バトルロイヤル:決着
本日二話目です。
分割してもまだ長いという罠。
いよいよあの剣士に、今も石橋の上でプレイヤーを切り捨てた剣士に挑む時が来たようだ。
「間違いなく強敵よ。全力で挑むわ」
「この身が朽ちてもクリス様をお守りします」
ラストステージである石橋は、幅二十メートル全長百メートルほどもあるそれなりに大きな橋だ。
百メートルと言うことは壁が最小まで狭まると残る陸地はこの橋だけになるだろう。
運営はどうしても一騎打ちをさせたいらしい。
「次はあなた方がお相手か。サモナーの相手は初めてだな。よろしく頼む」
私達が橋の中心の近くまで来ると、剣士の男は静かにそう言い放った。
その男の容姿は焦げ茶の髪に黒の瞳、引き締まった体で身長は百八十くらいだろうか。身につけている装備はまさに剣士。防具は重い金属の物では無く、何の魔物かは知らないが何かの革を元にした革鎧を身につけている。手に持つ物は剣一本のみで、その剣も飾りっ気のないロングソードにしか見えない。
見た目だけで言えば他のプレイヤーの方が強そうではあったが、今まで何人ものプレイヤーを倒してきた彼の姿を嫌と言うほど見てきたので、見た目通り弱いなんてことはまずないだろう。
「ええ、こちらこそ。私はクリスティーナ。彼女は私の一番の従魔のアシュリーよ。あなたは?」
「おっとこれは失礼。俺はガンテツだ。ふむ、残りは俺含め三人か。時間も長くはないので早速で済まないが、始めようか」
「まぁそう言うイベントだものね。アシュリー、わかってるわよね」
「ええ、出し惜しみはしません」
一定距離を保ったまま、両者は武器を構えた。
ガンテツは正面に剣を据え、剣道で、いやゲームの初心者でも剣ならこう持つだろうと言うよく見る形をとった。
対するアシュリーは両手に盾を持ち軽く腰を落とし防御も受け流しも回避も対応できるような姿勢をとった。そして、私は右手に短剣を持ち左は糸を伸ばしておき、さらに奥の手もバレないように使っておく。
「ほう、両手に盾を持つか、面白い。従魔なら召喚主を倒せば終わるが、その障害すら突破して見せよう。では……、参る!」
そう告げると、真っ直ぐにアシュリーに飛びかかり上段から振り下ろした。
アシュリーはそれを半身をずらし盾で滑らせることで受け流した。ように見えた。
「甘いぞ! スラッシュ!」
だがガンテツは受け流されたそのタイミングで【剣術】のスラッシュを使った。すると本来あり得ない、振り下ろした速度が落ちることなく直角に曲がり、アシュリーに襲い掛かった。
「アシュリー!」
「えっ? くぅ! だ、大丈夫です」
「ほう、良く防いだな」
ガンテツの剣がアシュリーのお腹に容赦なく叩き込まれるすんでの所で、アシュリーは受け流したのとは別の盾をドール特有の関節を無視した動きで無理矢理動かし、何とかお腹より先に盾をぶつけることが出来た。
その衝撃で吹き飛ばされたとは言え、盾も含め一応は体を欠けること無く今の一撃をやり過ごすことが出来た。
「アシュリー、平気なのね?」
「はい。だけど、予想以上にあの人は強いです。見ていたときより剣が遅く感じたので何かあると気づけましたが、それでもこの威力の攻撃は何度も防ぐことは出来ないと思います」
「そう、少しは計れたかしら。とりあえず繋いでおくわ。それと次からは私も動くわよ」
「お願いします」
アシュリーに【糸操り】を発動し、力の底上げをしておく。
「相談は終わったか。なら、続けるぞ!」
ガンテツは今度は剣先をこちらに向けるとそのまま突進してくる。狙うのはやはり私ではなくアシュリーだ。
普通ならこの突きをアシュリーが受けることは出来ないはずだ。いくらスラッシュが通常攻撃よりは強い技と言えど、腕だけで放ったスラッシュと今の全身使った突きとではこっちの方が威力が強いからだ。
