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地下室での戦い

本日1話目です。

 屋敷の一階には、エントランスの他に応接室、ホール、キッチン、ダイニング、浴槽などどの部屋も広く元々はたいそう立派な屋敷であったことが伺える。例の婦人は貴族か何かだったのだろう。


 それとどうやらこの階は、どのドールも三体一組で出現するみたいだ。

 一度、部屋に入ったと同時にそこにいた全てのドールがアクティブになり焦ったけど、レベル差があったおかげか、そこまで大きなダメージを受けずに撃破できた。


 それだけこの階で倒しているが未だにレベルは上がっていない。もしかしたら相手とのレベル差によって経験値が変動するのかもしれない。


 そんなことを考えながら、一階の探索も終わりそろそろログアウトでもしようかと思い、書斎に戻ろうとしたとき、階段の下に僅かな空間があるのに気がついた。

 何かあると確信めいた考えからそこを覗いてみると、明らかに雰囲気が異なる全て鉄で出来た扉がそこにあった。


「当たりみたいね」


 インベントリから鉄鍵を取り出し鍵穴へ差し込んでみると、ガチャリという音と共に、重そうな扉がゆっくりと開いた。

 扉の先には、地下へと続く階段があった。


「お屋敷といえば地下室だけど、嫌な予感しかしないわねぇ」


 時間的にも行くか迷うところだけど、長そうだったら引き返すことにして私は地下へと足を踏み入れた。


 階段を降りると、そこはブロックで囲まれた通路になっていた。正面と左右に道が続いていて、正面以外は少し先に左右はすぐに扉がある。


「うーん。正面は後にしてまずは左右から。うん、右から行きましょう」


 いつでも戦闘できるように油断をせずに右側の扉を開いた。

 見た感じではモンスターはいない。だけどポルターガイストの件があるから警戒は解かずに部屋の中に入り見渡した。


 散らばった本に何枚ものメモ書きがある机、棚に置かれた薬品によくわからない実験器具。どうやらこの部屋は、婦人の実験室のようだ。


「えーっと何々。『人間に近い人形の作り方』に『死者を蘇らせる方法』、『ホムンクルスの作り方』に『器に魂を移す方法』と。どれもろくな事が書かれてないわね」

 メモ書きにはそれらを行うための『素材』も一部だけ書いてあったが、とても一人では足りない量が書いてあり、いかに婦人が人から踏み外していたかがわかる。

 それを踏まえて棚を見れば、元が人間だったのではないかと思う物まである。


 とはいえあくまでゲーム。貰える物はもらっておこう。

 ……と思っていたのに、ほとんどが背景、ただのオブジェクトで拾えたのは、ドールに使っていたであろう木材と魔石? だけだった。

 ただ机にある実験器具は使えるらしく、そこへ近づくと『何を始めますか?』とメッセージが浮かび、その選択肢に【木工】と【錬金】が浮かび上がった。

 このゲームの生産スキルは、対応したアイテムがないと出来ないようだ。

 生産にも興味があるが今は時間がないのでさっさと次に行こう。


 さて左の部屋だが、牢屋だった。モンスターも生きてる者もいなかったが、何かの骨が散らばっていて、それがアイテムとして手に入った。


 研究室で手に入ったアイテムとまとめて【鑑定】したのがこれだ。


【素材】魔樹の木材 レア度3 品質E

 トレントから採った木材 魔力が含まれており魔力を通しやすい木材として少数だが流通している 経年劣化が激しく品質が悪い


【素材】闇魔石:小 レア度2 品質C

 闇属性の魔力が含まれている魔石 サイズは小さい


【素材】謎の骨 レア度1 品質D

 何かの骨 判別できなくなった骨は全てこのアイテムになる 特定の骨の劣化代用品として使うことは出来る


 正直どれも微妙と言わざるを得ない。強いて使えると言えば闇魔石ぐらいか。


 調べ物をすんだところで、いよいよ本命。正面の扉の先へと向かおう。

 古今東西どのゲームも分かれ道があった場合、厄介ごとは正面にあることが多い。

 今回も左右にモンスターがいなかったから、今度こそ何かあるかもしれない。

 そう意気込んで扉をくぐった。

 そして案の定というべきか。私の視界に、一つの棺とその棺に座っている一体のドールが入り込んだ。

