戦利品確認と弟
翌朝土曜日。
いつもと変わらない時間に起きた私は、ゆっくりと朝の時間を過ごしてから九時前ぐらいにログインした。
「あっ、おはようございますクリス様。今日はお早いんですね」
「おはようアシュリー。今日は大学が休みだからね。それで今日は知り合いと会う約束しているから、あと三時間後位に女神像前に行くわ」
「はい、畏まりました」
ついでに現実とこの世界での時間の流れを説明しよう。
前にも言ったかもしれないが、MESOの時間は現実の三倍で動いている。つまり現実の八時間がゲーム内の一日だ。
現実時間の零時、八時、十六時がゲーム内の零時でそこから現実で二時間後、ゲーム内で六時間後に朝になり、さらに四時間後、ゲーム内で十二時間後にはまた夜になる。でさらに二時間、ゲーム内で六時間経つと零時になる。
少しわかりづらいが、ゲーム内で日が出ている時間が六時から十八時までと覚えておいて、それに対応する現実での時間が二時から六時、十時から十四時、十八時から二十二時であると覚えておけば、なんとなくの時間の目安になると思う。
本来ならこの時間によって満腹度が減るのだが、ドール種である私は関係ない。
そして、現実で九時にログインしたから、今ゲーム内はまだ夜中の三時くらい。待ち合わせ時間まで後三時間はある。
「それまでは、盾作りを優先して、残りはアシュリーの弱点克服にしましょうか」
「どんな盾が出来るか楽しみにしてます」
「あまり期待しないでね」
「ふふふ」
笑って誤魔化したようだが、あの目は期待している目だ。従魔との繋がりのおかげかなんとなくわかってしまう。これは、気合を入れなければならなそうだ。
生産用の机に向かい、アシュリーの意見を聞きながら盾作りを開始した。
主に使うのは木材だ。石や鉄鉱石は量が少ない上に、私が加工方法を知らないから手が出せない。その点丸太はそこそこあるし、【木工】の切り出しと接合の技術で好きな形へと加工することが出来る。
と、作り始める前にインベントリの中に見覚えのないアイテムがあるのに気がついた。
そのアイテムは大きな牙に特殊な糸、弓と服、そして手袋だ。忘れていたがボスの大蜘蛛のドロップアイテムと撃破報酬のようだ。
牙と糸は、どちらも毒が含まれていて加工に使うと毒性を有するみたいだ。実際に糸は、【操糸術】で使えるようになっていた。そして報酬の装備の詳細はこれだ。
【武器:弓】蜘蛛大樹の弓 レア度5 品質A
攻撃力40 重量12 耐久値110/110
東の大蜘蛛が住み着いていた大樹から作られた弓 蜘蛛の糸で作られた弦は弾力があり遠くまで届く
備考:射程強化
【防具:服】蜘蛛大樹のベスト レア度4 品質A
防御力32 重量8 耐久値100/100
東の大蜘蛛が住み着いていた大樹の繊維と葉から作られたベスト 森にいると木々に見間違い、匂いすら草木のような匂いになる
備考:森林時気配遮断
【防御:手袋】大蜘蛛糸のグローブ レア度3 品質A
防御力7 重量4 耐久値100/100
東の大蜘蛛の糸から作られたグローブ 軽く付け心地がいい上に虫が苦手な模様で編み込まれている
備考:昆虫特攻
……。
蜘蛛シリーズの装備はこんな感じだ。仮に全部装備すると、見た目は立派な狩人になれそうだ。東の森なら全ての効果が相まって、遠距離からの特攻ダメージを急所に当てれば無双できるかもしれない。まぁ、【弓術】を取る気がない私には無縁の話だ。
さてさて、目的が逸れてしまったが盾作りに戻ろう。
アシュリーにどんな盾がいいか聞くと、小さく小回りが利く円形の盾が要望のようだ。
と言うことで、木材を円く加工し、魔力を込めてアップグレードする。それに砕いた魔石をコーティングし、腕を通す部分と握るためのグリップ部分を革の代わりに束ねた魔力糸を取り付けて、最後に纏まるように合成したら完成だ。
【防具:盾】魔樹のスモールラウンドシールド レア度3 品質C
防御力19 重量9 耐久値100/100
魔樹の木材から作った小型の丸盾 受けるよりも弾き受け流すことに向いている盾 表面が魔石でコーティングされ僅かに防御力が増している
出来た盾は、表面が魔石で覆われている平らな盾だ。サイズはアシュリーの肘から手のひらぐらいで、装備すると四分の一程外に出るようにグリップの位置を調整した。
見た目は正直言うと、少し大きなお盆みたいだ。いやメイドさんが持っているからそう見えるだけかもしれない。
「良い感じです、クリス様! ありがとうございます!」
「そう、それならよかったわ」
「早速試してみましょう!」
「そうねぇ。時間までまだあるし、そうしましょうか」
「ぜひ!」
それから私達は、時間まで三階で戦闘を繰り返した。
アシュリーは慣れるためか盾を多用していた。
ソウルの突進を盾で防ぐことで無効化し、かつ触れて弱点を克服していた。フライングドールとの戦闘もわざわざ短剣を使わず、盾で攻撃していた。
