episode3. 結婚
むかしは、いつか私を愛してくれる人と結婚して幸せになりたいと思っていた。私が愛している人と、ではだめだ。それでは愛されなかったとき、お母様みたいになってしまう。私を一途に想ってくれる人がいい。そう思っていたのに。
私は今、真っ白なウェディングドレスに身を包み、心底嫌そうな顔をした男性と腕を組んで教会から出てきた。公爵家同士の結婚式だ。それはそれは華やかで、市民たちもお祭り騒ぎ。まるで茶番だ。
私の夫となったフランツは誓いのキスさえしなかった。体面を保つため、キスをするふりをしただけ。望んだ結婚ではなかったとはいえ、少し結婚式に胸を躍らせていた自分がバカみたいだ。それでも、私にも矜持というものがある、惨めな姿を周りにさらすのは我慢ならなかった。だから、私は幸せそうな顔をして微笑んだ。
結婚式の後、私は初夜に向けて全身を磨かれた。フランツのことは別に好きでも嫌いでもない。ただ、なんとも思ってないだけ。それでも、初めてのことに私は緊張してドキドキしていた。ベッドの上で一人、彼が寝室に来るのを待つ。部屋は嫌なぐらい静で、心臓の音だけが、ただ私の耳に響いていた。さすがのフランツも、翌日確認があるため初夜をやり過ごすことは無理だとあきらめようで、不機嫌さを隠すことなくやってきた。
「私は義務だからあなたを抱くだけだ。私に愛されるなんて思わないでくれ。こっちはおしつけられて迷惑しているんだ。」
彼のことは何とも思っていないはずなのに、その言葉にひどく傷ついた。
彼に抱かれながら、ただただ心と体か冷えていく。虚しすぎて涙も出ない。私は別に、貰ってくれだなんて頼んでない。そんなに嫌なら追放でもなんでもしてくれればよかったのに。