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プレジール

今回は長めになりました。

「美琴、お願い、―――を助けてあげて」

 

「あなたは誰なの?」


 暗闇の中に一つの眩い光が見える。そこから聞こえてくる誰かのすごく悲しい声。


「美琴、お願い、―――の心を解放してあげて、お願い...」






「うにゃー」

「ジル...おはよう」

 朝の眩しい日差しが差し込んでいた。

 頬には涙で濡れた跡がある。あれ、私いま夢を見ていたような...。何だろう、すごく切ない感じがする。内容は覚えていないのに感情の残滓だけが残っている。


「にゃー?」

 ジルが頬を舐める。

「ジル、くすぐったいよ。心配してくれてるんだね。ありがとう」

 ジルの頭を撫でてから、顔を洗って着替える。


 そして、私は畑へと行ってみる。


「うわ――っ」


 そう、昨日植えた種が、家の二階の高さまでの木になっていた。たった一晩で育ってしまった、しかも実までたくさん生っている。

 うっそーっ!!である。


 私が驚いていると、ジルは嬉しそうに上手に木に登って行った。枝の上に止まると、ジルの金色の身体がキラキラと光り始めた。私はジルの美しさに言葉も忘れて立ち尽くした。

 しばらくすると光が収まって、ジルは私の元に戻って肩に乗った。

「ジル、すごいね!すっごく綺麗だった、キラキラして見ていてすごくドキドキした」

「にゃーん♪」



「あらあら、これまたすごいわねぇ」

 振り返るとベリアルさんも畑に来ていた。


「ベリアルさん、おはようございます。いまの見ました?ジルがキラキラって、すっごく綺麗でしたよね」

「ええすごかったわね、やっぱり不思議な子よね。それにほら見て、畑の植物達もキラキラ光っていつもより元気になっているわ、この木の影響かしらね」

「ホントだ。プレジールには不思議な力があるんですね。ベリアルさん、これで街の人達を元気にすることができますね」

「そうね...。あとは朝食を食べてからどうするか話しましょ」

 ベリアルさんの歯切れの悪さが少し気になった。プレジールが育ってすごく喜ぶと思ったんだけどな。

「あ、はい、朝食の準備してきます」

「お願いね。私は水やりを済ませてから戻るから」



 まさか、一晩で育つなんて思いもしなかった。でもこんなに沢山の実がすぐになるのなら、これで街の人達を元気にすることが出来るってことだよね!

 私にもこの世界の為になることができて嬉しく思った。


 台所に行くと、昨日作っておいたプレジールの天然酵母がたったの一日で完成していた。嬉しい~これでお昼には焼き立てのパンが食べれちゃう。


 朝食は甘くないパンケーキにベーコンエッグとフレンチサラダ。あとは、ハチミツをかけたヨーグルトも用意する。それと新鮮果物のフルーツミックスジュース。ジルにはジュースとパンケーキに、プレジールのカットを。


「「いただきます」」

「にゃー」

「うん、美味しいわっ」

「よかった~。ベリアルさん、私ここに来てから食事がすごく楽しいです。食べる度に元気が溢れてくるんです。元の世界では、料理をするのも食べるのも好きでしたけど、嫌なことを忘れる為に料理をしていたのもあったから。いまはベリアルさんに美味しく食べてもらえるように考えながら料理をするのはすごく楽しくて、作った料理も一人で食べるより、こうしてベリアルさんと一緒に美味しいって言って食べられることが幸せだなって、だからベリアルさんには本当に感謝してます」


 自然と自分の思いが言葉となって出てきた。


 この世界に来て、昨日ベリアルさん達が温かい言葉をもらって、自然に素直な気持ちが言えるようになった。あんなにも自分の気持ちを言葉にすることが出来なかったのに、いままでの分を取り戻すかのように、いまはたくさんの言葉、感情が溢れてくるのを感じている。


 ベリアルさんは穏やかな笑みを浮かべた。

「そう言ってもらえて嬉しいわ。そうよね、食べると元気がでるし生きる為の食事はもちろん必要ね。でも誰かと一緒に楽しみながら美味しいと思える食事がとれるって素敵よね。お城でもここでも一人で食べることが多かったから、みこちゃんが作った美味しい料理を一緒に食べられて幸せだなって感じる」


