新装備:昆虫装備
「来た来た、クリスちゃぁんこっちよぉ!」
「大声出さんでもわかるだろ。にしても相変わらず目立つな」
私達が裏通りへ到着すると二人はすでに集まっていた。こっちこっちと急かすように手を招くオトメちゃんがやけに上機嫌なのを不思議に思いつつも、何も広げてない露店の前までやって来た。
「待たせたかしら」
「いや、俺もさっき来たところだ」
「そりゃあ待っていたわよぉ。いいのか出来たから皆に早く着て欲しいわぁん」
「それは楽しみね。それじゃあ早速だけどいいかしら」
「おう」
「もちろんよぉ!」
それ言うと二人は次々と装備品を並べだした。そこにはお願いしていた装備の他にもいくつか別の装備もあった。
それらを全て出し終えたのか、二人はうちの子達にそれぞれ装備を渡すとあれやこれやと説明を始めた。
「この斧はこっちの金属が剥き出しになってる方が鋭くなっている。逆に角そのままの方は硬い分打撃に向いてる。さらに重心は……」
「まぁ! 似合ってるわぁ! この服はボス蜘蛛の糸を使っているから軽いのに丈夫なの。それだけじゃ無く魔法の耐性も高いのよぉ。だけど元が毒糸じゃなぁい。だから毒を抜くのが大変で……」
などなど。
その説明をBGMにしつつ、私は鑑定をして彼らが作った装備の性能を見てみた。
まずはアシュリーの装備から。変更したのは短剣と盾だ。
【武器:短剣】昆甲鉄の短剣 レア度3 品質C
攻撃力29 重量11 耐久値110/110
甲虫の外骨格で鉄を挟んで作られた短剣 外骨格で強化されているため並の攻撃では折れることは無い 厚くなったため刺突するのはあまり適していない
【防具:盾】昆腕鉄の小盾 レア度3 品質C
防御力34 重量14 耐久値120/120
シールドフライの両腕を鉄の小盾の前面に貼った小盾 裏面に鞣した革をなることで衝撃を和らげるようになっている
備考:魔法耐性微
どちらも私が持ってきた東の第二エリアの素材と鉄を合わせた装備のようだ。
短剣は比較的単純で外骨格で挟んだ鉄を刃が出るまで削って削ってヤスリを掛けた作りのようだ。逆に盾は複雑でシールドフライのあの腕に鉄やクッション用の革、他にも何かを層にした作りになっていた。
聞こえてきたドドドンさんの話からすると、やはり鉄を溶かすほどの温度には耐えられなかったらしいので貼り付けたり、挟み込んだり、ギリギリの温度で鉄とくっつけたりして作ったようだ。
次はデクス、エイダ、フランクの武器だ。
【武器:斧】ビートルホーンアックス レア度3 品質C
攻撃力46 重量28 耐久値110/110
斧角甲虫の角をアイアンアックスに填め込んで作られた斧 柄まで鉄で出来ているため重い アイアンアックスより重いがその分攻撃力と耐久値は高い
【武器:剣】蟷螂直剣 レア度3 品質C
攻撃力24 重量10 耐久値95/95
ソードマンティスの鎌をそのまま用いて作られた剣 持ち手は魔樹の木材を使っている 軽くて攻撃力は高いが薄い分壊れやすい
【武器:槍】ビーニードルスピア レア度3 品質C
攻撃力34 重量22 耐久値110/110
アイアンスピアの槍頭に槍蜂の針を被せた槍 槍頭が短く突くことに特化している 槍蜂の針の成分がまだ残っている
備考:毒攻撃
ビートルホーンアックスは私が持っているアイアンアックスとは違い柄まで鉄で出来ている。その斧に斧角甲虫の角を先の斧の部分だけをアイアンアックスの刃に被せてくっつけた見た目になっている。
蟷螂直剣は説明通りでソードマンティスの腕を柄にした魔樹の木材とくっつけただけの作りをしている。
ビーニードルスピアは柄の長さの割に槍頭は小さく円錐状なので斬ることは出来ず突くことしか出来ないが、この槍で攻撃すると毒状態にすることが出来るようだ。意外と器用なフランクなら上手く使えると思う。
その次はヘクター、ジェフ、ケイトの武器だ。
【武器:剣】トレントアイアンエッジ レア度3 品質C
攻撃力21 重量13 耐久値100/100
魔樹の木材で鉄板を挟んで作られた剣 軽量化されているが刃の部分は鉄製のため切れ味もある
【防具:盾】トレントウッドビッグシールド レア度3 品質C