だが今のアシュリーは普通ではなく【糸操り】で私のステータスが減った分強化されている。
その結果、
「避けないか。ならばそのまま押し通る!」
「させません!」
アシュリーは一つの盾を両手で構えることでガンテツの突きを正面から防ぎきった。
「なんだとっ!」
「よくやったわ」
一度目の攻防で防がれることはあり得ないと思っていたのか、ガンテツは驚愕をあらわにその動きを一瞬止めた。
その隙を見逃すほど私は甘くない。
アシュリーが防ぐことを信じていた私は、剣と盾が触れる一歩前にはアシュリーの背後から飛び出していた。
そして、ガンテツの側面に回ると伸びきっている左腕を斬りつける。
「くっ!」
「浅い……」
切り落とすことは出来なくとも二の腕に深い傷を負わせられると思ったが、ガンテツはギリギリで身をよじり、皮膚を切るにだけに留まった。
しかし私達の攻撃はこれで終わりではない。
「マスク」
「んっ? むぐぅ!?」
「ハードバッシュ!」
「ぐっ……、舐めるなぁ! スピンスラッシュ!」
ガンテツがこちらを見て意識が私に向いたその時、背後からマスクを発動した。
これは私が飛び出したときと同時にアシュリーを迂回するように反対側に伸ばしていた糸を使って発動させた。
油断してはないだろうが初めての糸での攻撃なのでガンテツは気付くことが出来ずにまんまと拘束できた。だが糸による攻撃があると気づかれてしまうと、彼ほどの実力だと二度目は通用しないかも知れない。
だから今のうちにダメージを稼いでおきたいから、アシュリーの【盾術】の技、ハードバッシュに続けて再度左腕に攻撃する。
だがまたもや深く傷つける前に回転斬りのような技を放ち、私達が追撃できないでいるうちに顔の糸を引き千切ってしまった。
「まさか糸による攻撃があるなんてな……。油断した」
「ダメージは、微々たるものね」
「ごめんなさい。私が回転した剣を止めておけば」
「気にしないで、まだ始まったばかりだから」
「そうだな。まだ始まったばかりだ。次からはその糸にも気をつけて戦わないとな」
「あら、乙女同士の会話に入らないでくださる」
「おっとすまんな」
冗談半分で苦言を呈すと真面目に謝られてしまった。心まで剣のように真っ直ぐな男なのかしら。
まぁそれよりもやはり糸による不意打ちはこれで通じなくなると考えた方が良さそうだ。下手に魔法を使っても魔法ごと斬られそうだし隙を見せるだけになりそう。
となると正々堂々と戦うしかないか。二対一を正々堂々と言うならば、だが。
「行くわ!」
「行きます!」
「来い!」
私とアシュリーは横並びになり同時にガンテツへ攻撃を仕掛ける。
ガンテツがそれを通すはずもなく、どちらともなく横薙ぎに剣を振る。それをアシュリーが前に出ることで何とか食い止める。その間に私は短剣の届く距離まで近づき、一撃を加えて離脱する。そうしなければアシュリーよりも前に出ているから不意の攻撃に対処できないからだ。
接近してはアシュリーが攻撃を防いで、私が攻撃し、離脱する。接近して防いで攻撃して離脱。これをすでに何巡かしている。
もちろんガンテツも一方的にやられているなんてことはなく、フェイントを入れたりスキルを使ったりと、アシュリーにも少なくないダメージを与えている。
アシュリーの隙を突いての攻撃もあったが、【糸操り】を使っているので咄嗟に私がアシュリーを動かすことで何とか回避したこともあった。
反対にガンテツの隙を作ろうと糸や投擲で妨害したりちょっかいを出しているが、そんな小細工は今の所通じていない。
「アシュリー平気?」
「何とか。でも正直かなり厳しいです」
「こちらの決定打不足ね。斬ろうにも突こうにも紙一重で躱され、チマチマとしたダメージしか与えられないわ。だからこそ、そろそろ決め時かしら」
