鳥のフィールド
北の門を潜った先に広がっていたのは、遠くに山の見える穏やかな丘だった。所々に木や岩が転がっていて、緑よりは砂利や礫が多くあるように見える。荒野と草原の間くらいの雰囲気だ。
「ここが北のフィールドね。東の森とは大違いね。でもここも森と同じくらいプレイヤーがいないのね」
「あー、北は出てくるモンスターが面倒なので人気がないんですよ。東は東で虫が気持ち悪かったり邪魔なPKが出たりと、滅多なことでは奥まで行かないですね」
「あら、そうだったの。確かに森でPKに遭遇したわね」
さらりと返し、彼らには経験値とお金をたくさん貰ったわと思い返していると、横からえっ、と驚いたような声が二つ聞こえた。
「クリスさんPKに会ったんですか!? 大丈夫だったんですか!?」
「マジか! あの三人組に会ったのか!? そりゃ災難だったな」
「確かに災難だったけど、装備売ったらいいお金になったわよ」
「えっそれって、倒したって事ですか!?」
「マジか。あいつら弱くはねぇって話だったが、それを倒しちまったのか。すげぇな」
「そうね、ボスの後で疲れていたから、多少苦戦したけどね」
あの大蜘蛛は本当に大変だった。今でもよく勝てたと思うわ。
「……あの大蜘蛛、倒したんですか?」
「ええ、初撃破も貰ったわ」
「はぇ、クリスさんってそんなに強かったんですね」
「……見た目じゃわからねぇもんだな。こりゃ心強いわ」
「はいはい。おしゃべりは終わりよ。敵が来たわ」
ポチを先頭に(覗き防止のため)歩きながら話していると、前方から土煙を上げながら何かが近づいてくるのが見えた。
やがてその全貌が見え私の前に現れたそのモンスターは、鋭い爪に尖った嘴、スラリとした二本足に長めの首の鳥。強いて言うなら首を少しだけ短くした小型のダチョウだった。
ソウチョウ Lv9
通常モンスター アクティブ
「ソウチョウ……ね。あのモンスターの特徴知ってるかしら」
「あれは見ての通り、あの速度で走り回って突いてきたりキックしてきたりします。速くてなかなか遠距離は当たらないし、近づいても反撃が速いし痛いしで意外と厄介なモンスターです」
「あら、気をつけないといけないわね。皆も気をつけてね」
『わかりました』
「いや! 話してないで助けてくれる!?」
ソウチョウについてネコーニャに聞いている間、ポチは思いのほか余裕を持って逃げ回っては反撃で引っかいたり噛みついたりしていた。流石に普段から逃げているだけあって、一撃離脱の戦い方を得意としているようだ。
覗き魔だけどちゃんと戦えるのね、と考えてる内にソウチョウの首に噛みついて倒していた。
他の魔物型プレイヤーの戦い方を初めて見たけど、よく四足歩行であれだけ動けるなと感心する。それにモンスターに噛みつくなんてことも私には出来そうにないわね。
「はぁ、はぁ、あんたら少しは手伝ってくれてもいいだろ」
「次からはちゃんとするわ」
「負けそうだったら、手伝ってたよ」
「あっそう。なら次行こうぜ」
彼の言葉に従って、再度進み始めた。
さて、このままじゃお荷物になっちゃうから、次に出た敵は私達で対処することにしよう。
と決めて進んでいるとすぐに次のモンスターがやって来てくれた。空から三羽も。
マルクロウ Lv8
通常モンスター アクティブ
【識別】によるとあの飛んでいるカラスのモンスターはマルクロウと言うそうだ。ただカラスと言っても街で見かけるのよりも大分丸々としている。雀をカラス大に大きくしたような見た目だ。
「げっ、出やがったな」
「クリスさん気をつけてください。あのカラスの攻撃受けるとお金盗られちゃいますから」
「あらそうなの、それはいやねぇ。ならここは私達に任せてくれる」
「えっ、いいんですか?」
「そいつは助かるが大丈夫か? あいつらも中々攻撃当てづらいぞ」
「まぁ、やってみるわ。マズそうだったら助太刀をお願いするわね」
二人が頷いたのを見てから私達、人形組は前に出た。
私とアシュリーが並び、その前に剣斧槍の子を、後ろにベルセルと杖の子を配置し、マルクロウの出方を窺った。
