魔女さんの錬金講座
私が屋敷に戻って自室へ入ると、こちらに気付いた皆が一斉に集まってきた。
「「クリス様、おかえりなさい。アシュリーもおかえり」」
『……』
「はい、ただいま」
「ただいまです」
「皆の装備を買ってきたわ。今から渡すから合った物を装備してね。できたらレベル上げに行くわよ」
『はい』
いそいそと着替えている皆を微笑ましく眺めつつ、終わるのを待っている。
着替えそれぞれが動作の確認が終わった所で、アシュリー含め皆が私を見てきた。
「終わったようね。新しい皆はこれが初戦闘になるけど、私とアシュリーがいるとは言え決して油断しないように。だからと言って萎縮してないで思う存分動きなさい。いいわね」
『はい』
「いい子達ね。じゃあ行くわよ!」
『はい!』
私を先頭にアシュリーを最後尾に並べ、緊張とワクワク感を隠しきれないこの子達を引き連れて三階を進んでいる。今の私はまるで引率の先生だ。
そんな私達の前にフライングドールが現れた。
サクッと拘束して皆に殴ってもらえば苦労せず倒せるかしらと考えていたところ、背後から鋭く息を吐く音が聞こえた。
「「シッ!」」
それはベルとセルが矢を放った音だった。
その二つ矢は外れることなくフライングドールに当たり、ゴリッとHPを削った。
それから、維持できず落っこちたフライングドールに剣と斧が降りかかり、あっという間に倒し終わった。
「「やったあ!」」
「うん。よくやったわ、上出来よ! この分なら私が手を出さなくても何とかなりそうね」
「ですね。私の出番も無さそうです」
「ならしっかりこの子達の活躍を見ておきましょうか」
その後、屋敷の外が明るくなるまでひたすらレベル上げをした。
戦闘に関しては、どの子も普通に戦えていた。
斧の子の一撃は私と同じくらい威力があるし、杖の子の魔法は私達の中で一番ダメージが出せる。剣と槍の子は飛び抜けているものこそないがアシュリー同様堅実に動いている。
そして、ベルセルペアは凄まじいの一言だ。その高い器用値から繰り出される百発百中の矢で、敵に気付かれるよりも先にダメージを与えてくれるおかげで、こちらに大きなアドバンテージをもたらしてくれた。
そんな戦闘を続けた結果、新規組は7までレベルが上がり今では何の問題なく戦えるようになった。ソウルの動きも【糸操り】で一人一人教え込んだので相手できるようになっている。だけどまだ不安が残るからモンスターを出している間は、一人では出歩かないようにお願いしてある。
皆のレベルが5になって、新たなスキルも覚えた。
斧の子は【伐採】を、剣の子は【盾術】を、槍の子は【気配察知】を、杖の子は【水魔法】を、ベルとセルは二人して【回避】と言うスキルを覚えた。
説明するまでもないが、【水魔法】は水系統の魔法が使えるようになり、【回避】は攻撃や罠を回避しやすくなるスキルだった。
剣の子にはアシュリーの物と同じ盾を作って持たせてある。
対してアシュリーのレベルは1上がり【盾術】の新しい技を覚えた。私は上がりもしなかった。ゲーム内で十時間近くやってこれだからもう私はここでのレベル上げは時間の無駄になるだけだろう。
だが、召喚している数が増えたからなのか、はたまた単純に長時間遊んだからなのかは知らないが、いつの間にか【死霊魔術】のレベルが上がっていた。
今はまだ召喚しないが、今度するときは装備などをしっかり揃えて更なる検討をしてから召喚しようと思う。
「さて。少し早いけど私は一旦ログアウトしてくるわ」
「畏まりました」
「「わかりました」」
『……』
外が明るくなったと言うことは、現実では……うん、十八時十五分だ。少し早いけど自室の前に戻ってきてキリがいいから晩ご飯を食べることにした。
「それじゃあ皆、また後で」
『はい』
部屋に戻り皆に声を掛けてから、皆に見送られつつログアウトした。
