バトルロイヤル:閉幕
イベント終了です。
光が晴れるとそこは今までいた石橋の上ではなく、ソファにローテーブル、その上にはお菓子に飲み物と、まるで応接室のような部屋に移動していた。
そしてその部屋には私の他にもう一人、おそらくユフィちゃんのお仲間さんがいた。
「勝ち残りおめでとうございます。見事最後まで生き残ったクリスティーナ様には他のフィールドが終わるまで、しばしこの控え室でお待ちください。それといくつか質問がありますのでご回答をお願い致します」
「ええ、わかったわ」
「あっ、失礼しました。席についていただいて構いません。そちらのお菓子とドリンクもご自由にどうぞ」
「ありがとう。いただくわ」
お言葉に甘え席に着くその時になって、ようやく自分の左腕が治っているのに気がついた。それだけでなくHPもMPも、さらには装備の耐久値まで戻っていた。
それをちらっと確認し、折角だからと注がれていた紅茶らしき飲み物を口にした。
うん、おいしい。
「では、質問を始めます」
質問というのはなんてことはない。この後全十フィールドの勝者をイベント用の街、イベンタウンのステージでお披露目したいのだが出てくれるかと言うお誘いと、今回のイベントをまとめた新しいMESO紹介動画に私の戦闘の映像を含んでもいいかと言うものだった。
この後のお披露目会には参加すると返答し、映像に関しても十あるフィールドの全ての映像をまとめるとなると、一瞬しか映らないと思うので問題ないと返した。
「ありがとうございます! 紹介動画が出来た際はぜひご覧ください! それとお披露目では、いくつか質問されるかもしれませんが、言いたくなかったら拒否しても構いません」
「わかったわ」
「もうすでに戦闘時間は終わっているし、クリスティーナ様は最後の方だったのでじきに始まると……、あっ、はい、わかりました。……クリスティーナ様準備が整いました。転移してもいいでしょうか」
「ええ、いいわよ」
「では、こちらで立って少々お待ちください」
「飲み物、おいしかったわ。ありがとうね」
「あは、こちらこそありがとうございます。では転移いたします」
名も聞かなかったAIちゃんがそう告げると、私の視界がぱっと切り替わった。
「……各バトルフィールドで勝ち残った栄えある十人の来冒者は! こいつらだぁ!!」
『わああああ!』
『うおおおお!』
それと同時に大音量の歓声が私の脳だけに留まらず体全体を揺らした。
転移した先はイベンタウンの広場のステージの上で、広場には所狭しと何人ものプレイヤーがひしめき合っている。
あっ、アシュリー達も一塊になって私を見ている。
それに手を振り応えながら、左右を見ると初めに司会をしていたGMの二人と、九人のプレイヤーが私と同じように立っていた。どうやら全員これに参加しているようだ。若干一名、人以外の存在もいるが。
盛り上がる声が少しトーンダウンしたところで、今も司会をしている津田沼さんが話を続けた。
「盛り上がってるな! では順番に紹介と行こう! まずは知ってる人も多いであろう。攻略の最前線にいるパーティーのリーダーにしてエース! 防御も攻撃も頭の切れもいいまさに最強の騎士! ガウェイン!」
「その素早さは電子の速度!? 最後の最後までフィールドを駆け回り、僅差で勝利を手にした最速の男! ちょっと通りますよ!」
「橋の下に隠れ続け、最後に生き残った一人をアンブッシュしたニンジャ! 汚いさすが忍者きたない! 忍丸!」
津田沼さんは彼らの特徴や情報、今回のイベントでの立ち振る舞いを交え三人の紹介をする。これには会場は大盛り上がりだ。
ガウェインさんと呼ばれた男性は、説明通り頭以外を金属の鎧で覆った騎士風のイケメンだ。右手には綺麗な剣を、左手には半身を隠せる程の盾を持っている。彼は紹介に合わせ剣を高く上げ、観客達に応えていた。
それだけで歓声が黄色い物に変わるほどだ。
続いて紹介されたのは『ちょっと通りますよ』というふざけた名前の男性だ。この男、名前だけでなく格好もふざけていた。
全身タイツのようなぴったりした白の服装に、スンとした顔文字が描かれた仮面を被って、今も何故か微妙に傾いたまま微動だにしていない。
こんなのと並べられると少しばかり不快になるが、こんなのでも実力があるのだろう。
私の隣にいるのは忍丸さんと言うらしい。名前も見た目もそのまんま忍者だ。他のVRゲームでも必ずと言って忍者の格好をする人はいるが、大半はネタで終わっていたので忍丸さんのように実力がある人は初めて見た。
……紹介文的に本当に強いのかは疑問だが、彼はその紹介にむしろ嬉しそうに一礼した。
そして次は私の番になった。
