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魔女マチルダ

短め

この話から生産関係の話が続きます。単調だと思いますがご了承ください。

「ここね」

「ここからじゃ何も見えませんね」


 マップに従い進むこと十数分、私達は目的地と思われる一画にやってきた。

 場所は中央にある広場から北東部にある住宅地。静かで閑散とした場所に、クエストの依頼主が住んでいるであろう家があった。


 一周を生垣に囲われ中を窺うことが出来ないが、通りに面した一部がアーチ状にぽっかりと開いていて中へ行けるようになっていた。


「さて、何が待ち受けているのかしら」

「ギルドの方は魔女と言っていましたね」

「魔女ねぇ。まぁ行けばわかるでしょ」


 アーチをくぐり敷地の中へと進んでいく。その先も生垣がまっすぐ続いており結局家の扉らしき所まで生垣以外の物を見ることは叶わなかった。


 そしてたどり着いた扉だが、そこにはドアノブもドアノッカーもなかった。

 試しに普通にノックしてみたが、中からの返事は一向に返ってこず、押してもスライドさせようとしてもピクリとも動かなかった。


「開きませんね。お留守なんでしょうか」

「何となくだけどいるとは思うわ。それに怪しい所は見つけたのだけれど、それをどうするかがわからないのよねぇ」

「えっ、どこですか?」

「ここよ。ここに魔法陣らしきものが書いてあるわ」

「あっ! 本当だ」


 その扉には、上部の真ん中に大きな魔法陣らしき模様が描かれていて、それとドアノブがないこと以外は至って普通の扉に見える。

 だけどよく見ると本来ドアノブがありそうな場所に小さな魔法陣がもう一つ描かれているのに気付いた。

 描かれていた場所が場所だけに、これが扉を開ける手掛かりになると思う。


 しかし、その魔法陣に触れても魔力を込めても一切変化はなかった。


「うーん。ダメねぇ」

「やっぱり間違って貼っちゃったんじゃないですか? あの依頼書には何も書いてなかったんだし」

「いや。私だけ見えてたみたいだけど、依頼書には『見える奴は魔石を作って家に来い』って書いてあったのよ。……ん? もしかして」

「クリス様? 何かわかったんですか?」


 いきなりインベントリの操作を始めた私に、アシュリーが不思議そうに尋ねてきたが、返事をするより先に、思いついた事を実行した。


 インベントリから自作の魔石を取り出し、魔法陣に当ててみる。

 それでも何も起こらず、これじゃなかったのかと思いつつも、最後の試しと魔石を触れさせたまま魔力を込めてみた。


 すると、突如握っていた魔石がぐにゃりと形を変え、あっという間にドアノブに変わり扉に固定されてしまった。


「く、クリス様、いまのなんですか?」

「さ、さぁ? 私もここまではしてないわよ」


 思わず手を離し後退り、二人揃って困惑顔を浮かべていると、ひとりでに扉が動き、まるで私達を誘うかのように、扉が大きく開かれた。


「……どうやら、入っていいみたいね」

「えっとクリス様、入るんですか?」

「もちろん入るわ。さぁ行くわよ、アシュリー」

「うぅ、わかりました」


 私が先に進むと、意を決したアシュリーが後から付いてきた。


 家の中は明るく綺麗な印象を受けた。

 入ってすぐに広いリビング、左にキッチンそれにテーブルがあり、右には作業台に色々な物が詰まった棚に外へ出られる大きな窓、正面には廊下が続いていくつか扉が見える。


 私達が家の中を観察していると、パタリと扉が勝手に閉まると、人がいないのを確認したはずのテーブルの方から声が響いた。


「おやおや。誰が来たのかと思ったら、初めて見る顔だね」

「「!!」」


 バッと声のした方へ視線を向けると、そこには一人の老婆が椅子に腰掛けていた。

 つばの広いとんがり帽子に全身を覆うローブ、髪は全て真っ白だが顔には皺はあまりない。そんな老婆、いや魔女が人の良さそうな顔でこちらを微笑んでいた。

 人の家に上がっておいてじろじろ見ているだけではあまりにも失礼ね。


「勝手に入ったこと心よりお詫びします、お婆様。私はクリスティーナと申します。クリスとお呼びください。横にいるこの子は……」

「アシュリーと申します」

「これはこれは。ご丁寧にありがとう。私はマチルダ。この街で魔女と呼ばれているお婆ちゃんだよ。それで、魔物の来冒者とその従魔の子がどうして私の家を訪ねたのか聞いてもいいかしら」

「「!」」


 その発言に私は内心驚いた。アシュリーは驚きを隠せていないので私より驚いているのだろう。


 私が魔物型、そして来冒者であることは、門番さんもわかったことから何かしらのアイテムがあると予測できるが、アシュリーは警戒してか自分が従魔であることを言っていなかったのに、この魔女さんはどうやったのか見抜いていた。


 そのことにアシュリーは少し警戒を高めたが、私はただ単に感心していた。依頼書の見えない文字と言いこの人はただ者ではないと確信できたからだ。


「失礼。この依頼書の差出人はお婆様で間違いないかしら」

「ええ、ええ、そうよ。それは私が出した物よ」

「そう。それならこれが依頼の品です」

「あらまあ。確認しても」

「ええ」


 近くまでより私がインベントリから自作の闇魔石を取り出すと、にこやかにそう聞いてから魔石を眺めだした。

 だが私は魔石を出した瞬間、魔女さんの目つきが鋭くなったのをハッキリと見ていた。


「はい、お返しするわ。それじゃあここへ来たのは依頼のためかしら」

「それもあるわ。でも私は依頼よりもこの依頼書の方が気になったから、魔女と言われるあなたに会ってみたくなったのよ」

「あらあら。それは何故かしら」

「ふふ、冗談がお好きなのね。あの依頼書に書かれていた文字は、アシュリーだけじゃなく冒険者ギルドの受付嬢ですら見ることが出来なかった。なのに私は見えた。これが気にするなという方が無理があると思うわ」


 そう私が返すと魔女さんは笑みを深くすると、ある提案をしてきた。


「うふふ、ねぇお嬢さん。もしよかったら私のお手伝いを頼まれてくれないかしら」

「お手伝い?」

「そうよ。あなたならきっと出来るわ。それにあなたにも利益があると思うわ」

「利益、ねぇ」

「どうかしら。受けてくれる?」


 魔女さんがお茶目にそう尋ねると、クエスト発生のメッセージが現れた。


《クエスト『魔女のお手伝い』が発生しました。受注しますか?》


 クエスト名は依頼書と同じ。だけど明らかに内容は変わっているだろう。

 それに対する私の返答は、もちろん決まっている。


「喜んでお受けしますわ」


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― 新着の感想 ―
[一言] とっても面白くて一気読みしちゃいました! 更新楽しみにしてます!
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