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昼に作ったカレーを温め直してそれで晩ご飯を済ませ、お風呂に入り就寝できるようにしてからログインしました。
ログインした私の目に入り込んだのは、杖の子が【火魔法】を使って火を出して、その周りを他の子達が囲い、皆してその火に手をかざしていると言う何か儀式めいたことをしている光景だった。
「……アシュリー。あの子達は何をしてるのかしら?」
「あっ、クリス様おかえりなさいませ。彼らは【火属性弱点】を克服している最中です」
「えっ? あんなのでレベルが上がるものなの?」
「はい、上がってますよ。だけど【状態異常耐性】のレベルは変化なしですが」
アシュリーが言うには、私がいない間に弱点をなくすためソウルに挑もうとしていたらしいが、杖の子が【火魔法】でもレベル上げできるのではと提案し試してみたところ、そこそこのダメージと引き換えにあっさり上がったから私が来るまで行うことにしたらしい。
そして試行錯誤した結果、あの儀式がHPもMPも少なく済み皆でレベル上げができる方法、らしい。
その成果もあり、皆の【火魔法弱点】はレベル7まで上がっていた。
成果は出てるがその見た目が何とかならないかと思ったが、私がやってたソウルタッチレベリングも大概かと考えを改めた。
「そういえば、私がいない間も皆は動けるのね」
「? そうですよ。何かお仕事があればクリス様がいないときでもやっておきますよ」
「そうなのね。何かあったらお願いするわ」
「お待ちしてます」
そんなことを話していると、私に気付いた剣の子に感化され皆がこちらに振り向いた。
「「あっ、クリス様。おかえりなさい」」
『……』
「皆ただいま。頑張っていたみたいね。……これから私は魔女のお婆様の所へ行くけど、皆はどうする? このまま屋敷でレベル上げでもしてる?」
皆にどうするか聞いてみると、おのおの返事が返ってきたけど、その中身は皆同じたった。
「もちろん私はクリス様についていきます」
「どこ行くかはわからないけど」
「私達もクリス様と行きたいです」
『……!』
「わかったわ。ちょっと人数が多いけど、お婆様なら気にしないでしょ。よし、それじゃあ皆で行きましょうか」
『はい!』
と言うことで全員でお婆様の家へ行くことにした。
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「おはようございます、お婆様。【錬金】を学びに来ました」
「あらあら、いらっしゃい。どうぞ上がって」
「お邪魔しますわ。……実は従魔を増やしまして、皆連れてきてしまったのですが皆も中へ入れてもいいですか?」
「あらあらまあまあ。そんなこと気にしないで入ってちょうだい。狭いところでごめんなさいねぇ」
「こちらこそ何も言わずに申し訳なかったわ。さあ、皆お邪魔しましょう」
「マチルダ様、おはようございます」
「「お邪魔します」」
『……』
あの後中央街へ転移して、他プレイヤーからの視線をひしひしと感じつつそれを気にせずお婆様の家にやってきた。
午前中と同じ方法で扉を開け中へ入り、皆の入室許可も下りたのでぞろぞろと中へと続いて入っていく。
「まあまあ! どの子も素敵ね。特にこの二人はお人形さんみたいに可愛らしいわね」
「みたいじゃなくて本当に人形なんだけど。こっちがベルでそっちがセルよ」
「「は、はじめまして」」
照れているベルとセルを微笑ましく眺めていると、お婆様が軽く手を叩き注目を集めると話を続けた。
「さて、早速だけどクリスさんは私と【錬金】について勉強しましょうか」
「よろしくお願いしますわ」
「その間は他の子達は何をするのかしら」
「……特に決めてはないわね」
話し合いの結果、新規組は庭で引き続き弱点の克服をして、アシュリーは私のお手伝いが出来るように後ろで控えているとのこと。