防御力24 重量15 耐久値120/120
魔樹の木材に鉄板を貼り付けた大盾 大きさの割には軽くて丈夫
【武器:槌】ビートルホーンハンマー レア度3 品質C
攻撃力23 重量15 耐久値110/110
槌角甲虫の角をスターンアックスに填め込んで作られた斧 柄は魔樹の木材で作られている 通常のストーンアックスより攻撃力と耐久値が高い
【武器:短剣】アイアンダガー レア度2 品質C
攻撃力15 重量8 耐久値100/100
鉄製の短剣 投擲用に重心が剣先にあり投げやすくなっている
こちらの剣と盾は魔樹の木材で軽量化を図ったようで、性能の割にヘクターとジェフでも装備できるほど軽くなっている。二人が装備するこの盾は私の半身を隠すほどの大きさがある。タンクとしてより頼もしくなるだろう。
ビートルホーンハンマーは名前は似ているが斧と違い中身は石斧のようだ。その割に軽いのは柄が木製だからだろうか。
ケイト用のアイアンダガーは以前お店でみた物より小型で投擲しやすくなっている。これならケイトでも扱いやすいだろう。
これらが彼らの新しくなった武器達だ。皆申し分なく強化され攻撃的になった。
最後に防具の確認だ。
オトメちゃんが作ってくれた装備は、前衛用の軽装備、魔法使い用の服と靴がある。本当はタンク用の重装備も作りたかったようだが素材が足らず、出来たとしてもヘクターとジェフでは装備できないほど重くなるとのことで断念し、それならいっそ全員で似たような見た目になるように作ったようだ。
その鑑定結果がこちら。
【防具:上衣】ビートルレザーアーマー レア度3 品質C
防御力28 重量11 耐久値110/110
甲虫の外骨格を縫い付けた大蜘蛛の糸と鞣した革で作られた革鎧 甲虫の外骨格で補強された部分は弱い攻撃なら弾くほど硬い
【防具:下衣】ビートルレザーボトムス レア度3 品質C
防御力24 重量10 耐久値110/110
甲虫の外骨格を縫い付けた大蜘蛛の糸と鞣した革で作られたボトムス 甲虫の外骨格で補強された部分は弱い攻撃なら弾くほど硬い
【防具:服】蜘蛛糸のローブ レア度3 品質C
防御力18 重量4 耐久値100/100
大蜘蛛の糸と蜘蛛の糸で編まれたローブ 非常に軽く防御力も高い 耐久値は下がりやすい
備考:魔法耐性微
【防具:靴】トレントレザーブーツ レア度3 品質C
防御力12 重量7 耐久値100/100
魔樹の木材と鞣した革で作られた靴 パーツ分けした魔樹を組み込むことにより柔軟性を持たせながらも足が痛くならない
ビートルレザーアーマーとボトムスは甲虫の鞘羽などの外骨格を腕や足、胸部など部分ごとに貼り付けてある。急所や攻撃を受けやすい場所に付けることで実用性を上げたようだ。
これを私とアシュリー、ベルとセル、それとグレンとアイリス以外の子が装備する。
蜘蛛糸のローブは今の装備の上から羽織るようになっている。性能としては魔法耐性が強力だろう。ただ壊れやすいので遠距離物理攻撃などには気をつけなければならない。
夜のような黒のローブがグレン用で真っ白のローブがアイリスのようだ。
性能以上に凄いのがこの靴だ。ただの革のブーツに見えるが甲周り、踵周り、足底に魔樹の木材が入っている。これのおかげで防御面も高くなり、なおかつ足の前後で分かれているので靴が曲がり歩きやすくなっている。
この靴は皆が装備することになっている。
「どれも良い装備だわ。ありがとうドドドンさん、オトメちゃん」
「いいってことよ。俺だっていい経験値になったからな」
「どういたしまして。もっと素材があれば良かったんだけど、これはこれで納得いく装備が出来たからいいわ。皆も似合っているしね」
「そうね。統一感があっていいわね」
「だな、この数が同じ装備着てると圧が凄いがな」
ドドドンさんはそう言うが、むしろお揃いの服で家族感が増した気がする。ベルとセルなんて装備を変えなかったことを今更後悔しているほどだ。
と言っても半数は異なる装備なので端から見れば二つのパーティーが一緒に歩いているようにしか見えないかもしれない。……今更それはないか。
「で、嬢ちゃん達は今から戦闘か?」
「いえ、今日は別のことをするわ。それまでは一度ログアウトかしら」