「こちらも知っている人は多いだろう! 可憐なドレスを身に纏い従順なメイドを従えるお嬢様! その名もクリスティーナ! まさかあの絶体絶命の状況から逆転するとは俺でも思わなかった! 痺れたバトルだったぜ!」
私の紹介が終わると、ドッと一段大きな歓声が上がった。
その事に内心驚きながら、観客に混じっているうちの子達を見ると、ベルとセルは嬉しそうにピョンピョンと飛び跳ね、デクスとジェフはうんうんと頷いている。フランクは大げさに、グレンとヘクターは一般的に、アイリスはのんびりと拍手をし、エイダはケイトと手を取り泣きながら手を振っていた。
そしてアシュリーは、笑顔で拍手をしながらも、大粒の涙を流していた。
それを見た私は気持ちを抑えることが出来ず、意見を主張した。
「GMさん。勝者を一人お忘れではなくて? 是非こちらに呼んでいただきたいのだけれど」
「ん? もう一人? ははーん、なるほど。こりゃ失礼、確かに忘れていた!」
私の訴えに初めは難色を示したが、すぐに言いたいことが伝わったらしく、少し空中を操作する素振りを見せると、観客に向けて口を開いた。
「俺としたことが一人紹介を忘れていたぜ! では紹介しよう」
そこで一旦区切り、パチンと指を鳴らすと、広場にいたアシュリーが私の横へ転移してきた。
「彼女の活躍があったからこそ主人は生き残れたのだろう! お嬢様の従順な盾にして可憐なメイド! アシュリー!」
「えっ? なっ? えっ?」
いきなりステージに上げさせられたからアシュリーは大分混乱している。まぁ少し酷だが、私はどうしてもアシュリーのことを他のプレイヤーに紹介したかった。
生き残れたのは私だけではなくアシュリーと共に手に入れたのだと、私には素晴らしい家族がいるのだと。
「アシュリー」
「はっ! クリス様、どうして私がこっちに……!」
「この勝利はあなたのおかげよ。ありがとう」
「えっ?……はい!」
思えば勝ってすぐに転移してしまったから、まだ言えずにいたが、今やっと喜びを共感することが出来た。
それから私はカーテシーをアシュリーは洗練されたお辞儀を披露し元に戻ると、津田沼さんは次の紹介に移った。
「さて次だ! おまえよくも徹夜して考えた石橋を壊してくれたな! だが見てる方は大盛り上がりだった、ありがとう! 魔法使いメラメラ!」
それからも津田沼さんによる紹介は続いた。そのどれも印象的で一癖も二癖もありそうなプレイヤーばかりだった、とだけ言っておこう。
その中でも気になったのは私以外の魔物型プレイヤー、フェアリーのティンクルさんだ。全長でも私の頭くらいと小さく、背中からは蝶のような羽が生えて宙に浮いている。
津田沼さんの説明によると、超上空からの魔法の乱れ打ちで勝ったそうだ。地上からの攻撃はひらひらと躱しまくっていたらしい。
「以上でバトルロイヤルを勝ち残った強者達の紹介は終わりだ! 今一度盛大な拍手を送ってやってくれ!」
広場からは今日一番の歓声と拍手が鳴り響く。街全体が震えるほどの音が私達へ浴びせられた。
鳴り止まぬ歓声の中、津田沼さんが成田さんのフォロー入りで続けた。
「ありがとう、ありがとう! それじゃあお待ちかね。報酬についてだが! 皆に送られるのは今日のイベントが終わったら、つまりは今日の日付が変わってからの配布になる。報酬はメールに添付される! 期限の一ヶ月以内に忘れずに受け取れよ!」
「なおそのメールと同時に順位の詳細と今度作るPVについての説明、またアンケートがございますので、よければそちらもご覧ください」
「これで初のイベント『生き残れ! バトルロイヤル!!』を終了する! この街は日が変わる直前まで自由に出入り出来るから、最後まで楽しんでいってくれ! 以上GMの津田沼と……」
「成田でした。また次回のイベントでお目にかかりましょう」
そう言って深くお辞儀をした二人はプレイヤー達の拍手の中、来たときと同じように一瞬で消えていった。
「終わったわね」
「終わりましたね」
「さて、と。落ち着くまでここにいるのもいいけど、皆を待たせちゃ可哀想だから私達も行きましょうか」
「はい!」
こうして初のイベントは私とアシュリーの勝利という華々しい結果で幕を閉じた。
この後私がログアウトするまで、イベントを見ていたうちの子達だけじゃなくドドドンさんやオトメちゃん、ネコーニャやポチに弟のカエデまでやって来てはあれこれと話に花を咲かせた。
ログアウトしてベッドに潜り振り返る。
色んな意味で賑やかなイベントが終わり、結果も残せたこともあり非常に満足している。同時に普段通りに戻ることに少しの虚しさとレベル上げなどから解放された安堵感もある。
明日からは強くなることに縛られず自由に遊べる。
さて、明日は何をしよう。
次回は11月3日の予定です。




