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冒険者ギルド

 ネコーニャと別れて直ぐに、私は冒険者ギルドへとやってきた。


 中に入った第一印象は、言っていた通りギルドの中も綺麗ではあった。しかし、


「今日のクエストこれでいいか?」

「こっちのモンスターの討伐の方がよくないか」

「なぁ、聞いたか! 東のボスが倒されたらしいぞ」

「おい見ろよ! メイドさんとお嬢様が来たぞ!」

「南に行く人いませんかー! あと二人募集しています!」

「犬がボコボコにされたみたいよ」

「えー私も見たかったなぁ」

「すげぇなあの装備。プレイヤーが作ったのか?」

「ええっ!? あの素材ってギルドで売った方が高いじゃん!」


 人がごった返していて、とても落ち着いてみられる状況ではなかった。


「街に来たときも多いと思いましたけど、ここはもっとすごいですね」

「本当ね。こんなにいるとは思わなかったわ。おっと、ここにいると邪魔になるから場所を移しましょう」

「畏まりました」

「受付に行けば何かしら聞けそうね。行ってみるわよ」


 私は受付までこの人混みの中をかき分けて進む……事もなく、何故か私の行く先の人が道を空けてくれて難なく受付に来ることが出来た。

 今私の前にいるのはかわいい系のお姉さんで、どういう訳か辺りを見渡した後に私を見てビクビクし始めた。


「い、い、いらっしゃいませ。ぼ、冒険者ギルドに、な、何かご用でしょうか?」

「ええ、私も冒険者になろうと考えているのだけれど、まずはここの説明をしてくれないかしら」

「は、はい、畏まりましたぁ」


 何でか落ち着きがない彼女は、けれども私の質問にしっかりと応えてくれた。


 その内容を要約すると、冒険者ギルドは、登録することでこの施設を使うことが出来る。

 その使える施設とは、クエストの受注、アイテムの買い取り、お金とアイテムの預かり所、パーティーの斡旋が主となっている。なお各説明はその名の通りだったので省く。


 冒険者ギルドに登録すると、ランクがつけられ、初めは誰でもFランクから始まる。そこからクエストをこなしたり、ギルドに貢献したりするとランクが上がっていく仕組みのようだ。なおランクが上がると、より上のランクのクエストを受けられたり、特別な何かが起こるようだ。特別な何かとは何なのか聞いたけど、はぐらかされた。


 冒険者ギルドは、全ての情報を統一しているため一度登録すると、どこの街のギルドに行っても、クエストの達成報告が出来たり、アイテムを取り出したりが出来るようだ。


 そして冒険者ギルドの登録方法だが、来冒者はギルド内でパーソナルカードを持って『登録』と言うと受付に行かなくても出来たみたいだ。


 他にはクエストの期限が切れたり失敗したりすると、ランクアップに必要なポイントが減る事や、ギルド内での暴力、飲食の禁止ということも話してくれた。


「えっと、これで説明は以上になります」

「大体わかったわ。ありがとう」

「い、いえ。仕事ですから。それでどうしますか?」


 そんなのもちろん決まっている。冒険するのがゲームの楽しみなんだから、冒険者ギルドに登録しないという選択肢はない。


「登録するわ。説明通りにすれば良いのかしら」

「あれ? それってパーソナルカード? てことはあなたは来冒者、ですか? 貴族とかじゃなくて?」

「登録。あっ、ちゃんと出来たみたいね。そうよ。私はあなたたちの言う来冒者よ。って貴族?」

「か、カードを見せてもらってもいいですか?」

「悪いことじゃなければ」

「確認するだけですよぉ!」


 そう言うので渡すと、私のカードを見て大きな目を見開いて、裏を見て私とアシュリーを見て、半開きの口をわなわなさせている。

 この人大丈夫かな、と少し心配していると深呼吸して自分を落ち着かせていた。


「すーはー。はい。確認しました。それに登録もちゃんと出来ています。こちらの方も従魔として登録されていますので、追加で何かする必要はありません。こちらお返ししますね」

「はい、確かに。それでクエストは今からでも受けられるのかしら?」

「出来ますよ。ただし期限や依頼主の指定した時間しか出来ない物もありますので、ちゃんと確認してからお受けください」

「わかったわ。それでは、説明頂きありがとうございました」

「こちらこそ当ギルドへの登録ありがとうございます。何かありましたら遠慮なく聞いてください」


 無事に登録できた私は、落ち着きを取り戻してからはちゃんとした受け答えになったお姉さんを後にして、どんなクエストがあるかを見てみることにした。


 クエストは、冒険者ギルドの真ん中辺りにある大きなボードに依頼書が貼られていて、そこから受注することが出来る。実際は近づけばウィンドウが出てきて、そこに一覧として書いてあるから、わざわざボードの前まで行く必要はない。

 ということで近くまで行ってどんなクエストがあるか見てみる。


 ……。

 一覧にある依頼のランクはFからDランクまで。私の今のランクだとDランクまでしか受けられないようだ。


 依頼のランクとはその依頼の難易度の目安となっていて、Eランクの冒険者ならEランクの依頼が順当にこなせるという風になっている。

 だからといって自分のランクより上を受けても下を受けても、何の問題もないようだ。だけど説明にあったように、無理して上のランクを受けても、失敗すると次のランクまでのポイントが減ってしまうので気をつけなければならない。


