戦利品確認とアシュリーの進化
あの後、時間はそこまで経っていなかったが、肉体的にも精神的にも疲労困憊だったので一度ログアウトした。それで休んで晩ご飯を食べてからまたログインした。
「アシュリー、ただいま」
「お帰りなさいませ、クリスティーナ様」
「あーそれなんだけど、私のことはクリスでいいわよ」
「わかりました、ではクリス様、とお呼びします」
「えーあーうん。それでいいわ」
マダムを倒したことによって、私達もいよいよ外へ出られるようになった。と思う。
だから他のプレイヤーに様付けで呼ぶこの関係を聞かれたら、面倒になるかもと思っての提案だったんだけど、わざわざ様を強調して言うアシュリーにこれはダメだな、と感じ取り強く言うことを止めた。
「さてさて。先ずはあの色々あったメッセージから確認していきましょうか」
「畏まりました」
と言うことでログを見直し、メッセージを確認していく。
ボス撃破の報酬に新しい技に魔法、アシュリーの進化に称号にホーム機能の追加。本当に色々あるが先ずは見るだけで終わる称号から見ていこう。
称号『ボスを倒す者』
初めてボスモンスターを撃破したプレイヤーに贈られる
効果:SP2追加
称号『早い者勝ち』
ボスモンスターを初めて撃破したプレイヤーに贈られる
効果:SP20追加
称号『一見必殺』
一度目の戦闘でボスモンスターを撃破したプレイヤーに贈られる
効果:SP10追加
称号『一人で倒せるもん』
一人のプレイヤーでボスモンスターを撃破したプレイヤーに贈られる
効果:SP5追加
称号『初めてのダンジョン攻略』
初めてダンジョンを攻略したプレイヤーに贈られる
効果:SP2追加
称号『幸せが一番』
サブシナリオやクエストをハッピーエンディングでクリアしたプレイヤーに贈られる
効果:住民の好感度が上がりやすくなる
称号『夢のマイホーム』
ホームを手に入れたプレイヤーに贈られる
効果:家具一式配布
……。
一気に称号が増えた。内容としてはほぼスキルポイントだった。
一部違う効果なのは家具と好感度。家具は純粋に助かるけど、住民――所謂NPCの好感度が上がりやすくなるって私も通用するのだろうか、私って一応魔物なんだけど。どのみち確認できる物でもないし、嫌われるよりはいいと言うことにしよう。
次はアイテムにしようと思ったけど、家具があるから設置のためにホームからにした。
とりあえずホームについての説明を読んでみると、ホームとはその名の通り指定した建物を拠点として扱うことができる機能のようだ。
それでホームに設定した建物は、出入りの制限や室内の家具の設置、さらに従魔の配置などが自分の好きにできるようになる。それにこの屋敷の場合、元がダンジョンだったからかモンスターの出現率までも弄れるようになっている。
ほかにもゲーム内のお金を払って、施設の設置や増築、土地の売買も可能になった。どれも今の私の所持金じゃ到底手が届かないが。
さて大まかに説明も読んだし家具の設置をしたいんだけど、いかんせん部屋数が多すぎてどこを自分の部屋にするか迷う。
「それなら、あの婦人がいた部屋にしましょう! あの部屋がこの屋敷で一番大きかったです」
「でも三階まで移動するの手間じゃないかしら。私は書斎でもいいのだけど」
「えーダメですよ。このお屋敷の主にふさわしいのはあの部屋だけです。それにもし誰かが泊まる時、あの部屋で泊まるって言ったら許可できますか?」
「うーん、相手にもよるけど確かに私が書斎で誰かが婦人の部屋を使っているのを想像すると少し複雑ね」
「ですよね! ならクリス様の部屋はあの部屋で決定です!」
決定しました。と言うことで婦人の部屋に行き、受け取った家具一式を並べていく。
ベッド、机、椅子、棚、収納箱。これらを大きな部屋に設置していく。あと地下にある生産ができる机も移動可能だったから、ここに再設置した。
これでもまだまだ部屋には余裕がある。だけど置けるものは尽きた。
「広い部屋に家具がぽつぽつとあるだけ。なんだか余計に殺風景な気がするわね」
「しかも部屋のサイズと家具のサイズがあってないからちぐはぐですね」
「まぁいいわ、おいおい充実させていきましょう。そして問題のアイテム確認に移りましょうか」
インベントリを開いて新しく増えたアイテムを見て回る。
素材に分類されるのは、魔力糸に三体分の人形の各パーツ一式、それに人形の顔に使う目や髪のパーツが色ごとに多数、それと完全な状態のドールが二体入っている。
それとドレスなどの装備品も数点あった。それの性能がこれ。
【武器:短剣】淑女のダガー レア度4 品質A
攻撃力35 重量5 耐久値110/110