その成果もあり、アシュリーは【盾術】がレベル4に、【状態異常耐性】と【火属性弱点】がレベル8に、そして【かばう】もレベル4に上がっていた。私はソウルの止めくらいしか動いてないので変化なしだ。
そのうち外が明るくなってきたのでスキル上げを終わらせ、少し早いが広場へ向かうことにした。
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広場へやってきた私は、周りからの好奇の目を流しながら弟が来るのを待っている。
するとそこへ見知った雰囲気の男の子が、早歩きでこちらに近づいてくるのに気がついた。
「おはよう、そう……えっと、カナデだったかしら」
「ああ、あってる。てか姉ちゃん、だよな?」
「ええそうよ。実の姉の顔を忘れたわけ?」
「いやそうじゃないけど。なんか思ってたのと違かったから確認したかっただけ」
「ああ、そういうこと」
きっとカナデは私が魔物型と言っていたから、もっと変なのを想像していたんだろう。それに髪色が違うだけでも、印象は変わるからそれで私だと確認したかったのだろう。
現に掲示板とかお嬢様とかブツブツと何かを言っているカナデの髪と目は、青に染まっている。短髪で顔がそのままだからすぐに弟だとわかったが、伸ばしてあったら私も気付かないかもしれない。
「それで、そっちの女の子が例の……」
「そうだわ。私の大事なこの子も紹介しなくちゃ。私の従魔のアシュリーよ。アシュリー、こいつは私の弟で今はカナデと言うわ」
「よろしく、アシュリー」
「……アシュリー?」
カナデの挨拶に対しなんの反応もなかったから、どうしたのかと思いアシュリーを見ると、大きな目をして私と弟を何度も見比べていた。そして私を見ると驚きを隠せないまま言葉を発した。
「……クリス様って弟君がいたんですか?」
「ええそうよ。現実、こっちでいう来冒者の元の世界での話だけどね」
「そうだったんですか。知りませんでした」
「そういえば話してなかったわね。で、これが私の唯一の姉弟のカナデよ」
もう一度私が紹介すると、アシュリーは深呼吸してから自己紹介を始めた。
「すぅはぁ。クリス様の従魔、アシュリーです。カナデ様、先ほどは取り乱してしまい申し訳ありませんでした」
「えっと、気にしなくて良いよ。それに様は止めてくれないかな。呼ばれ慣れてないからむず痒くて」
「そうはなりません。クリス様の弟君ならカナデ様と呼ぶほかありません」
「えぇー。せめて、さんに出来ないかな」
「ふふ。アシュリー、こいつの言うことなんて聞かなくて良いわよ」
「ちょ、姉ちゃん!」
「わかりました。これからもカナデ様とお呼びします」
「えっ!? ちょっと待ってよ!」
カナデは慌てて変えようとしているが、満足そうに頷いているアシュリーには届いていないみたいだ。
「そんなことよりフレンド登録するんでしょ。急ぎの用はないけど早く済ませちゃいましょ」
「……もう、わかったよ。はい、飛ばしたよ」
「ありがとう」
これでカナデとの登録も完了した。これからはMESOのことで連絡するときは、こっちの連絡ツールでやり取りした方が速く済むことだろう。
「てか、姉ちゃん。何でそんなしゃべり方なの?」
「見てわからない? 容姿をこれにしたから、姫プレイ、違うわね、令嬢プレイをしようかと思ったのよ。初期リスポーン地点が屋敷だとわかって絶対こうすると決めたわ」
「そうなのか。まぁ普段とそこまで変わらないから気にしなくてもいいか」
「流石に口調を少し気にするだけで、奇行に走ったりはしないつもりだから安心なさい」
「あーうん」
カナデは私とアシュリーの全身を見て、何か言いたそうな顔をしながらも曖昧な返事で返した。
何も言わないなら気にする必要もないだろう。
「それで、カナデはこれからどうするの?」
「俺はパーティーメンバーと西の第二エリアに行く予定。多分もうすぐしたらこっちに来ると思う」
「そう。なら私達は邪魔になる前にお暇させてもらうわ」
「そっか、わかった」
「お友達に迷惑かけないようにね。それじゃまた会いましょう」
「カナデ様、失礼します」
「うん。姉ちゃん達も色々と頑張ってね」
さてとこれで予定していたことは終わった。
これから何をするかと考えたが、すぐに思いついたのはやはりあのクエストのことだった。ゲーム内はまだ朝も早い時間だが、確認がてら今から行っても問題はないだろう。
その旨をアシュリーに伝え、私はマップにポイントされている場所へ向かって歩き始めた。
名前:アシュリー
種族:マリオネットメイド Lv12
生命力 17
筋力 13
知力 13
精神力 17
器用 18
俊敏 14
スキル
短剣術Lv14 盾術Lv1→4 かばうLv2→4
状態異常耐性Lv6→8 火属性弱点Lv6→8
忠誠Lvmax




