内乱の始まり
日記を付け終わり、久しぶりに会ったミアのことについて
物思いにふけっているともう夜中の2時だった。
辺りは静かで梟の鳴き声が町中に響く。
「流石に意識しすぎだろ…俺」
近衛の制服を着たミアに直接会ったのは今回が初めてだった。
昔は歳が1つしか変わらない世話焼きな幼馴染としか思っていなかったが、
また一段と綺麗になっていた幼馴染に動揺が隠せなくなっていた。
布団を深くかぶって考えないようにしようとした瞬間。
「ドォォン」
部屋が突然爆発音とともに揺れだした。
「一体何が!」
慌ててカーテンを開けて外を見ると
近衛騎士団の宿舎がある地域が爆発炎上していた。
「嘘だろ…!」
慌てて寝間着から軍服に着替えて部屋を出る。
1階ロビーに行くとラースが待っていた。
「遅いぞクルト」
「すまん、着替えに手間取った。陸軍の奴ら実弾演習でもしてるのか?」
「どうやら演習じゃなくて近衛が攻撃されてるみたいだぜ」
「やはり近衛が…」
俺の脳裏に炎上していた近衛騎士団宿舎とミアの顔がよぎる。
「ミアを助けないと!」
「待てクルト!丸腰でどうする気だ」
「艦から陸戦用装備を取ってくるんだよ」
「もう陸軍は直ぐそこまで来ている。迂闊に動くと反抗分子として銃殺されるぞ」
「分かった。ひとまず陸軍の連中に見つからないようにドックへ行こう。近衛は精鋭揃いだからそう簡単にやられることはないだろう。何よりもあの新鋭艦を陸軍に奪取される訳にはいかない。」
俺とラースが配属された艦は新鋭艦ということで機密保持の為、軍港の一番隅にある建屋式のドックに停泊している。
「冷静になったな。それでこそクルトだ」
「ありがとうなラース。よし行くぞ」
「おう」
俺とラースはロビーの裏口から海軍宿舎を抜け出した。
軍港入口にはまだ陸軍の主力は来ておらず、入口の検問所にて海軍警備兵と陸軍憲兵隊が口論をしていた。
その光景を横目に、隠れながらドックを目指す。
視界が開けて軍港に係留している軍艦が目に入る。係留している5隻中2隻の艦の煙突から黒煙が出ていた。
「おいラース。あの2隻、もう何時でも出航できる態勢みたいだがこの事態を予想でもしていたのか?」
「あれは巡洋艦ヘイムダルと駆逐艦ディアナだな。確かあの二隻は夜間航海訓練が予定されていたはずだが…」
「俺たちの艦は大丈夫か?これから気醸・暖気・試運転なんてしてたら出航まで半日はかかるぞ」
「あの機関長のことだ。明日予定の演習に備えて機関の調子を確かめるためにボイラーを焚いてるかもしれん」
そうこうしてる内にドックに辿り着いた。
「あんた達無事だったのかい!」
声がした方に視線を向けると、食堂で働いていそうな中年女性が立っていた。
「「機関長!」」
そう、彼女こそ我らが機関長である。
機関長は一兵卒からの叩き上げで機関部のスペシャリストであり、面倒見の良さから乗組員の母親の様に慕われてる存在だ。
「外が騒がしいから様子を見ようとドックの外に出たら町の方から爆発音がして火柱が上がるし、この緊急事態に士官連中は艦に戻ってこないから心配したよ全く」
「艦長は乗艦されてますか?」
「あの艦長は面倒くさがり屋で相変わらず艦長室で寝てたから今は艦橋にいるよ。何時でも出航できるように機関の試運転は完了してある。あんた達も早く艦橋に行きな」
「了解!機関長ありがとうございます!」
俺とラースはタラップを駆け登り艦橋へ向かった。