貴族の女性が護身用に使っていた短剣 そのため扱いやすくまた十分な性能も兼ね備えている 装飾品としての価値もあり製作者が亡くなったため持っているだけで一目置かれる
【武器:剣】祝福されしレイピア レア度5 品質B
攻撃力50 重量10 耐久値110/110
とある騎士が使っていたレイピア 長い間込められた負の感情は浄化され、その真の姿を取り戻した
備考:アンデッド特攻
【防具:服】淑女の勝負ドレス レア度5 品質A
防御力40 重量12 耐久値100/100
貴族の女性がここぞという時に着ていくドレス パーティーなどで暗殺される場合も考慮して防御力も高い ただし着こなせる女性は多くない
備考:不意打ち耐性
【防具:服】一般従者のメイド服 レア度3 品質A
防御力25 重量9 耐久値100/100
貴族に仕える女性が着るメイド服 動きやすさを重視した服で、これを完璧に着こなしてやっと一人前のメイドと言われている
【防具:靴】淑女のパンプス レア度3 品質A
防御力8 重量3 耐久値100/100
貴族の女性が様々なパーティーに履いていったパンプス 室内外問わず利用できる術式が施され、その便利さから若い貴族が特によく用いていた
備考:悪路走行
……。
今の自分の装備と比べると、どれもすごい性能をしている。数値だけ見てもどれも数倍の効果がある。
どの経緯で入手したかは、ドレスが初撃破、ダガーが初見撃破、パンプスがソロ撃破の報酬みたいだ。レイピアは思念残るレイピアが変化したようで、メイド服、それとドールとその素材はたぶん婦人からのプレゼントだろう。
アイテムはこの辺にして、いよいよ次が大本命、アシュリーの進化だ。
「今からあなたの進化をしようと思うの。準備はいいかしら、アシュリー?」
「はい、覚悟はできています」
「そう。ならどんな進化先があるか見てみましょう」
メニューから従魔を選び、アシュリーのステータスにある点滅している進化のボタンを押してみる。すると私の時と同じように進化候補が表示された。
『ハイドール』
ドールが進化した姿。能力の偏りはそのままにより強く成長している。その器用値を生かした戦闘、生産能力が高い。
『マリオネット』
糸を操るまたは操られているドールが進化した特殊な姿。能力の偏りを糸の主が変えることが出来る。操る側は他者を操作することが、操られる側は主の能力を譲り受けることが出来る。
『ハウスドール』
ホームに所属しているドールが進化した姿。能力はドールから少ししか成長していないが、その分家事全般と生産スキルが扱えるようになる。
『マリオネットメイド』
糸で操られてなお主人に忠誠を誓っているドールが進化した特殊な姿。能力は平均的になり防御面も高くなった。主人といることで恩恵があるスキルを有する。
……。
アシュリーには、四つの進化先があった。ハイドールとマリオネットの二つは私の時と同じで、新しくハウスドールとマリオネットメイドと言うのが増えた。説明を見た感じだとハウスドールはホームに配置して活躍するドールで、マリオネットメイドは……よくわからないけど、防御力が売りのようだ。
「この四つに進化できるようだけど、アシュリーはどれになりたいかしら?」
「私が選んでいいのですか?」
「当然よ。これはあなたのことだもの。まぁなんでもいいなら私が決めるけど」
「それなら、私は、マリオネットメイドがいいです」
「あーそうくるか。わかったわ。あなたの意見を尊重するわ」
そしてマリオネットメイドを選択すると、アシュリーが光に包まれ、それが消えると少し背の高くなったアシュリーが姿を現した。
「アシュリー、調子はどう?」
「……クリス様が素敵に見えます……」
「は?」
「あっ! 今のはなしです! 体はいいです、強くなった気がします!」
「……そう。それならよかったわ」
「ところでクリス様。私にも何か着る物をいただけないでしょうか」
「……そうね、その通りだわ。すぐに用意するわ」
進化して体が成長したからか造り直したときにしっかりとした顔を作ったからか、今まで裸だったアシュリーからそんなお願いをされた。……外に出る前に言ってくれて正直助かっている。このまま出ていたら私が変態だと思われていたかもしれない。
と言うことで服を取り出した。メイド服しかないけどいいかと尋ねると、アシュリーはむしろそれを喜んでいた。せっかくだから私も初期装備から脱して、ドレスに着替えた。
「クリス様お似合いです」
「そう? こういうの着慣れてないから少し不安だけど、不思議と悪くはないわね。アシュリーも似合っているわよ」
「はい! ありがとうございます!」
