ドワーフとオネェ
新規組のヘクター達とのおしゃべりも一段落ついたのを見計らい、私はヘクター達のレベル上げに行くことを提案した。
「と言うことで、この子達の装備を買った後、初心者向けのフィールドへ行こうと思うのだけど。皆はどうする?」
「当然私は付いていきます」
「「私達も行きたいです!」」
「心配だから俺も行きたい」
「私も! 知らない場所なら行ってみたい!」
「皆行くなら俺も行こっと」
「ヘクター達との連携もやっておきたいので僕も行きます」
結局全員が付いてくることになった。
それからどこに行くかだけど、西のフィールドへ行く予定だ。その前にドドドンさんとオトメちゃんの露店へ行くつもりだ。
そうと決まったところで、私達は装備の点検をしてから中央街へ転移した。
~~~~~~~~
中央街の広場へ転移して来た私達は、珍しそうに辺りを見渡しているヘクター達を誘導し、こちらをじろじろと見てくる外野達を無視しながら、ドドドンさんの店へやって来た。
「ごきげんよう。注文してもよろしくて?」
「……すげぇ数だな。この間は数人分の装備を買っていったが、また増やしたのか?」
「ええ。新たに四人家族になったわ。そう言えばドドドンさんはアシュリー以外に合うのは初めてだったかしら?」
「まぁそうだな。ちらっとなら見たことあるが……。俺はここで店をやってるドドドンだ。主に【鍛冶】で作れる物を扱っている」
ドドドンさんの自己紹介に続き、皆も挨拶を交わしていく。そんな中、同じスキルを持っているジェフが挨拶もそこそこに武器に釘付けになっているのが可笑しかった。
そんな彼はそっとしておき、ここへ来た目的を果たすべく、必要な武器を注文していく。
「今日来たのは、アシュリー達の武器の更新とヘクター達に合う武器を探しに来たの」
「おう。武器を持ってる奴らはそれよりいいもんを出せばいいとして、こっちのはどんな武器にするんだ?」
「そうねぇ。ヘクターは大盾と剣、アイリスはヒーラー用の杖、ジェフはハンマーと盾、ケイトは投擲用の武器をお願い」
ヘクターとアイリスはきっちり担当を決めているので使う武器も決まっていた。ジェフも準タンクとして戦い、鍛冶師もしてもらうから武器は金槌と盾にした。ケイトのスキルを選ぶとき【裁縫】にあう攻撃スキルなんて思い浮かばなかったから、本人の希望で相手に近づかなくて済む【投擲術】にした。
「ちなみにドドドンさんに聞きたいのだけど、他の裁縫師はどんな武器を使っているのかしら?」
「あぁ? 裁縫師かぁ。よく見るのは弓や槍、杖辺りだな。基本は高い器用値を活かせる武器にしたり、防御面から中から後衛で戦うのが多いな」
「まぁそうなるわよね。ちなみにオトメちゃんは?」
「オトメちゃん? あー、オトメエンジェルか。あいつは……、拳だな」
「拳? なるほど【体術】ね。何というかあの人らしいわね」
彼女が拳で戦っているのが容易に想像出来る。言っては失礼だがぴったりだ。
そんなことを考えている内に、これらの武器で彼らにも装備できる重量の物を選んでもらった。アシュリー達にもそれぞれ武器の更新をしてもらった。
アシュリーは大分渋っていたが、私とエイダの説得の末より高性能の武器に、ベルとセル、グレン以外の皆も今よりも強い武器に更新した。そのベルとセルは今の装備の方が合ってるからこのまま使うそうだ。グレンも同じだ。
それでドドドンさんのオススメで出してもらった武器は短剣、小盾、斧、剣、槍、金槌の六種類だ。ケイトには私の作った短剣を何個か、アイリスには私が作った『魔樹の杖』を渡した。
どれも私が装備している淑女のダガーより性能は劣るが、他のよりは十分いい武器だとわかる。
「嬢ちゃんよぉ。買ってくれるのは嬉しいが、金はあるのか?」
「ええ、この間臨時収入があって、そこそこ貯まってるのよ。あとついでにこの装備と素材も買い取ってくれないかしら?」
「おっ、いいぜ! それとこの間の木材も売ってくれたら助かるんだが」
「それくらいいいわよ。あっ! どうせならオトメちゃんも呼んで良いかしら? どうせなら彼女にも見てもらった方が手っ取り早いし」
「げっ、あいつ呼ぶのかよ。……なら俺が奴のとこへ行くわ。その方が被害が少ねぇ」
「あらそう。ならそうしましょう」
話の途中から商品をしまい始めるドドドンさんを待ってから、私達はオトメちゃんのいる裏通りへ向かうことにした。
