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生産道具セットと死霊魔術

 現実世界でお昼を食べてからまたログインしました。

 なおメニューはカレー。この土日は三食カレーが確定した。

 ゲームの時間を増やしたい理由もあるが、一人暮らしでカレーを作るといつもそうなってしまうのだ。


 さて、ログインするとゲーム内の時間は夕方前くらい。まだ日が出ているとはいえ、今からお婆様の所へ行くと失礼になると思うから、今からは素材を売って必要な物を買おうかと思う。

 とは言えどこに売っているかはわからないので、まずは冒険者ギルドへ行き、納品クエストや買い取りをして貰い、ネコーニャに教えて貰ったお店を散策する予定だ。


 と言うことで冒険者ギルドに行って、いくつかのクエストの達成と森で出会ったPKから貰えたいらないアイテムを売ってきた。

 それから教えて貰ったお店に向かいつつ適当に他のお店を眺めていると、露店に欲しかった物が並んでいるのに気がついた。しかもその露店の店主は住民じゃなくプレイヤーだ。

 髭もじゃのずんぐりむっくりした体型、ドワーフのプレイヤーだ。


「もし。物を見てもいいかしら」

「うわぁ! ドレスにメイド!? えっ、プレイヤーなのか!?」

「ええ、私はプレイヤーよ。それで商品を見てもいいかしら?」

「あ、ああ。どうぞ見てってください」


 ここに並んでいるのは主に鉄製の武器や盾などだ。その中に私がちょうど欲しかった物が置いてある。それはツルハシだ。

 伐採や採掘をする際、今までは耐久力無限の初心者の短剣で行っていたけど、少し考えれば、いや考えなくても何でこんな奇行に走ったか疑問しか残らない。

 それしか道具がなかったとは言え、あのときは素材の山を見て我を失ってたんだと思いたい。


「このツルハシをくださいな」

「お、おう。まいど」

「ねぇあなた聞きたいのだけど、このツルハシってあなたが作ったの?」

「そうだけど」

「なら斧って作れないかしら? 私、【伐採】のスキルもあるからちゃんとした斧も欲しいのだけれど」

「ああ、作れるっちゃ作れるが……。ツルハシも斧も、嬢ちゃんが振り回すのか? その格好で」

「「……」」

「……」


 ドレス姿で斧やツルハシを振り回す自分を想像して、思わず絶句してしまった。

 いや、ねぇ。まぁ別にいいんじゃない? これはゲームなんだしそんな人が一人ぐらいいても。違和感ありまくりだしおかしな人だと思われるだろうけど……。


「えっと、私も一緒にやりますから、クリス様だけ奇異の視線に晒させませんから!」

「ドレスとメイドが木こりしてたら凄くシュールなんだが」

「……自分がやりたい事するのに、周りの目なんて気にしなくていいのよ。これはゲームだし……」

「……」


 もうこの姿のせいで目立っているのは、私も気付いているから今更その視線が増えたって気にしなくたっていいじゃない。

 それに街で見た装備よりこのドレスの方が数段性能がいいのだから、わざわざ弱い装備にする必要もない。


「それで、斧はいつ頃出来るかしら」

「あー。それなら生産ギルドで作ってくるか。この時間あまり人来ねぇし」

「あらいいの? それならお願いできるかしら。それと少しだけど鉄鉱石なら渡せるのだけれど」

「そいつは助かる。値段はその分割り引いておくぜ」


 持っていた鉄鉱石三個、ついでに魔力注入済みの木材も渡し、いつ取りに来ればいいのかを尋ねた。


「鉄鉱石はちと足りんな、てかなんだこの木材……」

「完成までどれくらい掛かるのかしら」

「ああ、斧ならすぐ終わる。そうだな、二十分ぐらいで終わると思う」

「わかったわ。私はクリスティーナ。クリスと呼んで。この子はアシュリーよ」

「ああ、知ってる。俺はドドドンだ」

「……失礼だけど変な名前ね」

「ああ、よく言われる」


 何故私達の事を知ってるかは置いといて、ドドドンさんは生産ギルドに行くためか店じまいを始めた。


「二十分もありゃ作れると思う。それまでここにいるか?」

「それなら私達は買い物を続けてもいいかしら?」