屋敷にいても良かったんじゃないかと思ったが、それは心の中に閉まっておいた。
それぞれが移動してから私とお婆様、ついでにアシュリーも作業台へやってきた。そしてお婆様による【錬金】の授業が始まった。
「クリスさんは【錬金】についてどのくらい知っているかしら」
「正直に言えば、全く、かしら。魔力を込めれば素材を変化出来ることに気付いて、そこからレベルを上げて合成と変形を使えるようになったから、基礎というものは全く知らないわ」
「そうなのね。普通なら魔力を使うこと、【魔力操作】はある程度【錬金】が出来るようになってから気付くものだけど、来冒者は違うのかもしれないわね。さて、それなら【錬金】について一から説明するわ」
「ええ、お願いしますね」
お婆様の説明が始まった。
錬金術とは、物の本質をそのままに別の形へと変化させる技術。
その中でも基本となる技術は、元となる物に他の物を組み合わせる『合成』、元となる物の形を変える『変形』、元となる物から一部を取り除く『抽出』、元となる物に特定の成分のみを付け加える『付与』の四つがある。
これらは【錬金】のレベルを上げれば自ずと使うことが出来る。だが技術は知識があるからこそ正しく使うことが出来る。
今でこそ【錬金】を使う場合技術で補うことが出来るが、本来は自分の魔力を用いて素材に語りかけることで【錬金】を行っていた。
知らず知らずに私がやっていたのが、この魔力を使った【錬金】のようだ。だからレベルが足らなくても合成が出来ていた。
ここまで軽く実演を混ぜながら説明していたお婆様だったが、一度手を止めると先ずは基本となる四つの技術を覚えましょうか、とこちらに微笑んだ。
「それで私はどうすればいいのかしら?」
「そうねぇ。確かクリスさんは合成と変形は出来るのよね」
「ええ、そうですね」
「なら今からゆっくり抽出と付与をするからよく見ていてね」
まずは抽出からやってみるわね、と前置きしてから回復薬を一本を取り出すと、その回復薬がゆっくりと減っていき、最後には粉だけになっていた。
「これは、回復薬から水分だけを抜き取ったのかしら?」
「ええ、その通りよ。これが抽出よ」
「この粉はちゃんと回復できるのかしら?」
「うふふ、【鑑定】持ってるでしょ。してみて」
お茶目にそう言うお婆様に従って鑑定してみると、なかなかに面白い結果がそこに映っていた。
【薬】下級回復粉薬 レア度2 品質S
回復量:B 製作者:マチルダ
液体の回復薬を濃縮し粉にした回復薬 このままでは経口摂取しか回復効果がない 液体に溶かせば液体の回復薬と同程度の効果がある 飲みにくい
鑑定結果は説明文が違うだけで、品質も回復量も元の回復薬と全く同じだった。むしろ液体の様に振りかけて使えない分、劣化品とさえ言えそうだ。
ただそれは、あくまで回復効果についての話だ。
このアイテムの便利なところは、液体に溶かせば元に戻るという点と粉という点だろう。
咄嗟に使う分には不便だが、時間があるならただ水に溶かせば問題ない。それに粉になったことで、液体の時の何十分の一と言う質量で持って行くことが出来る。
インベントリに仕舞ったときどう表示されるか知らないが、持ち運ぶという点で言えば圧倒的に粉の方が便利だろう。
それに混ぜる液体によっても別の変化があるかもしれない。
「粉の方が持ち運びに便利そうですね」
「うふふ、クリスさんは賢いわね。それに粉にして保存した方が品質が長持ちするのよ。と言っても液体のも瓶に入れて置きさえすれば、そこそこ持つから一般には粉では卸さないけどね。作る時も一度液体で作らないと粉には出来ないから、ほとんどの場合は粉にはしないわ」
「なるほど。余程の理由がないなら液体で十分なのね」
「そういうことなの。さぁ、次は付与をやってみるわ」