アシュリーが今着ているのは白と黒のエプロンドレスだ。男性が喜ぶようなミニスカートではなく、肌を一切見せないロングスカートの想像通りのメイド服だった。後このメイド服は全身装備らしく頭にはホワイトブリム、足にはソックスとローファーのような靴がセットで付いていた。うん。どこからどう見てもメイドさんだ。
私はと言うと、青と黒を基調としたドレスだ。膝上丈の青いドレスに、その上から黒のオーバードレスとでも言うようなものを羽織るように着ている。靡かないようにベルトがあるから、正面から見るとドレスの上に黒の羽織を着て、前面が開いたロングスカートを履いているようにも見える。他のゲームで見た鎧ドレスにも似ているがこれには鎧要素は一切ない。
これに同じく青のパンプスを履いたのが今の私の姿だ。
話が脱線してしまったが、進化したアシュリーのステータスを見てみよう。すると一つスキルを決められるようになっていたから、何がいいか本人に聞いてみると、
「それなら【盾術】がいいです」
「あら、それはどうして?」
「クリス様をお守りするためです」
「アシュリー、私のために傷つくような真似なんてしなくていいのよ」
「だからこそ、盾があれば体ではなく盾で防ぐことが出来ます」
「はぁ。引く気はないのね。仕方ないわね」
希望により【盾術】を取得することにした。
それで現在のステータスがこちら。
――――――――――――――――――――
名前:アシュリー
種族:マリオネットメイド Lv10
生命力 15
筋力 13
知力 13
精神力 15
器用 18
俊敏 14
スキル
短剣術Lv12 盾術Lv1 かばうLv2
状態異常耐性Lv6 火属性弱点Lv6
忠誠Lvmax
――――――――――――――――――――
数値は器用値が変わらずに高いが、他はほぼ同じになった。
で、【盾術】はいいとして、【忠誠】という知らないスキルが増えていた。それもレベルが最大で。
詳細を見てみると【忠誠】は、主人と同じパーティーだとステータスが上昇するというパッシブスキルだった。すでにレベルが最大なのは、一部のスキルはレベルがなく取得した段階でmaxと表示されるみたいだ。決してアシュリーの忠誠心が上限に達しているわけではない。たぶん。
ちょうどいいからここで新しく覚えた技もついでに確かめてみる。
【操糸術】のスクウィーズは、バインドで拘束した相手をそのまま締め付けてダメージを与えるという【操糸術】で初めての攻撃技だ。
【木工】の切り出しと接合は、切り出しが目的の形に切り出すことが出来、接合は同じ木材同士をくっつけることが出来る技術だった。接合を使えば、もっと楽にアシュリーの体を作れたんじゃないかと思ったのは内緒。
そして【死霊魔術】の魂契約だけど、その説明を見た私は、思わずアシュリーに抱き着いてしまうほど嬉しかった。
不死者創造で創り出した従魔は、倒されてしまったり私がやられてしまったら、消えてしまい最初から創り直すしかなかった。しかし従魔と魂契約をすることで私や従魔がやられたとしても一定期間が経った後にその従魔の再召喚が可能になるという、謂わば従魔を登録できる魔術だった。
そうと分かったところで私はすぐにアシュリーに魂契約をすることにした。
「アシュリー、これをするとあなたの魂を私に縛ってしまうことになるわ。それでも、いいかしら?」
「クリス様。私はクリス様から創られた存在です。それにこの体を良くしてくれたのもクリス様です。すでに私はクリス様のものですから、どうか魂もクリス様のものにしてください」
よくこんな恥ずかしいセリフを言えるわ、と思いつつもアシュリーから言われることに嬉しくも感動してしまう自分がいた。それなら私も主人として相応の態度で示してあげよう。
「ありがとう。あなたにふさわしい主人になれるよう、これからも努力していくわ。共に歩みましょう、アシュリー」
「はい! よろこんで!」
「魂契約」
魔術を発動すると、アシュリーの中から小さな光が私の中に移りこみ、私とアシュリーが繋がったような感覚があった。
「これが契約。面白い感覚ね」
「不思議ですね」
「でもこれで万が一のことが起きてもアシュリーを失うことはなくなったわね。これで安心して外に行けるわ」
「いよいよですね!」
こうして私は、MESOを始めて一週間たってようやく外へ出ることが可能になった。
この先もマダムのような危険があるかもしれないが、アシュリーと一緒なら何とかなるような気がする。
「さぁ冒険に行くわよ!」
「はい!」
私たちは今までびくともしなかった屋敷の扉を、開いた。
これにて一章完結です。この次に掲示板を挟んで新章となります。
あと今回のステータスは割愛します。