 それで肝心の依頼内容だけど、Fランクの依頼は街の中での雑用がほとんどだ。荷物運びに庭や街の掃除、老人の話し相手になるといった依頼まである。

 Eランクになると街の外、フィールドでの依頼が多い。薬草の採取や南と西のモンスターの討伐、素材の納品などがそうだ。

 Dランクは、南と西の奥地のモンスターの討伐および素材の納品、北と東のモンスターの討伐および素材の納品がある。

 他にも依頼はあるみたいだが、直ぐに出来そうな物で気になったのはこれぐらいだった。


「素材の納品なら今すぐ出来そうね。受注を押して、あっ揃っている場合はその場で納品してクリアできるのね。なら納品っと。こっちのクエストも出来るわね」

「クリス様、ちょっといいですか?」

「はい、納品っと。あら、アシュリーどうしたの?」


 魔物の糸や薬草、毒草を納品していると、ウィンドウが出ないからボードまで行って見ていたアシュリーが、困ったな表情で私を呼んできた。


「何かしら」

「これ、見てください」

「依頼書ね。あら? でもこんな依頼、私の一覧にはないわね。どういうことかしら」

「でもこれもちゃんとした依頼書ですよね。それにこれ、内容が書いてないのに何か変な気がします」


 ボードの下の隅っこに、他の依頼書と重なり隠れるようにして貼ってあった依頼書には、こんなことが書かれてあった。


クエスト『魔女のお手伝い』 ランクF

依頼主 マチルダ  報酬 10マル

 これが見える人は、魔石を作って家までおいで


 依頼書には、丁寧な字で不思議な事が書いてあった。


 ちなみにだが“マル”とはこのゲームのお金の単位だ。


 報酬だけ見れば魔石を売った方が高いので受けるだけ損なのだが、私はこのクエストがどうにも気になってしまった。


「これは……。受付に聞くわよ」

「はい」


 気がつけばずいぶん人が減ったギルドを進み、さっきと同じ受付のお姉さんのとこまで来て、依頼書を見せてその詳細を聞くことにした。


「あっ先ほどの。何か質問ですか?」

「これについて聞きたいのだけれど」

「あぁ、それまたあったんですか」

「何か知っているようね」

「ええまぁ。事情くらいは」

「詳しく聞いても?」


 何でもこの依頼書は、外しても外してもいつの間にか元の位置に貼られているらしい。

 それにこの依頼主のマチルダという人は、街で魔女と呼ばれている不思議な人で、ほとんど会った人はいないのだという。だけど薬などを街に卸しているから、いい人なのではないかと噂になっているとのこと。


 で、私にとって重要なことは、どうやらお姉さんもアシュリーも依頼主や報酬は見えているのに、その下に書いてある内容が見えていないと言うことだ。なぜか私だけ見えているみたいだ。

 こういうのを見つけてしまったからには、確かめてみたくなるのがゲーマーというものだろう。


「この方の家ってどこだかご存じ?」

「ええ、確かこちらになります。でも行っても会えないと思いますよ。あの家いつも閉まってますから」

「情報ありがとう。今度行ってみるわ」

「えっ、行くんですか? 会えないかもですよ?」

「それでも一度行ってみるわ」

「そうですか。そこまで言うなら引き留めませんけど」


 お姉さんが教えてくれた場所は、マップにもポイントされたから、今度時間が良いときに行ってみることにしよう。この世界は今、夜だから行くとしたら日が出ている時間が良いだろう。どのみち今日はもう少ししか遊べないだろう。


「さてと、ギルドでやるべき事は終わったかしら。アシュリー、あまり時間はかけられないけれど、どこか行きたいところでもあるかしら?」

「うーん。あっそれなら鍛冶屋に行ってもいいですか? スキルを取っても盾がまだないので」

「そうだったわね。それなら鍛冶屋に向かいましょうか」

「はい」


 それから住民がやっている鍛冶屋を見たのだけれど、どれも無骨というか実用的というか、メイド姿のアシュリーが持つと違和感しかなかったので、明日にでも【木工】で簡単な盾を作ると約束して見送ることにした。


 そうしていると、いよいよ私の就寝時間が近づいてきたので、女神像で屋敷へワープ出来るのかを試してみた。


「わぉ、本当に屋敷に来られたわね」

「えぇ一瞬でしたね」

「これただの庭のオブジェかと思ってたらこんな機能が隠されてたのね。まぁ便利だから助かるわ」

「これからはわざわざ森を抜けなくてもよさそうですね」

「そうね。じゃあアシュリー、部屋へ戻りましょう」

「はい」


 街と屋敷の行き来が簡単になったことを確認した私は、三階の自室へ戻るとそのままログアウトした。


~~~~~~~~


 ログアウトして現実に戻ってきた私は、体をほぐして一息ついたところで弟との約束を思い出した。

 出るかわからないが呼び出すと、思いの外早く奏太の声が返ってきた。


「もしもし姉ちゃん? どうした」

「あっ奏太。MESOの事だけど、私中央街に着いたわよ」

「マジ、やったじゃん」

「とりあえずはその報告よ。で、どうするの? フレンド登録するんでしょ」

「なら明日の午前十時……、あっ現実での時間ね、に中央街の女神像前に集合しよう。俺人族だから髪色違うけどわかると思う」

「わかったわ。私は金髪碧眼だけど、それ以外はそのままよ」

「了解。んじゃまた明日ね」

「はい、おやすみなさい」

「おやすみ」


 ということで十時に予定が出来た。ゲーム内でちょうど朝になるくらいか。ならその後に魔女さんの所へ行ってみよう。その前にアシュリーの盾も作ってあげないと。


 そんなことを予定立てしながら、私は夢の世界に落ちていった。


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