続いてお婆様は土魔石を取り出した。そしてあっという間に魔力を抜き出すと水の魔力を込め、水魔石を作り出した。
「ってこれって始めにある石ころ作るレシピと同じかしら?」
「抽出で魔石の魔力を取り除くのはレシピ通りね。それに【水魔法】の魔力を込めたのが付与になるわ」
と言うことは、私は知らない内に抽出も付与もやっていたと言うことになる。
それなら何故初めからこのレシピがあるのか謎だが、まぁ考えた所でわからないだろう。
「その方法なら私もやったことがあるわ。違うかもしれないけど、この木材も私が魔力を込めて普通の木材から作りました」
「あらあら、そうだったの。……はい、ちゃんと付与できてますね。すごいわ、クリスさん。基本の四つ全て出来ていたのね」
「そういうことに、なりますね」
「それならクリスさんには、実際に【錬金】をやっていってレシピとレベルを増やしましょうか」
「わかりました」
それから私はお婆様の教えの元、薬を中心に実際に作りながらいくつかのレシピを教えてもらった。
下級回復薬や下級魔力回復薬に毒回復薬。さらに私は使い道がないが薬草のスパイスも教えてくれた。
その際に基本四種の技術の使い方も教わった。
一通り作り終えると、今度は私がひたすら【錬金】を繰り返し、レベル上げを行った。
出来た物は品質が良ければお婆様が引き取ると言ってくれたが、結局そのレベルの物は作れなかった。
だがその間にレベルが10に達し、我流じゃなくちゃんとした『抽出』と『付与』を使えるようになった。
それがお昼ご飯のための中断が入るまでに起きた出来事だ。
「お疲れ様。【錬金】のレベルも10になったみたいね」
「おかげさまでしっかり抽出と付与を覚えました」
「それは良かったわ。ところで少し相談があるのだけれど」
「はい、何でしょうか?」
改まった様子でそう言ってきたが、そんな身構えないでと雰囲気を柔らかい物にした。
「相談と言ってもそんなに重大な事じゃないわ。ただクリスさんにも言っておいた方が良いと思っただけだから」
「はぁ」
「それでね。実は他にも来冒者さんをお手伝いに呼ぼうと思っているのよ。やり方はクリスさんの時と同じだから一気に来るとは考えてないけど」
それから続くお婆様の話はこうだった。
元々お婆様が冒険者ギルドに依頼を出していたのは、来冒者に【錬金】を教えてみたかったと言うなんとも気まぐれな考えから及んでいたらしい。だけど教えるにも最低限の技術は持っていて欲しかったからあの特殊な依頼書でふるいを掛けていたようだ。
それに私が引っかかったんだけど、私が来る少し前に街からもっと薬を卸せないかとお願いされてしまったとのこと。なんでも来冒者が薬を買い占めてしまって、住民へは行き渡らなくなってしまったようだ。
そこで【錬金】を教えるついでに薬を作ろうと考えていたようだが、いよいよもって薬不足が目立ってきているから、薬作りのお手伝いを増やそうと考えていたとのこと。
それに私や来冒者はいつでもこの世界にいるわけではないから、その点でも複数人いる方がいいと考えていたようだ。
これには私も大賛成だった。やっぱりフィールドの探索や他のこともしたいので、流石に付きっきりには出来ない。
なので、そういうことなら私は何の問題もないと返した。
「それなら決まりね。でもいつ来るかは、お相手さん次第だからそれまではクリスさん、よろしくね」
「ええ、教えてくださる分はお手伝いで返させてもらいます」
「うふふ、ありがとう。それじゃあ今日はギルドに行くからクリスさんはおしまいでいいわよ」
「あら? それこそ薬作りはしなくていいの?」
「昨日作った分があるから大丈夫よ。また時間があるときに来てちょうだい」
「そう。お婆様ありがとうございました」
「マチルダ様、失礼いたします」
そう返すとお婆様が依頼書を書き始めたので、私は皆を呼んでお婆様の家を後にした。