「なんだ試さねぇのか。……そういや嬢ちゃんってどこでログアウトしてんだ? ログアウト中こいつら見ねぇから宿屋だろうが、嬢ちゃんが街中から来てんの余り見ねぇけど」
「やぁねドドドン。クリスちゃんのストーカーでもしてるの?」
「違ぇよ! 俺はいつも広場の近くで店開いてんだろ。それで嬢ちゃん達が来ると周りが騒ぐからすぐ気付くんだよ。だけどいつもいきなり転移してくるからどこから来るんだって話題になってんだぜ」
「あら、そうだったの。最近は周りの声を聞かないようにしてたから気付かなかったわ」
いつも街に来ると周りがざわついてるのは気付いていたし、私のことを言っているのも知ってはいたが、聞こえてくるのが「お嬢様!」「メイド!」「数多すぎ!」と毎度似たようなのしかないから注意深く聞いてなかった。
言われてみればいきなり転移してきたらどこから来るんだと話題になっても不思議じゃないか。
別にこの二人ならホームのことを話しても問題ないだろう。仮に広まってもホームの機能で中には入れないし。
「私はいつもホームからログアウトしてるわよ。それにホームに転移像があるからそれで中央街に来てるわ」
「あぁ? ホームだぁ!? 嬢ちゃんホーム持ってんのかよ!? しかも転移出来るとかマジかよ!」
「ええ!? クリスちゃんホームなんて持ってたの!? どんな金策したのよ!?」
「え、ええ、持ってるけど、あの屋敷は特殊な方法で手に入れたから……」
「「屋敷ぃ!?」」
これは迂闊だったかもしれないわね。
考えてみればβ時代からやっているらしき生産職の二人が未だにホームを持ってないと言うことはそれなりの代物と言うことだ。ならばこの食い付きにも頷ける。
それから一から説明することになり、差し障りない程度の話をすると、内容に驚きすぎたのか手に入らないことに気付いたのかは知らないが、落胆した様子で肩を落としていた。
「そんな特典があったとは、それって魔物型プレイヤーだけか? しかも外からじゃ入れないらしいって、いやホームならそれが普通か? いやわかんねぇな」
「お屋敷なんて素敵ねぇ。普通には手に入りそうにないのが残念ね。でも東の森の中だとお店には立地が悪いわね。でもでも乙女なら一度はお屋敷に住んでみたいわねぇ!」
「そんなに気になるなら今度来る?」
すでに話してしまったことだし、別に見られて困るものでもないからそう尋ねると、ズイッと顔を近づけてきた二人が声を揃えて返答した。
「「是非!」」
「そ、そう。ならいつがいいかしら?」
「そうだな。落ち着いた時間となると、イベント後になるな。直後は何かとあるだろうし、火曜か水曜辺りが無難か」
「私がいる時なら別にいつでもいいわよ。そんなに見せるものもないし」
「なら火曜でいいか。時間は都合がいいとき連絡くれればこちらで合わせる」
「私もそれでいいわよん」
「ええ、それで構わないわ」
と言うことでイベント後の今度の火曜に二人を屋敷へ案内することになった。
二人とも、特にオトメちゃんが凄く期待してるがボロ屋敷と言うこと忘れてないだろうか? ちゃんと伝えはしたのでわかっているはずだが、まぁいいか。
それから再度装備の話になり、気になることがあったら直すから遠慮せずに来い、と言う頼もしい言葉でお開きとなった。
本当ならいい値段になるはずだが、余った素材を渡したことやいいレベル上げになったと言う理由で格安で手に入れることが出来た。
「良い装備をありがとうね」
『ありがとうございました』
「おう。こっちは素材も貰えたからな。また手に入れたら売ってくれよ」
「うっふん、どういたしまして。お屋敷行けるの楽しみにしてるわぁん」
「ええ、またその時に。それじゃあごきげんよう」
何だかんだと長居してしまったが、その価値があるほどの装備を皆が着ている。それに私も二人を屋敷に呼ぶのは楽しみでもある。
さて、装備を試したくてうずうずしている子もいるが、予定は変えるつもりはない。今日はお婆様の所へ行くのだ。
だがこの人数で行っても邪魔になってしまうので、彼らを置いていくためにも、晩ご飯食べにログアウトするためにも一度屋敷へ戻った。
次回は10月7日の予定です。




