従魔のハート
屋敷へ戻ってきた私は早速エイダを復活させるために、先ずは進化前の彼女と全く同じ顔と体を作り始めた。
すると皆ががやがやとしだし、一体どういうことかと説明を求める声が上がった。
「「ねぇクリス様!」」
「クリス様、教えてください」
「エイダを復活させるってそんなこと出来るんですか?」
「復活なんてそんな……、出来るはずが……、でもクリス様のあの自信は……」
ベル達の必死の問いかけに答えるため、一度手を止めると改めてさっきのアイテムを皆に見せた。
「このアイテムは『従魔のハート』。本来の使い道はこれを他の従魔に使うことでステータスの上昇にスキルの取得が出来る凄いアイテムよ」
「でも、それを使ったところでその従魔はエイダじゃ……」
「確かにフランクの言う通り、普通に使ってもそれはエイダではなく別の従魔でしかないわ。だけどそれはこの説明通りに使った場合よ」
「? どういうことですか?」
この従魔のハートの鑑定結果には他の従魔に力を受け継がせることが出来ることが書いてあった。だけど書いてあったのはそれだけじゃ無い。
【素材:特殊】従魔のハート:エイダ レア度5 品質A
親密度の高い従魔の心が消滅後に物質化した特殊な結晶 他の従魔に使うと元となった従魔の力と魔力、スキルが一部受け継がれる 一度使うとなくなる
これはエイダの心の結晶。
これの説明を見て、これを手にして、私はエイダが復活させると誓った。
「私はこれを、従魔のハートを手にしたとき、彼女との繋がりを感じた。彼女は、エイダはまだこの中に残っているわ」
「「ほ、本当ですか!?」」
「ええ、それは確かよ」
「だとしても、どうやってそれでエイダを復活させるのですか? それがエイダだとしても、それを核には出来ませんよね」
グレンの言うように、従魔のハートを魔石の代わりとして使うことはおそらく出来ない。ならば魔石に従魔のハートの魔力を込めてみるかと言うと、多分だが魔結晶ぐらいで無いと許容値を超えてしまうと思う。
ではどうするかというと。
「召喚中に無理矢理ねじ込むわ」
「そんな無茶な! エイダが残してくれた物を成功するかもわからないことに使うなんて!」
「無茶は承知よ。それに今の私にはこの方法しか思いつかない。だけどね、何故だができる気がするのよ」
「何を……、いえ、わかりました。僕もエイダが蘇るのなら過程などどうでもいいです」
「「私達はクリス様を信じています」」
「俺もです」
「俺は、いや、クリス様ならやってくれるっしょ!」
「ありがとうグレン、皆。まずは体を作るからエイダと違った部分があったら教えてね」
『はい』
皆で協力し、ここはこうだったそこはもっと太かったなど、とてもとても細かい注文を受けながら新たなエイダの体を作っていった。特にフランクからは細部まで覚えていたのか何度もダメ出しを食らってしまった。
だがその甲斐も有り、本当に元のエイダと瓜二つな体が完成した。
しかし胸部はわざとくり抜いてあり、魔石が露出している。
次は召喚だが、私がやろうとしているのは低位不死者創造で召喚をしている最中に、無理矢理従魔のハートを胸に填め込もうと考えている。
こんなことをしようと思いついたのは、従魔のハートにエイダの繋がりを感じたのが一つだが、もう一つは【死霊魔術】にある。
他の召喚は知らないが、【死霊魔術】の低位不死者創造は素材だけあれば、それが形を変えいつの間にか召喚先へ、私の場合はドールとして召喚されている。
ならいつドールになるのか、つまりいつ体に魂が、ゲーム的にはデータが入るかだが、私が考えるに体が出来た後にインプットされると思う。
なぜなら低位不死者創造の発動と共に魂まで入るというなら、ベルとセルは双子にはならずにただのドールになっていたはずだからだ。ベルとセルは、ベルの召還後に魂が完全に定着する前にセルの召喚をしたからこそ、双子として生まれてきたのだと思う。
それで具体的に何をするかと言うと、低位不死者創造の発動後、体が作り始めたそのタイミングで露出させている胸部へ従魔のハートをねじ込み、無理矢理魂をエイダの物へと書き換えようと言うことだ。
こんなことで本当に上手くいくのかなんてわからない。エイダとは別の子が生まれるかもしれないし、そもそも召喚が中断されるかもしれない。
だけど不思議と不安な気持ちはなく、填め込むことさえしなければエイダが戻ると確信している。
だから迷いなく行うことが出来る。
「じゃあ始めるわ。皆は一応離れていて」
『わかりました』
『はい』
「……低位不死者創造」
従魔のハートを手に、必ず成功させる意思の元、魔術を発動した。
魔法陣が展開し、黒いオーラがあふれ出した。そのオーラの中で横たえていた体が宙に浮かび直立になると、胸部の窪みが僅かに狭まったのが見えた。
「今!」
その瞬間を見逃さず、窪みへ従魔のハートをねじ込んだ。
