人形と猫と犬のパーティー
思いがけず予定が空いたので何をするか迷っていたが、お財布が心許ないのを思い出したので、お金稼ぎにクエストを受けようと思い冒険者ギルドまでやって来た。
……もう遅いがお婆様の依頼書を持ってきてあげれば良かったと到着してから思い至った。
まぁ今から言っても仕方ないので、クエストの一覧から何を受けるか眺めているんだけど……、
「あっ、お嬢様だ」
「うわっ! 俺初めて見た」
「うわぁ……綺麗……」
「マジであの装備すげぇな。誰に作ってもらったんだろ」
「なんか増えてね?」
「彼女の格好ってロールプレイなのかな」
「あの顔ないのも従魔か? あんなモンスター見たことねぇんだけど」
「【朗報】お嬢様に可愛い子が二人も増えてる」
「ひい、ふう、みい……、あれ? パーティー上限超えてね?」
「おい、誰か話しかけて来いよ」
「俺もあの中に入れてくんねぇかな」
「お前が行ってこいよ」
ものすごく外野がうるさい。そのせいでうちの子達が萎縮している。
仕方ないのでさっさと決めてしまおう。
この東の森の納品クエストと同じDランクで北フィールドの依頼をいくつか受注して、早くこの視線の嵐から抜けだそう。
手早くクエストを選んでうちの子達をじろじろと見てくるプレイヤーを睨みながらギルドから抜け出し、北の門へ向かって歩いていた。いたんだけど、
《プレイヤー『忠犬ポチ』があなたの下着を覗いています》
「はい、確保」
「うわぁ!」
いつの間にか現れた犬によって足を止めざるを得なくなった。
もちろんこのまま見逃すつもりもないのでしっかりバインドで縛り上げている。
「クリス様離れてください! 汚れてしまいます!」
「「あっ! ワンコだ!」」
「あっ! 可愛い少女が増えてる!」
「ベル、セル、近づいてはダメよ。そいつは見た目はただの犬だけど中身は変態だから。皆も近づいちゃダメよ」
「「えっ、わかりました」」
『……』
全く、アバターの姿を利用していたいけな少女をたぶらかすとはなんて卑劣なやり方かしら。
この子達には後で女の敵であることをしっかり教えておかないとならないわね。
「ま、待ってくれ! 誤解だ! お嬢様の従魔が増えてるから気になって近づいただけなんだ!」
「なら、この『覗いています』ってメッセージは何かしら?」
「……………………つい」
「ギルティ」
「ぎゃあ! ちょ、待って、キツくなってる、締め付けが、キツくなってる! これ以上は、マズいって! ああ、いい、きちゃう!」
私は見られた憂さを晴らすために、締め付けを強くしていく。
それなのに次第に発言がおかしくなっているもんだから、私含めた皆はドン引きである。
これ以上やっても彼が新しい扉を開きそうだったから、締め付けを緩めそこらに捨てた所に、聞き覚えのある声が後ろから聞こえた。
「あー! クリスさんだ! また駄犬を捕まえてくれたんですね。ありがとうございます!」
「あらネコーニャ、ごきげんよう」
「きゃー! ごきげんようって言われちゃった! んんっ、ごきげんようクリスさん」
「うわぁ、猫が猫被ってるよ」
「おい、駄犬。今なんか言ったかな」
「何も言ってません!」
やって来たのは、街の案内をしてもらった黒猫のネコーニャだった。
彼女は相も変わらずに犬を追いかけ回しているようだ。こうして犬と猫でじゃれ合っている様子を見るとどこか仲が良さそうに見え……いや、やっぱり気のせいね。
「はぁホントにこの犬懲りないなぁ。ところでクリスさん! すごい増えましたね! こっちの四体は違う種族ですか?」
「詳しくはこの二人が違う種族だけれど、多分基本は皆同じ種族よ」
「へーそうなんですね。てっきりこの可愛い子達がアシュリーちゃんと同じかと思いました」
「まぁ、そう考えても不思議じゃないわよね」
確かに見た目ならばアシュリーとベル、セルが同じだと思ってしまっても仕方ない。マネキンのように顔がないこの子達とアシュリーが同じだと言ってもにわかには信じられないだろう。
……うん、今度皆にもちゃんとした顔を作ってあげよう。今も心なしかしょんぼりしてる気がする。
「それにしても、この数でお揃いの装備だと少し迫力ありますね。鎧だったらクリスさんを守る騎士みたいになりますよ」
「それはすごそうだけど、装備を揃えるとなるとお金がね。今もクエストをやりに外に行くところなのよ」
「えっ、そうなんですか! どこ行くんです? 良かったら私も一緒してもいいですか!?」
「行くのは北のフィールドだけど、ネコーニャの得にならないわよ。経験値もこの子達がいるから分散されちゃうし」
「北かぁ。それならあまり役に立てないかも。でもクリスさんの戦い方とか気になるし……。やっぱりお供してもいいですか?」
「あなたがいいなら私は構わないわよ。今更一人増えたところで経験値的にも変わらないし、ネコーニャなら頼りになりそうだしね」
なんせ私よりも長くこの街にいるから役に立つ情報も持っていると思う。それに私も彼女の戦闘方法が気になる。
話が纏まり、彼女にパーティー申請を送ったタイミングで、見ないようにしていたところから待ったの声が掛かった。
「ちょーっと待ったー! その話聞かせてもらったぜ。……ぜひ俺もパーティーに入れて下さい!」
「盗聴は歴とした犯罪よ」
「なんで犯罪者を入れなきゃいけないんですか」
「あたり強すぎない!? 待って、行かないで! 実は俺北のクエスト受けてるんだけど、そこの猫の団体がいつも追っかけ回してくるせいで誰も近づいてくれないからパーティーも組めなくて困ってたんだよ!」
「自業自得でしょ。私達のせいにしないでよ」
「ぐぅ。一応自覚はしているが、こればっかりは、つい」
「さぁ、クリスさん行きましょう」
「そうね。レベル上げもしたいから早く行きましょうか」
無視を決め込みさっさと行こうとした私達であったが、ワンワンと騒ぎ立てる後ろからゲーマーとして聞き捨てならない話が聞こえてしまった。
「ちょっと、今の話もう一度教えてくれない」
「ああ、北のフィールドなら俺が役に立つぜ」
「そんなことはどうでもいいのよ。特殊モンスターって言わなかった?」
「どうでもって、まぁいいか。確かに言った。俺が受けたクエストはギルドじゃなくて住民の依頼だったんだけど、内容が討伐クエストだったんだよ。それでそのモンスターが俺だけじゃ相手にならないんだ。だから頼む! こうやって会えたのも何かの縁だと思って、パーティーに入れて下さい!」
覗き魔に会う縁なら早々に無くなって欲しいのだけど、特殊モンスターはとても気になる。
クエスト由来だとしたら受注している人がいないと現れないだろうから……、仕方ない、今回は同行することにしよう。
「わかったわ。そのモンスターに免じて今回だけはお供しましょう。ネコーニャもいいかしら」
「むぅ。クリスさんがいいなら私も我慢します」
「よっしぁ! これでクエスト破棄せずに済む! 本当にありがとう! 今更だが俺は『忠犬ポチ』だ。よろしく!」
「クリスティーナよ。クリスでいいわ。この子がアシュリーでこっちがベルとセルよ」
「私のことは知ってるだろうけど……、ネコーニャよ」
そういうことで急遽二人? パーティーが増えて、北のフィールドへ向かうことになった。




