に状況を確認する。
「艦長、各員配置に就きました」
「よし、錨を上げ!両舷前進半速」
「両舷前進半速」
艦がゆっくりと動き出す。
ドックを出た直後、左舷方向より砲撃音と水が激しく跳ねる音が聞こえる。
一足早く出航していた巡洋艦ヘイムダルと駆逐艦ディアナが退避行動を取りながら要塞砲に砲撃されていた。
この光景に艦長は顔を顰めた。
これまで軍港から脱出することのみを考えていたが、実際に友軍艦隊が攻撃されている光景をみて判断を迷っているようであった。
「この艦は主砲を前面に配置している為このままでは砲撃が出来ん。友軍を援護する為にも左回頭し、左舷砲撃戦を行うべきか。いや、しかし敵前回頭はリスクが高すぎる。それにこの艦の性能をここで陸軍に見せても良いものか…」
このアングレット要塞は帝国の陸からの侵攻防ぐ目的のほか、海からの侵攻も想定されて建造されている。
そのため無数の要塞砲が海からの侵略者に対しても目を光らせている。
俺は艦長に進言すべく口を開く。
「艦長、本艦乗員はまだ配属されてから日が浅く、練度不足と言っても過言ではありません。それに比べ要塞の陸軍兵はあのカルステン将軍指揮下の部隊です。
交戦するよりここは例の新装備を使い、一刻も早く軍港を脱出することが適切かと」
「あの装備か!上手くいけば友軍も脱出させることが出来るかもしれん。よし、最大船速!友軍艦隊の前に出るぞ」