「いかがなさいますか?」
尋ねるアシュリーに私は一言だけ酷な注文を伝える。隙を作って、と。
「それは、難しいですね。でも絶対に成し遂げて見せましょう」
「……頼んだわ」
アシュリーは難しいと言いながらも決意を秘めた優しい顔で了承してくれた。
その顔の裏にある覚悟を繋がっている糸から感じながらも、私はそれに頼った。
「なかなかしぶとい。だがこのまま続けていけば俺は負けない」
「そうね。だけど私達も勝ちを譲るほど潔くはないわよ」
「上等だ」
もう何度目かになる攻防が始まった。繰り返す度にまともに戦っては私達が勝つことは不可能だと言われているような錯覚すら覚える。
だからこそ、これ以上アシュリーが消耗する前に隠し手を使いたいのだが、このタイミングで、
「な、なんで!? 盾が!」
「やっと耐久値が尽きたか! そこだぁ!」
私よりもアシュリーよりも、先に攻撃を受けきっていた盾の耐久値が、尽きた。そのせいで破壊こそイベント中故起きないが、防御性能が格段に落ち、ガンテツの攻撃を受けきることが出来なくなった。
それを狙っていたかは知らないが、素早く反応したガンテツは一度剣を引き戻すと、体全体を捻り斜め上に打ち出した。それはまるで、抜刀術だ。
高速で飛来した剣は、盾が機能しなくなったことで衝撃を受けられず、体勢を崩したアシュリーの首を、迷うことなく、両断した。
「これで盾は……」
「アシュリー……」
アシュリーの頭が落ちていく。これでガンテツはアシュリーから私へその鋭い視線を移した。
アシュリーが倒れたと思い込んで。
「……よく頑張ったわ」
「な、何故っ!?」
首無しになったアシュリーは、それでも倒れることも消えることもなく剣を振ったばかりのガンテツの腕にしがみついた。
私達ドール種は無生物種や不死者種に部類される。そのためたとえ頭を失おうと、核となる魔石があれば、僅かの間なら動くことが出来る。
だだ頭が取れると魔力が脳に回らなくなり、頭にある魔力が尽きれば体を動かすことが出来なくなる。なので結局は頭を落とせば倒したことになるのだが、ゲーム的にもすぐに消失することはなく少しだけ存在し続ける。
これを知ったのは最初も最初、朽ちたドールの首を落としたときまで遡るが、自分達がそれに陥ったのは今が初めてだ。どうやら上手くいった。
これには流石のガンテツも心底驚いたのか今までにないほど狼狽している。
ならばもう少し驚いてもらおう。そのチャンスをアシュリーが作ったのだから。
「急所突き!」
軽くパニック状態になったガンテツにアシュリーのお返しとばかりに、首を狙い【短剣術】の急所突きを発動する。短剣が技の効果もあり首めがけ鋭く突き進んでいく。
だがガンテツは、腕に組み付くアシュリーを振り解くのを止め、回避を優先したことで、右腕から放たれた突きを薄皮一枚斬るだけに留めてみせた。
「っ! 危なかっ……」
「まだよ」
「……はっ?」
今までのやり取りならここで離脱するところだが、私はここで、アシュリーが決死の覚悟で造り出したこの時に、奥の手を解放した。
ガンテツから見たらどう見えているのだろうか。
首めがけ突き出された短剣を何とか回避したと思ったら、突きを放ってきた女の背後からもう二本の腕が自分の顔めがけ突きを放ってくると言う光景は。
「しっ!」
「がぁああ!」
今の今までイベント中も、ましてや普段街にいるときでさえ隠していた背後の一対の腕を今、解放し、ガンテツに突きを放った。
その突きに彼は対処しきれず、右目を失い左頬を抉り左耳が斬られた。
しかし、流石と言うべきか、その状態でなおアシュリーの体ごと腕を振るい私をアシュリーごと突き飛ばした。アシュリーの体が先に当たったため私が両断されることはなかったが、たったこれだけの攻撃で私のHPがグンと減ってしまった。
