独白(ベリアルside)
ベリアルさんの独り言。
過去の話も出てきます。
朝起きて、花壇や畑に水撒きをする為に外にでると、女の子が倒れていた。
傍らには金色の小さな猫が彼女を守るかのように隣に寄り添っていて、そして風呂敷?荷物が一つ置いてあった。
近づいてみると、ただ寝ているだけの様子。私は彼女を抱きかかえ二階にあるベッドに寝かせることにした。この辺りでは見かけない真っ黒な髪に幼げな顔立ち、瞳の色は何色なのだろう。不思議なエネルギーを感じる女の子。でも不快感は驚くほどに感じることはなかった。
余程疲れているのか起きる気配は全くなく、よく寝ている。私は彼女をそのまま寝かせて、水撒きに行って、起きたら食べてもらおうとスープを作る。
スープの匂いで気付いたのか起きた様子。部屋の様子を伺う彼女に話しかける。
声に反応にしてこちらを見た。二重でぱっちりした綺麗な瞳の女の子が私を見つめて固まっている。気になった瞳の色は黒、あ、でも薄っすら茶色だ。
ようやく言葉を口にしたと思ったら、耳障りのいい可愛い声で私のことを綺麗と呟いた。そして天使様とも、流石に天使様は初めて言われて、恥ずかしいと思いつつ素直に嬉しかった。
そして我に返った彼女はとても丁寧で、申し訳なさそうに助けたことにお礼を言ってきた。私の話し方も気にしていない様子、初対面の人は大体私の話し方に戸惑ったり馬鹿にしたりするんだけどな。言葉使い含めて私のことを綺麗だとすんなり受け入れてくれているのを感じた。
彼女の名前は佐伯美琴。明らかにこの世界の住人ではない。
美琴の傍らにいる金色の猫も普通の猫ではない。美琴と強い力で繋がっているのを感じる。悪いものではないみたいだから問題はなさそう。
美琴は少し自分に自信がないのみたいで控えめなタイプ。でもスープを食べるか聞くと瞳を輝かせて嬉しそうな返事が返ってきた。
私の作る料理な何故か美味しくないことは自分でもよく知っているけど、それを黙ってスープをテーブルに置く。案の定、美味しくなかったみたい。私に気を使って一生懸命になっている姿は可愛くって笑てしまった。ちょっと楽しい。
スープも完食してくれて、嬉しくてつい頭を撫でてしまった。
美琴の緊張が解けたのを感じた。私に対して安心しきっている、信頼してくれるのは嬉しいけど、こんなに簡単に警戒を解くのは問題だと心配になるけれど、素直で純粋な子に懐かれるのは悪い気がしないなと思った。
落ち着いてから、美琴のことを聞いてみると案の定、異世界からこの世界に呼ばれて来たと話してくれた。それも、まさか召喚で呼んだのは私の兄アインスだったとは。
兄は自分の闇を暴走させて、この世界を壊そうとした。尊敬もしていたし大好きだったのに、悩んでいることがあるのなら相談してほしかった。兄の支えになりたかった。
でも、私が兄の後を追うのをやめたせいで兄の心に闇が深くなっていることに気付けなかったのはいまでも後悔している。
兄と私は、このレピアス王国の王子として生を享けた。兄は私の二歳年上で優秀で何でもそつなくこなし、教養がとても深い。幼い頃から王政にも携わっていて父からの期待を一身に受け、次期王として完璧だった。そんな兄に追いつきたくて、私も沢山のことを学んでいった。でも、父は私には全く興味を示さず、兄さえいればいいと言う感じだった。
そんな私を気遣って母は一緒にお茶に誘ってくれたりよく話しかけてくれた。母の部屋で、母がドレスやアクセサリーを侍女達と楽しそうに選んでいるのを見かけてから、私もいつしか興味を持つようになっていった。可愛いもの綺麗なもを見ていると心が休まって癒されることに気が付いた。だから兄の後ろを追いかけることはやめて、私は自分の感情のまま好きだと思うことにのめり込んでいった。
私は父に認められず兄を追いかけていた時よりも、いまの方が、好きなものに囲まれていることが幸せだった。だけど周りからは男のくせにと影で言われるようになっていった。私が第二王子だから直接非難されることはなかったけれど、その頃、私には人の感情を感じとる能力が強くなっていて人の感情が自分の意思とは関係なく伝わってきてしまって、すごく辛かった。それでも何を言われていようが私は自分の好きなことをやめることはできなかったし、打ち込んでいる間すごく幸せだったから。
そして、その頃から、父や兄の自分への想いを知ることが怖くて近づくことすら避けるようになった。
それと同時期に私は話し方も変えていった。人が自分を着飾るのは武装するのと一緒、だから私は私を守る武器として話し方を変えた。そして他人の感情を感じてしまうことを自分の意思でのみ使えるように必死にコントロールできるようにした。
能力を完璧にコントロールが出来るようになった頃には、私のことを理解してくれる人も増えていって侍女や、デザイナー関係の人などと仲良くなっていった。
それでもまだ陰口をたたく者もいたけれど、私は気にせず男だからといって隠すことなく自分の好きなことをやり続けた。
そのことが余計に父や兄との溝を深めることになったが、そのときの私はもうそんなことはどうでもよかった。
だから美琴が初対面なのにも関わらず、女言葉を話す私もこの私の好みで飾られた家も否定することなく綺麗や可愛いなどと私と居て安心するからここで働きたい。一緒にいたい。と言ってくれたことが嬉しかった。美琴の言葉はこっちが恥ずかしくなるくらい、素直で、真っすぐで、私の心を温かくしてくれた。
だから私は美琴と一緒にいたいと思った。料理ができることに惹かれたのも大きいけれど、美琴が私の言葉で涙を流したように私も美琴の自然な態度に救われた、私自身が自分の人生を否定しなかったことを認めてもらえた気がしたんだ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。