それから周りからの視線を掻い潜りながら裏通りへ入ると、ドドドンさんが大きな溜息の後口を開いた。
「はぁぁ。薄々はわかっていたが嬢ちゃん達と一緒だとすげぇ見られんな」
「そう? トッププレイヤーや有名プレイヤーならこれよりも凄いんじゃ無いの?」
「そうかもしれねぇが、なんつうか、視線の数もそうだが密度というか粘度というか……」
「ほら、もうすぐオトメちゃんの所につくわよ」
「あ、ああ。こっちはこっちで気を張っておかねぇとな」
裏通りに入って少し歩くと、オトメちゃんがやってる露店が見えた。ここからでも背を丸めている大きな人影が見えるからよくわかる。すれ違いにならなくて良かった。
「いい。これから会う人にびっくりするかもしれないけど、皆慌ててはダメよ。この世界には色んな人がいるの。オトメエンジェル様に会えばそれがわかると思うけど、決して失礼な態度を取ってはダメよ。私達の態度でクリス様の品を損なうこともあるのだから。わかった?」
「「はい」」
「えーっと、わかりました」
『はい!』
「驚くなは……厳しいだろ」
「あれはなぁ」
「ちょっとねぇ」
もうすぐ着くというところでアシュリーがひそひそと皆に話しかけていた。その内容が聞こえ、あの慌てていたアシュリーが注意していることに笑みがこぼれてしまったが、それでも彼女なりに誠意を見せているかのようで誇らしくも感じた。
他の子はまだわかってないながらも心構えをし、会ったことのある三人は微妙な顔をしている。
まぁ私やプレイヤーのように、テレビなどで一度も見る機会が無く、いきなり彼らのような人達を見ると驚いてしまうかもしれないが、アシュリーが言ったように失礼が無く普通に接してさえくれれば私はとやかく言うつもりはない。
と、そんなことを考えているとオトメちゃんの露店に着いた。
「ごきげんよう、オトメちゃん」
「あら? ってクリスちゃんじゃなあ~い。アシュリーちゃんも、あらたくさんいるわね! あらドドドンも一緒なんて、どうしたのかしらぁん」
「ひっ!」
声を掛けるとガバッと顔を上げ、オネェ口調でそう言ってきたオトメちゃんに、会ったことの無い子達は驚いた顔をし、ケイトは声まで上げてしまった。
ケイトはやってしまったが、ここはむしろベル達がすぐに顔を普段通りに戻したことの方を褒めるべきなのだろうか。まぁ今は本人も気にしていないようなので、強く言うのは止めておこう。
「ケイト失礼よ」
「あぁら驚かせちゃったかしら。ごめんなさいね」
「えっ、わ、私の方こそ、ごめんなさい……」
「うふん、許してあげるわ。これでおあいこね」
「えっ、あっ、はい!」
ふむ。オトメちゃんはこういうことに慣れているとは言っていたが本当だったようだ。そのおかげでケイトがこのことを変に引きずることは無さそうね。
「さて、ここに来たのは手に入れた装備と素材を売りたくて来たの。初めはドドドンさんのところに行ったのだけど、どうせならオトメちゃんも一緒にって事でドドドンさんに来てもらったの」
「そう言うことだ。【鍛冶】に使えそうなのは俺が見るつもりだ」
「そうだったのねぇん。なら私も使えそうなのは買い取らせていただくわ」
「ええ、それでその後にうちの子達の装備を更新したいから、それもお願いしたいわ」
「お安いご用よ。任せなさぁい!」
「それじゃあ出していくわね」
オトメちゃんの許可も下りたので、空いてるスペースに臨時収入で手に入れた装備やら素材やらを次々と出していくと、途中で二人の待ったの声が掛かった。
「ちょ、ちょっと、待て、ちょっと待ってくれ。どんだけあるんだよ」
「たんまたんま、これは何なの? 甲羅? いや、殻かしら? ボス蜘蛛の糸まであるじゃない!」
「あら? まだ出回ってなかったかしら?」
「この大量の装備は何となく察しがつくからまだいいが……」
「こっちの素材はまだ噂程度にしかなっていない超レア物よ」
ふむ。掲示板をチラ見した時に東のボスを倒した的な書き込みを見たから、まだ大量では無いにしろ彼らが手に取るくらいは出回っているのかと思っていた。
私もあれから行ってないからてっきり今は何組ものプレイヤー達が行っていると思っていたがこの反応を見るに違うみたいだ。
「これって東の第二エリアの素材だよな。俺らに売っていいのかよ」
「別に問題ないわよ。他に知ってる生産職のプレイヤーもいないし。まだ確認してないけど冒険者ギルドよりは私の益になりそうだから」