共に飛ばされ今も消えかかっているアシュリーの体を静かに下ろすと、真っ直ぐにガンテツを見据える。彼もまたこちらを見ていて、その片方だけになった瞳にはさっきまであった余裕は消え、激しい闘志がはっきりと映っていた。
「まさか、こんな手が残っていたとはな。予想すら出来なかった」
「そうでしょうね。これはまさに奥の手よ。これを見せたプレイヤーはあなたが初めてよ」
「そうか。だが今ので俺を倒せなかった事は後悔することになるぞ」
「……そうね」
そう、なぜならガンテツは右目こそ失ったが、残る体は元のままで、視界の差こそあれど変わらず剣を振るうことは出来るだろう。
対して私はアシュリーという壁がなくなり、彼の攻撃を全て対処しなければならない。それも今までよりも明確に私を狙ってきている剣をだ。
つまりこれからは正真正銘一対一の勝負をしなければならず、そうなった場合どちらに軍配が上がるかは考えなくてもわかるだろう。
だが、だからと言って、ここで諦めるのは身を挺してくれたアシュリーにも、今も応援してくれているかもしれないうちの子達にも、主としての示しが付かない。
だからこそ最後の最後まで、勝つために手段を講じる。
「もうそこまで時間もないな。次で終わりにしよう」
「そうね。勝たせてもらうわ」
「ふっ。……覚悟っ!」
「……っ!」
私もガンテツも同時に飛び出した。
ガンテツの構えは初めと同じ剣を正面に据えた剣道のような構え。
私は右側の二つの腕と左側の後ろの腕の三本に短剣を持ち、残った本来の左腕で糸を操る。
「おおぉ!」
短く雄々しい声を上げながらガンテツが剣を振り下ろす。
武器の長さの関係上私が彼を倒すにはこの剣をくぐり抜け懐へ行かなければならない。だがそんなことは彼もわかっているはずだ。だからどこへ回避したところで、彼ならばきっと対応し私を斬るだろう。
ならば、回避など初めから捨ててしまえばいい。
ゆっくりになる思考の中で振り下ろされる剣より速く、さらに一歩斜め前に出る。
これで私の左肩から先はなくなるだろうが、懐へ入ることができ、二つの短剣を突き刺すことが出来る。
「やっぱりな」
そう確信したとき、ガンテツの呟きがやけに大きく聞こえた。
そして剣が左肩に当たり、後ろの左の副腕が切断され、本来の腕に当たったところで、私の体に強い衝撃が走った。
「かはっ!」
何かが起こった。その何かがわかったのは、私が地面に叩き付けられた後だった。
ガンテツはこの土壇場で、自らの剣を途中で手放し短剣が刺さるのを構わずに私へ距離を詰めると、ガラ空きだった私の体へ拳を放ってきたのだ。
「かっ、はぁ」
「全く。あそこで突っ込んでくるとは、剛毅な女性だ」
「はぁ、まさか、剣士が剣を手放すなんて、思わなかったわ」
「一応【体術】を取っているのでな。今までは剣で全て解決できただけだ」
そう言いながら、私の腕を切り落とした剣を拾ったガンテツは、未だ立ち上がれずにいる私の元へ勝負を終わらせるために近づいてくる。
「このフィールドにいる中ではあなたが一番曲者だった」
すぐに私の元へたどり着いたガンテツは剣を高く持ち上げた。後はそれを降ろせば勝負が決まる。
「だが、いい勝負だった。ふんっ!」
「……まだよ!」
ガンテツが力を込め剣が動いた瞬間に、私はずっと残しておいた右小指の一本の糸を手繰り寄せた。
その直後、ガキン、と言う金属を打ったような鈍い音とボキッと言う鈍い音が響いた。
「何っ!」
その音は盾と剣がぶつかった音と私の半分欠けた左腕が根元から折れた音だ。
私の防御では到底受けきることは出来ず私の腕ごとへし折れてしまったが、私を斬るはずだった剣を外に逸らすことは出来た。