マルクロウは品定めしているように旋回していたが、それが終わったのか三羽バラバラに突っ込んできた。
「さぁ皆、返り討ちにするわよ」
私はそう宣言しつつ糸を展開する。構わず突っ込んでくるマルクロウが頭上二メートルくらいで大きく羽を広げ、その鋭い爪で引っかこうとしてきた。
だがその爪が届くより先に三羽の内二羽の体に矢が突き刺さり、そのまま明後日の方向へと墜ちていく。
そして残りの一羽は勢いに任せそのまま私へと迫ってきて、あと僅かでその爪が私を切りつけようとしたところで、急停止した。
網のように広げていた糸に阻まれ私へ到達できなかったマルクロウは、即座に空へ逃げようとしたが、もう私からは逃げられない。
「バインド」
技の発動と共に糸が一瞬でマルクロウを捕縛した。
二羽は矢が刺さり飛べず、一羽は必死に頭を動かすことしか出来ない。こうなれば後は止めを刺すだけだ。
それも前衛三人に頼んでサクッと終わらせた。
「皆お疲れ様。それにしてもよくやったわ、ベル、セル。すごいわね」
「「ありがとうございます」」
「飛んでるのに当てちゃうなんて本当にすごいですね!」
「あぁ驚いたな。あんなにあっさり倒しちゃうなんてな」
二人の矢が百発百中なのは知っているが、フライングドールの様な浮いて移動するのとは異なり飛んでいるマルクロウに当てられるとは思わなかった。
当初は私が三羽捕獲しようと考えていたからとても楽が出来た。これならどんどん進んでも問題ないだろう。
その前に何が手に入ったかも確認しよう。
【素材】丸烏の羽根 レア度2 品質D
マルクロウの羽根 あまり使い道はないが一応矢羽にできる そこらにも落ちていることがある
【素材】丸烏の肉 レア度2 品質D
マルクロウの肉 クセがあるが食べられないことはない
「えっと、取れたアイテムはっと、羽と肉ね。これって使えるのかしら?」
「正直売るぐらいしか使い道はないですね。掲示板情報ですけどマルクロウはたまにお金を落とすので、そっちが当たりです」
「へー、そうなの。なら後で烏狩りでもしようかしら」
どれくらいの確率かは知らないが、お金を貯めておきたい今なら率先して狩ってみてもいいかもしれない。
それとこれの他にもポチが倒したソウチョウの素材も入っていた。
【素材】走鳥の羽根 レア度2 品質D
ソウチョウの羽根 真っ直ぐで折れにくいが大きいため矢には向かない
【素材】走鳥の肉 レア度2 品質D
ソウチョウの肉 焼くと固くなるが味は美味しい
羽根はどっちもどっちで使い道がないが、肉はソウチョウ一択だった。
「おーい、もう進んで平気か?」
「ええ、済んだわ。待たせたわね」
「おう。じゃあ進むぜ」
それから何度かモンスターに遭遇しながらも、二人との連携も試みた。
ポチは最初の通り、素早さを活かした遊撃が得意で、ネコーニャは意外にも魔法使いだった。
火、水、風、土の四つの魔法を使い分けるだけじゃなく種族特有の俊敏を活かして、走る魔法使いという独特な戦い方をしていた。
本来詠唱中は大きな動きが出来ないはずなのに彼女はトップスピードではないが普通に走っていたので驚いた。
その中で私は二人が誘導してきた敵をバインドするのが一番の役割だ。バインドさえしてしまえば敵の強さにもよるが少なくとも一瞬は拘束できるので、それさえしてしまえば後は囲んで叩けば終わりだ。
バインドし損ねた場合もあったが、その場合は敵も近づかずに離れたが故に失敗したためこちらが不利になることは今のところない。
危なかったのは七羽のマルクロウが連続飛来してきてそのうち三羽がネコーニャに行ったときくらいだ。
あのとき詠唱をキャンセルしてなかったら一羽だけでなく三羽全てがネコーニャに当たっていただろう。
他にはバインドしたところにポチが突っ込んできて、ソウチョウと一緒に縛られ他のソウチョウに踏まれたぐらいしか大したことは起きなかった。
そんな道中を経て、ポチの言う目的の場所までたどり着いた。