同時に一瞬だけ合成し、従魔のハートと核になる魔石の一部を繋げ、巻き込まれる前に腕を引き抜いた。
上手くいった。その喜びがこみ上げようとしたその時、突然アラートのようにメッセージがピコンピコンと鳴り始めた。
《召喚中に異常が発生しました》
《低位不死者創造の許容値を超えました》
《超えた分のデータの削除が必要です》
《自動削除を開始します》
《……称号を確認……ログを確認中……》
《……一部を変更します……データを検索中……》
《……削除中……削除中……削除しました》
《……データをダウンロード……完了》
《システムの整合性を確認しました》
《召喚を再開します》
何事が起きたのか、瞬く間に流れるこのメッセージは何なのか、それをしっかりと確認しきる前に、オーラが晴れて召喚が完了した。
「「エイダッ!」」
「エイダ!」
「エイダ……なのか?」
「本当に……成功した?」
そこにはエイダと全く同じドールが立っていた。詳しくは進化前の背丈だし装備は初期装備のだが、そこにいる姿は完璧にエイダのままだ。
だが中身は、魂が本当にエイダなのか。それはこれからハッキリするだろう。
「おはようエイダ。私のこと覚えている?」
「?」
私の言葉に、エイダは困惑した表情を浮かべ首をかしげた。
それを見た私は目の前が真っ暗になり、失敗したことに重い絶望感がのしかかった。
が、それは続くエイダの言葉までだった。
「私って確かやられましたよね、クリス様?」
「エイダ、あなた、覚えてるの?」
「やっぱりやられたのかぁ。あれ? じゃあ何で私はここに? あっ! そう言えばケイトは! 良かったぁ無事だ」
次から次へと話題を変えコロコロと変わるあの顔は、まさしくエイダそのものだ。
それがわかると途端に力が抜けてしまった。出来ると思っていてもどこかで気が張っていたようだ。それが今、最高の形で解き放たれた。
「良かった……。戻ってきてくれた……!」
そして、彼女がエイダだと判明し喜んだのはもちろん私だけじゃ無い。
「おかえりなさいエイダ」
「うぅよかったぁ」
「全くもう心配掛けやがって!」
「本当に良かった。クリス様には感謝しかありません」
アシュリーが優しく声を掛け、デクスが涙目で喜び、フランクが笑顔で咎め、グレンがにこやかに感謝してくる。
「エイダ先輩無事で良かった」
「エイダさん戻ってきて良かったです~」
「うむうむ」
「わ、私、ぐすっ、つよくなります、すびっ、エイダさんを、助けられるぐらいに!」
ヘクターが素直な感想を述べ、アイリスがほんわかと喜び、ジェフが頷くだけで、ケイトは顔をぐしゃぐしゃにしながら決意を新たにした。
そしてベルとセルは喜びを体で表し、抱きつこうとして、
「「おかえりエイダー!」」
「わわっ! ちょっと危ないよ! ってあれー!?」
「「あぶぅ!」」
エイダをすり抜け、床へ激しくダイブした。
『えっ?』
「あれ? 透けてる? 何で!? あっ戻った」
「……エイダ、ステータスを確認するわよ」
「えっ、は、はい」
何 が起こったのかわからないが、今確実にエイダの体を双子が貫通した。
以前はそんな芸当など当然出来なかった。と言うことは、今のエイダに何かが起こっていると言うことだ。
その為にステータスを見たのだが、予想外過ぎて三度見してしまった。
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名前:エイダ
種族:ドールガイスト Lv1
生命力 6
筋力 9
知力 17
精神力 13
器用 15
俊敏 10
スキル
剣術Lv1 掃除Lv1 霊化Lv1
状態異常耐性Lv1
火属性弱点Lv1 光属性弱点Lv1
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『ドールガイスト』
本来無生物であるためアンデッド化しないはずだが何故かしてしまった不思議なドール。ドールとポルターガイストの両面を持ち知力と器用値が高い。スキルもドールとポルターガイストの両方の特徴を持っている。
……。
……エイダ、まさかの半霊化である。
……ぶっちゃけこれって失敗じゃないかしら?
いや、どんな存在になろうとエイダが戻ってきたことに変わりはない。それに、
「「むぅ、エイダひどーい……」」
「ご、ごめんね! わざとじゃないんだよ、なんか危ないって思ったら発動しちゃって……。ホントにごめんって、ほら今度はちゃんと触れるでしょ! ね!」
ドールと騒がしい霊の組み合わせなんて、彼女にぴったりの種族じゃないかしら。
「「ふーんだ」」
「ええっ!? あっ、クリス様ー! 助けてください! ベルとセルが!」
「あはは。……おかえりエイダ!」
「! ただいまです!」
以前より良く通る元気な声が部屋中を賑やかにするかのように響き渡った。
次回は9月30日の予定です。




