バトルロイヤル:その2
本日一話目です。
長くなったので分割しました。
背後から迫る壁を視界に入れつつ、森から出る前に一応草原を確認してみる。
当然と言えば当然だが、そこには何人ものプレイヤーが生き残りをかけて必死に戦っていた。バトルロイヤルというよりは世紀末な感じだ。
そしてやはりと言うべきか、戦闘職、特に剣士や騎士などの前衛のプレイヤーがほとんどだ。
「この中に入らなきゃならないのね。ちょっと憂鬱になるわ」
「そう、ですね」
だからと言ってここにいても壁にやられると言う恥ずかしい負け方になってしまう。仕方ない、覚悟を決めよう。
「行くわよアシュリー! 前は頼んだわよ!」
「お任せください!」
森から飛び出し、一番近くにいた、戦いの中に入らず様子を窺っていた軽装備の男に向かって駆け出した。
街にいても目立つのにこんな草原に私が現れたものだから、目標の男はすぐに私達に気づき、ショートソードを構え応戦する体制を取った。
「あれは、お嬢様! まだ残ってたのか!? だが俺に挑んだのが運の尽きだぜ!」
「アシュリー受け流して。足を狙うわ」
「はい!」
私が少し後ろで止まり、アシュリーが止まらず接近すると、男は一足にアシュリーに迫りそのショートソードで鋭い突きを放ってきた。
何とか反応できたアシュリーはその剣を盾で滑らせることで受け流し、ギリギリで回避した。だが回避したと言うことは私を守るものがなくなったという事で、
「やるな! だがお嬢様がガラ空きだぜ!」
「へー口だけじゃないようね」
「これが避けられるかな! はぁ!」
剣を突き立てたまま男は私に向かってさらに速度を上げて突っ込んできた。
……だがこの程度ならアシュリーに任せておけば問題ないだろう。
「終わりだ!」
「クリス様には触れさせません!」
「なっ!? 【かばう】か!」
私まで後二メートルという辺りで、【かばう】を発動したアシュリーが間に入り、今度はその剣をしっかりと防いだ。
先ほど流したのは私が言ったのもあるが、相手の力を測るためでもあった。その結果アシュリーが防ぎきれると合図があったから相手の攻撃はアシュリーに任せることにした。
相手の方がアシュリーより早いが、この調子なら糸を使わなくても勝てるだろう。
「予定変更。私も前に出るわ」
「はい」
アシュリーに作戦の変更を告げると、私はすぐに短剣を持つと男に接近し、そのままアシュリーの横を抜け、すれ違いざまに男へ斬りかかった。
そのことに男は目を見開いていたが、即座に背後に回った私に照準を合わせ、ショートソードを斬りつけてきた。……だがそれは悪手だ。
「召喚士自ら前に来るとは血迷ったか! 今度こそ当ててやる!」
「私に夢中なのもいいけど、後ろも注意した方がいいわよ」
「なに? ぐぅ!?」
「後ろがお留守ですよ」
「あら、前も注意が足りないようね」
男が私へ振り向いた時には、アシュリーが短剣を構えていた。結局男はそれに気づくことも躱すこともなく背後から心臓を突き刺された。
これで終わりだと思うが、念には念を入れて苦悶の表情を浮かべている男の首へ短剣を走らせた。
それで男を倒すことはできた。だがこれはまだ終章の始まりに過ぎないだろう。
「さぁ囲まれないように倒すわよ」
「はい」
それから、一対一での戦いが続いている間に糸を伸ばし勝った瞬間に足のみを拘束しその隙に倒したり、遠くから魔法を放っている事に夢中になっている女性に背後から近づき暗殺したり、未だに森にいたプレイヤーが弓を放ってきたのをアシュリーが察知し防ぎ返り討ちにしたりと正々堂々とは真逆のことをしながらも何とか生き残っている。
そうして一人一人確実に倒していると川を挟んでこちら側には私ともう一人、いや一匹のみになっていた。
「まさかあなたが生き残っているとはね。正直かなり驚いているわ」
「へへ、伊達に素早さ特化じゃねぇってことさ」
「つまりは逃げまくってたって事ね」
「まぁな。てかクリスが相手かぁ。やべぇな勝てるビジョンが見えねぇ」
私と向かい合っているのは一匹の犬。そう、あのポチとか言う変態犬だ。
「それなら早く自滅してくれないかしら。あなたさっき私が他のプレイヤーと戦ってるときどさくさに紛れて覗こうとしたでしょ。いきなりメッセージ来ると驚くから止めてちょうだい」
「いやクリス様、怒るポイントはそこじゃないです。と言うかまた覗こうとしたんですか!」
「へへっ、そこにスカートがひらひらしてたから、つい、な」
この駄犬はなに馬鹿なことをスカして言っているのかしら? まさか私の頭を痛くさせる作戦なのかしら。
「許せません!」
「許せることでは無いけど落ち着いてアシュリー。それで、どうするの? 向かってくるなら容赦しないけど」
「ふっ、俺の攻撃力じゃクリス達を倒せんだろう。だがな! そこにスカートがあるんだ! ここで逃げたら俺じゃねぇ!」
やけにかっこいい声と威勢でかなり馬鹿なことを駄犬が叫んだ。次の瞬間、視界に捉えるのがやっとという程の速度で突っ込んできた。
「速い!」
「これほどとはね」
それを見たアシュリーは驚きつつも私を守るように盾を構え、私はすでに準備が終わっているので特に何もせずそれを眺めていた。
一直線に向かってきた駄犬は、アシュリーの盾にぶつかるその瞬間に器用に軌道をずらし回避すると再度トップスピードで私へ迫ってきた。
「クリス様!」
「これで……!」
そして私の元へ来る直前に……、何故か体を上下反転させ視線を上に向けながら私の足下へ滑り込んできた。私のスカートを覗くために。
「みえっ……! えっ?」
「はぁぁぁ、ここまで来ると逆に驚かないわね」
だがその目論見が叶う前に設置していたコブウェブが発動し、駄犬を簀巻きにするとその場に縫い付けた。
「えっ? いつの間に拘束した? あと少しで見えそうなのに!」
「さて、時間も無いからさっさと消えてもらいましょう」
「そうですね。すぐ消滅してもらいましょう」
「あっ、ちょっと! 少しは気が揺らいだっていいじゃん! 一緒に冒険した仲でしょ!」
「あらそうだったかしら?」
「そうだよ!」
ネコーニャと冒険したことはあるけど、確かその時に余分なものがいたようないなかったような。ちょっと記憶が定かではないわね。
「そんなことあったかもね。ではさようなら」
「あっ、ちょ、蹴らないで! いたい! あっ、みえ……」
駄犬と話すことなど何もないのでいつものようにアシュリーと踏みつけることで気持ちを落ち着かせた。街と違ってすぐに消えてしまい若干消化不良だが、いつまでもこんな奴のために意識を割いてられない。まだイベントは終わってないのだがら。
だがこれでこちら側には見えている範囲でのプレイヤーは全て倒すことが出来た。
次回は本日22時に投稿予定です。