 私はベリアルさんと同じ気持ちを共有できて更に嬉しくなった。そして、いままでこんな心からゆったりした時間とってなかったことに気が付いた。



「さてと、プレジールのことなのだけど、みこちゃんはあの実をどうしたいと思っているの?枯れる前は当たり前に存在していたから、みんなもあの実がすごいってことを知っている。みんなに食べてもらえれば世界中の人達が以前のようにエネルギーに満ち溢れ、闇から解放されると思う。でも、いま世界中の人の闇が増幅しているこの状況の中でプレジールが目の前に出されたときの人達の反応が私は少し心配だったりするの」

 ベリアルさんが真剣な顔で聞いてきた。


 ベリアルさんから感じる空気が重たく感じた。

「えっ、私はただ美味しかったし。それに街の人達にも食べてもらえればみんなが元気になれるって思って、ただそれだけで...そんなに深く考えてはいなくて、えっと、だから」

 空気が怖い。何を言えば正解なの?自分が何を失敗したのかわからない。私、ベリアルさんに嫌われちゃったかな。どうしよう。


 ベリアルさんがふぅっとため息をついた。

 私はびくっと身体が反応した。


「そうよね。普通はその考えでいいと思う」

「あの、ベリアルさん、私...」

「怖がらせてごめんね。私はただ変化を恐れてしまっているのかもしれないわ、プレジールが枯れて人々の心から光が消えていく様を見てしまったから。良くなってほしいけれど、今度はプレジールのせいで暴動が起きてしまったらどうしようって。私は良くも悪くも変わるのが怖いのかもしれないわ。自分でみんなのことを助けたいって言っていたのにね。ごめんなさい」


 そっか、ベリアルさんの気持ちが少しわかった。変わるのはすごく怖い。悪いことはもちろん、いいことでも嬉しいと同時に心がざわつく。変わらないことが一番居心地がよかったりする。

 いままでの私なら、何かに挑戦することを避けてそれでもいいと思っていた。でも私は変わっていくって決めたから、何もしなかったらまた前と同じように後悔する。

 それに、変わらずにその場に居続けることなんて無理なんだって、私はもう知ってしまったから。だから私は覚悟を決めた。


「私、ベリアルさんの気持ちわかります。でもベリアルさんの話しを聞いて、街の様子を実際に見て、私にも何か出来ることがないか考えました。プレジールが復活したのは事実で、これでみんなを救えるのなら、私はやっぱりみんなに美味しく食べてもらいたいです!」

 私は、はっきり自分の気持ちを伝える。きっかけは軽い気持ちでも、食べてもらいたいって想いは変わっていない。

 そらなら他に何かいい方法はないかな...。


「みこちゃん...」

「そうだ!ベリアルさん、まずはプレジールをそのまま食べてもらうんじゃなくて、何か加工してプレジールってわからないようにすればいいんじゃないですか?それなら、ベリアルさんのお野菜達みたいにみんなに食べてもらえますよね。あ、今日お昼にプレジールの酵母を使ってパンを焼くんです。それを食べて効果があるかとりあえず試してみましょうよ、ねっ」


「そうね、パン食べてみたいわ。みこちゃんありがとう」

 辛そうだったベリアルさんがいつもの優しい笑顔でそう言ってくれた。


「私は美味しいパンを作って、自分のやりたいことができる。みんなは美味しいパンを食べて、さらに笑顔が戻る。みんなが幸せになれる計画、うん!良きです。では早速ここ片付けてパンを作り始めますね」

 私はいいアイデアだとベリアルさんのことをそっちのけでパンのことしか頭になくなっていった。どんなパンができるかすごく楽しみ~


 ベリアルさんがそんな私の後ろ姿を微笑ましく見つめていることに全く気付くことはなかった。


みこちゃん成長したね。お母さん(茜コ。)はすごく嬉しいよ。

今回も読んでくださってありがとうございます。

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