「構わねぇよ。それじゃあまた後でな」

「ええ、終わったらまたここへ来るわ」


 ドドドンと別れた私達は、その足でネコーニャに教えて貰った住民の経営する商店へと入った。


 お店の中は、スーパーのようにジャンルごとにアイテムが分かれている。それをプレイヤーと住民が混じった何人か買い物していた。


「クリス様、ここで何を買うんですか?」

「ここでは初級道具セットを買おうと思ってるわ」

「何ですか、それ?」

「各生産に必要な道具のセットよ。【木工】ならノコギリやヤスリなど、【錬金】なら魔法陣が書かれた布なんかが入っているらしいわよ」

「へーそんなのがあるんですね」


 そのセットを難なく見つけ、他に必要な物がないか見て回った後、結局他の物は今は買わず木工道具セットと錬金道具セットの二つだけを買った。


「少し早いけど、斧の受け取りに行きましょうか」

「はい」


 先ほどの露店の場所に戻ってみると、すでにドドドンさんが店に商品を並べているところだった。


「お、来たか。ちゃんと出来たぜ」

「ありがとう。随分早かったのね」

「作るのこれだけだしな。早速だが材料の分引いた値段でこれくらいでどうだ」

「相場がわからないけど、その値段で買うわ」

「あいよ。確かに」


 これで無事ツルハシと斧が手に入った。それぞれの鑑定結果がこちら。


【武器:槌】アイアンピッケル レア度2 品質C

 攻撃力30 重量18 耐久値100/100

 鉄で出来たツルハシ 武器だけじゃなく採掘にも使える


【武器:斧】アイアンアックス レア度2 品質C

 攻撃力32 重量19 耐久値110/110

 鉄で出来た斧 武器だけじゃなく伐採にも使える 柄に魔樹の木材を使っているため耐久値が少しだけど高くなっている


 どちらも武器として使えるようだが、私は該当するスキルを持っていないので、【伐採】と【採掘】専用だ。もう短剣で無茶する必要も無くなったわけだ。

 どちらも重量があと少し重かったら、私では装備できなくなるところだった。


 MESOの装備品は、自分の筋力より低い重量の物しか装備できない。

 今の私の筋力が20だから本当にギリギリだった。


「ありがとうドドドンさん。いい買い物が出来たわ」

「おう。俺は暇なときはここか生産ギルドにいるから、欲しいものがあったり耐久値が減ったらまた来な」

「そうさせてもらうわ。ではまた、ごきげんよう」

「失礼いたします」

「お、おう。ごきげんようなんて初めて言われたぞ……」


 何か呟くドドドンさんをスルーして、私達は一度道具セットを置きに屋敷に戻ることにした。


~~~~~~~~


 屋敷の自室に戻ると、早速作業用の机に道具セットを広げていく。


 【木工】の初級道具セットの中には、ノコギリ、金槌、彫刻刀、キリ、ヤスリ、物差し、万力が入っていた。これらは現実でも見たことがあるから、素人だが何となく使い方はわかる。


 だが【錬金】のセットに入っていたのは、見ただけではどうやって使うのかわからない物が多い。

 中央に魔法陣が書かれた一辺が約五十センチの布、こちらも魔法陣が書かれた小鍋ほどの釜、ボウル、フラスコ、いくつかの試験管。フラスコなどは化学の実験で使う物と全く同じだ。

 だが布と釜の用途がわからない。特に布。


 なので困ったときの掲示板を見てみるとちゃんと使い方が載っていた。


「何々。この布は、合成や変形などの【錬金】の技術をするための物で、この上にアイテムを乗せて技術を使うと発動できる。液体でやるときはこの釜を使うと。……ふむ」


 掲示板を信じるなら、この布や釜は【錬金】の技術を使うのに必要不可欠な物らしい。


 それなら何故私は道具を使わなくても出来たのか、と疑問に思ったが、何となく【魔力操作】が関係しているのだろうと思い、深く考えるのは止めた。


 それから、使いやすいように道具を並べた。【錬金】の布が思っていた以上にスペースを取ったので即席で【木工】をするための台と卓上の棚を作って場所を確保した。


「これでやるべき事は大体終わったけど、これから何をしましょうか」