「ああ、ぜってぇ損はさせねぇよ。それにこんだけ新素材見せられて損させてたら、他のβプレイヤーの生産者から後ろ指指されちまうぜ」
「そう。ならお願いね」
「おう!」
ドドドンさんから気合の入った返事が聞けたところで、今まで静かだったオトメちゃんが真剣な顔で私に話しかけてきた。
「ねぇクリスちゃん。確か装備を新調するって言ってたわよね」
「ええ、そのつもりよ。私とアシュリーは別として、ベル達によりよい装備とヘクター達に新しい装備を買うつもりよ」
「それなら提案があるんだけど、それにはもっとこの素材が欲しいのよ」
「まだあるからそれは構わないわよ。それでその提案って何かしら?」
「うふふん。そ・れ・は、この素材を使って現時点で最高の装備を作ってあげるわ~ん!」
胸の前に両腕を握りしめくねくねと言い放ったオトメちゃんに、男性陣は悲鳴を上げたが、それより私はその提案について考える。
提案自体はとても気になるしありがたいことだが、いくら何でも今日の今日で出来るとは思っていない。となるとヘクター達のレベル上げが出来なくなってしまうが、どうしましょうか。
なんて考えていると、まるで見透かしているかのように更なる提案もしてくれた。
「もちろん新装備が完成するまでは、別の防具を貸し出してあげるわ」
「……それは助かるけど、本当にいいの?」
「もちろんよ。だけどあくまで貸すだけよ。耐久値なら後で直せるからいいけど、壊したりしたらダメよ」
「ええわかったわ。ありがとう」
「それと買い取りについてだけど、防具が出来てからでもいいかしら? 皆の装備となるとどのくらい使うかもわからないし、足りないかもしれないから、後の方が収支がハッキリするからね」
「その通りね。ここでお金を貰っても後で払うことになるのだから後で構わないわ」
「助かるわぁ! さぁやるわよぉ!」
すると慌ててドドドンさんも声を上げた。
「そういうことなら俺にもやらせてくれ。これらの素材を使えば良い武器が作れそうだ」
「そうかしら? 私には微妙に見えるけど」
「そんなことはねぇ。この槌角甲虫の角なんて中に金属を流せればそれだけで使える武器になりそうだ。熱に耐えられねぇなら半分に割って中に金属填め込めばかなりの補強になるだろう。最悪石詰めただけでもこんだけ硬けりゃそこらの武器より使えそうだぜ」
「そう。ドドドンさんがいいなら私は構わないわ」
「へへっ、ならさっき選んだ武器持っていってくれ。明後日、いや明日には形にしてみせるぜ」
「私の所からもいいのを選んであげるわぁ。私も明日には出来るように頑張るわよぉ!」
そう言って二人は装備を取り出し、アシュリー達に渡してくれた。それを躊躇いがちにだが皆受け取り装備して互いに確かめ合っては嬉しそうにしていた。
「ドドドンさん、オトメちゃんありがとう。でも明日はログイン出来るかわからないから、そこまで急がなくていいわよ」
「それならより良くなるように仕上げてくるぜ」
「そうね。それに、クリスちゃんも出るんでしょ。イ・ベ・ン・ト」
「ええ、そのつもりよ」
「なら絶対明後日までには完成させなきゃね! 明後日と土曜日で装備をならしておかないと行けないでしょ!」
確かに新しい装備にしたらその性能を確かめた方がいいだろう。何発で倒せるとかどのくらい耐えられるとか。
でも今回は私とアシュリーしか参加しないから変わるのはアシュリーの短剣と盾だけだ。まぁ彼らがやる気なんだから無碍にはしないで任せておこう。
「二人ともありがとう。よっと、これで出せる素材は全てよ。後は任せるわ。皆もお礼を言ってね」
『ありがとうございます!』
「いいってことよ。こっちだって得の方が多いからな」
「うふふん。他が使ってない素材を一番に使えるってことだけでも自慢になるわ」
「そうそう、余った素材は好きにしていいわ。私が持っていてもまだ価値がないから」
「あぁら、嬉しいわ! なら色々試しちゃいましょ! さぁドドドン、生産ギルドに行くわよ。クリスちゃんじゃあ明後日にね」
「おうよ! 嬢ちゃんまた今度な!」
そう言うとサッと露店を片したオトメちゃんとドドドンさんは連絡を取るためにフレンド登録だけすると、あっと言う間に裏通りから姿を消してしまった。
「……さぁ私達はレベル上げに行きましょうか」
「……そうですね」
そんな彼らに皆唖然としていたが気を取り直して、レベル上げに西のフィールドへ行くことにした。
次回は9月24日の予定です。