 朽ちたドールと違いこのドールは形がしっかりと残っている。嫌に綺麗に整った顔と茶色の髪、ボロボロだが貴族のような立派な服を着たドールだ。


 そのドールは、ゆっくりと立ち上がると私をしっかりと見つめてきた。


封じられたマリオネット Lv11

 固定モンスター アクティブ


 【識別】でわかったのは、あの人形がドールではなくマリオネットだということと、私より大分レベルが高いと言うことだ。


「これは、勝てるか怪しいわね」


 幸いポルターガイストと違って物理攻撃も効きそうだから、一方的に終わらない様に立ち回ろう。


「動かないなら、先手は貰うわよ!」


 真ん中まで移動したマリオネットが数秒待っても動かなかったから、私のほうから仕掛けた。

 走って一気に接近するとやっとマリオネットが動き腕を振り上げたので、それを回避しつつ背後に回り込み背中に斬りかかった。


「ダブルエッジ」

「カタッ!」


 これは【短剣術】のレベル5で覚えた技だ。通常攻撃を高速で二回切りつけるというシンプルな技だが、私が二回振るよりも格段に速いのでダメージ効率は今のところ一番良い。

 技の後の僅かな硬直時間の間にすぐさまこちらに振り返ったマリオネットは、間髪入れずに殴りかかってきた。が、それを横に飛ぶことでギリギリ躱す。


「ドールより反応も速度も上ね。ダメージも僅か。これは長くなりそうね」


 一度ダメージを負ったマリオネットは、今までが嘘だったかのように動き、執拗に私に殴りかかってきた。

 私はそれを一撃も受けたくないので、躱すことに専念し隙を突いてはダメージを蓄積させていった。

 レベルに差はあるが俊敏値だけで見れば私の方がいくらか高いのか。今のところ何とか躱すことが出来ている。


「ダガースタブ」


 出が速く硬直がほぼないダガースタブと通常攻撃で削り、マリオネットのHPが半分を過ぎた時、動きに変化があった。


 まるで近づけさせないようにデタラメに腕を振るうと、棺の横まで一息に飛び退いた。

 何をするのかと思う間もなく棺の蓋をずらすと、中から一本の細剣--レイピアを取りだし構えた。


「ここからが、第二ラウンドということかしら」

「カカッ」


 どちらともなく両者同時に駆け出し、接近したところでマリオネットがレイピアを突き刺した。

 腕の時の倍以上の射程になったその攻撃に反応が間に合わず、咄嗟に避けたがレイピアが私の二の腕の一部を削り取った。


「くぅ、目測を誤ったわ。だけど今の身体のおかげで影響は少ないわね」


 ドールである今の私は、腕を削られても出血もしないし問題なく動かせる。当然HPは減っているが戦闘を続けることに問題はない。

 次からが本当の第二ラウンドだ。


 それから十数分、何とか未だ倒れずに戦っている。

 両腕、肩、脇腹、頬と削られ、見た目こそボロボロだが、どれも致命的ではないからかHPはまだ半分も残っている。

 対してレイピアを躱し、すれ違いざまに切りつけたり、転倒させて魔法を当てたりしたマリオネットは、見た目の変化こそあまりないがHPは残り僅かだ。


「さて、なかなかに長い時間戦っていたけど、そろそろ終わりにしましょうか」

「カカ、カタッ」


 向かい合った私達は同時に動いた。

 瞬く間に両者の距離が縮まり、当然だが先にレイピアの射程に入った。

 マリオネットがレイピアを突き、私がそれを避けようとすると、レイピアを引っ込め、再度修正して突きを放ってきた。

 それを視認した私は短剣を握る手に力を入れつつ、……またか、と思った。


 実は、このフェイントは今が初めてではない。始めこそ騙されて頬を削られてしまったが、既に何度も使ってきてるのでもう対処法も出来ている。まぁ見つけたのは偶然と言えば偶然だが。

 その方法は、マリオネットがレイピアを引っ込めたタイミングで腕を伸ばし、レイピアに短剣を当てることだ。

 マリオネットは短剣が触れていようと突きを放ってくるので、短剣の腹を滑らせ軌道をずらしてしまえば、身体は削れてしまうかもしれないが直撃はしない。人間ではやりたくないドールだからこその方法だ。

 この方法は、回避が間に合わず短剣で弾こうとしたときにフェイントが入り、短剣が当たってるにもかかわらず突きを放ってきたので、力を入れて横にずらしたら難なく逸らすことが出来たことから判明した。