「クエストや他のフィールドの探索でしょうか?」

「そうね。それもいいけど……、改めて屋敷の周りを見て回りましょうか」

「あーそうですね。マダムを倒した後にそのまま外に行っちゃいましたから、庭とか見てなかったですね」


 やることが決まったので、私はホームの機能でモンスターの出現率をゼロにしてから、見て回ることにした。


 一時間後。屋敷周りの散策を終えた。

 屋敷をぐるりと囲った塀の内側には、家庭菜園ほどの畑、花壇だったもの、ボロボロの温室、水の涸れた池、掘っ立て小屋、そして屋敷の裏にどうやっても鍵の開かなかった地下への階段があった。


「階段以外特に変わったところは何もないわね」

「そうですね。その階段が凄く怪しくはあるんですが」

「でも開かないのだからどうしようもないわ。それよりも……」


 私は辺りを見渡し、屋敷を見てからぽつりと呟いた。


「完全に屋敷を持て余してるわね。私達二人では広すぎるわ」


 実質一部屋しか使っていない屋敷に、ボロボロで雑草だらけの庭。どう考えても私達だけではこれらを活用できる気がしない。

 いっそホームを開放してプレイヤーでも呼び込もうかしら。


 そう思っていると、アシュリーが思いもしなかったことを口にした。


「確かに広いですね。でも人手なら【死霊魔術】で増やせるんじゃないですか?」

「えっ? 増やせるの?」

「えっ? 増やせないんですか?」

「「……」」


 確認すると出来ました。


 ついでだから【死霊魔術】について詳しく見てみると、【死霊魔術】は他の使役系スキル同様、スキルレベルが1上がると召喚出来る数も増えるみたいだ。


 他の使役スキルは、スキルレベルが1上がるごとに召喚可能数が一体増えて、パーティーの上限を超えても、モンスター用の格納インベントリがあり、戦闘時以外に入れ替えが出来るらしい。当然一度に召喚できるのは自分を入れたパーティーの上限である六人まで、つまりは自分と召喚モンスター五体の編成となる。


 しかし【死霊魔術】は、1レベルにつき召喚出来る数は同じく一体だが、一度に召喚できるのは五パーティー分である二十九体と異常な数を召喚できるみたいだ。


 数だけを見るなら異常だが、当然デメリットもある。


 まずは経験値。召喚しているモンスター全てに分配されるから、召喚したらするだけ一人に入る経験値は減ってしまう。


 次は【死霊魔術】の特性がある。他と異なり【死霊魔術】は、召喚してもそのモンスターがやられると完全にいなくなってしまう。そのため召喚すればするほど強くなるのが遅くなるのに、不意にやられたらそれで終わりという決定的なデメリットがある。


 さらに一度召喚すると戻したり格納することが基本出来ないので、意味もなく召喚しても素材も枠も無駄になるだけだろう。それに召喚するのに素材が必要というのも、無計画に増やしづらくなる一因だろう。


 魂契約をすればそれも防げるが、肝心のその契約数は今の私で三体までだ。

 私の【死霊魔術】のレベルが7なので、召喚できるのが七体。そのうち三体だけが契約出来るが、すでにアシュリーをしているので残り二体しかできない。


 しかし、今の私にとってはただただ喜ばしい内容だった。

 なぜなら、私が今求めているのは屋敷での人手だからだ。


 この屋敷ならモンスターが出ない様に設定出来るからやられて失うこともないし、ホームの機能で使役モンスターを屋敷に配置することが出来る。ホームに配置するとパーティーから外れるので、経験値が分配されることもないのだ。


「召喚できるわね。後六体も」

「六体! それは凄いですね! すぐ召喚しますか?」

「時間もあることだしやっちゃいましょうか」

「そうですね!」


 と言うことで一度部屋に戻って、必要な素材を強化してから召喚することにした。


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― 新着の感想 ―
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