何をしたかというと、アシュリーと吹き飛ばされたときから残っていた盾に糸を付けておき、それを手繰り寄せ左腕に括り付け剣を防いだのだ。アシュリーはもう消えてしまったが、糸を付けた段階で所有者が私に変わったのか消えずに今まで残っていた。
これを防いだり投げつけたりしようと思っていてずっととって置いたのだ。
この期に及んで防がれるとは思ってなかったのか、これで終わると思い油断したのか、ガンテツは大振りに振ったまま一瞬動きが止まった。
この張り詰めた戦いにおいてそれは大きな隙になった。
ぐっと足に力を入れガンテツに迫る。その頃には正気に戻り急いで剣から素手に切り替え私を殴り倒そうとしたが、盾を寄せた時から発動していた私の魔法の方が、僅かに速く発動した。
「……ショック!」
「……っ!?!?」
私が使ったのは【無魔法】のショック。それを受けたガンテツは抵抗も出来ずに気絶した。
殴ろうと勢いをつけたまま気絶したので、彼はそのまま私を覆うように倒れてくる。
私は倒れてくる彼を両手を広げて受け止めると、まるで抱擁するかのように背後に腕を回し、共に倒れる。
そして、彼が気絶から立ち直り、目の前にある私の顔を認識し大きく見開いた瞳を見つめ返しながら、私は最後に技を放った。
「ダガースタブ!」
「ぐはぁ!」
抱きついたまま背後に回した腕を首に運び、剥き出しの首へ短剣を突き刺した。それだけでなく刺したままの短剣を横に引っ張り、ガンテツの首を掻っ斬った。
「……見事だ……」
何が起きたかわからないだろうが、上にいたガンテツはそう賛辞を送ると、光となって消えていった。
「勝った……。勝ったわ! ふふふ、あはは、やったわアシュリー、私達の勝利よ!」
自然と笑いが口からこぼれる。
あの強敵を、剣豪とも言えるあのガンテツを、アシュリーを失いながらも倒すことが出来た!
正々堂々とはほど遠いが、いくつも策を練り咄嗟の判断をし、アシュリーを犠牲にしてまでも、なんとか勝つことが出来た。もう体も心も満身創痍だが、何という心地よさか!
だかこの最高の高揚感に浸っている私に、無粋な声を掛ける者がまだ残っていた。
「ヒャッハッハッー、やっと終わったか! しかも女の方が勝つとはな! だがこれで生き残るのは、優勝は俺のもんだ!」
どこに隠れていたのかは知らないが、突如橋の上に現れたゴロツキのような男は、ナイフを手に取り倒れたままの私へと向かってきた。
……周りへの警戒を全くすることもなく。
「へっ? な、なんだこれ!?」
「はぁ……。まさか残っていたのがこんなのだったなんて。ガンテツさんとは大違いね」
愚直に向かってきたこの男は、仕掛けていたコブウェブに捕まり、拘束され転倒した。
体はボロボロだが振る舞いは優雅に立ち上がると、そんな男に近づいていく。
いつの間に罠を仕掛けていたかと問われれば、ガンテツと戦っている間にこの周りに何カ所も設置してある。
アシュリーがいるときに、直接では絶対に捕まらないからと何度も何度もコブウェブを仕掛けていたのだが、彼は糸が見えているのか結局最後まで掛かる事はなかった。
その残骸とも言えるコブウェブにこの男は引っかかったのだ。
何だかんだと今まで残っていたからどんな強敵かと身構えたが、拍子抜けにも程がある。今も拘束を抜けることが出来ずもがくばかりだ。
「クソッ! 解けねぇ!」
「はぁ、折角の余韻が台無しだわ。でもこれで正真正銘、私の勝利ね」
「クソがクソがクソがぁ!」
「もうあなたの声は聞き飽きたわ。消えなさい」
止めを刺すためにしゃがむのも面倒だったので、顔に二つの右手から短剣を投げつけることで止めを刺した。
その直後、壮大なファンファーレが鳴り響くと、私は光に包まれた。
勝ちました。
次回は10月31日の予定です。




