episode1. 悪役令嬢の過去
元悪役令嬢は唐突に気づいてしまった。
あれっ?私って何も悪くないよね!?と。
元悪役令嬢ことアナベル・ブッドレアは、1年前婚約者であった王太子に婚約を破棄された。その理由は義妹をいじめたこと。よくある流行りの恋愛小説と同じ流れだ。婚約破棄をされてからアナベルは自分の行いを恥じて反省してきた、が、よく考えてみると自分は何も悪くないのだ。むしろ、私の方が被害者である。昔からアナベルは義妹に何もかも奪われてばかりだった。
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アナベルの両親は政略結婚で結ばれたが母は父を心から愛していた。一方、父は政略で決められた結婚相手である母を疎ましく思い、いつもどこかへ出かけては家に帰ってこなかった。母はもともと体があまり強くなく、おとなしく優しい人だった。祖父は母を気に入っていたが、祖母は母を異常なほど嫌っており母はいつも祖母から嫌味や嫌がらせを受けていた。それでも、祖父が生きていたうちはそれでよかった。
祖父が亡くなると、祖母は母をこれでもかというほど苛め抜いた。
「あなたは公爵家の人間にふさわしくないわ。どうしてそんなにのろまなのかしら?ほんと貴方を娶らなければならなかったオスカーが可哀そうだわ。」
「あなたは公爵家の恥じよ、外に出ないで頂戴。」
しまいには、4歳になる弟を母が育てると穢れるだとかよくわからない理由で取り上げ、王都で自分が育てると連れて行ってしまった。
そうして6歳の私と母は領地に押しやられ社交界に顔を出すことは許されなかった。そんな時、父の愛人が子どもを産み王都で一緒に住んでいるという噂が届いた。父の愛人は平民でその子供はもう3歳になるのだとか。母はだんだんと心を壊していった。
「なぜ、私はオスカー様に愛されないの?なぜ、平民である愛人は認められているのに私は認められないの?なぜ、私の子どもなのに取り上げられないといけないの?」
私は少しでも母の心の支えになれるよう必死で淑女教育を頑張った。私が頑張れば、祖母も少しは母を認めてくれるのではないか、そう思った。そんな想いもむなしく、私たちが顧みられることはなかった。
私が10歳になったころ、母は病で帰らぬ人となった。
そこからが私の地獄だった。
母が亡くなってから私は王都に移り住むことになった。私は敵地へ身一つで放り込まれたも同然だ。それでも、久しぶりに弟に会えると思うと嬉しかった。引き離されてから一度も会っていないから、4年ぶりの再会だ。
久しぶりに会った弟に抱擁をしようとして投げかけられた言葉を今でも覚えている。
「触るな!穢れる!」
心底嫌そうな顔をして突き飛ばされた。ショックすぎて涙も出なかった。そんな私を見て、フッと笑った祖母の顔が記憶にこびりついて離れない。
父は愛人を邸宅に住まわせるなんてことはさすがにしていなかったみたいだが、愛人とその子供をよく邸宅に遊びに連れてきていたみたいだった。母が亡くなって1週間もしないうちに、愛人とその子供も邸宅に移り住んできた。父と後妻、弟と義妹が並ぶ姿を見て私は理解した。ああ、私の居場所はないんだ。彼らにとって私は家族ではないんだ、と。