 閑話休題。

 マリオネットのフェイントをずらすことで回避した私は、そのまま背後に回り込み、その首めがけ技を放った。


「ダガー……スタブ!」


 わざと中心から外して放ったダガースタブは、マリオネットの首を大きく削った。

 そして技の硬直時間が切れると同時に、反対の首に短剣を突き刺し、左手でマリオネットの側頭部を殴りつけた。

 結果、マリオネットの首がボキリと折れ、頭が転がった。


「カ……カカ……」


 未だに頭から声が聞こえたから、即座に身体から飛び退いた。だがガシャリと音を立てて身体が倒れると起き上がることはなかった。


《種族レベルが上がりました。任意のステータスに2ポイント追加してください》

《職業レベルが上がりました。スキルポイントが2ポイント追加されました》

《スキル【短剣術】のレベルが10になりました。新たな技【クリティカルアップ】を覚えました》

《スキル【光魔法】のレベルが5になりました。新たな魔法【アタックアップ】【ヒール】を覚えました》

《スキル【闇魔法】のレベルが5になりました。新たな魔法【アタックダウン】【ダークショット】を覚えました》


 いやーきつかったわね。HPこそまだあるが、精神面がもうヘトヘトだ。

 ポルターガイスト以上の強さがあったから当然レベルが上がった。だけどあの強さにしては少ない気がする。一階での経験値もあるのでもう一つや二つ上がっても良いと思うのだけれど。

 まぁいいわ。ステータスを上げて、アイテムがあるか確認しましょ。


 と思いメニューを開こうとしたけど、身体が全く動かない。戦闘後のメッセージも入ったのに何故、と内心慌てているとマリオネットが座っていた棺が突然光り出した。


『あぁ。やっとやっと解放された。見知らぬ人、器を破壊してくれて感謝する。私の魂はそのマリオネットに捕らわれていたのだ。だがこれで解放された。しかし、子供達の魂は、妻の魂は、未だ捕らわれのままだ。見知らぬ人、どうか頼む! 愛しの子供達の魂を救ってくれ。愚かな、しかし愛する妻の魂を解放してくれ! どうか、どうか頼む!』


 棺から現れた半透明の男性、この屋敷の主だった男の幽霊は、必死な形相できっと最後の願いを私に託した。

 彼の話が終わり動けるようになった私は、まっすぐ突くことしかしてこなかった彼の剣を思い返し、返事を告げた。


「その願い、託されました。必ずとは言い切れませんが、やり遂げるために努力はいたしましょう」

『ああ、ありがとう……! 見知らぬ人よ、妻は私のせいで、私が先に死んだせいで狂ってしまった。彼女の器は強い。どうかこの剣を持って行ってくれ。頼んだぞ』


 そう言い残すと幽霊は、光となって消えていった。

 そして棺の中には、マリオネットが使っていたレイピアが、彼の遺骨と共に納められていた。


「はぁ。どうせ倒さないといけないとは思っていたけど、彼より強いとなると気が滅入るわね。それにこの剣どうしましょう。私、【剣術】のスキルなんて取得してないわよ」


 私には【短剣術】があるから、【剣術】は取るつもりがない。仕方ないけどこの剣は倉庫番かな、と思い手に取って【鑑定】してみると、気になる説明文が書いてあった。


【武器:剣】思念残るレイピア レア度4 品質B

 攻撃力32 重量10 耐久値45/110

とある騎士が使っていたレイピア 長い間込められた負の感情により変質してしまっている とあるモンスターに使うと何かが起こる

注意:この装備は呪われています


 それは『とあるモンスターに使うと何かが起こる』という一文。

 明らかにモンスターと化した婦人に使うと推測できるが、呪われてるってどうすりゃいいのよ。もう手に取っちゃったわよ。


 どうするべきか悩んでいるけど、試しにインベントリにしまってみると意外なことにしまえたので、今はこのままにすることにした。


 ちなみにマリオネットのドロップアイテムは、研究室にもあったトレントの木材から作られた腕と魔力糸という糸だった。その鑑定結果がこれ。


【素材】操人形の腕(特) レア度3 品質D

 特殊なマリオネットの腕だった物 トレントの木材から出来ており、普通の木材より魔力を通しやすい 特殊な加工が施されているがその効果はもう発揮されていない


【素材】魔力糸 レア度3 品質C

 魔力を通しやすい糸 とある蜘蛛から獲れた糸を加工して作られた


 正直どちらも使い道がわからないが、糸ならあのスキルと合いそうだ。


「地下自体は短かったけど、時間は結構かかっちゃったわね。早く書斎に戻ってログアウトしましょ」


 それからマリオネットの部屋をあらかた見て回り、何もないのを確認してから書斎に戻った私はログアウトした。


 今回の分のステータスは、次の作中に出てくるので割愛します。

 後21時に次話投稿予定です。

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[一言] >どうするべきか悩んでいるけど、試しにインベストメントにしまってみると意外なことにしまえたので、今はこのままにすることにした。 このゲームインベントリをインベストメント(投資)って表記して…
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