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episode2. 過去2

 私の生まれたラストービリア公爵家はピヴワヌ国の4大公爵家の一つだった。

 

 ピヴワヌ国は王家の光を筆頭に、雷、氷、地、闇の5大属性の魔法が高位貴族の特徴として現れる。

 ラストービリア公爵家はそのうちの雷属性を代々受け継いでいる。

 

 王都の邸宅に移ってからさっそく私の魔力測定が行われた。私は自分が雷属性であることを疑っていなかったし、お父様もこればかりは平民の血を引く娘より、由緒ある公爵家と侯爵家の血を引く私の方が期待できると思っていたらしい。

 

 神殿へ向かう中、久しぶりにお父様から言葉を掛けられた。


 「お前は私の娘だ。心配せずとも雷属性であろう。失望させるなよ。」


 結果がどうであったかは、流れからしてわかるだろう。

 私は雷属性を引き継がなかった。それどころか、魔力は存在するのに属性自体がなかったのだ。属性がない。それはすなわち魔法陣がなければ魔法が使えないことを意味する。この世界では、どれだけ魔力が少なくとも、平民でさえも属性を持つ。属性が存在しないなど、前代未聞のことだった。魔法陣がないと魔法が使えない。それは屈辱的なことだった。

 

 「これだからあの女の娘は。我が家門の恥さらしね。」


 「お前に少しでも期待した私がばかだった。」


 祖母にもお父様にも心底幻滅した顔をされ、継母と妹は嘲笑うように私を見ていた。それからさらに私の扱えはぞんざいになった。

 それでも一応、私は公爵令嬢としての扱いは保証されていた。だが、私は彼らにとって透明人間だった。食事は一緒に取るが、私だけ長いテーブルの端っこで豆だけのスープに薄いパンだった。家族でのお出かけに連れて行ってもらったことはない。ドレスを商会に頼むときも、私には似合わない既製品が届けられるだけ。公式的なお茶会などは強制参加させられたが、移動中の馬車の中は針の筵だった。


 それでも、家庭教師はつけられていたし、必要最低限のものは与えられていた。ええ、本当に最低限だけね。私はあいつらを見返したくて、必死になって頑張った。属性魔法が使えないため、既存の魔法陣を活用して魔法を使えるよう研究もした。私は魔力だけは桁違いにあったから、それをそのまま薄い膜のようにまとわせて結界として活用する方法も編み出した。そのかいもあって、私は12歳のとき王太子殿下の婚約者に指名された。


 初めての顔合わせの日、この世にこんなにも美しい人がいるのかと驚いたことをよく覚えている。

 それに、彼はとても紳士だった。

 

「アナベル・ラストービリア公爵令嬢、お会いできて光栄です。」


 そう言って、彼は優しく私の手を取り口づけを落とした。私は舞い上がった。こんなにも素敵な人が、私の将来の夫なのかと。フッ、今思えば明らかに社交辞令だとわかるのに、馬鹿らしい。

 

 それからだ、今まで私の存在なんか無視してたくせに、義妹のシャーロットが私のものを欲しがるようになったのは。どうやら彼女は自分より私が目立つのが嫌らしい。そんなこと知らんがな、勝手にやってろ。と今なら思うのに、あの時は非常に腹が立った。


 私は王太子殿下の隣に立つ者にふさわしくあろうと、今まで以上に勉強も、マナーも、妃教育もがんばった。学園に入学するころには、私の右に出る者はいなかったし、社交界でも淑女の鏡だと認められていた。妹が学園に入学してくるまでは良かった。私は妃教育と両立させるため、王宮に近い学園の寮に入っていたから、あの窮屈な家にいる必要もなく、妹にものを取られる心配もなく、ただ私を認めてくれる人達のそばで過ごせた。

 

 反省するとしたら、少し調子に乗りすぎた(後悔はしていない)。妹は貴族になってもう何年もたつというのに、いまだにマナーが成っていなかった。だから、学園に入ってきた当初は皆に眉を顰められていた。私はここぞとばかりに妹の不出来さを咎めた。


「そんな風に口をあけて笑うなど、はしたない。」


「いきなり殿方の身体に触れるなど、貴方はマナーというものを知らないの?」


 間違ったことは言っていない。多少、私怨から口調が嫌味ぽくなってしまったのは認めよう。だが、もう一度言う、間違ったことは言っていない。それなのに、殿下も、その側近方もシャーロットの味方をした。


「アナベル、どうしてそんなにシャーロットを責めるんだ。ここは学園なのだから少しは大目に見てやれ。」


「アナベル、お前は嫉妬深い奴だったんだな、失望した」


はあ?何それ?

ここは学園だから?本気で言ってるの?


 そんなこんなで、気づいたら私が悪者になっており、シャーロットに婚約者を取られた令嬢たちがしていた嫌がらせも、なぜか私の指示のもと行われていたことになっていた。それからはあっという間だ。卒業のパーティーで私は断罪された。


「アナベル・ラスト―ビリア、貴方には失望した。貴方は王太子妃にふさわしくない。よって、ここに婚約破棄を宣言する!」


 この場に弟もいたが、もちろん私をかばってくれるはずもなく、私は婚約を破棄された。


 このころにはもう諦めた。私が、周りから認められたと調子に乗ったのが悪かったのだ。私が、人から求められたいと願ったのが分不相応だったのだ。と。だから私は覚悟した、処刑でも、国外追放でも、修道院でも、もうどうでもいいやと。

 

 が、あろうことか、王太子は私に側近のうちの一人と結婚するよう言ってきたのだ。


 頭大丈夫か?いや、失礼。


 大丈夫だからこその判断だろう。私はれっきとした公爵令嬢。妹は所詮平民上がりだ。いじめぐらいで私を罰することはできない。それに、いくら属性魔法が使えないとはいえ魔力が桁違いに高い私を手放すのは惜しかったのだろう。魔力が高く、妃教育も終え、王家のことを知っている私を放逐することはできない。かといって殺すこともできない。ならば、自分の手のうちの者に監視させようということだろう。それに、恋敵を一人でも減らしておきたかったという王太子の思惑でもある。


 そうして私は断るすべもなく、宰相閣下の息子、フランツ・ブッドレア公爵令息と結婚することになった。








※下級貴族には風や火、水属性が多い。平民は木属性がほとんど。




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